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side story

【浴衣】



初めての夏。
初めてのお祭り。
彼女に浴衣という伝統衣装を着せてもらった。
臙脂色の生地にあしらわれた、色とりどりの菊模様。腰を締めつける帯は山吹色。椿の花を模る飾り紐。長い髪をまとめたお団子に挿してもらった髪飾り。下駄という履物は歩きづらいが、軽やかで涼しげな足音がする。
「よく似合ってる」
色違いの浴衣を着てお揃いの格好をした彼女に褒められる。
「綺麗な服だね」僕は、浴衣が好きになった。
周囲の人々が着ているそれも、多種多様なデザインで、見ていて飽きない。帯を装飾するアクセサリーや髪飾りなど、小物もなかなか凝っている。お洒落な衣服だ。
「気に入った?」彼女はそこで、悪戯に微笑んだ。「実は、貴方が着ているそれ、女物なの」
「は?」僕は、凍りついてしまった。
まんまと彼女にしてやられた。
周囲の男どもの視線が五月蝿いわけだ。
女物の浴衣を着て歩く僕は、完全に女だと思われている。
冗談じゃない。
僕は今、彼女をエスコートしている紳士なのに。
こんな格好じゃ、僕が君の男だってことを、周りの奴らに証明できないじゃないか。





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