侑くんとチア彼女
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「ひかり これ見た?やばいことなっとるけど…」
いつも一緒におる女友達が突然そんなこと言うもんやから 何事かと思った
見せられたスマホ の画面 そこに映るんは流行っとるSNSの とある投稿
「え…何これ きもちわる」
第一声は たまらず漏れ出た本音やった
たぶん親友や家族の前でしか出せへんような 低い声が出たと思う
友達が見せてくれた画面 そこに投稿されとる写真は 自分がチアリーダーとしてめいっぱいの笑顔で バレー部の試合を応援しとる姿
それはええねん
私だって日々レッスンして一生懸命やっとるから
こうやって決まっとる写真はいくらあってもええ
過去には地元の新聞とかメディアにちらっと映されたりしたこともあった
でも これはなんかちゃうやん
誰が撮ったかわからへんのも不気味やし 私の写真を許可なく勝手にSNSに投稿するんは…あかんよな?
【稲高のチア部めっちゃ可愛い子おる 佐藤 ひかりちゃん こんな子と付き合いたい】
投稿につけられとる文章もやばいやん
完全に気持ち悪い 誰ですかほんまに
これが【隠し撮りやと思われへん可愛さ】やとか言われて 一瞬のうちにありえへんくらい拡散されてしもたらしい
嬉しいとかやなくて 不快でしかない
見ず知らずの人に 顔と名前を全世界に晒された
それについとるコメントは優しいもんばっかりとちゃう
下劣で卑猥なもんもある
普通に傷つく内容のコメントもあって嫌でも目につく
これが今問題になっとる誹謗中傷かぁ
第三者でおる時は どこの誰かもわからへん人に何言われても無視したらええのに…って思っとったけど
いざ自分のことになると そうは思われへんもんなんやと知る
【ブスやん】【足太い】【ひかり知っとるけど性格最悪やで】
気持ち悪さの次に私を襲ったんは 人のこと勝手に晒して勝手に評価して 何してくれてんねんっちゅう怒りと悲しみやった
【すぐヤらせてくれるで】
いやいや知らんし 誰かとすぐヤったとかほんま身に覚えがない
半年ほど前から付き合うとる彼氏の侑とも お互い部活が忙しいのもあって まだ数えるほどしかシてへんけど
その悪質なコメントをしとるアカウントを覗き見てみたけど 作りたてのようやった
もしかして この投稿にこんな悪意のあるコメントをする為にわざわざ作ったん?なんなん暇なん?
「うわ、やば」
「どないしたん!?」
ふと見た私のインスタのアカウントが 知らん間にやばいくらいフォロワー数が増えとった
DM欄は出会い目的のメッセージで爆発しとる
ちょうどその頃
「なんやねんこれ」って大きな声が廊下に響いた
うるさい彼氏様の登場や
ちょうどお昼の休憩時間 侑は銀島くんと一緒に教室に入ってきた
同じクラスの治くんとスナくんも 私と友人の席を囲むように集まってきた
「お前なんやねんアレ…」
「私もさっき知ってんけど めちゃくちゃよぅ撮れとったよなぁ」
晒されてるんも内容も最悪やけど あの写真だけはほんまに神がかっとる綺麗さで 思わず保存してしもた
「アホか!何をのんきなこと言うてんねん」
すごい剣幕で私の机をバンッと叩くけど 私に怒られても知らんて
「でももうかなり拡散されてしもとるみたいやし」
私はもう諦めとる
それよりも 書き込まれてる内容とかがめっちゃ嫌
気持ち悪い
何も悪いことしてへんのに あることないこと好き勝手書かれるんは たまったもんやない
「なんでそないケロッとしてんねん」
「嫌やけど どないしようもないやん」
なぁ?と友達に助けを求めてみたけど 侑に睨まれて居心地が悪そうや
これからも応援でその辺行くことあるし 知らんところでもっと撮られるかもしれへん
今回の騒ぎが落ち着くんを待つしかないわ そんなことを思ってたら
「見せモンちゃうやろ もうやめろや」
眉間に深い皺を寄せて 私を睨みつける
侑は明らかに怒っとる
「やめるて 何を?」
「チア以外に何があるねん」
「なんて?なんで私が 小学生の頃から今までずっとやってきたチアを やめなあかんの?」
私もイライラしとるから 思ったことそのまんま言い返してしもた
ピリッとした空気が流れて さっきまで談笑しとった治くんとスナくんの会話がぴたりと止む
「は? 俺の女 見せモンとちゃうで って言うてんのやけど」
なんでわからんねん とでも言いたげな顔
「チアをやめる気はない」
「あ?」
ばちばちと火花が散りそうなほど最低最悪な空気
「俺の言うこと聞けて」
なんなん どこのジャ⚫︎アンなん? 侑の口調がいつもより全然きつい
私のせいで機嫌悪いんかもしれへんけど
たぶんバレー部の子らも横おるし イキってるんやろな 腹立つ
机の上に置いてたスマホ 開きっぱなしにしとったインスタを見られる
「コレもやめぇや 」
「…」
「どうせわけのわからんアホな男からDMとかくるんちゃうんか」
やめなあかんの?なんで私が?
DMなんか返すつもりないしブロックしたら済むことやんな
すぐさま画面をオフにしようと伸ばした手
それよりも先に 侑にスマホを取り上げられてしまった
侑はその中身を見て 眉間の皺を一層深くした
「やっぱりアホみたいなDMで溢れ返っとるやないか」
バレー部の子たちも一緒になって私のスマホを覗き込んでる
おいプライバシー
「うわDMの量えぐ」
「やば モテモテじゃん」
治くんとスナくんはさっきまでの空気を取り戻して もはや面白そうにそんなこと言ってるし
「消せや すぐ」
出会い目的のDMを見た侑がええ顔するわけはない
なんかめちゃくちゃキレとるし
「なぁ もうええやん 返してや」
そう言うて手を伸ばす
「ん?これなんや スカウトて書いとるで」
銀島くんの言葉に 全員が反応する
「…△×芸能事務所…ってあのめっちゃ有名なとことちゃうんか」
「え、ほんまに?」
私も席を立ってスマホを覗き込む
芸能事務所とかちょっと気になるやん
「アホか!こんなもん嘘に決まっとるやろ 詐欺の手口や」
侑が顰めっ面して私を睨んだ
「嘘なん?ほんまに?ちょっとちゃんと見てや」
「あかん いらん もう消した」
「えー デビューの道が…」
「何がデビューやねん おちょくっとんちゃうぞ」
侑は強い口調で私にそう言った
別におちょくっとるわけとちゃう
半分冗談半分本気や
将来 何かの仕事に就きながらでもチアリーダーの活動は続けたいねん
そういう時 事務所に入っとったり人脈があったら強いんとちゃうかなぁ…とか考えたことがある
侑の方を見たら一段と機嫌の悪そうな顔しとった
まぁええわ もう余計なことは言わん めんどい
諦めて ひとつため息を溢した
「とにかく チアは辞め」
「だからなんで!?」
「なんでもや」
「いや なんなん?おかしいやん 私は目標持ってチアやっとんねん ほな侑もバレー辞めろて言われて はいオッケーてなる?ならんやろ」
「それとこれは別や」
「何が別や 一緒やて」
「…なんやねん もしかしてチヤホヤされて嬉しいんか?」
これにはさすがにブチンときた
私が晒されて貶されて嫌やな思って落ち込んでも
みんなの前やからって気丈に振る舞ってるんがわからんのか
こいつが人でなしと言われる所以がわかった気がした
治くんは無の表情でこっち見とる なんその真顔?どういう感情それ?
スナくんは「モラじゃん」とか言って笑ってる
いやほんまそれ もっと大きな声で侑に聞こえるよう言うて
「お前そんな言い方やめとけって」
そう言ってくれる銀島くんはほんまにまともやわ
侑はチッと舌打ちをして 席を立つ
「もうええわ お前みたいな女知らん」
「知らんって何やねん?別れるんか?」
さっきまで黙っとった治くんが横から口を出す
「別れへんわ!」
大きな声でそう言い放って勢いよく教室を出て行った侑
「別れへんのかい」
治くんは呆れた顔して呟く
「侑って いつもああなの?」
スナくんにそう聞かれて 首を横に振る
「ううん いつもはもっと優しい」
「腹立っとるんやろ 自分の女がこんなんなったらキレるんもわかるわ」
「さすが同じDNA」
「まぁ俺やったらあんな言い方せんけど」
治くんとスナくんのそんなやりとりを隣で聞きながら
ほんまに あの言い方はないなぁと思う
「侑くんめっちゃ怒ってたなぁ〜こわ〜」
ずっと横におった女友達は完全にビビってしもてる
「おかしない?なんで私があそこまで言われなあかんの?」
「たしかにひかりは悪くないけどさぁ たぶんひかりのことが心配なんよ」
それもわからんでもない でもチヤホヤされて嬉しいって何なん?
侑はどこまで見とるか知らんけど 可愛いとかええことばっか言われとるんちゃうねん
【すぐヤらせてくれる】とか書かれて私も散々な思いしてる
「もう見るのやめときなよ」
たぶんスナくんは私が嫌な思いしてることわかってくれてるんやろう
私の肩を ポンと慰めるように叩いてくれた
その日の夜 ベッドに寝転がって今日あったことを思い返す
しかし疲れたな 色々ありすぎた一日やった
いつも この時間にはあるはずの連絡が今日は無い
たぶん侑 私に怒ってるんやろうなぁ
私がチア辞めるんが正しいんか?
私が辞めたら済む話なんやろうか?そうやないやん
侑はそれで気済むかもしれへんけど 私はこんなことで今まで積み重ねてきたもんを捨てる気はない
侑にとってのバレーみたいに凄くもないし 自慢できるもんでもないかもしれへんけど 私にとっては大切なもんやねん
スナくんに もう見るのやめなって言われた例の投稿
あかんてわかってても見てまう
それでまた嫌な気持ちになる
ええことばかりやないとわかってて コメント欄に目を通してしまう
例の投稿は さっきみたいなひどい誹謗中傷はないけど また一段と拡散されとった
もう止めてくれんかな この投稿自体 消してほしい
こんなもん無かったら 私が嫌な気持ちになることも 侑と喧嘩することもなかったのに
…本人や言うてDM飛ばしてみよかな?
一瞬 そんなことを思うけど 知らん人と直接コンタクトとるんは なかなか勇気がいる
結局この日 侑からの連絡はなかった
別れへんわって言うとったけど もしかしたら私のこと嫌になったんかもしれへん
あんなこと書かれてたしなぁ
【すぐヤらせてくれる】
あんなん 侑が真に受けるわけないやん
そう思うのに心が弱っとるせいか めっちゃ不安になる
次の日
いつもなら喧しいくらいなんや言うてうちの教室に来る侑
今日はその姿は無い
廊下で偶然すれ違った時 目が合うたのに 逸らされてしまった
侑のクラスを覗くと 私とは目も合わさへんし話さへんのに 違う女の子とは楽しそうに喋っとる
なんやねん腹立つわ
「なぁ 侑」
普段通りを装って 声を掛けてみたけど無視される
「まだ怒ってるん?」
そう聞いてみても 私に向けられるんは相変わらず不機嫌な顔
さっき女の子と話しとった時と別人やんか なんやねん さすがにイライラする
「チア辞める気になったんか?」
「辞めへんよ」
私が辞めるって言うまで口聞かへん って感じなんやろか 侑にきつく睨まれる
はぁ と深いため息を吐かれて嫌な気持ちになる
なんなんその態度
私の気持ちなんか全然考えてくれへんやん
もうええ 教室戻ろ そう思ったら突然腕を掴まれた
「なに?痛い 離して」
「離さん」
「ちょっと やめてや 皆見とるし」
そのまま侑に引っ張られて 廊下をどんどん突き進んでいく
腕は強く掴まれたまま 私らの教室から少し離れたところにある 今は使ってない空き教室に連れてこられた
鍵が開いてるんを知ってたんか 侑は勢いよくその扉を開けた
それと同時に ちょうどチャイムが鳴る
「侑?戻らな、授業…」
私は侑の手を振り解こうとした 結構な力を入れてみるけど びくともせん
そのまま身体を壁に押し付けられて 驚きのあまり言葉を失う
そして侑は 私の背後にある壁を 強くドンと叩いた
雰囲気はともかく
いわゆる 壁ドン 状態である
この距離の近さはあんまりない
時々 キスする そん時くらいやろか
そのキスも 実を言うと そないしたことがない
まだ慣れへんこの近さに緊張してしまって 目を逸らそうとぷいと横を向いた
侑はそんな私の顎を掴んで 自分の方を無理矢理向かせた
「しつこいねん 辞め言うとるやろ」
いつもより低い声
私よりもかなり背が高い侑に見下ろされて なかなかの圧を感じる
私に向けられとるとは思われへんくらい冷たい目 ぞっとする
「もうええやん その話 。どいてくれへん? 教室戻る…」
「ようないわ お前 自分がどんな目で見られとるかわかっとんのか?」
「どんな目…て」
「男に、やらしい目で見られてんの なんでわからへんねん」
そう言うた侑の顔はちょっと赤くなっとって 必死さが伝わってきた
やらしい目なぁ
そんな目で見られる覚えはないけど
やっぱり侑 あのコメント見たんとちゃうんやろか
情けなさと恥ずかしさで 私も顔を赤くしてしまう
「俺 そんなん嫌やねん。俺以外のやつがひかりのことそんな目で見るん めっちゃ腹立つし」
「…侑 やっぱりああいうの…信じる?」
「ああいうの?て 何やねん」
「その、私が…すぐ、えっちさせてくれるみたいなん書かれてた…やつ」
「は!? あんなもん信じるわけないやろ!?」
また一段と近づいてくる侑の綺麗な顔
あまりに近すぎて焦るけど 力強く否定してくれる姿を見て ホッとする
「ほんまに? 侑は私に 『チヤホヤされて嬉しいんやろ』て言うたけど…ブスとかも結構書かれてたし嬉しくなんかないで。私 これでも必死に平気なふりして……ッ」
話の途中で 目頭がじわっと熱くなった
堪えようと思えば思うほど 泣いてしまいそうになる
「ごめん」
「何ごめんなん?」
「あんなん 本気で言うたんちゃうねん お前がチア辞めへん言うから」
それには 理由があんねん
「俺 お前のこと守りたいねん。俺のやのに 他のやつに見られるんも嫌や」
思いもせんかった言葉をもらえて ドキッとさせられてしまう
好きな人にこんなん言われてときめかへんほうがおかしいやろ
「…平気なふりせんと 嫌やしんどいとか思とること全部言うたらええし 俺んこともっと頼れアホて思っとる」
アホは余計やわ そう思うけど めっちゃ嬉しいんよ
痛いくらいにきつく抱きしめられて
痛いとか文句言う間も 逃げ出す間もないくらい突然 目の前が暗くなったと思ったら
唇を塞ぐようにキスされてた
動きも言葉も止まってまう
そっと目を閉じて それに応じる
いつぶりやっけ
いつもは人目を気にして 手繋ぐんがやっとやねんな
何度か角度を変えて そっと重なるだけの それ
もどかしいなぁ 自分から舌を滑らせてみると パッと離された唇
目の前には侑の驚いた顔
「…ちょぉ あかんて、なぁ」
再び唇が重なると 一瞬で捉えられた舌
徐々に激しくなっていくキスに 立ってられへんようになって 力なくその場に崩れ落ちる
侑の手が腰に回って 支えるようにしてくれたけど もう遅い
二人の間にある隙間を埋めるように 侑が覆い被さってくるし
まるで 行為する前みたいな 濃厚なキス
私は 侑とするこんなキスも 片手で数えるほどしか まだ知らん
あかん
顔も身体も熱い 恥ずかしくて見せたくないな
そう思って顔を背けようとするけど 侑はそれを許さへん
ほんまに ようあんな好き勝手書いてくれたんやで
脳裏に浮かぶ あの投稿 そこにつけられたコメントを思い出して 悔しさで一筋の涙が流れた
「ひかり 大丈夫やて。絶対 俺が守ったるから」
その涙をゆっくりと指で拭って 優しく微笑む侑
目が合うたと思ったら 息つく間もなく再び激しいキスが降ってくる
いつのまにか恋人繋ぎになっとった両手は 壁に押し付けられて身動きが取られへん
だんだんと 侑の呼吸が荒くなってるんがわかる
「侑、これ以上はあかんで ここ学校…」
名残惜しそうに ゆっくりと離れる唇
「やばい …めっちゃシたなってもた」
「あかん。ええ加減 授業戻らな怒られてまうで」
「もうええやん。誰も来うへんて。 煽ったんお前やし」
「あかん。私のせいにせんとって。ほら 行こ?」
「無理 今すぐ動かれへん」
「なんで…」
「皆まで言わすなや」
あぁ なんとなく理解できて 苦笑いを浮かべてしまう
しゃあないなぁ そう呟いて少しだけ待ってあげることにした
「なぁ もう一回だけちゅーしてええ?」
「あか………」
ん、って もう返事聞く前にしとるやん
侑は まるで私の唇を食べるかのように口づけた
まだまだ足りへん そんな声が聞こえてきそうやわ
「あんな、チア辞めへんって言うた話やけど…私な侑が将来プロになった時 所属するチームでチアしたいねん」
侑は ばかばかしい理由やと笑うやろうか
「侑のこと これからもずっと応援してたいんよ。アホやと思う?」
空き教室を出たところで 立ち止まった侑は キョトンとした顔をしとる
「…思わへんわ! あーもうなんやねん その可愛い理由」
「でも侑がそんなに嫌なんやったら、部活はしばらく休もかなと思ってる」
侑に嫌われるくらいやったら ちょっとくらい 自分を曲げてもええかなって思ってしまった
それくらい 惚れてる
その翌日
教室に入ったら 治くんとスナくんが私の方を見て何やらニヤニヤしとる
「なんかあったん?」って聞いたら
「これ」 そう言って見せられたスマホ
画面には侑のインスタ
「え?」
侑はあんまりSNSに投稿なんかせえへん 基本は見る専やと思う
いや 見てるかも知らんけど
一番上に固定された写真を見て絶句する
何やのこれ 私とのツーショットやんか
『私はこれが一番気に入っとる』 ってそんな話したことあるなぁ ふとそんなことを思い出す
お揃いで買うたTシャツ着て 自然な笑顔でうまいこと撮れてんねん
私の写りも悪くないし 侑の顔は言わずもがなかっこええんよな
しかも 私のアカウントをタグ付けしてるやん
あかん やばい これはほんま恥ずいし 無理や
侑のファンに殺されてまう
どないしたん
侑はこういうの絶対せんタイプやんか
しょーもな とか言うやんいつも
「ちょ…あかんやろ こんなん。別れたらどないするん」
「あいつがそんなこと考えとるわけないやろ」
そう言って治くんは笑った
隣におるスナくんも一緒に面白がっとる 雰囲気でわかるわ
「あの投稿も消えてるよ。 知ってた?」
「へっ?」
スナくんの言葉を聞いて 私が晒された例の投稿を探す
「ほんまや…」
削除されとる なんで
「侑が投稿主に消せってDM送ってたみたい」
「あいつ えらいキレとったもんなぁ」
「え〜…よかった…」
安心して 身体中の力が抜けていくのを感じる
「ひかり 幸せもんやんか」
「いい彼氏だね 末永くお幸せに」
おもろいくらいに棒読みやんか
でも今はそれにツッコんどる場合とちゃう
投稿消してもらえたんはほんまにありがたいけど 次は侑のインスタをなんとかせなあかん
あれは恥ずいし 黒歴史になるで
侑のファンの目も怖いしなぁ
急いで侑の元へ向かう
私の焦る顔を見ても 当の侑は何食わぬ顔をしてる
スマホで侑のインスタの画面を出して叩きつけてやる
「こんなん別れたらどないするんよ」
「別れへんわ」
「いやいや わかっとる? こういうんは残るから 将来侑がビッグになった時に絶ッ対に後悔すんで」
「せん」
なんやねん この自信は
侑がこんなん言い出したらもう聞かへんて わかってる
「もう知らんからなぁ」
「ひかりも俺が彼氏やってわかるように投稿しとき そしたら他ん男からDM来うへんようなるやろ」
「はぁ!?絶対嫌や!!」
「なんでやねん!?なんで嫌とか言うねん」
「あんたな、自分の人気わかっとる!? 私は今回たまたまこんな騒ぎになったけど それの比じゃないねんで? 侑のガチファンに殺されてまうて」
「大丈夫やて 早よせぇ」
「早よせぇとちゃうやん 嫌やもう〜…何っ回でも言うけどさぁ ほんまに後悔すんで?侑は絶対ビッグになるから…」
「なんで俺が後悔すんねん。ええやん これを機に侑くんと付き合うてますぅて宣言しとき」
「嫌やぁ」
「早よせぇ」
はー…逃げられへんな これ
まぁ すぐ消したらええか
友達もみんな 彼氏との写真載せとるし それくらいの軽いノリでええんかな
相手はあの宮侑やし 他の子からやっかまれるん嫌やん こういう青春?というか カップルっぽいこと 私には無縁や思ってたけどなぁ
侑に睨まれながら やり方すら怪しい不慣れな手つきで お気に入りの写真を選んで投稿する
もう どうにでもなれ そんな気持ち
侑のアカウントをタグ付けする
やってしもた
途端に恥ずかしさが込み上げてきて
「しばらくしたら消すから」って 顔を隠しながら侑に告げた
あぁ どないしよう 絶対侑のファンに目ぇつけられる
「何があっても俺がおるから 大丈夫やて」
その後
出会い目的のDMは 面白いくらいピタリと止んだ
「効果は絶大みたいやなぁ」
そう呟いて 満悦の表情を見せる彼氏様
私は案の定 侑のことを好きな女に目つけられてこの先も一悶着あるんやけど それはまた別の話
まぁ何があっても侑が守ってくれるらしいから
開き直った私は 堂々と彼女として残りの高校生活 青春を謳歌するのだった
いつも一緒におる女友達が突然そんなこと言うもんやから 何事かと思った
見せられたスマホ の画面 そこに映るんは流行っとるSNSの とある投稿
「え…何これ きもちわる」
第一声は たまらず漏れ出た本音やった
たぶん親友や家族の前でしか出せへんような 低い声が出たと思う
友達が見せてくれた画面 そこに投稿されとる写真は 自分がチアリーダーとしてめいっぱいの笑顔で バレー部の試合を応援しとる姿
それはええねん
私だって日々レッスンして一生懸命やっとるから
こうやって決まっとる写真はいくらあってもええ
過去には地元の新聞とかメディアにちらっと映されたりしたこともあった
でも これはなんかちゃうやん
誰が撮ったかわからへんのも不気味やし 私の写真を許可なく勝手にSNSに投稿するんは…あかんよな?
【稲高のチア部めっちゃ可愛い子おる 佐藤 ひかりちゃん こんな子と付き合いたい】
投稿につけられとる文章もやばいやん
完全に気持ち悪い 誰ですかほんまに
これが【隠し撮りやと思われへん可愛さ】やとか言われて 一瞬のうちにありえへんくらい拡散されてしもたらしい
嬉しいとかやなくて 不快でしかない
見ず知らずの人に 顔と名前を全世界に晒された
それについとるコメントは優しいもんばっかりとちゃう
下劣で卑猥なもんもある
普通に傷つく内容のコメントもあって嫌でも目につく
これが今問題になっとる誹謗中傷かぁ
第三者でおる時は どこの誰かもわからへん人に何言われても無視したらええのに…って思っとったけど
いざ自分のことになると そうは思われへんもんなんやと知る
【ブスやん】【足太い】【ひかり知っとるけど性格最悪やで】
気持ち悪さの次に私を襲ったんは 人のこと勝手に晒して勝手に評価して 何してくれてんねんっちゅう怒りと悲しみやった
【すぐヤらせてくれるで】
いやいや知らんし 誰かとすぐヤったとかほんま身に覚えがない
半年ほど前から付き合うとる彼氏の侑とも お互い部活が忙しいのもあって まだ数えるほどしかシてへんけど
その悪質なコメントをしとるアカウントを覗き見てみたけど 作りたてのようやった
もしかして この投稿にこんな悪意のあるコメントをする為にわざわざ作ったん?なんなん暇なん?
「うわ、やば」
「どないしたん!?」
ふと見た私のインスタのアカウントが 知らん間にやばいくらいフォロワー数が増えとった
DM欄は出会い目的のメッセージで爆発しとる
ちょうどその頃
「なんやねんこれ」って大きな声が廊下に響いた
うるさい彼氏様の登場や
ちょうどお昼の休憩時間 侑は銀島くんと一緒に教室に入ってきた
同じクラスの治くんとスナくんも 私と友人の席を囲むように集まってきた
「お前なんやねんアレ…」
「私もさっき知ってんけど めちゃくちゃよぅ撮れとったよなぁ」
晒されてるんも内容も最悪やけど あの写真だけはほんまに神がかっとる綺麗さで 思わず保存してしもた
「アホか!何をのんきなこと言うてんねん」
すごい剣幕で私の机をバンッと叩くけど 私に怒られても知らんて
「でももうかなり拡散されてしもとるみたいやし」
私はもう諦めとる
それよりも 書き込まれてる内容とかがめっちゃ嫌
気持ち悪い
何も悪いことしてへんのに あることないこと好き勝手書かれるんは たまったもんやない
「なんでそないケロッとしてんねん」
「嫌やけど どないしようもないやん」
なぁ?と友達に助けを求めてみたけど 侑に睨まれて居心地が悪そうや
これからも応援でその辺行くことあるし 知らんところでもっと撮られるかもしれへん
今回の騒ぎが落ち着くんを待つしかないわ そんなことを思ってたら
「見せモンちゃうやろ もうやめろや」
眉間に深い皺を寄せて 私を睨みつける
侑は明らかに怒っとる
「やめるて 何を?」
「チア以外に何があるねん」
「なんて?なんで私が 小学生の頃から今までずっとやってきたチアを やめなあかんの?」
私もイライラしとるから 思ったことそのまんま言い返してしもた
ピリッとした空気が流れて さっきまで談笑しとった治くんとスナくんの会話がぴたりと止む
「は? 俺の女 見せモンとちゃうで って言うてんのやけど」
なんでわからんねん とでも言いたげな顔
「チアをやめる気はない」
「あ?」
ばちばちと火花が散りそうなほど最低最悪な空気
「俺の言うこと聞けて」
なんなん どこのジャ⚫︎アンなん? 侑の口調がいつもより全然きつい
私のせいで機嫌悪いんかもしれへんけど
たぶんバレー部の子らも横おるし イキってるんやろな 腹立つ
机の上に置いてたスマホ 開きっぱなしにしとったインスタを見られる
「コレもやめぇや 」
「…」
「どうせわけのわからんアホな男からDMとかくるんちゃうんか」
やめなあかんの?なんで私が?
DMなんか返すつもりないしブロックしたら済むことやんな
すぐさま画面をオフにしようと伸ばした手
それよりも先に 侑にスマホを取り上げられてしまった
侑はその中身を見て 眉間の皺を一層深くした
「やっぱりアホみたいなDMで溢れ返っとるやないか」
バレー部の子たちも一緒になって私のスマホを覗き込んでる
おいプライバシー
「うわDMの量えぐ」
「やば モテモテじゃん」
治くんとスナくんはさっきまでの空気を取り戻して もはや面白そうにそんなこと言ってるし
「消せや すぐ」
出会い目的のDMを見た侑がええ顔するわけはない
なんかめちゃくちゃキレとるし
「なぁ もうええやん 返してや」
そう言うて手を伸ばす
「ん?これなんや スカウトて書いとるで」
銀島くんの言葉に 全員が反応する
「…△×芸能事務所…ってあのめっちゃ有名なとことちゃうんか」
「え、ほんまに?」
私も席を立ってスマホを覗き込む
芸能事務所とかちょっと気になるやん
「アホか!こんなもん嘘に決まっとるやろ 詐欺の手口や」
侑が顰めっ面して私を睨んだ
「嘘なん?ほんまに?ちょっとちゃんと見てや」
「あかん いらん もう消した」
「えー デビューの道が…」
「何がデビューやねん おちょくっとんちゃうぞ」
侑は強い口調で私にそう言った
別におちょくっとるわけとちゃう
半分冗談半分本気や
将来 何かの仕事に就きながらでもチアリーダーの活動は続けたいねん
そういう時 事務所に入っとったり人脈があったら強いんとちゃうかなぁ…とか考えたことがある
侑の方を見たら一段と機嫌の悪そうな顔しとった
まぁええわ もう余計なことは言わん めんどい
諦めて ひとつため息を溢した
「とにかく チアは辞め」
「だからなんで!?」
「なんでもや」
「いや なんなん?おかしいやん 私は目標持ってチアやっとんねん ほな侑もバレー辞めろて言われて はいオッケーてなる?ならんやろ」
「それとこれは別や」
「何が別や 一緒やて」
「…なんやねん もしかしてチヤホヤされて嬉しいんか?」
これにはさすがにブチンときた
私が晒されて貶されて嫌やな思って落ち込んでも
みんなの前やからって気丈に振る舞ってるんがわからんのか
こいつが人でなしと言われる所以がわかった気がした
治くんは無の表情でこっち見とる なんその真顔?どういう感情それ?
スナくんは「モラじゃん」とか言って笑ってる
いやほんまそれ もっと大きな声で侑に聞こえるよう言うて
「お前そんな言い方やめとけって」
そう言ってくれる銀島くんはほんまにまともやわ
侑はチッと舌打ちをして 席を立つ
「もうええわ お前みたいな女知らん」
「知らんって何やねん?別れるんか?」
さっきまで黙っとった治くんが横から口を出す
「別れへんわ!」
大きな声でそう言い放って勢いよく教室を出て行った侑
「別れへんのかい」
治くんは呆れた顔して呟く
「侑って いつもああなの?」
スナくんにそう聞かれて 首を横に振る
「ううん いつもはもっと優しい」
「腹立っとるんやろ 自分の女がこんなんなったらキレるんもわかるわ」
「さすが同じDNA」
「まぁ俺やったらあんな言い方せんけど」
治くんとスナくんのそんなやりとりを隣で聞きながら
ほんまに あの言い方はないなぁと思う
「侑くんめっちゃ怒ってたなぁ〜こわ〜」
ずっと横におった女友達は完全にビビってしもてる
「おかしない?なんで私があそこまで言われなあかんの?」
「たしかにひかりは悪くないけどさぁ たぶんひかりのことが心配なんよ」
それもわからんでもない でもチヤホヤされて嬉しいって何なん?
侑はどこまで見とるか知らんけど 可愛いとかええことばっか言われとるんちゃうねん
【すぐヤらせてくれる】とか書かれて私も散々な思いしてる
「もう見るのやめときなよ」
たぶんスナくんは私が嫌な思いしてることわかってくれてるんやろう
私の肩を ポンと慰めるように叩いてくれた
その日の夜 ベッドに寝転がって今日あったことを思い返す
しかし疲れたな 色々ありすぎた一日やった
いつも この時間にはあるはずの連絡が今日は無い
たぶん侑 私に怒ってるんやろうなぁ
私がチア辞めるんが正しいんか?
私が辞めたら済む話なんやろうか?そうやないやん
侑はそれで気済むかもしれへんけど 私はこんなことで今まで積み重ねてきたもんを捨てる気はない
侑にとってのバレーみたいに凄くもないし 自慢できるもんでもないかもしれへんけど 私にとっては大切なもんやねん
スナくんに もう見るのやめなって言われた例の投稿
あかんてわかってても見てまう
それでまた嫌な気持ちになる
ええことばかりやないとわかってて コメント欄に目を通してしまう
例の投稿は さっきみたいなひどい誹謗中傷はないけど また一段と拡散されとった
もう止めてくれんかな この投稿自体 消してほしい
こんなもん無かったら 私が嫌な気持ちになることも 侑と喧嘩することもなかったのに
…本人や言うてDM飛ばしてみよかな?
一瞬 そんなことを思うけど 知らん人と直接コンタクトとるんは なかなか勇気がいる
結局この日 侑からの連絡はなかった
別れへんわって言うとったけど もしかしたら私のこと嫌になったんかもしれへん
あんなこと書かれてたしなぁ
【すぐヤらせてくれる】
あんなん 侑が真に受けるわけないやん
そう思うのに心が弱っとるせいか めっちゃ不安になる
次の日
いつもなら喧しいくらいなんや言うてうちの教室に来る侑
今日はその姿は無い
廊下で偶然すれ違った時 目が合うたのに 逸らされてしまった
侑のクラスを覗くと 私とは目も合わさへんし話さへんのに 違う女の子とは楽しそうに喋っとる
なんやねん腹立つわ
「なぁ 侑」
普段通りを装って 声を掛けてみたけど無視される
「まだ怒ってるん?」
そう聞いてみても 私に向けられるんは相変わらず不機嫌な顔
さっき女の子と話しとった時と別人やんか なんやねん さすがにイライラする
「チア辞める気になったんか?」
「辞めへんよ」
私が辞めるって言うまで口聞かへん って感じなんやろか 侑にきつく睨まれる
はぁ と深いため息を吐かれて嫌な気持ちになる
なんなんその態度
私の気持ちなんか全然考えてくれへんやん
もうええ 教室戻ろ そう思ったら突然腕を掴まれた
「なに?痛い 離して」
「離さん」
「ちょっと やめてや 皆見とるし」
そのまま侑に引っ張られて 廊下をどんどん突き進んでいく
腕は強く掴まれたまま 私らの教室から少し離れたところにある 今は使ってない空き教室に連れてこられた
鍵が開いてるんを知ってたんか 侑は勢いよくその扉を開けた
それと同時に ちょうどチャイムが鳴る
「侑?戻らな、授業…」
私は侑の手を振り解こうとした 結構な力を入れてみるけど びくともせん
そのまま身体を壁に押し付けられて 驚きのあまり言葉を失う
そして侑は 私の背後にある壁を 強くドンと叩いた
雰囲気はともかく
いわゆる 壁ドン 状態である
この距離の近さはあんまりない
時々 キスする そん時くらいやろか
そのキスも 実を言うと そないしたことがない
まだ慣れへんこの近さに緊張してしまって 目を逸らそうとぷいと横を向いた
侑はそんな私の顎を掴んで 自分の方を無理矢理向かせた
「しつこいねん 辞め言うとるやろ」
いつもより低い声
私よりもかなり背が高い侑に見下ろされて なかなかの圧を感じる
私に向けられとるとは思われへんくらい冷たい目 ぞっとする
「もうええやん その話 。どいてくれへん? 教室戻る…」
「ようないわ お前 自分がどんな目で見られとるかわかっとんのか?」
「どんな目…て」
「男に、やらしい目で見られてんの なんでわからへんねん」
そう言うた侑の顔はちょっと赤くなっとって 必死さが伝わってきた
やらしい目なぁ
そんな目で見られる覚えはないけど
やっぱり侑 あのコメント見たんとちゃうんやろか
情けなさと恥ずかしさで 私も顔を赤くしてしまう
「俺 そんなん嫌やねん。俺以外のやつがひかりのことそんな目で見るん めっちゃ腹立つし」
「…侑 やっぱりああいうの…信じる?」
「ああいうの?て 何やねん」
「その、私が…すぐ、えっちさせてくれるみたいなん書かれてた…やつ」
「は!? あんなもん信じるわけないやろ!?」
また一段と近づいてくる侑の綺麗な顔
あまりに近すぎて焦るけど 力強く否定してくれる姿を見て ホッとする
「ほんまに? 侑は私に 『チヤホヤされて嬉しいんやろ』て言うたけど…ブスとかも結構書かれてたし嬉しくなんかないで。私 これでも必死に平気なふりして……ッ」
話の途中で 目頭がじわっと熱くなった
堪えようと思えば思うほど 泣いてしまいそうになる
「ごめん」
「何ごめんなん?」
「あんなん 本気で言うたんちゃうねん お前がチア辞めへん言うから」
それには 理由があんねん
「俺 お前のこと守りたいねん。俺のやのに 他のやつに見られるんも嫌や」
思いもせんかった言葉をもらえて ドキッとさせられてしまう
好きな人にこんなん言われてときめかへんほうがおかしいやろ
「…平気なふりせんと 嫌やしんどいとか思とること全部言うたらええし 俺んこともっと頼れアホて思っとる」
アホは余計やわ そう思うけど めっちゃ嬉しいんよ
痛いくらいにきつく抱きしめられて
痛いとか文句言う間も 逃げ出す間もないくらい突然 目の前が暗くなったと思ったら
唇を塞ぐようにキスされてた
動きも言葉も止まってまう
そっと目を閉じて それに応じる
いつぶりやっけ
いつもは人目を気にして 手繋ぐんがやっとやねんな
何度か角度を変えて そっと重なるだけの それ
もどかしいなぁ 自分から舌を滑らせてみると パッと離された唇
目の前には侑の驚いた顔
「…ちょぉ あかんて、なぁ」
再び唇が重なると 一瞬で捉えられた舌
徐々に激しくなっていくキスに 立ってられへんようになって 力なくその場に崩れ落ちる
侑の手が腰に回って 支えるようにしてくれたけど もう遅い
二人の間にある隙間を埋めるように 侑が覆い被さってくるし
まるで 行為する前みたいな 濃厚なキス
私は 侑とするこんなキスも 片手で数えるほどしか まだ知らん
あかん
顔も身体も熱い 恥ずかしくて見せたくないな
そう思って顔を背けようとするけど 侑はそれを許さへん
ほんまに ようあんな好き勝手書いてくれたんやで
脳裏に浮かぶ あの投稿 そこにつけられたコメントを思い出して 悔しさで一筋の涙が流れた
「ひかり 大丈夫やて。絶対 俺が守ったるから」
その涙をゆっくりと指で拭って 優しく微笑む侑
目が合うたと思ったら 息つく間もなく再び激しいキスが降ってくる
いつのまにか恋人繋ぎになっとった両手は 壁に押し付けられて身動きが取られへん
だんだんと 侑の呼吸が荒くなってるんがわかる
「侑、これ以上はあかんで ここ学校…」
名残惜しそうに ゆっくりと離れる唇
「やばい …めっちゃシたなってもた」
「あかん。ええ加減 授業戻らな怒られてまうで」
「もうええやん。誰も来うへんて。 煽ったんお前やし」
「あかん。私のせいにせんとって。ほら 行こ?」
「無理 今すぐ動かれへん」
「なんで…」
「皆まで言わすなや」
あぁ なんとなく理解できて 苦笑いを浮かべてしまう
しゃあないなぁ そう呟いて少しだけ待ってあげることにした
「なぁ もう一回だけちゅーしてええ?」
「あか………」
ん、って もう返事聞く前にしとるやん
侑は まるで私の唇を食べるかのように口づけた
まだまだ足りへん そんな声が聞こえてきそうやわ
「あんな、チア辞めへんって言うた話やけど…私な侑が将来プロになった時 所属するチームでチアしたいねん」
侑は ばかばかしい理由やと笑うやろうか
「侑のこと これからもずっと応援してたいんよ。アホやと思う?」
空き教室を出たところで 立ち止まった侑は キョトンとした顔をしとる
「…思わへんわ! あーもうなんやねん その可愛い理由」
「でも侑がそんなに嫌なんやったら、部活はしばらく休もかなと思ってる」
侑に嫌われるくらいやったら ちょっとくらい 自分を曲げてもええかなって思ってしまった
それくらい 惚れてる
その翌日
教室に入ったら 治くんとスナくんが私の方を見て何やらニヤニヤしとる
「なんかあったん?」って聞いたら
「これ」 そう言って見せられたスマホ
画面には侑のインスタ
「え?」
侑はあんまりSNSに投稿なんかせえへん 基本は見る専やと思う
いや 見てるかも知らんけど
一番上に固定された写真を見て絶句する
何やのこれ 私とのツーショットやんか
『私はこれが一番気に入っとる』 ってそんな話したことあるなぁ ふとそんなことを思い出す
お揃いで買うたTシャツ着て 自然な笑顔でうまいこと撮れてんねん
私の写りも悪くないし 侑の顔は言わずもがなかっこええんよな
しかも 私のアカウントをタグ付けしてるやん
あかん やばい これはほんま恥ずいし 無理や
侑のファンに殺されてまう
どないしたん
侑はこういうの絶対せんタイプやんか
しょーもな とか言うやんいつも
「ちょ…あかんやろ こんなん。別れたらどないするん」
「あいつがそんなこと考えとるわけないやろ」
そう言って治くんは笑った
隣におるスナくんも一緒に面白がっとる 雰囲気でわかるわ
「あの投稿も消えてるよ。 知ってた?」
「へっ?」
スナくんの言葉を聞いて 私が晒された例の投稿を探す
「ほんまや…」
削除されとる なんで
「侑が投稿主に消せってDM送ってたみたい」
「あいつ えらいキレとったもんなぁ」
「え〜…よかった…」
安心して 身体中の力が抜けていくのを感じる
「ひかり 幸せもんやんか」
「いい彼氏だね 末永くお幸せに」
おもろいくらいに棒読みやんか
でも今はそれにツッコんどる場合とちゃう
投稿消してもらえたんはほんまにありがたいけど 次は侑のインスタをなんとかせなあかん
あれは恥ずいし 黒歴史になるで
侑のファンの目も怖いしなぁ
急いで侑の元へ向かう
私の焦る顔を見ても 当の侑は何食わぬ顔をしてる
スマホで侑のインスタの画面を出して叩きつけてやる
「こんなん別れたらどないするんよ」
「別れへんわ」
「いやいや わかっとる? こういうんは残るから 将来侑がビッグになった時に絶ッ対に後悔すんで」
「せん」
なんやねん この自信は
侑がこんなん言い出したらもう聞かへんて わかってる
「もう知らんからなぁ」
「ひかりも俺が彼氏やってわかるように投稿しとき そしたら他ん男からDM来うへんようなるやろ」
「はぁ!?絶対嫌や!!」
「なんでやねん!?なんで嫌とか言うねん」
「あんたな、自分の人気わかっとる!? 私は今回たまたまこんな騒ぎになったけど それの比じゃないねんで? 侑のガチファンに殺されてまうて」
「大丈夫やて 早よせぇ」
「早よせぇとちゃうやん 嫌やもう〜…何っ回でも言うけどさぁ ほんまに後悔すんで?侑は絶対ビッグになるから…」
「なんで俺が後悔すんねん。ええやん これを機に侑くんと付き合うてますぅて宣言しとき」
「嫌やぁ」
「早よせぇ」
はー…逃げられへんな これ
まぁ すぐ消したらええか
友達もみんな 彼氏との写真載せとるし それくらいの軽いノリでええんかな
相手はあの宮侑やし 他の子からやっかまれるん嫌やん こういう青春?というか カップルっぽいこと 私には無縁や思ってたけどなぁ
侑に睨まれながら やり方すら怪しい不慣れな手つきで お気に入りの写真を選んで投稿する
もう どうにでもなれ そんな気持ち
侑のアカウントをタグ付けする
やってしもた
途端に恥ずかしさが込み上げてきて
「しばらくしたら消すから」って 顔を隠しながら侑に告げた
あぁ どないしよう 絶対侑のファンに目ぇつけられる
「何があっても俺がおるから 大丈夫やて」
その後
出会い目的のDMは 面白いくらいピタリと止んだ
「効果は絶大みたいやなぁ」
そう呟いて 満悦の表情を見せる彼氏様
私は案の定 侑のことを好きな女に目つけられてこの先も一悶着あるんやけど それはまた別の話
まぁ何があっても侑が守ってくれるらしいから
開き直った私は 堂々と彼女として残りの高校生活 青春を謳歌するのだった
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