23:00 越えてきた距離
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もうすぐ 夢が一つ叶う
いつからか漠然と 好きなバレーボールを仕事にできたらええなとは思っとった
周りから「ひかりちゃんは才能あるから プロ目指しな」って言われて 単純な私はすぐその気になって 人生のほとんどをバレーボールに捧げてきた
そんなバレーボールのことを 好きやなくなったんは大学に入ってすぐ
『したかったモン』が 『せなあかんモン』になった気がしたから
あと そのタイミングで彼氏の治くんと遠距離になったこと
情けないけど これが一番大きい理由かもしれへん
途中で怪我もしたし 納得いくプレイができへんで腐った時期もある
それでも「辞めたらあかん」「ひかりには才能がある」って言うて励ましてくれる治くんや友人がおって なんとか必死に続けとったら
幸いスカウトがあって 無事内定を貰えた
まだ公式戦には出場できてへんけど 練習にはちょっとずつ合流させてもらっとる
少しずつチームに馴染んでいけてるとは思う
稲荷崎で一緒やった角名くんと同じ実業団
大きな企業やし 知ってる人がおるっていう安心感もある
治くんも内定取れた時はめっちゃ喜んでくれた
でも それはこの先も治くんとは居られへんことを意味する
私たちはこの先も離れ離れのままやねん
夢の為やし お互い大人やし そこはもう受け入れるしかない
大晦日の今日は午後からオフやった
元旦の明日だけが休みで その翌日からは早速遠征がある
治くんも休みは元旦だけや言うとったし もうこの年末年始は兵庫へ帰るんを諦めた
なんかちょっと風邪っぽい気もするし
近々大事な試合もあるから しっかり休んでこの二日間で直しきりたい
この数年 ええ思い出はあんまない
大学には推薦で入ったんやから当然やけど 狂ったようにバレーばっかしとったし
ほんまにもう吐くって何遍も思った
実際何回も吐いた
私も年頃やし 女の子らしいファッションや 丸みのある身体に憧れる
でもそれとは真逆のこの身体
トレーニングのしすぎで筋肉質になったし 下手しぃ他の男より身長高かったりもする
可愛らしさとか女らしさとは縁のない 自分の身体はあんまし好きやない
今年は特に忙しかったなぁ
彼氏の治くんとはほとんど会われへんかった
ふと思い返すと 今年は3回しか会うてへんことに気付く
まぁ向こうも仕事始めたし
独立するって やばいくらい大変そうやった
近くで見守ることも 支えることもせん私が彼女って ほんまに気の毒に思う時ある
高校ん時は高校ん時で せっかく治くんと付き合えても 女子バレー部には恋愛禁止とか言う今どきありえへんルールがあって 隠し通すんに身が細る思いやった
それに治くんはアホほどモテとったから 心配せなあかんことも山ほどあって 全く気が休まらんかった
それでも 今よりは楽しかった
治くんといっぱい会えとったんやもん
大学行ってよかったと思うことは
髪の毛を伸ばしてオッケーやったことくらいや
ずっとショートヘアやった高校ん時よりはたぶん女らしなったし
治くんも会う度可愛えて言うてくれる
まぁいつまでもこんな少女みたいなこと言うとったらあかんな
春からは社会人なんやし プロとして結果を出さなあかん
私の代わりなんかたぶんいくらでもおる
しょうもないことしとったらあっという間に期待を裏切って 職を失ってしまうわ
それは応援してくれとる家族にも申し訳ない
今まで私にたくさんお金を使わせてしまったし
育ててもらった感謝の気持ちを 形にして返していかなあかん
治くんにも感謝しとる
いつもどんな時も私の味方でおってくれた
バレー辞めたいって 何回も泣きついた
その度に私の欲しい言葉をくれた
その恩もあるから 良い結果を残して喜んでもらいたい
治くんがおってくれたから 今の私がある言うても過言やないくらいなんよ
あぁ 治くんに会いたいわ
彼の姿や優しさを思い出して 深いため息を吐いてしまう
また一月中にでも時間を見つけて地元に帰れたらええなって そんなことを思っとったら
「仕事納めたで。 今から行ってええ?」って 突然 治くんからのLINE
え?
は? いやいや、もう18時よ?
今からこっち来るん? 嘘やろ
あっ、もしかして誰かに送るやつ間違えとる?
いや これ間違えとったとしたらめっちゃきつない?
まぁ私とは長いこと会うてへんし…
会われへんのやから当たり前に『そういうコト』もないし…
治くん 『スキ』やしなぁ
我慢できへんようなって まさか浮気…?
「誰かと間違えてへん?」
慌てて返事を送信してみた
「誰と間違えんねん。もう新幹線乗ったで」
は?
思わず声が出てしまった
到着時間が送られてきて まじかと思う
どうしよう 焦る
でもめっちゃ嬉しい
迎えに来てとか言われてへんけど さっき送られてきた到着時間に合わせて駅へ向かうことにした
会えると思ってなかったから めちゃくちゃ嬉しなってしもて
もう時間も遅いのに ほんのりメイクをしてお気に入りの服を着てみた
新幹線の着く時間が待ち遠しい
時間て いらん時は早く過ぎていくのに こういう時は遅く感じんねんなぁ
「ここにおるよ」って 大体の位置を送信して 治くんのことを待った
高身長とその体格の良さで 遠目でもすぐに治くんやてわかった
久しぶりに会う治くんはやっぱりめっちゃかっこええ
嬉しさのあまり 人目もはばからず 会うなり抱きついてしまった
「会いたかった」
「俺も」
なかなか離れようとせん私の背中をトントンと優しく叩く
「春なったら、こんなんしたらあかんで。ツムみたいに撮られんで」
そう言って治くんは優しく笑う
「侑くんはスター選手やんか。私みたいなマイナーな選手は誰も知らんから大丈夫や」
「知らんわけないやろ。インカレでの活躍忘れたんか。今や最注目選手の一人やろ」
そう言うた治くんは私の頭をポンポンと叩いて「応援に行かれへんで、ほんますまんかった」と謝ってくれた
私と治くんのスケジュールはなかなか合えへんから仕方ない
謝らんといてと思ったけど 正直 応援には来て欲しかった あの時はつらかったけど
まぁ もう今さらや
「しゃあないよ。遠いし、治くんも仕事忙しいし… っちゅうか治くん」
「なに?」
「目ぇ死んどるで。大丈夫?」
久しぶりに会う治くん
かっこよさは変わらんし むしろ会う度に大人の色気が増しとる気がする
でも それより何より 疲れが目に見えてわかる
どないしたん…
目の下にはうっすらクマがあるし…
「ここ最近、休みなしで働いとったからな」
「あんまり無理せんといてや」
今日だってそうや こんなにしんどそうと思ってへんかった
たぶん疲労もピークやろ たった1日の休みでこっち来る必要なんかないねん
いっこも会われへんから 私に気ぃつかったんやろうなと思うと また申し訳ない気持ちになる
とりあえず二人でタクシーに乗り込んで 会えへんかったぶん ここ最近あったこととか
治くんの仕事の話 私の大学の話をした
治くんから会いたいって言われたことは最近なかった
私が会いたい言うまで 治くんはそういうこと言わへん
たぶん私を困らせんようにしてくれとるんやと思う
寂しさに耐えられへんようなった私が「会いたい」言うたら 「せやな」って言うてくれるし
「次いつ会えるん?」って聞いてくれるけど
私の先の予定がはっきりわからへんで返事できへんことが結構あった
「2連休以上があったら言うわ」っていつも言うんやけど
なかなかまとまった休みは無い
そんくらい ひたすらバレーしとった
なんで 私なんやろう
もうめんどない? 遠すぎやん
治くんやったら 近くで もっとええ子おると思う
私はすぐ音を上げるし
情緒不安定になったら会いたいって泣くし
バレーだって大学だって辞めたいって泣きついたことも何度かある
それに比べて治くんはどんな時も絶対に泣き言 言わんの
強くて寛大な心を持った人 好き以上に憧れやし尊敬しとる
私と治くんの距離はいつ縮まるんやろうか
お互いやるべきことがある
治くんは一つ夢を叶えたけど 私はまだスタートラインにも立ってへん
考えれば考えるほど これからますます遠くなるかもしれへん距離に 気が滅入る
近くで 居りたい 居ってほしい
今でも時々 あの頃がよかったなって高校の時を思い出すけど
どないしても戻ることはできへんし
この人は こんなに距離が会っても その時できる精一杯をしてくれるから
どれだけ遠く離れても 大好きなまま
むしろ 想いは強くなるんよ
私の部屋に着くなり 後ろからぎゅっと抱きしめられた
「やっと会えたわ」そう言って 愛しそうに触れてくれる治くん
色々思い過ぎた 考え過ぎたせいで泣いてしまいそう
会えんかった時間 憎らしいくらい邪魔な距離
それを越えて やっと手の届くところに治くんがおる
一生懸命手を伸ばすと
それに応えるように私の手を取って 自分の指を絡めた
やっと会えたなぁ
まだまだ話したいことはいっぱいあるん
「なぁ、治く…」
言いかけた言葉は遮られた
とめどなく降ってくる口づけ 久しぶりの感触に全身が震えた
恥ずかしいけど それに一生懸命応えて 性急に求め合ってしまう
久しぶりに会えたんやもん しゃあないやん
快楽と安心を同時に得られるこの瞬間が
死ぬほど愛しい
会うたばっかりやん もっと話聞いてほしいねんで
一緒にお風呂入ったりしたいし
そういえば治くん ご飯は食べたんやろか?
年末年始やのにうちの冷蔵庫ろくなもんない
中見られたら怒られそうやなぁ
行為の最中 いらんことが頭の中をぐるぐると巡る
「何、余計なこと考えとるん?」
一度で終わると思っていたそれは 再び繰り返されて
私は途中で意識を手放した
気ぃついたら治くんと一緒にベッドで寝とった
めっちゃ抱きしめられとる
っちゅうか いつベッド来たっけ 覚えてへんわ
「あかん」
隣で寝とった治くんが 突然ガバッと起き上がるから 驚いて目を丸くしてしまう
「ど、ないしたん?」
「蕎麦、食うやろ」
時計見たらもう日付は変わっとった
寝てしもたからな
深夜に蕎麦かぁ
治くんが作ってくれるもんは間違いなく美味しいねん
「お雑煮とおせちもあんねん」
「うそやろ」
「ほんまや。すぐ作れるように持ってきてん」
ということは
「冷蔵庫の中見た?」
「おん、見た」
「怒らんの?」
「まぁ言いたいことはあるけど。今日は目一杯甘やかしたりたいねん」
そう言うて治くんは私のおでこにキスをした
「おせちは昼食べよか」って
深夜にお蕎麦を食べながら 会えんかった分の話をした
ずっとくっついて またどちらからともなく眠りについて
ええ匂いするなと思った時には もうお昼ご飯ができとった
こんな幸せなことある?
寂しく過ごすんやろと思っとったから嬉しい
数時間後にはまたバイバイせなあかんねんけど
「治くん。今年も一緒におってなぁ」
「当たり前やろ」
「いつも、ごめんな」
「何がやねん」
「甘えてばっかりやなぁて」
「そんなことないで。ひかりはよう頑張っとる」
そんなん言うてもらえたら嬉しくて涙出てまう
「新年早々泣くなや」
心はこんなに近いのに 縮まらない距離がもどかしい
それでも
近くにおる誰かやなくて どれだけ遠くても
「治くんが、ええの」
それを再確認した
「俺も ひかりやないとあかんわ」
そう言うて 優しく微笑んでくれる治くんに
この距離を越えてくるものを感じた 一年の始まり
いつからか漠然と 好きなバレーボールを仕事にできたらええなとは思っとった
周りから「ひかりちゃんは才能あるから プロ目指しな」って言われて 単純な私はすぐその気になって 人生のほとんどをバレーボールに捧げてきた
そんなバレーボールのことを 好きやなくなったんは大学に入ってすぐ
『したかったモン』が 『せなあかんモン』になった気がしたから
あと そのタイミングで彼氏の治くんと遠距離になったこと
情けないけど これが一番大きい理由かもしれへん
途中で怪我もしたし 納得いくプレイができへんで腐った時期もある
それでも「辞めたらあかん」「ひかりには才能がある」って言うて励ましてくれる治くんや友人がおって なんとか必死に続けとったら
幸いスカウトがあって 無事内定を貰えた
まだ公式戦には出場できてへんけど 練習にはちょっとずつ合流させてもらっとる
少しずつチームに馴染んでいけてるとは思う
稲荷崎で一緒やった角名くんと同じ実業団
大きな企業やし 知ってる人がおるっていう安心感もある
治くんも内定取れた時はめっちゃ喜んでくれた
でも それはこの先も治くんとは居られへんことを意味する
私たちはこの先も離れ離れのままやねん
夢の為やし お互い大人やし そこはもう受け入れるしかない
大晦日の今日は午後からオフやった
元旦の明日だけが休みで その翌日からは早速遠征がある
治くんも休みは元旦だけや言うとったし もうこの年末年始は兵庫へ帰るんを諦めた
なんかちょっと風邪っぽい気もするし
近々大事な試合もあるから しっかり休んでこの二日間で直しきりたい
この数年 ええ思い出はあんまない
大学には推薦で入ったんやから当然やけど 狂ったようにバレーばっかしとったし
ほんまにもう吐くって何遍も思った
実際何回も吐いた
私も年頃やし 女の子らしいファッションや 丸みのある身体に憧れる
でもそれとは真逆のこの身体
トレーニングのしすぎで筋肉質になったし 下手しぃ他の男より身長高かったりもする
可愛らしさとか女らしさとは縁のない 自分の身体はあんまし好きやない
今年は特に忙しかったなぁ
彼氏の治くんとはほとんど会われへんかった
ふと思い返すと 今年は3回しか会うてへんことに気付く
まぁ向こうも仕事始めたし
独立するって やばいくらい大変そうやった
近くで見守ることも 支えることもせん私が彼女って ほんまに気の毒に思う時ある
高校ん時は高校ん時で せっかく治くんと付き合えても 女子バレー部には恋愛禁止とか言う今どきありえへんルールがあって 隠し通すんに身が細る思いやった
それに治くんはアホほどモテとったから 心配せなあかんことも山ほどあって 全く気が休まらんかった
それでも 今よりは楽しかった
治くんといっぱい会えとったんやもん
大学行ってよかったと思うことは
髪の毛を伸ばしてオッケーやったことくらいや
ずっとショートヘアやった高校ん時よりはたぶん女らしなったし
治くんも会う度可愛えて言うてくれる
まぁいつまでもこんな少女みたいなこと言うとったらあかんな
春からは社会人なんやし プロとして結果を出さなあかん
私の代わりなんかたぶんいくらでもおる
しょうもないことしとったらあっという間に期待を裏切って 職を失ってしまうわ
それは応援してくれとる家族にも申し訳ない
今まで私にたくさんお金を使わせてしまったし
育ててもらった感謝の気持ちを 形にして返していかなあかん
治くんにも感謝しとる
いつもどんな時も私の味方でおってくれた
バレー辞めたいって 何回も泣きついた
その度に私の欲しい言葉をくれた
その恩もあるから 良い結果を残して喜んでもらいたい
治くんがおってくれたから 今の私がある言うても過言やないくらいなんよ
あぁ 治くんに会いたいわ
彼の姿や優しさを思い出して 深いため息を吐いてしまう
また一月中にでも時間を見つけて地元に帰れたらええなって そんなことを思っとったら
「仕事納めたで。 今から行ってええ?」って 突然 治くんからのLINE
え?
は? いやいや、もう18時よ?
今からこっち来るん? 嘘やろ
あっ、もしかして誰かに送るやつ間違えとる?
いや これ間違えとったとしたらめっちゃきつない?
まぁ私とは長いこと会うてへんし…
会われへんのやから当たり前に『そういうコト』もないし…
治くん 『スキ』やしなぁ
我慢できへんようなって まさか浮気…?
「誰かと間違えてへん?」
慌てて返事を送信してみた
「誰と間違えんねん。もう新幹線乗ったで」
は?
思わず声が出てしまった
到着時間が送られてきて まじかと思う
どうしよう 焦る
でもめっちゃ嬉しい
迎えに来てとか言われてへんけど さっき送られてきた到着時間に合わせて駅へ向かうことにした
会えると思ってなかったから めちゃくちゃ嬉しなってしもて
もう時間も遅いのに ほんのりメイクをしてお気に入りの服を着てみた
新幹線の着く時間が待ち遠しい
時間て いらん時は早く過ぎていくのに こういう時は遅く感じんねんなぁ
「ここにおるよ」って 大体の位置を送信して 治くんのことを待った
高身長とその体格の良さで 遠目でもすぐに治くんやてわかった
久しぶりに会う治くんはやっぱりめっちゃかっこええ
嬉しさのあまり 人目もはばからず 会うなり抱きついてしまった
「会いたかった」
「俺も」
なかなか離れようとせん私の背中をトントンと優しく叩く
「春なったら、こんなんしたらあかんで。ツムみたいに撮られんで」
そう言って治くんは優しく笑う
「侑くんはスター選手やんか。私みたいなマイナーな選手は誰も知らんから大丈夫や」
「知らんわけないやろ。インカレでの活躍忘れたんか。今や最注目選手の一人やろ」
そう言うた治くんは私の頭をポンポンと叩いて「応援に行かれへんで、ほんますまんかった」と謝ってくれた
私と治くんのスケジュールはなかなか合えへんから仕方ない
謝らんといてと思ったけど 正直 応援には来て欲しかった あの時はつらかったけど
まぁ もう今さらや
「しゃあないよ。遠いし、治くんも仕事忙しいし… っちゅうか治くん」
「なに?」
「目ぇ死んどるで。大丈夫?」
久しぶりに会う治くん
かっこよさは変わらんし むしろ会う度に大人の色気が増しとる気がする
でも それより何より 疲れが目に見えてわかる
どないしたん…
目の下にはうっすらクマがあるし…
「ここ最近、休みなしで働いとったからな」
「あんまり無理せんといてや」
今日だってそうや こんなにしんどそうと思ってへんかった
たぶん疲労もピークやろ たった1日の休みでこっち来る必要なんかないねん
いっこも会われへんから 私に気ぃつかったんやろうなと思うと また申し訳ない気持ちになる
とりあえず二人でタクシーに乗り込んで 会えへんかったぶん ここ最近あったこととか
治くんの仕事の話 私の大学の話をした
治くんから会いたいって言われたことは最近なかった
私が会いたい言うまで 治くんはそういうこと言わへん
たぶん私を困らせんようにしてくれとるんやと思う
寂しさに耐えられへんようなった私が「会いたい」言うたら 「せやな」って言うてくれるし
「次いつ会えるん?」って聞いてくれるけど
私の先の予定がはっきりわからへんで返事できへんことが結構あった
「2連休以上があったら言うわ」っていつも言うんやけど
なかなかまとまった休みは無い
そんくらい ひたすらバレーしとった
なんで 私なんやろう
もうめんどない? 遠すぎやん
治くんやったら 近くで もっとええ子おると思う
私はすぐ音を上げるし
情緒不安定になったら会いたいって泣くし
バレーだって大学だって辞めたいって泣きついたことも何度かある
それに比べて治くんはどんな時も絶対に泣き言 言わんの
強くて寛大な心を持った人 好き以上に憧れやし尊敬しとる
私と治くんの距離はいつ縮まるんやろうか
お互いやるべきことがある
治くんは一つ夢を叶えたけど 私はまだスタートラインにも立ってへん
考えれば考えるほど これからますます遠くなるかもしれへん距離に 気が滅入る
近くで 居りたい 居ってほしい
今でも時々 あの頃がよかったなって高校の時を思い出すけど
どないしても戻ることはできへんし
この人は こんなに距離が会っても その時できる精一杯をしてくれるから
どれだけ遠く離れても 大好きなまま
むしろ 想いは強くなるんよ
私の部屋に着くなり 後ろからぎゅっと抱きしめられた
「やっと会えたわ」そう言って 愛しそうに触れてくれる治くん
色々思い過ぎた 考え過ぎたせいで泣いてしまいそう
会えんかった時間 憎らしいくらい邪魔な距離
それを越えて やっと手の届くところに治くんがおる
一生懸命手を伸ばすと
それに応えるように私の手を取って 自分の指を絡めた
やっと会えたなぁ
まだまだ話したいことはいっぱいあるん
「なぁ、治く…」
言いかけた言葉は遮られた
とめどなく降ってくる口づけ 久しぶりの感触に全身が震えた
恥ずかしいけど それに一生懸命応えて 性急に求め合ってしまう
久しぶりに会えたんやもん しゃあないやん
快楽と安心を同時に得られるこの瞬間が
死ぬほど愛しい
会うたばっかりやん もっと話聞いてほしいねんで
一緒にお風呂入ったりしたいし
そういえば治くん ご飯は食べたんやろか?
年末年始やのにうちの冷蔵庫ろくなもんない
中見られたら怒られそうやなぁ
行為の最中 いらんことが頭の中をぐるぐると巡る
「何、余計なこと考えとるん?」
一度で終わると思っていたそれは 再び繰り返されて
私は途中で意識を手放した
気ぃついたら治くんと一緒にベッドで寝とった
めっちゃ抱きしめられとる
っちゅうか いつベッド来たっけ 覚えてへんわ
「あかん」
隣で寝とった治くんが 突然ガバッと起き上がるから 驚いて目を丸くしてしまう
「ど、ないしたん?」
「蕎麦、食うやろ」
時計見たらもう日付は変わっとった
寝てしもたからな
深夜に蕎麦かぁ
治くんが作ってくれるもんは間違いなく美味しいねん
「お雑煮とおせちもあんねん」
「うそやろ」
「ほんまや。すぐ作れるように持ってきてん」
ということは
「冷蔵庫の中見た?」
「おん、見た」
「怒らんの?」
「まぁ言いたいことはあるけど。今日は目一杯甘やかしたりたいねん」
そう言うて治くんは私のおでこにキスをした
「おせちは昼食べよか」って
深夜にお蕎麦を食べながら 会えんかった分の話をした
ずっとくっついて またどちらからともなく眠りについて
ええ匂いするなと思った時には もうお昼ご飯ができとった
こんな幸せなことある?
寂しく過ごすんやろと思っとったから嬉しい
数時間後にはまたバイバイせなあかんねんけど
「治くん。今年も一緒におってなぁ」
「当たり前やろ」
「いつも、ごめんな」
「何がやねん」
「甘えてばっかりやなぁて」
「そんなことないで。ひかりはよう頑張っとる」
そんなん言うてもらえたら嬉しくて涙出てまう
「新年早々泣くなや」
心はこんなに近いのに 縮まらない距離がもどかしい
それでも
近くにおる誰かやなくて どれだけ遠くても
「治くんが、ええの」
それを再確認した
「俺も ひかりやないとあかんわ」
そう言うて 優しく微笑んでくれる治くんに
この距離を越えてくるものを感じた 一年の始まり
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