冬の夜見つけた宝物
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某テーマパークのすぐ側
見上げれば人気のアトラクション
楽しむ人々の叫び声や音楽まで聞こえてくる
テーマパークで話題の この季節限定で飾られる巨大なクリスマスツリーも頭を覗かせていた
川が近いせいか風は冷たい
夢と現実の狭間みたいなここは
平日なら比較的人通りが少ない とある駅前
今の時期 この通り全体がイルミネーションの光で彩られて幻想的な空気に包まれていた
「な、綺麗やろ?」
「まぁ綺麗やけど、なんで俺やねん」
「双子やからに決まってるやん。双子ってな、ほぼ100%同じ遺伝子持ってんねんて。遺伝子的には同一人物らしいねん」
「めっちゃよう喋るやん」
「つまり侑と治は同じってことやろ」
「いや、ちゃうやろ。絶対ちゃうやん」
「うん、まぁ ちゃうな。ごめん」
「あんな人でなしと一緒にすんなや」
「いや、まぁ確かにごめんやけど。人の彼氏のことボロクソ言うやん あんなんやけど優しいとこあるんよ」
「あいつ、お前以外には優しないで」
「知ってるよ」
わかっとるんやったら なんでやねん
そんな声が聞こえてきそうな治の表情 眉を顰めたその顔は 何かを思いついたようにコロッと変わった
「ひかりが俺とデートしとるって知ったら、あいつ ひっくり返るやろな」
治は私の肩に腕を回して スマホのカメラを向けた
画面内に私と自分の姿を収めると パシャ と一枚写真を撮った
「知らせるつもりやん」
「おん。おもろいやん」
おもろい言う人の顔とテンションちゃうねんな 治は無表情で何やらスマホを弄ってた
「インスタ載っけたろか。彼女とデート中やて」
「アホとちゃう」
治がそんなんするわけない 治のインスタは経営しとるおにぎり宮のことばかり
たぶんマメな方やないし SNS自体めんどい思っとるタイプやと思う
ビジネス目的やなかったらSNSなんかしなさそうな治が こんなプライベートなこと冗談でも載せるわけないんわかっとるし
「一回してみたかってん。普通のデート」
そう言うた私の顔を 気の毒そうに見つめる治
「この前、会社の研修でここのホテル来てな。前の道のイルミネーションがめっちゃ綺麗やったから来たかってん」
「ツムとやろ」
「うん」
でも それは叶わへんこと 治もわかってるから
こうやって文句を言いつつも嫌な顔せんと付き合うてくれてるんやろう
私と侑が付き合うことになったんは高校三年の時
部活が忙しすぎる侑と デートした記憶なんかほとんどない
彼氏の侑がプロのバレーボール選手になるなんて当時は思いもせんかった
住む世界が違ってしまう これをきっかけに終わるかなと思った関係
「どうする?」って聞いた時
「何をどうすんねん」って わけわからんっちゅう顔をした侑
「別れた方がいい?」って悩みに悩んだことを打ち明けたら「なんでやねん」って一蹴されたことはまだ記憶に新しい
「俺はひかりやないとあかん」って はっきりそう言ってくれたから 中途半端やった私にもついていく覚悟ができた
高校卒業後すぐその道に進んだ侑は確かな実力で 瞬く間に世に名を轟かせた
ルックスの良さも相まって 今やメディアに引っ張りだこの大人気のアスリートになった
人気が出たら出たで大変なことはたくさんある
今の世の中 誰がどこで見てるかもわからへんし いつ何時どんなことをネットに書き込まれるかわからへん
もう大人やし さすがに恋愛が禁止とかはないらしいけど人気商売なんは否めんし トラブルを起こしたり巻き込まれたりがないよう 所属チームには細かな規則があるらしい
その内容までは詳しく聞いたことはないけど
侑がプロになってすぐぐらいの頃
二人で外を歩いてたら たぶんそういうマスコミと言われる類の人がおったんに侑は気づいたんやろう
自分が被っとった帽子を私の頭に乗せて 足早にその場を去った
「バレたらなんや色々うっさいねん」
その一言で察した
私は それから侑に どこかへ遊びに行きたいって言うんはやめた
あの日私を隠してくれたのは侑の優しさやと思う
私の存在を隠したかったんかなとか 見られたくなかったんかなとも思うけど 嫌なふうに考えたくはないから 責めるつもりもない
侑が 私のことを理由に周りからやいやい言われてええわけない 私はそんなこと望んでへん
隠れてた方がええんやったら 一生閉じ篭ってたってええ
それくらい 侑を尊重してるし 好きや
侑はもう普通の人とはちゃうって この時改めて思い知ったし 私の在り方を考えさせられた出来事やった
普通のデートなんかできるわけがない 諦めてる
でも私は普通のデートを一度してみたかった
何も気にせず歩いて 冬の匂いや景色 街並みを味わってみたくて 双子の片割れである治を誘った
二人で近くにあったベンチに座って一息つく
「あそこにベビーカステラ売ってるやん。治食べたいやろ?買うてきたるから待っとき」
「ちゃうやろ。逆や」
「何が?」
「女に買いに行かせるアホ どこにおるねん」
治はほんまに優しい
私は別に彼女やないし 友達みたいなもんや
誘ったん私のほうやのに申し訳ないな
「お金は?」
「いらんわ」
「いや、私出すで」
「ええて。今度あいつから3倍貰うわ」
そんなこと言うから 思わず笑ってしまった
二人でベンチに腰掛けて 治が買ってきてくれたベビーカステラを食べた
「うまいな」
「うん」
「寒ないか?」
「うん、大丈夫や」
「まだ…あのこと根に持っとるんか?」
「ううん」
「そうなん。あれが理由で今日誘ってきたんかと思たわ」
どうやろか まぁきっかけの一つではあったかもしれへんなぁ
私はこうして気をつけてるし気も使ってる 侑のためなら我慢もできる
でも侑は先週 同じ会社の後輩と撮られた
日付が変わるまで飲んで 遅くなった日
深夜に 仲睦まじく腕を組んだ男女の姿 男は紛れもなく自分の恋人やった
その写真を見た時 驚いて何の言葉も出んかった
あの後すぐ侑から私のところに連絡がきた
別に無視とかもしてへん 電話やったけどちゃんと話し合うたのに 気が済まんかったんやろう
わざわざ私の住む家まで会いに来て 事情を必死に説明しとって それにも驚いた
「ほんまにごめん。あん時 他にも会社の奴おったねん! 二人ちゃうかったし 腕は…まぁ触ってきたけど あの後すぐ離れたし、とにかくあっこに書かれてたことは全部嘘や!」
それはもう すごい勢いで弁明しとった
侑は私のこと大切にしてくれて
いつも『好きや』って気持ちちゃんと伝えてくれるし 会えへん時も不安にならへんよう必ず連絡をくれた
そんな侑を 私は信じとる だから疑ってはないけど
気にしてへんわけやなかったし ショックではあったから
必死に『ちゃうねん』て否定してくれたことには正直安心した
侑はいつも私に優しい
私しか知らん侑がいっぱいおる
侑に愛されてるんがわかるから 侑の言うことが全てでええねん
侑が私に嘘なんかつかへんのわかってるし もし万が一 嘘があったとしても ある程度捻じ曲げてしまうくらいには惚れてる
だからこのことが原因で喧嘩になることも不仲になることも無かった
ただ 正直モヤっとはした
私は気をつけてるし 我慢しとるのにって
誰に頼まれたわけでもない 自分で決めて覚悟したことやのに
心のどっかで勝手にモヤモヤして 消化しきれんとおった
『相手の子がかなり酔うとったから』
『腕組んでたんはあの一瞬だけやし』
あの騒動の後 そんなんで私の様子もおかしかったんか 侑はこうやって 言い訳?を並べては何度も謝ってきた
「あん時な、必死すぎて…今振り返ったらちょっとおもろいな」
「俺んとこにも電話かかってきたわ。仕事中や言うてんのになんべんもかけてきよってほんまに…」
「そう、あの日 お風呂入っとる間にめちゃくちゃ電話鳴っとってな…」
「ひかりが電話出てくれへん!やばい!なんでや!? 誤解やのに…っちゅうて」
治が侑のモノマネし始めるから つい笑ってまう
「あかん 息できへん」
「ちゃんと息せぇや」
もうすっかり笑い話になったわ
やっぱり今日 治を誘ってよかった
はーはーと呼吸を整えて 空を見上げる
まるで星が降ってくるようや
「綺麗やなぁ」
冴ゆる月
キラキラのイルミネーション
冬の匂い 街並み
幸せそうに腕を組んで歩く恋人
「ええな」
何気なく呟くと 揶揄うように治が腕を出してくるから そっと掴む
「なぁ、私あれ乗りたいわ」
「はぁ?」
隣のテーマパークのバカでかいジェットコースターを指差す
「でっかいクリスマスツリーもあるねんて」
「まぁ… 毎年ある言うとるわな」
「彼氏とあっこ行ったことないねん」
治は眉間に皺を寄せて 苦笑いを浮かべた
「たぶんこの先も行くことないから。なぁお願い!ついでやん。行こや」
「嫌や。全然ついでとちゃう。あいつに言えや」
「いこやぁ。侑には言われへんのわかってるやん!」
「こんな時間から入るやつおらんて」
「いけるいける、乗りにいこ」
「はぁ… めちゃくちゃやな」
そんなこと言い合っとったら
タクシーが一台 すごい勢いで目の前で止まった
「釣りはええわ!おおきに」
そんな聞き慣れた声がして 降りて来た長身の金髪
「侑、なんで」
「それはこっちのセリフや! ひかり!なんでサムとおるねん」
侑は来るなりそう言うて 突然私の肩を強く抱き寄せた
「俺は誘われただけやで」
「なんでなんひかり…」
「ごめんな。来てみたかっ…」
「いっぺん普通のデートしてみたかったんやて」
私の言葉を遮るように治がそう言うと 侑がハッとした顔をする
「ほんまはここに侑と来たかったんやて。俺はその代わりやな」
「そんなん… サムんことわざわざ誘わんでも、俺に直接言うてくれたらええやんか」
「言えるわけないやろ」
私が思っとったことを治が代弁する
侑は私の肩に乗せていた手で頭を撫でた
「そうなん?」
その問いかけに小さく頷いた
「すまん。でも、なんでも言うてほしいわ」
「うん」
やっぱり侑は優しい
「侑、急に来て大丈夫やったん?」
「大丈夫もなんもないやろ。サムから写真と位置情報いきなし送られてきて、なんの冗談や思たわ。予定全部キャンセルして慌てて来たっちゅうねん」
やっぱりさっきの写真 侑に送ってたんや
治の方をちらっと見ると ほんのちょっと笑ってしもてる
「サム!ひかりに何もしてへんやろな!?」
「腕は組んだで」
「その なんも言い返されへんようになるネタ、やめてくれへん?」
苦笑いでそう返した侑に私と治は声を出して笑った
「ほな俺は帰るから。ひかりがまだやりたいことあんねんて。お前付き合うたれや」
治は侑にそう言って 車を停めてあるパーキングの方へ向かって歩き出す
「治、ありがとう」
治にお礼を告げると優しく微笑んでくれた
目の前におる侑は私の顔を覗き込む
「やりたいことって何?」
私は目線を上げて 隣のテーマパークにあるジェットコースターを指差した
「マジで?」
察したであろう侑に 小さく頷いた
「ほな行こか」
そう言うて 侑は私の手を取った
その瞬間 街がまるで宝石箱みたいに 輝いて見えた
「侑、ほんまにええん? あんなとこ行ったら絶対誰かに見つかるで」
「ええわ。誰にも邪魔させへん」
手を引かれて 歩く
キラキラと輝く光に包まれて まるで二人だけの世界に居るみたいや
イルミネーションの光が私たちを照らす
その光に私の心まで温かく包まれる
繋いだ手も温かい
「魔法みたいやなぁ」 なんて思っとったら 声に出てしもてた
「なにがやねん」
「ううん。こっちの話。なぁ侑、ほんまにええん?」
「ええよ、俺は」
「こんな時間に入る人おらんと思うけど」
「俺らくらい?」
「たぶん。あ、早よ行かな閉まるかも」
テーマパークへ繋がる道を 声を出して笑いながら走った
何のしがらみもなく 笑い合ってた高校の頃の記憶がふと蘇る
今も幸せやけど あの頃の想い出も宝物やねん
「なんか高校ん時思い出したわ」
「ふふっ、私も」
侑のことを愛してる
改めて実感した 冬の夜
見上げれば人気のアトラクション
楽しむ人々の叫び声や音楽まで聞こえてくる
テーマパークで話題の この季節限定で飾られる巨大なクリスマスツリーも頭を覗かせていた
川が近いせいか風は冷たい
夢と現実の狭間みたいなここは
平日なら比較的人通りが少ない とある駅前
今の時期 この通り全体がイルミネーションの光で彩られて幻想的な空気に包まれていた
「な、綺麗やろ?」
「まぁ綺麗やけど、なんで俺やねん」
「双子やからに決まってるやん。双子ってな、ほぼ100%同じ遺伝子持ってんねんて。遺伝子的には同一人物らしいねん」
「めっちゃよう喋るやん」
「つまり侑と治は同じってことやろ」
「いや、ちゃうやろ。絶対ちゃうやん」
「うん、まぁ ちゃうな。ごめん」
「あんな人でなしと一緒にすんなや」
「いや、まぁ確かにごめんやけど。人の彼氏のことボロクソ言うやん あんなんやけど優しいとこあるんよ」
「あいつ、お前以外には優しないで」
「知ってるよ」
わかっとるんやったら なんでやねん
そんな声が聞こえてきそうな治の表情 眉を顰めたその顔は 何かを思いついたようにコロッと変わった
「ひかりが俺とデートしとるって知ったら、あいつ ひっくり返るやろな」
治は私の肩に腕を回して スマホのカメラを向けた
画面内に私と自分の姿を収めると パシャ と一枚写真を撮った
「知らせるつもりやん」
「おん。おもろいやん」
おもろい言う人の顔とテンションちゃうねんな 治は無表情で何やらスマホを弄ってた
「インスタ載っけたろか。彼女とデート中やて」
「アホとちゃう」
治がそんなんするわけない 治のインスタは経営しとるおにぎり宮のことばかり
たぶんマメな方やないし SNS自体めんどい思っとるタイプやと思う
ビジネス目的やなかったらSNSなんかしなさそうな治が こんなプライベートなこと冗談でも載せるわけないんわかっとるし
「一回してみたかってん。普通のデート」
そう言うた私の顔を 気の毒そうに見つめる治
「この前、会社の研修でここのホテル来てな。前の道のイルミネーションがめっちゃ綺麗やったから来たかってん」
「ツムとやろ」
「うん」
でも それは叶わへんこと 治もわかってるから
こうやって文句を言いつつも嫌な顔せんと付き合うてくれてるんやろう
私と侑が付き合うことになったんは高校三年の時
部活が忙しすぎる侑と デートした記憶なんかほとんどない
彼氏の侑がプロのバレーボール選手になるなんて当時は思いもせんかった
住む世界が違ってしまう これをきっかけに終わるかなと思った関係
「どうする?」って聞いた時
「何をどうすんねん」って わけわからんっちゅう顔をした侑
「別れた方がいい?」って悩みに悩んだことを打ち明けたら「なんでやねん」って一蹴されたことはまだ記憶に新しい
「俺はひかりやないとあかん」って はっきりそう言ってくれたから 中途半端やった私にもついていく覚悟ができた
高校卒業後すぐその道に進んだ侑は確かな実力で 瞬く間に世に名を轟かせた
ルックスの良さも相まって 今やメディアに引っ張りだこの大人気のアスリートになった
人気が出たら出たで大変なことはたくさんある
今の世の中 誰がどこで見てるかもわからへんし いつ何時どんなことをネットに書き込まれるかわからへん
もう大人やし さすがに恋愛が禁止とかはないらしいけど人気商売なんは否めんし トラブルを起こしたり巻き込まれたりがないよう 所属チームには細かな規則があるらしい
その内容までは詳しく聞いたことはないけど
侑がプロになってすぐぐらいの頃
二人で外を歩いてたら たぶんそういうマスコミと言われる類の人がおったんに侑は気づいたんやろう
自分が被っとった帽子を私の頭に乗せて 足早にその場を去った
「バレたらなんや色々うっさいねん」
その一言で察した
私は それから侑に どこかへ遊びに行きたいって言うんはやめた
あの日私を隠してくれたのは侑の優しさやと思う
私の存在を隠したかったんかなとか 見られたくなかったんかなとも思うけど 嫌なふうに考えたくはないから 責めるつもりもない
侑が 私のことを理由に周りからやいやい言われてええわけない 私はそんなこと望んでへん
隠れてた方がええんやったら 一生閉じ篭ってたってええ
それくらい 侑を尊重してるし 好きや
侑はもう普通の人とはちゃうって この時改めて思い知ったし 私の在り方を考えさせられた出来事やった
普通のデートなんかできるわけがない 諦めてる
でも私は普通のデートを一度してみたかった
何も気にせず歩いて 冬の匂いや景色 街並みを味わってみたくて 双子の片割れである治を誘った
二人で近くにあったベンチに座って一息つく
「あそこにベビーカステラ売ってるやん。治食べたいやろ?買うてきたるから待っとき」
「ちゃうやろ。逆や」
「何が?」
「女に買いに行かせるアホ どこにおるねん」
治はほんまに優しい
私は別に彼女やないし 友達みたいなもんや
誘ったん私のほうやのに申し訳ないな
「お金は?」
「いらんわ」
「いや、私出すで」
「ええて。今度あいつから3倍貰うわ」
そんなこと言うから 思わず笑ってしまった
二人でベンチに腰掛けて 治が買ってきてくれたベビーカステラを食べた
「うまいな」
「うん」
「寒ないか?」
「うん、大丈夫や」
「まだ…あのこと根に持っとるんか?」
「ううん」
「そうなん。あれが理由で今日誘ってきたんかと思たわ」
どうやろか まぁきっかけの一つではあったかもしれへんなぁ
私はこうして気をつけてるし気も使ってる 侑のためなら我慢もできる
でも侑は先週 同じ会社の後輩と撮られた
日付が変わるまで飲んで 遅くなった日
深夜に 仲睦まじく腕を組んだ男女の姿 男は紛れもなく自分の恋人やった
その写真を見た時 驚いて何の言葉も出んかった
あの後すぐ侑から私のところに連絡がきた
別に無視とかもしてへん 電話やったけどちゃんと話し合うたのに 気が済まんかったんやろう
わざわざ私の住む家まで会いに来て 事情を必死に説明しとって それにも驚いた
「ほんまにごめん。あん時 他にも会社の奴おったねん! 二人ちゃうかったし 腕は…まぁ触ってきたけど あの後すぐ離れたし、とにかくあっこに書かれてたことは全部嘘や!」
それはもう すごい勢いで弁明しとった
侑は私のこと大切にしてくれて
いつも『好きや』って気持ちちゃんと伝えてくれるし 会えへん時も不安にならへんよう必ず連絡をくれた
そんな侑を 私は信じとる だから疑ってはないけど
気にしてへんわけやなかったし ショックではあったから
必死に『ちゃうねん』て否定してくれたことには正直安心した
侑はいつも私に優しい
私しか知らん侑がいっぱいおる
侑に愛されてるんがわかるから 侑の言うことが全てでええねん
侑が私に嘘なんかつかへんのわかってるし もし万が一 嘘があったとしても ある程度捻じ曲げてしまうくらいには惚れてる
だからこのことが原因で喧嘩になることも不仲になることも無かった
ただ 正直モヤっとはした
私は気をつけてるし 我慢しとるのにって
誰に頼まれたわけでもない 自分で決めて覚悟したことやのに
心のどっかで勝手にモヤモヤして 消化しきれんとおった
『相手の子がかなり酔うとったから』
『腕組んでたんはあの一瞬だけやし』
あの騒動の後 そんなんで私の様子もおかしかったんか 侑はこうやって 言い訳?を並べては何度も謝ってきた
「あん時な、必死すぎて…今振り返ったらちょっとおもろいな」
「俺んとこにも電話かかってきたわ。仕事中や言うてんのになんべんもかけてきよってほんまに…」
「そう、あの日 お風呂入っとる間にめちゃくちゃ電話鳴っとってな…」
「ひかりが電話出てくれへん!やばい!なんでや!? 誤解やのに…っちゅうて」
治が侑のモノマネし始めるから つい笑ってまう
「あかん 息できへん」
「ちゃんと息せぇや」
もうすっかり笑い話になったわ
やっぱり今日 治を誘ってよかった
はーはーと呼吸を整えて 空を見上げる
まるで星が降ってくるようや
「綺麗やなぁ」
冴ゆる月
キラキラのイルミネーション
冬の匂い 街並み
幸せそうに腕を組んで歩く恋人
「ええな」
何気なく呟くと 揶揄うように治が腕を出してくるから そっと掴む
「なぁ、私あれ乗りたいわ」
「はぁ?」
隣のテーマパークのバカでかいジェットコースターを指差す
「でっかいクリスマスツリーもあるねんて」
「まぁ… 毎年ある言うとるわな」
「彼氏とあっこ行ったことないねん」
治は眉間に皺を寄せて 苦笑いを浮かべた
「たぶんこの先も行くことないから。なぁお願い!ついでやん。行こや」
「嫌や。全然ついでとちゃう。あいつに言えや」
「いこやぁ。侑には言われへんのわかってるやん!」
「こんな時間から入るやつおらんて」
「いけるいける、乗りにいこ」
「はぁ… めちゃくちゃやな」
そんなこと言い合っとったら
タクシーが一台 すごい勢いで目の前で止まった
「釣りはええわ!おおきに」
そんな聞き慣れた声がして 降りて来た長身の金髪
「侑、なんで」
「それはこっちのセリフや! ひかり!なんでサムとおるねん」
侑は来るなりそう言うて 突然私の肩を強く抱き寄せた
「俺は誘われただけやで」
「なんでなんひかり…」
「ごめんな。来てみたかっ…」
「いっぺん普通のデートしてみたかったんやて」
私の言葉を遮るように治がそう言うと 侑がハッとした顔をする
「ほんまはここに侑と来たかったんやて。俺はその代わりやな」
「そんなん… サムんことわざわざ誘わんでも、俺に直接言うてくれたらええやんか」
「言えるわけないやろ」
私が思っとったことを治が代弁する
侑は私の肩に乗せていた手で頭を撫でた
「そうなん?」
その問いかけに小さく頷いた
「すまん。でも、なんでも言うてほしいわ」
「うん」
やっぱり侑は優しい
「侑、急に来て大丈夫やったん?」
「大丈夫もなんもないやろ。サムから写真と位置情報いきなし送られてきて、なんの冗談や思たわ。予定全部キャンセルして慌てて来たっちゅうねん」
やっぱりさっきの写真 侑に送ってたんや
治の方をちらっと見ると ほんのちょっと笑ってしもてる
「サム!ひかりに何もしてへんやろな!?」
「腕は組んだで」
「その なんも言い返されへんようになるネタ、やめてくれへん?」
苦笑いでそう返した侑に私と治は声を出して笑った
「ほな俺は帰るから。ひかりがまだやりたいことあんねんて。お前付き合うたれや」
治は侑にそう言って 車を停めてあるパーキングの方へ向かって歩き出す
「治、ありがとう」
治にお礼を告げると優しく微笑んでくれた
目の前におる侑は私の顔を覗き込む
「やりたいことって何?」
私は目線を上げて 隣のテーマパークにあるジェットコースターを指差した
「マジで?」
察したであろう侑に 小さく頷いた
「ほな行こか」
そう言うて 侑は私の手を取った
その瞬間 街がまるで宝石箱みたいに 輝いて見えた
「侑、ほんまにええん? あんなとこ行ったら絶対誰かに見つかるで」
「ええわ。誰にも邪魔させへん」
手を引かれて 歩く
キラキラと輝く光に包まれて まるで二人だけの世界に居るみたいや
イルミネーションの光が私たちを照らす
その光に私の心まで温かく包まれる
繋いだ手も温かい
「魔法みたいやなぁ」 なんて思っとったら 声に出てしもてた
「なにがやねん」
「ううん。こっちの話。なぁ侑、ほんまにええん?」
「ええよ、俺は」
「こんな時間に入る人おらんと思うけど」
「俺らくらい?」
「たぶん。あ、早よ行かな閉まるかも」
テーマパークへ繋がる道を 声を出して笑いながら走った
何のしがらみもなく 笑い合ってた高校の頃の記憶がふと蘇る
今も幸せやけど あの頃の想い出も宝物やねん
「なんか高校ん時思い出したわ」
「ふふっ、私も」
侑のことを愛してる
改めて実感した 冬の夜
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