もっと知りたいから(香水にまつわるお話)
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侑と初めてキスをしたんは 3回目に会うた時やった
「俺らたぶん相性ええなぁ」
甘い声でそう囁かれて ドキッとした キスでそんなんわかるんやて思った
でもその後に飛んできたのは 予想もしてへん言葉やった
「俺 その香水の匂い嫌いやねん」
それだけで済まんかった
「俺 今彼女いらんねん。めんどい」
なんや このサ⚫︎゙エさんもびっくりの3本立ては
俺俺うるさいねん自己中か しかも内容やばすぎやろ 私がリークするかもとか思わへんの?
誰も笑ろてくれへんで こんなん言われて陽気に来週なんかあるわけない
さすがの私も 笑われへんかった
侑と私の出会いは とある合コン それは私のイメージにある普通の飲み会と違って モデル業をしとる友人がセッティングしてくれた華やかなパーティーみたいなもんやった
男性陣はほとんどがプロのアスリート
そんな人達と平凡な私が 普通に生きてたら出会うわけない
かっこいい 嬉しい そんなんやなくて 普通に場違いやなと感じた
誘ってくれた友人は男の人と楽しそうに喋ってる なんや居心地が悪くて 先に帰ろうと私は一人抜け出した その少し後 似たタイミングで抜け出してきたのが 侑やった
知らんふりしてエレベーターに乗り込む 当たり前やけど宮侑のことはテレビでしか見たことない
近くで見たらでかいな イケメン言われとるだけあって 顔はめっちゃ綺麗や
「帰るん?」突然声をかけられて 慌てて頷いた
「俺も。無理やり連れてこられたけど、おもんないし」
女の子を前にして おもんないって言うん失礼やな まぁ私もこうやって帰っとるから 理由はどうあれ 同じこと言うてるようなもんかもしれへんけど
侑の言葉に 「そうなんですか」って適当に相槌打って別れようとしたら「ちょぉ待って」って止められた
「俺タクシーで帰るから 乗っていきや」
なんでこんなこと言われたんかわからへん
私の家 めちゃくちゃ遠かったらどないしたん?逆方向の可能性だって全然あるわけで
でも なぜか私も断らへんかったねん
何で乗ってしもたんやろう
私なりに理由を色々考えた 単純に顔がイケメンやし 筋肉質なところが好みや
外見 それも十分な理由やねんけど
たぶん知りたかったんやと思う
侑のこともそうやし 私が知り得ないことを
興味 それが一番しっくりくる
タクシーの中で どうでもええ話をしながら 頭の片隅で ふと思う
この流れ…もしかして お持ち帰りされるやつ?
今さらやなて この時の私にツッコミたくなるけど ほんまに 何も考えてへんかった
そして私に ワンナイトの経験は ない
でもタクシーの運転手さんに告げたんは私の家の方面やし
ないよな?
そんなことを悶々と考えてたら
「なぁ聞いとる?」
「あ、はい?」
「LINE 交換しとく?」
「え?なんで?」
その答えが返ってくることはなくて 勝手にLINEのQRコードを出して 読み取れと言わんばかりに差し出してくる
この辺も住みやすそうやな あっこの飯屋うまいねん サムと行ったわ
なんか一人で喋ってた そのどれもうんうんと聞き流すように相槌は打ってたんやけど
自然と私からも話してしまってて この人…なんかめちゃくちゃ話しやすい…?
結局 この日はほんまに住んでるマンションの前までタクシーで送ってくれただけやった
宮侑の熱愛報道は何回か目にしたことがあるし 勝手なイメージでチャラいと思っとったから 意外やった
何やねんこの人 そう思って余計に 宮侑という男を 知りたくなってしもた
それからはもう侑のことが気になるばかり
暇さえあれば 過去の動画を漁った バレーボールの試合も観るようになった
侑は有名やから WebニュースやったりCMでもよく見かけるし 検索かけたら色んな情報も出てくる
そういう上辺の部分は簡単に知ることができた
でも 私が知りたいのはそれだけやない
ただの一般人の分際で その辺りは十分にわかってるけど
でも 出会ってしまって 好きになってしまうんは止められへんやん
単純でチョロいなぁて 自分のことを笑ってしまう
あの日 交換したLINE 自分から送る勇気はあるわけない
あれから音沙汰なかったのに ある日 突然食事に誘われた
バレーの話 チームメイトの話 正直私のわからん話は多いけど ほんの少し 侑のことを知れた気持ちになって 嬉しかった
時々私のことも聞いてくれて 実家はどことか その辺りやったらあれあるなぁとか 仕事は何しとるん?とか
私の話はほんの少しだけ
聞いてくれることに私は答えた
この日もまた 何もすることなく バイバイした
チャラそうやのに手出せへんのやって安心感と もしかしてほんまに ただのお友達としか見られてへんのやろかって 期待外れみたいな寂しい気持ちが入り混じる
変化があったんは 3回目に会うた時
連絡あったんも遅い時間やったし 突然 位置情報送られてきて ここ来てって
こんな時間に 突然の呼び出し 酔ってるんかな?自己中やなぁと思うけど
せやけど好きやし 会いたいやん
お風呂上がりやのに 可愛くメイクして 出かけてしまった
着いたのは 侑が住んでるであろうマンションやった
部屋に着いたら上半身裸で迎えられて その肉体美に息を呑む 侑は慣れてるんか 至って普通
私は目のやり場に困ってしまう
「…なんで裸」
「シャワー浴びたとこやねん」
まだ濡れとる髪が 妙に色っぽい
部屋の扉が閉められた瞬間 もう覚悟するやん
この空気 状況 ナニする為に 呼ばれたか アホな私でもわかってしまう
軽々と膝の上に乗せられて じっと見つめられて それだけで身体の中心から熱くなった気がした
「宮くん…?」
抵抗するつもりはない でもほんの少し その胸板を押してみる
「侑でええよ」
ふっと笑って 優しく触れるようなキスをされる 一瞬唇が離れたと思ったら 獲物を捉えたかのような眼差しを向けられた
そこからはもう 加減のない深く激しいものへと変わっていった
息も絶え絶え 応えられてるんかもわからん
私の腕を 自分の首に回すよう引っ張った侑
散々味わうようにした後 ゆっくりと離された唇
「俺ら たぶん相性ええなぁ」
そう言うて 急に首筋に顔を埋めた 私はびくっと身体を震わせる
でもそこで言われたのは 予想もしてなかった言葉
「俺 この香水の匂い嫌いやねん」
思わず固まる
「え…?」
「たぶんやけど 元カノとおんなじ匂い」
だから どうやっちゅうねん
何?私今 何言われてんの?
「こないだ会うた時は これ つけてへんかったよな?」
確かに 二回目に会うた時は たまたまつけ忘れたんやったわ
せやけど 私は気に入ってつけとるし この香りで気持ちが落ち着くねん
元カノと同じ匂いて…もしかして思い出すんやろか それとも
そこでハッとする
もしかして
初めて会うた私を送り届けてくれたんも 私の連絡先を聞いたんも
この香りで 元カノのこと思い出したから…?
私はこの匂いが昔から好きやったんやけどなぁ 急に 自分を纏う香りが忌まわしく思えてくる
「この匂い、やめてや」
私と侑の関係ってなに?友達?
友達に いちいちそんなこと言う?
言わんやろ
だから もしかして ほんのちょっとでも
私のことええと思ってくれてたり 意識してくれてたり するんやろうか
そんな アホなこと考えてまう
「うん。やめるわ」
だって私は 侑のことが
「好き」
その二文字を言うのがやっとや
「ん」
侑は わかっとるような 余裕の笑みを浮かべた
たぶん 私のそんな気持ち わかってここに呼んだし キスしたんやろなぁ
でも 付き合うて ってよう言わんわ
引っかかることがある
「俺、今彼女いらんねん。めんどい」
まだ何も言うてへんのに 先手を打たれた
振られたも同然やん
きつ
「もしかして元カノのこと引きずっとる?」
そんな気がしただけやけど 私の勘は結構当たる
あの香水の匂いで 何かを思って 私の連絡先を聞いた 私は間違いなく そうやと思ってる
侑は何も言わへんかった
でも 絶対そうやん 私から身体を離して 少し黙った
なんと わかりやすい
「そんなんやない…」
否定しようとした言葉を 遮る
「別に忘れんでもええよ」
「私 彼女やなくてもええし。今夜だけでも」
なんとなくやけど 侑 たぶんもう私と 会うてくれへんのちゃうかって そんな気したねん
耳元でそう言って わざと首筋を 侑の鼻先に触れるよう持っていく
侑 たぶんこの香り ほんまは好きなんや思うねん
あっという間に 腰に回る手
そのまま抱えられるような状態になって ベッドに押しつけられた
首筋にちくりと走る痛みすら心地よいと感じる
「それ あかん」
痕残るんは よくない 色々めんどいし 後で思い出したくない 侑のこと残したく無い
強めに身体を押し返すと
「ちょぉ黙って」喧しと言わんばかりに 唇に噛みつくようなキスをされる
想像はしとったけど 思った以上に 男を感じさせられた
触れられるところ全部が気持ちいい
行為の後は もっとドライなんかなと思っとったけど 意外と 甘えるようにくっついてきた
侑のことがますますわからへんわ
私なんかにはたぶんずっと 一生わからへん
私に触れるふわふわの金色の毛 くすぐったくて笑みが溢れる
私を包む侑の温もり 心地よくてまた欲しくなる
ふと目が合うと 目尻を下げて優しく笑う
好きな女やなくても そんな顔できるんやなぁて 思った
嬉しいのに こんなにも せつないん 知らん
最後に鼻を掠める私の香水の匂いで 現実に引き戻される
気分は 最悪や
もう会わへん
「また連絡するわ」
「もう会わんけど」
「なんで?」
やっぱり 侑はようわからん
なんでて…なんでとちゃうやろ?さっき言うたこと忘れたんか?
セフレにしとくつもりやった? 宮侑のセフレなんか なりたい女たぶんアホほどおるから 私やなくてええと思うわ うん
適当に話をはぐらかして 眠りにつく侑の綺麗な顔を目に焼きつける
次の日の早朝 私は忽然と姿を消す形で 侑の部屋を抜け出した
______________
侑はあの夜 また連絡するて言うてたけど やっぱりその後 連絡はなかった
確か近いうちに海外遠征行く言うてたな それがいつまでとか 知らんし ほんまに行ってるんかも知らん
私は一夜寝ただけで 侑のことをなんも知らんの
知りたいけど たぶんもう 知ることはできへん
あれから一週間ほど経った頃 侑のプライベートに関するネットニュースが流れてきた モデルと熱愛やとかなんとか 匂わせ投稿がどうとか…SNSでも話題になっててなんとも言えん気持ちになる
これがほんまか嘘か知らんけど 二股? いや 私のことは遊びやったんやろうけど…このモデルが新しい彼女?
今 彼女いらんて言うたやん 元カノ引きずっとるんとちゃうんかい
こんな話題が出ること多いし やっぱり遊んどるんやろなぁ そう思った方が楽やし せやからこのタイミングでの この噂はよかったとすら思えるわ
私は所詮 何人か遊んどったうちの一人やろう
もう侑と会うことないし どうでもええ
けど なんやろう 別に減るもんやないけど 虚しいねん
私に気持ちなんかないて そんなんわかってヤッたけど
こんな気持ちになるんやったら せんかったらよかったとも思ってしもて
ああいう割り切った関係は 向いてへんなて思うわ
私はいつの間にか 本気になってしもてた
相手にされてへんのに ほんま見る目ないなぁて呆れる もしかしたら 侑も私のこと気に入ってくれてるかも とか ほんのちょっと期待した 浅はかすぎるわ
連絡はないまま あの日からもう 一ヶ月近くが経つ
完全に遊ばれたんやて やっと踏ん切りついて
私から侑の連絡先をブロックした
そんな時 職場の先輩から食事に誘われた
その先輩はイケメンで評判がよく 社内外問わず 女の子から人気がある
でも 宮侑の後やったら どんな男も霞んで見えてまうやろ
いや自分どれほどのもんやねんて ど突かれそうやけど…
目肥えてしもてるんやろな しばらく無理やろ
そう思いつつも 何度も何度もあまりにしつこく誘ってくるから 仕事やりにくくなるんも嫌やしなぁて
まぁご飯行くくらいならええかと 乗り気やないけど OKした
出かける前には いつものくせで 私の好きな香水を手に取る
思い出すんはあの言葉 そして侑のこと
ふぅ と息を吐いてその香水を棚に戻した
いや なんで 誰のために? もう この香りをやめる理由なんかあらへん
戻した香水を再び手に取った
私は私らしくおるほうが 何かとうまいこといく気がするわ
強がりかもしれんけど 前向きな気持ちは忘れやんとこ そう思って いつもの香りを纏う
その先輩とは食事中 ほとんど仕事の話ばかりしていた 男女の話になりそうな時はまた仕事の話に戻して はぐらかした
ご馳走様をして 帰ろうとしたら もう一軒付き合ってと縋るように言われる
その誘いを断り続けて 帰りも一人で帰れるって言うてるのに「送る」と言われてついてこられる始末
なんとなく家知られるの嫌やなぁ なんとか途中で離れたいと思ってたのに 気付けば家の近くまで来ていた
それまでもずっと 何か話しかけてくるけど その話も全然おもしろくない
私は 侑がよかった
侑の方がおもろいし 一緒におって楽しいし落ち着く
先輩と侑を 比較したら この状況が余計に嫌になってくる
「もう家すぐそこなんで、ここでええです」
これ以上ついてこないでください そういう意味を込めて告げた
急に手を握られて びっくりして変な声が出そうになる
「佐藤さんのこと ずっとええと思っとって…」
次に続く言葉がわかってしまう
やっぱり その気がないならご飯なんか誘われても軽々行くんやなかったわ よけいに気まずくなるやん
「ごめんなさい 離してください」慌てて手を解こうとするけど しっかり掴まれとって なかなか離してくれへん
どうしよう 家すぐそこやのに 私は帰りたいのに
どないしたらええねんって困ってたら
「ひかり」
私の背後から聞いたことある声がして
「侑…?」
侑に 名前呼ばれたん初めてで 嘘みたいでびっくりしてもて
「ちょぉ何しとんねん。嫌がっとるやん」
そう言って侑は 私のこと掴んでた先輩の腕を 掴んだ
「えっ? は?彼氏!?」
先輩はめちゃくちゃ困惑しとる たぶん 侑のことを知らんわけやないやろう
私も今 ついぽろっと名前言うてしもたし
「違…」
「せやで」
誤解させたらあかん
私が否定しようとした言葉を遮った侑
今なんて言うた?
「あっ、ほな また会社で…」
状況を勘違いしたまま理解してしもたんやろう 先輩は足早に来た道を帰って行ってしまった
「ありがとう」
とりあえずほんまに困ってたから 助けてくれたお礼は伝える
「なんやねんあの男 …っちゅうか 俺この匂い嫌いや言うとるやん なんでまたこれつけとんねん」
侑は 誰が見てもイライラしとるてわかるような そんな顔を浮かべた
そうやったとしても もう侑には関係ないやんか
「なんでそんなこと言われなあかんの?…それより なんでこんなところにおるん?」
「会いにきたらあかんの?」
きょとんとした顔 なんやねんその表情
どういうこと? 何も言えんで固まる
「あの後すぐ 遠征行っとった。こないだ帰ってきたんやけど。LINEブロックされとるし」
「ちゃうやん あの後すぐ 侑はモデルの子と噂になっとったやん 元カノ引きずっとる言うてたのに わけわからん」
「モデル?なんのことやねん デマやろ」
ほんまに意味わからへん そんな顔
まぁ今さらや もうどうでもええわ
「私のことは遊びやろ それでええよ。もう会いたくないねん」
侑の目も見んと 家の方を向いて歩こうとしたらすぐに止められる
「待ってや」
侑がどうしたいか 私にはわからへん
侑のこと 私は全然知らんから
もし遊びなんやったら もうやめてほしい
やっぱり こういうの自分には向いてへんて気づいたし
目に涙が溜まっていくの わかるんやけど
絶対に泣くもんか と必死に堪えてる
「俺ももう会わんとこて考えたけど、やっぱりひかりに会いたなった」
夢でも見てるんかと思う 相手はあの宮侑
侑が? 私に会いたいん? 自分の聞き間違いかと 耳を疑ってまう
「元カノは?」
「もう会うことない」
それがほんまか嘘かはわからん
でも信じたい たとえ気持ちがまだそっちにあったとしても 私は侑が好きやから
「これ 侑は嫌や言うけど 私の匂いやから。侑の元カノがどうとか 私は知らんから」
いつもより大きめの声で キレたようにそう言うて アホ!って 侑の背中を思いきりばしんと叩いてやる
「痛っ!何すんねん」
私は絶対この香水やめへんからな
侑が この香りを私の匂いやって 好きやって思ってくれるまで つけ続けたるわ
「私のこと好きなん?」
「好きやなかったら会いに来うへんやろ」
大柄な男が ちょっと照れくさそうにしとるん あまりに可愛くて 胸をときめかせてしまう
「私、侑の彼女なん?」
さっき先輩に言うとったやん せやで って
「なってくれるん?」って なんで疑問系?思わず笑ってまう
あまりにも意外で ますます侑のことわからんようになる せやけど 今から知っていくから 傍においてな
「私な 侑のこと もっといっぱい知りたいねん」
私らしくおるほうが やっぱり大体うまくいく
強く抱きしめられる
嬉しくて涙を浮かべて侑を見上げたら 目尻がめっちゃ下がっとる
あの夜と同じ
いや それ以上の
とびきり優しい笑顔を私に向けてくれたのだった
「俺らたぶん相性ええなぁ」
甘い声でそう囁かれて ドキッとした キスでそんなんわかるんやて思った
でもその後に飛んできたのは 予想もしてへん言葉やった
「俺 その香水の匂い嫌いやねん」
それだけで済まんかった
「俺 今彼女いらんねん。めんどい」
なんや このサ⚫︎゙エさんもびっくりの3本立ては
俺俺うるさいねん自己中か しかも内容やばすぎやろ 私がリークするかもとか思わへんの?
誰も笑ろてくれへんで こんなん言われて陽気に来週なんかあるわけない
さすがの私も 笑われへんかった
侑と私の出会いは とある合コン それは私のイメージにある普通の飲み会と違って モデル業をしとる友人がセッティングしてくれた華やかなパーティーみたいなもんやった
男性陣はほとんどがプロのアスリート
そんな人達と平凡な私が 普通に生きてたら出会うわけない
かっこいい 嬉しい そんなんやなくて 普通に場違いやなと感じた
誘ってくれた友人は男の人と楽しそうに喋ってる なんや居心地が悪くて 先に帰ろうと私は一人抜け出した その少し後 似たタイミングで抜け出してきたのが 侑やった
知らんふりしてエレベーターに乗り込む 当たり前やけど宮侑のことはテレビでしか見たことない
近くで見たらでかいな イケメン言われとるだけあって 顔はめっちゃ綺麗や
「帰るん?」突然声をかけられて 慌てて頷いた
「俺も。無理やり連れてこられたけど、おもんないし」
女の子を前にして おもんないって言うん失礼やな まぁ私もこうやって帰っとるから 理由はどうあれ 同じこと言うてるようなもんかもしれへんけど
侑の言葉に 「そうなんですか」って適当に相槌打って別れようとしたら「ちょぉ待って」って止められた
「俺タクシーで帰るから 乗っていきや」
なんでこんなこと言われたんかわからへん
私の家 めちゃくちゃ遠かったらどないしたん?逆方向の可能性だって全然あるわけで
でも なぜか私も断らへんかったねん
何で乗ってしもたんやろう
私なりに理由を色々考えた 単純に顔がイケメンやし 筋肉質なところが好みや
外見 それも十分な理由やねんけど
たぶん知りたかったんやと思う
侑のこともそうやし 私が知り得ないことを
興味 それが一番しっくりくる
タクシーの中で どうでもええ話をしながら 頭の片隅で ふと思う
この流れ…もしかして お持ち帰りされるやつ?
今さらやなて この時の私にツッコミたくなるけど ほんまに 何も考えてへんかった
そして私に ワンナイトの経験は ない
でもタクシーの運転手さんに告げたんは私の家の方面やし
ないよな?
そんなことを悶々と考えてたら
「なぁ聞いとる?」
「あ、はい?」
「LINE 交換しとく?」
「え?なんで?」
その答えが返ってくることはなくて 勝手にLINEのQRコードを出して 読み取れと言わんばかりに差し出してくる
この辺も住みやすそうやな あっこの飯屋うまいねん サムと行ったわ
なんか一人で喋ってた そのどれもうんうんと聞き流すように相槌は打ってたんやけど
自然と私からも話してしまってて この人…なんかめちゃくちゃ話しやすい…?
結局 この日はほんまに住んでるマンションの前までタクシーで送ってくれただけやった
宮侑の熱愛報道は何回か目にしたことがあるし 勝手なイメージでチャラいと思っとったから 意外やった
何やねんこの人 そう思って余計に 宮侑という男を 知りたくなってしもた
それからはもう侑のことが気になるばかり
暇さえあれば 過去の動画を漁った バレーボールの試合も観るようになった
侑は有名やから WebニュースやったりCMでもよく見かけるし 検索かけたら色んな情報も出てくる
そういう上辺の部分は簡単に知ることができた
でも 私が知りたいのはそれだけやない
ただの一般人の分際で その辺りは十分にわかってるけど
でも 出会ってしまって 好きになってしまうんは止められへんやん
単純でチョロいなぁて 自分のことを笑ってしまう
あの日 交換したLINE 自分から送る勇気はあるわけない
あれから音沙汰なかったのに ある日 突然食事に誘われた
バレーの話 チームメイトの話 正直私のわからん話は多いけど ほんの少し 侑のことを知れた気持ちになって 嬉しかった
時々私のことも聞いてくれて 実家はどことか その辺りやったらあれあるなぁとか 仕事は何しとるん?とか
私の話はほんの少しだけ
聞いてくれることに私は答えた
この日もまた 何もすることなく バイバイした
チャラそうやのに手出せへんのやって安心感と もしかしてほんまに ただのお友達としか見られてへんのやろかって 期待外れみたいな寂しい気持ちが入り混じる
変化があったんは 3回目に会うた時
連絡あったんも遅い時間やったし 突然 位置情報送られてきて ここ来てって
こんな時間に 突然の呼び出し 酔ってるんかな?自己中やなぁと思うけど
せやけど好きやし 会いたいやん
お風呂上がりやのに 可愛くメイクして 出かけてしまった
着いたのは 侑が住んでるであろうマンションやった
部屋に着いたら上半身裸で迎えられて その肉体美に息を呑む 侑は慣れてるんか 至って普通
私は目のやり場に困ってしまう
「…なんで裸」
「シャワー浴びたとこやねん」
まだ濡れとる髪が 妙に色っぽい
部屋の扉が閉められた瞬間 もう覚悟するやん
この空気 状況 ナニする為に 呼ばれたか アホな私でもわかってしまう
軽々と膝の上に乗せられて じっと見つめられて それだけで身体の中心から熱くなった気がした
「宮くん…?」
抵抗するつもりはない でもほんの少し その胸板を押してみる
「侑でええよ」
ふっと笑って 優しく触れるようなキスをされる 一瞬唇が離れたと思ったら 獲物を捉えたかのような眼差しを向けられた
そこからはもう 加減のない深く激しいものへと変わっていった
息も絶え絶え 応えられてるんかもわからん
私の腕を 自分の首に回すよう引っ張った侑
散々味わうようにした後 ゆっくりと離された唇
「俺ら たぶん相性ええなぁ」
そう言うて 急に首筋に顔を埋めた 私はびくっと身体を震わせる
でもそこで言われたのは 予想もしてなかった言葉
「俺 この香水の匂い嫌いやねん」
思わず固まる
「え…?」
「たぶんやけど 元カノとおんなじ匂い」
だから どうやっちゅうねん
何?私今 何言われてんの?
「こないだ会うた時は これ つけてへんかったよな?」
確かに 二回目に会うた時は たまたまつけ忘れたんやったわ
せやけど 私は気に入ってつけとるし この香りで気持ちが落ち着くねん
元カノと同じ匂いて…もしかして思い出すんやろか それとも
そこでハッとする
もしかして
初めて会うた私を送り届けてくれたんも 私の連絡先を聞いたんも
この香りで 元カノのこと思い出したから…?
私はこの匂いが昔から好きやったんやけどなぁ 急に 自分を纏う香りが忌まわしく思えてくる
「この匂い、やめてや」
私と侑の関係ってなに?友達?
友達に いちいちそんなこと言う?
言わんやろ
だから もしかして ほんのちょっとでも
私のことええと思ってくれてたり 意識してくれてたり するんやろうか
そんな アホなこと考えてまう
「うん。やめるわ」
だって私は 侑のことが
「好き」
その二文字を言うのがやっとや
「ん」
侑は わかっとるような 余裕の笑みを浮かべた
たぶん 私のそんな気持ち わかってここに呼んだし キスしたんやろなぁ
でも 付き合うて ってよう言わんわ
引っかかることがある
「俺、今彼女いらんねん。めんどい」
まだ何も言うてへんのに 先手を打たれた
振られたも同然やん
きつ
「もしかして元カノのこと引きずっとる?」
そんな気がしただけやけど 私の勘は結構当たる
あの香水の匂いで 何かを思って 私の連絡先を聞いた 私は間違いなく そうやと思ってる
侑は何も言わへんかった
でも 絶対そうやん 私から身体を離して 少し黙った
なんと わかりやすい
「そんなんやない…」
否定しようとした言葉を 遮る
「別に忘れんでもええよ」
「私 彼女やなくてもええし。今夜だけでも」
なんとなくやけど 侑 たぶんもう私と 会うてくれへんのちゃうかって そんな気したねん
耳元でそう言って わざと首筋を 侑の鼻先に触れるよう持っていく
侑 たぶんこの香り ほんまは好きなんや思うねん
あっという間に 腰に回る手
そのまま抱えられるような状態になって ベッドに押しつけられた
首筋にちくりと走る痛みすら心地よいと感じる
「それ あかん」
痕残るんは よくない 色々めんどいし 後で思い出したくない 侑のこと残したく無い
強めに身体を押し返すと
「ちょぉ黙って」喧しと言わんばかりに 唇に噛みつくようなキスをされる
想像はしとったけど 思った以上に 男を感じさせられた
触れられるところ全部が気持ちいい
行為の後は もっとドライなんかなと思っとったけど 意外と 甘えるようにくっついてきた
侑のことがますますわからへんわ
私なんかにはたぶんずっと 一生わからへん
私に触れるふわふわの金色の毛 くすぐったくて笑みが溢れる
私を包む侑の温もり 心地よくてまた欲しくなる
ふと目が合うと 目尻を下げて優しく笑う
好きな女やなくても そんな顔できるんやなぁて 思った
嬉しいのに こんなにも せつないん 知らん
最後に鼻を掠める私の香水の匂いで 現実に引き戻される
気分は 最悪や
もう会わへん
「また連絡するわ」
「もう会わんけど」
「なんで?」
やっぱり 侑はようわからん
なんでて…なんでとちゃうやろ?さっき言うたこと忘れたんか?
セフレにしとくつもりやった? 宮侑のセフレなんか なりたい女たぶんアホほどおるから 私やなくてええと思うわ うん
適当に話をはぐらかして 眠りにつく侑の綺麗な顔を目に焼きつける
次の日の早朝 私は忽然と姿を消す形で 侑の部屋を抜け出した
______________
侑はあの夜 また連絡するて言うてたけど やっぱりその後 連絡はなかった
確か近いうちに海外遠征行く言うてたな それがいつまでとか 知らんし ほんまに行ってるんかも知らん
私は一夜寝ただけで 侑のことをなんも知らんの
知りたいけど たぶんもう 知ることはできへん
あれから一週間ほど経った頃 侑のプライベートに関するネットニュースが流れてきた モデルと熱愛やとかなんとか 匂わせ投稿がどうとか…SNSでも話題になっててなんとも言えん気持ちになる
これがほんまか嘘か知らんけど 二股? いや 私のことは遊びやったんやろうけど…このモデルが新しい彼女?
今 彼女いらんて言うたやん 元カノ引きずっとるんとちゃうんかい
こんな話題が出ること多いし やっぱり遊んどるんやろなぁ そう思った方が楽やし せやからこのタイミングでの この噂はよかったとすら思えるわ
私は所詮 何人か遊んどったうちの一人やろう
もう侑と会うことないし どうでもええ
けど なんやろう 別に減るもんやないけど 虚しいねん
私に気持ちなんかないて そんなんわかってヤッたけど
こんな気持ちになるんやったら せんかったらよかったとも思ってしもて
ああいう割り切った関係は 向いてへんなて思うわ
私はいつの間にか 本気になってしもてた
相手にされてへんのに ほんま見る目ないなぁて呆れる もしかしたら 侑も私のこと気に入ってくれてるかも とか ほんのちょっと期待した 浅はかすぎるわ
連絡はないまま あの日からもう 一ヶ月近くが経つ
完全に遊ばれたんやて やっと踏ん切りついて
私から侑の連絡先をブロックした
そんな時 職場の先輩から食事に誘われた
その先輩はイケメンで評判がよく 社内外問わず 女の子から人気がある
でも 宮侑の後やったら どんな男も霞んで見えてまうやろ
いや自分どれほどのもんやねんて ど突かれそうやけど…
目肥えてしもてるんやろな しばらく無理やろ
そう思いつつも 何度も何度もあまりにしつこく誘ってくるから 仕事やりにくくなるんも嫌やしなぁて
まぁご飯行くくらいならええかと 乗り気やないけど OKした
出かける前には いつものくせで 私の好きな香水を手に取る
思い出すんはあの言葉 そして侑のこと
ふぅ と息を吐いてその香水を棚に戻した
いや なんで 誰のために? もう この香りをやめる理由なんかあらへん
戻した香水を再び手に取った
私は私らしくおるほうが 何かとうまいこといく気がするわ
強がりかもしれんけど 前向きな気持ちは忘れやんとこ そう思って いつもの香りを纏う
その先輩とは食事中 ほとんど仕事の話ばかりしていた 男女の話になりそうな時はまた仕事の話に戻して はぐらかした
ご馳走様をして 帰ろうとしたら もう一軒付き合ってと縋るように言われる
その誘いを断り続けて 帰りも一人で帰れるって言うてるのに「送る」と言われてついてこられる始末
なんとなく家知られるの嫌やなぁ なんとか途中で離れたいと思ってたのに 気付けば家の近くまで来ていた
それまでもずっと 何か話しかけてくるけど その話も全然おもしろくない
私は 侑がよかった
侑の方がおもろいし 一緒におって楽しいし落ち着く
先輩と侑を 比較したら この状況が余計に嫌になってくる
「もう家すぐそこなんで、ここでええです」
これ以上ついてこないでください そういう意味を込めて告げた
急に手を握られて びっくりして変な声が出そうになる
「佐藤さんのこと ずっとええと思っとって…」
次に続く言葉がわかってしまう
やっぱり その気がないならご飯なんか誘われても軽々行くんやなかったわ よけいに気まずくなるやん
「ごめんなさい 離してください」慌てて手を解こうとするけど しっかり掴まれとって なかなか離してくれへん
どうしよう 家すぐそこやのに 私は帰りたいのに
どないしたらええねんって困ってたら
「ひかり」
私の背後から聞いたことある声がして
「侑…?」
侑に 名前呼ばれたん初めてで 嘘みたいでびっくりしてもて
「ちょぉ何しとんねん。嫌がっとるやん」
そう言って侑は 私のこと掴んでた先輩の腕を 掴んだ
「えっ? は?彼氏!?」
先輩はめちゃくちゃ困惑しとる たぶん 侑のことを知らんわけやないやろう
私も今 ついぽろっと名前言うてしもたし
「違…」
「せやで」
誤解させたらあかん
私が否定しようとした言葉を遮った侑
今なんて言うた?
「あっ、ほな また会社で…」
状況を勘違いしたまま理解してしもたんやろう 先輩は足早に来た道を帰って行ってしまった
「ありがとう」
とりあえずほんまに困ってたから 助けてくれたお礼は伝える
「なんやねんあの男 …っちゅうか 俺この匂い嫌いや言うとるやん なんでまたこれつけとんねん」
侑は 誰が見てもイライラしとるてわかるような そんな顔を浮かべた
そうやったとしても もう侑には関係ないやんか
「なんでそんなこと言われなあかんの?…それより なんでこんなところにおるん?」
「会いにきたらあかんの?」
きょとんとした顔 なんやねんその表情
どういうこと? 何も言えんで固まる
「あの後すぐ 遠征行っとった。こないだ帰ってきたんやけど。LINEブロックされとるし」
「ちゃうやん あの後すぐ 侑はモデルの子と噂になっとったやん 元カノ引きずっとる言うてたのに わけわからん」
「モデル?なんのことやねん デマやろ」
ほんまに意味わからへん そんな顔
まぁ今さらや もうどうでもええわ
「私のことは遊びやろ それでええよ。もう会いたくないねん」
侑の目も見んと 家の方を向いて歩こうとしたらすぐに止められる
「待ってや」
侑がどうしたいか 私にはわからへん
侑のこと 私は全然知らんから
もし遊びなんやったら もうやめてほしい
やっぱり こういうの自分には向いてへんて気づいたし
目に涙が溜まっていくの わかるんやけど
絶対に泣くもんか と必死に堪えてる
「俺ももう会わんとこて考えたけど、やっぱりひかりに会いたなった」
夢でも見てるんかと思う 相手はあの宮侑
侑が? 私に会いたいん? 自分の聞き間違いかと 耳を疑ってまう
「元カノは?」
「もう会うことない」
それがほんまか嘘かはわからん
でも信じたい たとえ気持ちがまだそっちにあったとしても 私は侑が好きやから
「これ 侑は嫌や言うけど 私の匂いやから。侑の元カノがどうとか 私は知らんから」
いつもより大きめの声で キレたようにそう言うて アホ!って 侑の背中を思いきりばしんと叩いてやる
「痛っ!何すんねん」
私は絶対この香水やめへんからな
侑が この香りを私の匂いやって 好きやって思ってくれるまで つけ続けたるわ
「私のこと好きなん?」
「好きやなかったら会いに来うへんやろ」
大柄な男が ちょっと照れくさそうにしとるん あまりに可愛くて 胸をときめかせてしまう
「私、侑の彼女なん?」
さっき先輩に言うとったやん せやで って
「なってくれるん?」って なんで疑問系?思わず笑ってまう
あまりにも意外で ますます侑のことわからんようになる せやけど 今から知っていくから 傍においてな
「私な 侑のこと もっといっぱい知りたいねん」
私らしくおるほうが やっぱり大体うまくいく
強く抱きしめられる
嬉しくて涙を浮かべて侑を見上げたら 目尻がめっちゃ下がっとる
あの夜と同じ
いや それ以上の
とびきり優しい笑顔を私に向けてくれたのだった
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