なんで私にキスしたん?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの日 なんで私にキスしたん
幼馴染 他にはない大切な存在
その関係が崩れて 今まで通りおられへんようになるんが怖くて 悲しかった
せやから私は 必死に気づかへんふりをした
もしかしたら治も寝起きやったんかもしれん
寝ぼけとった?もしくはドッキリとか?
…んなわけないやろ
色々考えても結局答えはわからんかったし 気持ちの整理もつかへんかった
_________
忘れもせん
私のファーストキスが幼馴染に奪われたのは 高校入ってすぐのことやった
場所は侑と治 二人の部屋
いくら幼馴染やからて安心しきって油断して
そんなところで寝てしもた私も悪いんかもしれへん
せやけど黙ってキスするほうがあかんやろ
なんでそんなんしたん 何回考えてもわからん
ベッドにもたれかかるようにして寝とったら 唇に柔らかいものが触れた
微かに目を開けたら隣に治がおった
今 キスされた?
私と治の手は重なってた
それ以外にはどこも触れられた様子はない
そして何事もなかったかのように 治自身も 重ねられてた手も 私の元からすっと離れた
悪戯?
嘘やろ なんでこんなことすんねん
これが悪戯やとしたら最低やで
しかもどっちかちゅうと 侑のほうがこういう悪ふざけしそうやねんけど 治が…なんでや
私は二人のことが大好きやねん
恋愛云々やなくて 幼馴染として最高の二人やと思う
侑のほうはまぁ色々言われとるし
あたりがキツい時もあるけど そんなん昔から一緒におるから慣れとるし
それに意外と?ええとこもあんねん 案外面倒見もええ
治はとにかく優しい
愚痴や悩みも寄り添って話聞いてくれるし 私を否定することがない
とにかく話しやすくて一緒におって落ち着くし居心地がええ
せやのに なんであんなことしたん
いまだに信じられへんし あれから私 治と二人きりになるの怖なったんやで
私は 三人でおる何ともない時間が好きやった
あれが悪戯やったとしたら許されへんし そうやなかったとしてもここに恋心みたいな感情が入るんは 自分が思う理想とは違ってくる
私は二人のことが好きやから 失いたくない
ずっと変わらん幼馴染でおりたい
なるべく治と二人きりにならんように避けとった私は
暇があれば何気なく行ってた宮家にも その頃からあんまり寄りつけへんようになった
ある日 自分の部屋を整理してたら 双子から借りっぱなしにしとった本の存在が目についた もうとっくに読んだ それ
いつもやったらすぐ返しにいって ああでもないこうでもないって感想を話して
考察をして しょうもないこと言うて笑って過ごす
今はもう そんなことすらできへん状況になっとった
さすがに これはそろそろ返しに行かなあかんなぁ とため息を一つ溢す
漫画本やし結構量あるし 学校に持っていくわけにもいかん
そんな理由で久しぶりに訪れた宮家
宮ママはいつもと何も変わらへん 笑顔で温かく迎えてくれる
「治やったら部屋におるわ 侑はちょっと外に出とる」
それはちょぉまずいんですわ お母さん
逆やったらよかったのに
どないしよと思いながらも まずいんですわと言うわけにもいかず のろのろと階段を上る
部屋の前で深呼吸をする
普通に 普通に 心の中で何度もそう唱えてから
ゆっくり扉をノックした
「治 入ってもええ?」
返事はない
「なぁ治? ひかりやけど、借りてた本 返しに来たねん」
少し待ってもやっぱり返事はない
ゆっくりとドアを開けると 治はクッションにもたれかかって寝とった
なんやねん 胸を撫で下ろす
本を置いて帰ろかなと思ったけど
ありがとうも言わへんのはあかんな そう思って治が起きるか 侑が帰ってくるまで待とうと 部屋の隅にちょこんと座る
少し離れたところから見る治の寝顔
可愛いなぁ
双子の寝顔は昔からほんまに可愛いねん
久しぶりやし写真撮ったろ
そう思ってスマホを構える
パシャと大きめの音がしたけど治が起きる気配はない
治はこうやって
寝とる私に
あれ したんやんな
ほんまに なんであんなことしたん
ちゅうか 気持ちもないのに あんなことできるん?
私はたぶん無理やわ
そんなことを考えながら ほんの少し顔を近づけてみる
治の規則的な寝息 なんや落ち着くなぁ
もう少しだけ 近づいてみる
まつげ長いな あと少しで キスしようと思ったら余裕で出来てしまう
それくらい近い距離
さっきまでの落ち着きとは一変
あれを思い出して 胸がドキドキと音を立てた
普通無理やろ
治 なんで私にあんなことしたん
何回も 何十回も思い出した あの時のあれ
私は 気付けば治にめちゃくちゃ近寄ってしまってた
治も こうやって魔が差したん?
まもなく唇が触れるところで 床に放られてるスマホが震えた
びっくりして後ろへ飛び退く
あかん 私 今なにしようとしてたんや
自分で自分がわからへん
治はまだ寝とった
側にあったスマホを覗き込むと見たことある女の子の名前
可愛いと評判の三組のあの子やろうか
「治くん 今話せる?♡」
ハート付きのLINE
内容まで見るつもりなかったんやで 勝手に画面に出とるから
もしかして これ付き合ってる?
そもそも二人って友達やったっけ?
話しとるとこもみたことないねんけど
そん時 階段を駆け上がってくる音がしたと思ったら バンっと勢いよく扉が開いた
「ひかり、オカンが呼んどるで。プリンがなんや言うとったわ」
予想通り侑やった
「わかった。侑おかえり」
その騒がしさで治も起きて「なんや、ひかり来とったんか」って
「うん。本返しに来ただけやから、もう帰るけど」
これありがとうな そう言って本を返す
いつもみたいに感想は言わへん
治の顔は よう見んかったな
「ひかりちゃん、お茶淹れたで。プリンもあるから食べていき」
「ありがとう」
宮ママのお言葉に甘えて 席についてお茶をいただく
上からドスドスと下へ降りてくる二つの足音がしてまもなく 侑と治もリビングに来た
「オカン俺にも茶ぁいれて」
「自分で淹れぇや」
双子とお母さんのこんなやりとりにも慣れとる
ほんまにいつも微笑ましいねん
侑は少し離れたところにあるソファに
治は私の隣の椅子に座った
「めっちゃうまそう。一口ちょうだい」
私が食べかけたプリンを見て そんなこと言うん
たぶん こんなん今までもようあったこと
せやけど いつもどうしてたっけ
あかん 意識しすぎてわからへんようになっとる
「…ええよ」
スプーンで口へ運ぶ?それとも器ごと渡す?
わからん 普通に 私は普通にしたいだけやねんけど
「治 あんたひかりちゃんのん取るんやめたりや」
宮ママの言うことなんか全然聞いてへん
治は無表情で口開けて待っとる
ほな正解はこっちやな
スプーンで掬った一口を治の大きな口へと運んだ
「んま」
なんやねんその幸せそうな顔
めちゃくちゃ可愛い
治 こんな可愛かったっけ?
わからん
そう思うと同時に込み上げてくる照れくささ 恥ずかしさで消えたなる
私 顔真っ赤やろ今
たぶん今までとなんも変わらへん
宮家におる時のただの日常の一コマ
せやのに確実に意識してしもて おかしなっとる
「ひかりちゃん 最近来てくれへんよになったから、彼氏でもできたんかと思っておばちゃん寂しかったわ」
「彼氏!?おるわけないやろ」
すかさず侑のツッコミが飛んでくる
「侑の言うこといちいち相手せんでええよ ひかりちゃん可愛いからモテるやろ」
「ううん 全然…」
「またそんなん言うて〜。もしええ人できたらおばちゃんに絶対教えてなぁ」
「うん。もちろん」
その後もなんや話しとったけどそのほとんどが右から左や
もうなんも頭に入ってこうへんかった
そんな話をしてこの日は帰った
それからずっと 治と三組のあの子のことが気になった
でも私は別にあの子と友達なわけやないし
治と付き合うとるんかとか聞けるわけもない
それに それを聞いたところで ただの幼馴染の私には関係のない話や
治は相変わらず あの日のことが嘘みたいに今まで通りおる
何も変わらん
それがなんやろ ちょっと寂しいん
なんでやねん 不本意やわ
私だけ意識して 私だけが変わって 私だけが気にしとるん
寂しいような虚しいような なんともいえへん気持ちや
後日 三組のあの子が治に告白したっていう話を耳にした
ほんまか嘘かしらん
せやけどまだ付き合うてはなかったんやと思うと 心のどっかで安心してしもてる
なんやろう 何をホッとしとるんやろ私
所詮 この話も噂程度のもんやのに
治はなんて返事したんやろう
三組のあの子は可愛え
ようモテとるしお似合いや きっと治の隣に立つにふさわしい
そうは思うけど もし二人がそうなったとしても
ええなとか おめでとうとか 素直に言われへん
あぁ 胸が痛いわ
私は 気づいてしまった
治が好きや て
今までは避けてたんやけど 気づいてしまった気持ちにもう嘘つかれへんやん
そない器用やない
たぶん私は 私の初めてのキスをなかったことにしてほしくなかった
「今日一緒に帰られへん?」って
突然 治のことを誘った
「ええけど なんで」
そらそうなるよな
今まで散々二人にならへんように避けとったし
部活もあるから一緒に帰ることもなかったし
今さら私が用もないのに誘ってくるんは不自然ですらあるんとちゃうやろか
「テストで部活ないし たまにはええかな思て」
聞く勇気出るかな
あの子と付き合うん?とか
なんで私にキスしたんとか
そんなこと聞かれへんか
一緒に帰るん拒否されへんとこ見たら 二人はまだ付き合うてへんのかも知れん
私の入る隙が まだあるかもしれん
ほんの少し そんな期待をする
もう治のことばっかり考えてる
まんまとやられとるやん
これが恋なん?
初めてのその感情に 驚くことばかりやわ
放課後 友達と話しとって遅くなってしもた
急いで治と待ち合わせしとった教室に向かうけど
廊下にもどの教室にも もう人は誰もおらへんかった
治が待つ教室に入る
そよそよと入る風が気持ちいい
窓際の席
太陽の光に照らされて
治の銀色の髪が一層綺麗に見える
近づくと 机に突っ伏して寝とる治
すぅすぅと聞こえる寝息
気持ちよさそうやなぁ
辺りをもう一度見回す
誰もおらへん
何の音もせん静かな教室
人の気もしらんと
あの日から 私のこと振り回すだけ振り回して
自分は何もなかったことにして
やられっぱなしで 腹立つやん
今度こそ あの日されたこと 仕返したろと思う
ここ学校やし もし目覚めたらどうするんてビビるけど そん時はそん時や
あんたもシたやんて言うたろ
お互い様やん
もう一回 念入りに キョロキョロと周りを見て
治が座っとるその隣に屈む
机の端っこを掴んで
ぷるぷると震える顔をゆっくり近づける
あと少し
あと少しで 治にキスしてしまう
あの子のもんにならんといて
治が好きやねん
心の中で唱える
鼻先が触れる
「早よせぇ」
「え?」
「いつまでかかっとんねん」
「え?」
「待ちくたびれるわ」
ぐいっと引き寄せられて
後頭部を掴まれたと思ったら もう
唇を押し付けられとった
二度目のキスも いとも簡単に奪われてしまった
しかも初めての時とは違う
まるで「食べる」みたいな
それをうまく表現できへんけど 治らしい そんなことを頭の片隅で思う
「食べられるかもしれへん」
本能で そんなことを思った
抵抗もできへん
捕えられた獲物みたいに それを受け入れるしかなかった
ようやく離された唇
その瞬間に ぷは と息をする
見られたくないわ 今の顔
恥ずかしさに耐えきれず 両手で顔を隠すんやけど
簡単にそれを退けてくる治と 目が合うた
「ひかりが好きや」
「…わ たしも」
悔しいけど 完全に落ちてしもてんねん 認めざるを得ん
「治 あの日 …なんで私にキスしたん」
「クラスのやつに ひかりのこと紹介して言われてん それはできへんって断ったけど」
「それでなんでキスするん?」
「早よ俺のもんにせなって焦るやんか」
なんなんその勝手な理由
「誰にも渡したない」
ぎゅっと抱きしめられる なんやこれ こんな治 知らんの
こんなん恥ずかしくて これ以上聞いてられへんわ
「そういえば治、3組の子に告られたんとちゃうん」
咄嗟に話を変える
「誰から聞いたん」
「噂になっとったよ 連絡も取っとったやろ」
「なんで知っとるん」
「治が前 寝とる時に たまたまLINEきたん 見るつもりはなかったんやで 見えてしもただけ」
「あの子、誰かから俺の連絡先聞いた言うてLINEきたけど ほとんど連絡取ってへんで」
見る?って聞かれたから 見やん て答えた
「治は黙ってキスすること以外、誠実や思うし」
「ごめんて」
「あの子と付き合わへんの?」
「なんでやねん。今の話の流れでどうなったらそうなんねん。おかしいやろ」
「そう …やんなぁ」
たぶん 治の彼女になるんは私なんやろう
「もしかして妬いとるん?」
「そんなんとちゃうけど」
そうは言うたけど 確実にそうやねん
私だって 治を私のモンにしたいし 焦ったんや思う
まぁ帰ろか 言いながら教室を出て 大事なことを思い出す
「なぁ治 今日 家行ってもええ?」
「は!?なんでそない大胆やねん!?」
「なぁ ええやろ?」
「家は あかんやろ…俺期待してまうで?」
うん 勝手に期待しとき
私の気持ち無視して 初めてのキス奪った罰や
「付き合うてすぐやけど、ひかりはええん?俺はええで。ずっと好きやったから。せやけどひかりも初めてやろ?ほんまにええんか?」
なんやずっとそんなこと言うとるし
何を狼狽えてんねんて おもろい
必死やなて可愛く見えてくる
ちゃうで 治
そんなんは まだ先や
「お母さん聞いて、ええ人できたわ。めっちゃええ男」
私は宮ママとの約束を果たしにきただけやで
幼馴染 他にはない大切な存在
その関係が崩れて 今まで通りおられへんようになるんが怖くて 悲しかった
せやから私は 必死に気づかへんふりをした
もしかしたら治も寝起きやったんかもしれん
寝ぼけとった?もしくはドッキリとか?
…んなわけないやろ
色々考えても結局答えはわからんかったし 気持ちの整理もつかへんかった
_________
忘れもせん
私のファーストキスが幼馴染に奪われたのは 高校入ってすぐのことやった
場所は侑と治 二人の部屋
いくら幼馴染やからて安心しきって油断して
そんなところで寝てしもた私も悪いんかもしれへん
せやけど黙ってキスするほうがあかんやろ
なんでそんなんしたん 何回考えてもわからん
ベッドにもたれかかるようにして寝とったら 唇に柔らかいものが触れた
微かに目を開けたら隣に治がおった
今 キスされた?
私と治の手は重なってた
それ以外にはどこも触れられた様子はない
そして何事もなかったかのように 治自身も 重ねられてた手も 私の元からすっと離れた
悪戯?
嘘やろ なんでこんなことすんねん
これが悪戯やとしたら最低やで
しかもどっちかちゅうと 侑のほうがこういう悪ふざけしそうやねんけど 治が…なんでや
私は二人のことが大好きやねん
恋愛云々やなくて 幼馴染として最高の二人やと思う
侑のほうはまぁ色々言われとるし
あたりがキツい時もあるけど そんなん昔から一緒におるから慣れとるし
それに意外と?ええとこもあんねん 案外面倒見もええ
治はとにかく優しい
愚痴や悩みも寄り添って話聞いてくれるし 私を否定することがない
とにかく話しやすくて一緒におって落ち着くし居心地がええ
せやのに なんであんなことしたん
いまだに信じられへんし あれから私 治と二人きりになるの怖なったんやで
私は 三人でおる何ともない時間が好きやった
あれが悪戯やったとしたら許されへんし そうやなかったとしてもここに恋心みたいな感情が入るんは 自分が思う理想とは違ってくる
私は二人のことが好きやから 失いたくない
ずっと変わらん幼馴染でおりたい
なるべく治と二人きりにならんように避けとった私は
暇があれば何気なく行ってた宮家にも その頃からあんまり寄りつけへんようになった
ある日 自分の部屋を整理してたら 双子から借りっぱなしにしとった本の存在が目についた もうとっくに読んだ それ
いつもやったらすぐ返しにいって ああでもないこうでもないって感想を話して
考察をして しょうもないこと言うて笑って過ごす
今はもう そんなことすらできへん状況になっとった
さすがに これはそろそろ返しに行かなあかんなぁ とため息を一つ溢す
漫画本やし結構量あるし 学校に持っていくわけにもいかん
そんな理由で久しぶりに訪れた宮家
宮ママはいつもと何も変わらへん 笑顔で温かく迎えてくれる
「治やったら部屋におるわ 侑はちょっと外に出とる」
それはちょぉまずいんですわ お母さん
逆やったらよかったのに
どないしよと思いながらも まずいんですわと言うわけにもいかず のろのろと階段を上る
部屋の前で深呼吸をする
普通に 普通に 心の中で何度もそう唱えてから
ゆっくり扉をノックした
「治 入ってもええ?」
返事はない
「なぁ治? ひかりやけど、借りてた本 返しに来たねん」
少し待ってもやっぱり返事はない
ゆっくりとドアを開けると 治はクッションにもたれかかって寝とった
なんやねん 胸を撫で下ろす
本を置いて帰ろかなと思ったけど
ありがとうも言わへんのはあかんな そう思って治が起きるか 侑が帰ってくるまで待とうと 部屋の隅にちょこんと座る
少し離れたところから見る治の寝顔
可愛いなぁ
双子の寝顔は昔からほんまに可愛いねん
久しぶりやし写真撮ったろ
そう思ってスマホを構える
パシャと大きめの音がしたけど治が起きる気配はない
治はこうやって
寝とる私に
あれ したんやんな
ほんまに なんであんなことしたん
ちゅうか 気持ちもないのに あんなことできるん?
私はたぶん無理やわ
そんなことを考えながら ほんの少し顔を近づけてみる
治の規則的な寝息 なんや落ち着くなぁ
もう少しだけ 近づいてみる
まつげ長いな あと少しで キスしようと思ったら余裕で出来てしまう
それくらい近い距離
さっきまでの落ち着きとは一変
あれを思い出して 胸がドキドキと音を立てた
普通無理やろ
治 なんで私にあんなことしたん
何回も 何十回も思い出した あの時のあれ
私は 気付けば治にめちゃくちゃ近寄ってしまってた
治も こうやって魔が差したん?
まもなく唇が触れるところで 床に放られてるスマホが震えた
びっくりして後ろへ飛び退く
あかん 私 今なにしようとしてたんや
自分で自分がわからへん
治はまだ寝とった
側にあったスマホを覗き込むと見たことある女の子の名前
可愛いと評判の三組のあの子やろうか
「治くん 今話せる?♡」
ハート付きのLINE
内容まで見るつもりなかったんやで 勝手に画面に出とるから
もしかして これ付き合ってる?
そもそも二人って友達やったっけ?
話しとるとこもみたことないねんけど
そん時 階段を駆け上がってくる音がしたと思ったら バンっと勢いよく扉が開いた
「ひかり、オカンが呼んどるで。プリンがなんや言うとったわ」
予想通り侑やった
「わかった。侑おかえり」
その騒がしさで治も起きて「なんや、ひかり来とったんか」って
「うん。本返しに来ただけやから、もう帰るけど」
これありがとうな そう言って本を返す
いつもみたいに感想は言わへん
治の顔は よう見んかったな
「ひかりちゃん、お茶淹れたで。プリンもあるから食べていき」
「ありがとう」
宮ママのお言葉に甘えて 席についてお茶をいただく
上からドスドスと下へ降りてくる二つの足音がしてまもなく 侑と治もリビングに来た
「オカン俺にも茶ぁいれて」
「自分で淹れぇや」
双子とお母さんのこんなやりとりにも慣れとる
ほんまにいつも微笑ましいねん
侑は少し離れたところにあるソファに
治は私の隣の椅子に座った
「めっちゃうまそう。一口ちょうだい」
私が食べかけたプリンを見て そんなこと言うん
たぶん こんなん今までもようあったこと
せやけど いつもどうしてたっけ
あかん 意識しすぎてわからへんようになっとる
「…ええよ」
スプーンで口へ運ぶ?それとも器ごと渡す?
わからん 普通に 私は普通にしたいだけやねんけど
「治 あんたひかりちゃんのん取るんやめたりや」
宮ママの言うことなんか全然聞いてへん
治は無表情で口開けて待っとる
ほな正解はこっちやな
スプーンで掬った一口を治の大きな口へと運んだ
「んま」
なんやねんその幸せそうな顔
めちゃくちゃ可愛い
治 こんな可愛かったっけ?
わからん
そう思うと同時に込み上げてくる照れくささ 恥ずかしさで消えたなる
私 顔真っ赤やろ今
たぶん今までとなんも変わらへん
宮家におる時のただの日常の一コマ
せやのに確実に意識してしもて おかしなっとる
「ひかりちゃん 最近来てくれへんよになったから、彼氏でもできたんかと思っておばちゃん寂しかったわ」
「彼氏!?おるわけないやろ」
すかさず侑のツッコミが飛んでくる
「侑の言うこといちいち相手せんでええよ ひかりちゃん可愛いからモテるやろ」
「ううん 全然…」
「またそんなん言うて〜。もしええ人できたらおばちゃんに絶対教えてなぁ」
「うん。もちろん」
その後もなんや話しとったけどそのほとんどが右から左や
もうなんも頭に入ってこうへんかった
そんな話をしてこの日は帰った
それからずっと 治と三組のあの子のことが気になった
でも私は別にあの子と友達なわけやないし
治と付き合うとるんかとか聞けるわけもない
それに それを聞いたところで ただの幼馴染の私には関係のない話や
治は相変わらず あの日のことが嘘みたいに今まで通りおる
何も変わらん
それがなんやろ ちょっと寂しいん
なんでやねん 不本意やわ
私だけ意識して 私だけが変わって 私だけが気にしとるん
寂しいような虚しいような なんともいえへん気持ちや
後日 三組のあの子が治に告白したっていう話を耳にした
ほんまか嘘かしらん
せやけどまだ付き合うてはなかったんやと思うと 心のどっかで安心してしもてる
なんやろう 何をホッとしとるんやろ私
所詮 この話も噂程度のもんやのに
治はなんて返事したんやろう
三組のあの子は可愛え
ようモテとるしお似合いや きっと治の隣に立つにふさわしい
そうは思うけど もし二人がそうなったとしても
ええなとか おめでとうとか 素直に言われへん
あぁ 胸が痛いわ
私は 気づいてしまった
治が好きや て
今までは避けてたんやけど 気づいてしまった気持ちにもう嘘つかれへんやん
そない器用やない
たぶん私は 私の初めてのキスをなかったことにしてほしくなかった
「今日一緒に帰られへん?」って
突然 治のことを誘った
「ええけど なんで」
そらそうなるよな
今まで散々二人にならへんように避けとったし
部活もあるから一緒に帰ることもなかったし
今さら私が用もないのに誘ってくるんは不自然ですらあるんとちゃうやろか
「テストで部活ないし たまにはええかな思て」
聞く勇気出るかな
あの子と付き合うん?とか
なんで私にキスしたんとか
そんなこと聞かれへんか
一緒に帰るん拒否されへんとこ見たら 二人はまだ付き合うてへんのかも知れん
私の入る隙が まだあるかもしれん
ほんの少し そんな期待をする
もう治のことばっかり考えてる
まんまとやられとるやん
これが恋なん?
初めてのその感情に 驚くことばかりやわ
放課後 友達と話しとって遅くなってしもた
急いで治と待ち合わせしとった教室に向かうけど
廊下にもどの教室にも もう人は誰もおらへんかった
治が待つ教室に入る
そよそよと入る風が気持ちいい
窓際の席
太陽の光に照らされて
治の銀色の髪が一層綺麗に見える
近づくと 机に突っ伏して寝とる治
すぅすぅと聞こえる寝息
気持ちよさそうやなぁ
辺りをもう一度見回す
誰もおらへん
何の音もせん静かな教室
人の気もしらんと
あの日から 私のこと振り回すだけ振り回して
自分は何もなかったことにして
やられっぱなしで 腹立つやん
今度こそ あの日されたこと 仕返したろと思う
ここ学校やし もし目覚めたらどうするんてビビるけど そん時はそん時や
あんたもシたやんて言うたろ
お互い様やん
もう一回 念入りに キョロキョロと周りを見て
治が座っとるその隣に屈む
机の端っこを掴んで
ぷるぷると震える顔をゆっくり近づける
あと少し
あと少しで 治にキスしてしまう
あの子のもんにならんといて
治が好きやねん
心の中で唱える
鼻先が触れる
「早よせぇ」
「え?」
「いつまでかかっとんねん」
「え?」
「待ちくたびれるわ」
ぐいっと引き寄せられて
後頭部を掴まれたと思ったら もう
唇を押し付けられとった
二度目のキスも いとも簡単に奪われてしまった
しかも初めての時とは違う
まるで「食べる」みたいな
それをうまく表現できへんけど 治らしい そんなことを頭の片隅で思う
「食べられるかもしれへん」
本能で そんなことを思った
抵抗もできへん
捕えられた獲物みたいに それを受け入れるしかなかった
ようやく離された唇
その瞬間に ぷは と息をする
見られたくないわ 今の顔
恥ずかしさに耐えきれず 両手で顔を隠すんやけど
簡単にそれを退けてくる治と 目が合うた
「ひかりが好きや」
「…わ たしも」
悔しいけど 完全に落ちてしもてんねん 認めざるを得ん
「治 あの日 …なんで私にキスしたん」
「クラスのやつに ひかりのこと紹介して言われてん それはできへんって断ったけど」
「それでなんでキスするん?」
「早よ俺のもんにせなって焦るやんか」
なんなんその勝手な理由
「誰にも渡したない」
ぎゅっと抱きしめられる なんやこれ こんな治 知らんの
こんなん恥ずかしくて これ以上聞いてられへんわ
「そういえば治、3組の子に告られたんとちゃうん」
咄嗟に話を変える
「誰から聞いたん」
「噂になっとったよ 連絡も取っとったやろ」
「なんで知っとるん」
「治が前 寝とる時に たまたまLINEきたん 見るつもりはなかったんやで 見えてしもただけ」
「あの子、誰かから俺の連絡先聞いた言うてLINEきたけど ほとんど連絡取ってへんで」
見る?って聞かれたから 見やん て答えた
「治は黙ってキスすること以外、誠実や思うし」
「ごめんて」
「あの子と付き合わへんの?」
「なんでやねん。今の話の流れでどうなったらそうなんねん。おかしいやろ」
「そう …やんなぁ」
たぶん 治の彼女になるんは私なんやろう
「もしかして妬いとるん?」
「そんなんとちゃうけど」
そうは言うたけど 確実にそうやねん
私だって 治を私のモンにしたいし 焦ったんや思う
まぁ帰ろか 言いながら教室を出て 大事なことを思い出す
「なぁ治 今日 家行ってもええ?」
「は!?なんでそない大胆やねん!?」
「なぁ ええやろ?」
「家は あかんやろ…俺期待してまうで?」
うん 勝手に期待しとき
私の気持ち無視して 初めてのキス奪った罰や
「付き合うてすぐやけど、ひかりはええん?俺はええで。ずっと好きやったから。せやけどひかりも初めてやろ?ほんまにええんか?」
なんやずっとそんなこと言うとるし
何を狼狽えてんねんて おもろい
必死やなて可愛く見えてくる
ちゃうで 治
そんなんは まだ先や
「お母さん聞いて、ええ人できたわ。めっちゃええ男」
私は宮ママとの約束を果たしにきただけやで
1/1ページ