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side story

【ご褒美】



今日のオイラは優秀だ。
一度もジャムってないし、鼻血も出てない。
「貴方ってば、とってもきれいな顔してる!」
オイラの顔を覗き見て、マスターは声を弾ませる。『きれい』というのは容貌のことではなく、鼻血で汚れていない、という意味だ。
「ラブワンはやれば出来る男ね」
やっべ。
俺、マスターに褒められた。
「オイラはいつも出来る男じゃん?」
飄々とした態度を装い、この興奮を誤魔化した。
そうね、と彼女はくすくす笑う。
「そんな貴方に、ご褒美をあげなくっちゃね」
『ご褒美』という耽美な言葉から、人前で無闇に口にできない様々な妄想を繰り広げる。
込み上げる熱の濁流と鼻孔をつく錆の臭い。
おや、と思ったがもう遅い。
「ラブワン!?」さっと顔色を変えたマスターが、慌ててハンカチを取り出した。「やっぱり貴方、我慢していたのね?」
オイラの鼻孔からさらさら流れる血を、マスターはハンカチで拭っている。
「違うよ」鼻声で呟いた一言は、自分でも不気味に思えるくらい冷静だ。
「オイラを興奮させたのは、マスターじゃん」
「え?」
素っ頓狂な声を上げて、彼女が目を丸くする。
無防備な彼女の手首を掴んで、引き寄せる。
驚きで薄く開かれたその唇に口づける。
逆流した鉄の味。
「どう? マスター」口を離して、にやりと彼女に笑いかけた。「オイラの血の味」
彼女は言葉を詰まらせている。
この女をジャムらせる今日の俺は、優秀だ。





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