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side story

【 二十一の黒薔薇】



モーゼルは、私に花束を差し出した。
二十一本の黒い薔薇。
陰鬱なまでのうつくしさ。
「貴方が花束をくれるなんて」私は素直に嬉しくて、微笑んだ。
永遠の死。恨み、憎しみ。あなたを呪う。
それが黒薔薇の花言葉。
モーゼルは私が嫌いなのだ。
だから彼は、決して私をマスターと呼ばない。
「どうもありがとう」
黒薔薇を受け取る私の左手。その甲に咲いた、薔薇の傷痕。それを忌々しそうに見つめながら、彼は言う。
「これが陛下の望んだ結果だというのであれば、僕は貴女に従いましょう」
黒い薔薇の花言葉は、永遠の死、恨み、憎しみ、あなたを呪う。
二十一本の薔薇が意味するのは、「あなたに尽くす」という決意。
先代の遺言通りにマスターとなった私に、彼は傅くことを決めたらしい。
私の死を望むほど、彼は私が憎らしいのに。
人間に擬態したその矛盾が、彼の愛。
二十一の黒薔薇は、愛と憎しみの輪舞曲。



憎まれていても、構わないわ。
本当は愛されていることを、私は知っているんだもの。





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