治と過ごした二ヶ月間
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治と過ごした二ヶ月間は
時々 夢やったんやないかなと思う
最後に会うた日から もう半年が経つ
青春は取り戻せんもんなんやと知った
私はあの後 悩みに悩んで
両親に「好きな人ができた」と正直に打ち明けた
今さら結婚をやめる?
そんなことできるわけない
そう言って 父親は血相変えて怒ってきたし 母親はそんな父と私に板挟みにされる毎日
母親は 私のせいでいつも泣いとった
でも私にはもう 嫁ぐ覚悟などなかった
大きなダイヤがついた指輪はあの日から外したまま
とても高価で 素敵なもの
せやけど 私がほんまに欲しいと思ったものとは
どうやら違ったらしい
勝手なのは百も承知やし
お相手に恥をかかせるのは申し訳ない以外に言葉が出ん
せやけど こんな気持ちでやっていけるわけないんよ
私は 治が好き
会えんようになった時 しばらくは虚無感に襲われて
落ち着いた頃には 好きやと思う気持ちがまた勝手に大きくなっとった
一緒になれんのわかっとっても
好きな気持ちは膨れるばかりで どうしようもない
結婚を取りやめたからと言って その好きな人とは今さら一緒になられへん
なるつもりもないことは伝えた
今はもう会うてないし 会われへんて
どないしようもないねん 気持ちが変わったんやもん
結婚してもええな そう思ってたんは嘘やない
何度頭を下げても 父親は最後までええ顔せんかった
でも私も自分を曲げられへんかった
全て捨てる気でおる
「絶対結婚せん。ごめんなさい、私にはできへん」
想像以上に怒らせてしまった私は
あの後 家を勘当されて ほんまのひとりぼっちになった
一人暮らしを始めて数ヶ月
私のことを心配しとる母親からの連絡はたまにある
その度
ごめん
こんな出来の悪い娘でごめんね
そう思いながら 元気なことだけはきちんと伝える
実家を出て 寂しさはあるけど不便さはない
外は 思ってたよりも自由で 心地よかった
恋愛はほんまに タイミングやとおもう
私は昔から取捨選択するのが下手やった
そして いつも間違ったほうを選ぶ
本当は続けたかった仕事
結婚することを理由に辞めてしまったから
また違う会社で 一から働き始めた
リスタートする
もう失うもんがない
きっと またやりがいのある仕事ができる
次は臆病にならんと 好きな人と一緒になる道を選べたらええな
楽な方へ逃げる癖も もうやめる
新しい職場にも慣れてきた頃
取引先の人と会うとった場所で 偶然侑を見かけた
待って なんでこんなとこにおるん
大阪におるはずやんな
人違いであってほしいけど あれは間違いなく侑や
私は気づかれんようになるべく端のほうを 俯き加減で歩いた
「あ」
たぶん 侑は私に気づいた
でも私は気づかんふりして 足早に進み続けた
「やっぱりサムの」
そう言って マスクを外した侑
「…取らんでもわかるけど」
こんなデカい金髪 わからんわけないやろ
なんでいちいちマスク外すねん
しかもサムのなんやて ほんまにいつもいつも
いつの話してんねん
「佐藤さん」
「あ はーい!すぐ行きます」
取引先の人に呼ばれてその場を離れようとした
「自分、結婚したんやんな?」
「…」
「なぁ 聞いとる?」
私はやっぱり侑が苦手 なんやろ 威圧感やろか
「してへん 破談になった」
「ほんまに?」
「ほんまや」
「まだ実家住んどんの?」
「住んでへん。勘当されたから出た」
「勘当?そんなことある?」
何ちょっと笑ろてんねん と思ってまう
「あるみたいやね。私もそこまでされると思ってなかったわ。もう行ってええ?」
当たり前やけど ほんまに 治とよぉ似とる
見た目だけはな
こんなところで侑に会うとは思ってなかった
嫌でも思い出してまう
一緒になれんかった彼のことを
思い出したらあかん 苦しくなるだけ
「佐藤さん さっきの人ってブラックジャッカルの宮選手やないですか?」
取引先の人にはしっかり見られとったようで
「あ〜……です、かね」
「いや絶対そうやんね。もしかして友達?」
「いえ、全然。同じ高校やっただけです」
「そうなんや 佐藤さんは ああいうタイプが好き?」
何の話 …そんな話いる? と思ってしまう
「全然です。顔はまぁ…ええんですけど、それ以外は全くタイプとちゃいますね」
「やっぱりイケメン好きなんやね。それ以外はあかんって、じゃあどんな男が好きなん? 佐藤さんモテるやろ? 今、彼氏とかおるん?」
この馴れ馴れしさに嫌悪感を抱く
会話がチャラい めんどくさい
仕事の話進めて 早よ帰りたいなと思いつつ
「笑顔の素敵な、優しい人で 行動力のある起業家がええですね。黒髪で身長は180センチ以上、顔はさっきの宮選手と同等かそれ以上で。パンよりは米派、なんでも美味しそうに食べる人」
シーンとなった
固まっとるやん そらそうやと思うわ
「ちょっとちょっと〜具体的すぎへん? そんなイケメンどこにもおらんて」
うっさいな
おるし
もう会われへんけど
「可愛いからって理想高すぎへん?そんなん言うとったら 婚期逃すよ」
嫌なこと言う人やな ほっといて
こっちはほんまに婚期逃しとるいうねん
心の中で呆れるほどに悪態をつく
でも これ以降
いつ会うても その取引先の男はなんも言うてこんようになった
侑と偶然会うたあの日から数日後
予想もしてなかったことが起きる
侑と また会うことになる
しかも滅多に行くこともない セレブ御用達の高級スーパーで
欲しかったお酒が その高級スーパーなら取扱いがあると聞いた私は ウキウキしながら買い物に出かけた
そのスーパーは 思った以上にたくさんの種類が置いてあった
さすが高級スーパーは違うな なんて思いながら
様々な種類の商品を見て楽しんだ後
お目当ての品をカゴに入れた
「あ」
背後から聞こえた声
振り向くと 侑がおった
ここまでくると腐れ縁やわ
侑も またお前かい みたいな顔をした
そんな表情 治もするんかな?なんて一瞬想像してしまう
上下黒のウェア
トレーニング帰りかな なんて勝手に思う
目はずっと合うてるのに 話すことはない
「家この辺?」
先に口を開いたのは侑やった
「遠からず近からずやわ」
私が手にしとった買い物カゴ
その中を一瞬ちらっと見た侑
「こんなん飲むん?」って
いわくつき独身女の買い物カゴの中身が 日本酒って
相当やばない
見られてから気づいて ちょっと恥ずかしくなる
「これめっちゃええやつとちゃうん?」
「まぁ お高いわな」
「1人で飲むん?」
「そうやけど」
「寂しっ」
あかんの?ほっといてよ
もしかしてかわいそうとか思われとる?
めんどいから無視してレジの方へ向かった
「これ持ってサムの店いく?」
「なんでやねん。行かんやろ」
何 急に 不気味やわ
後ろついてこんといてほしい
「これに合う サイッコーにうまいもん作ってくれると思うけど」
そりゃそうやろな 治やもん
でもそんな話しとんちゃうねんてイライラが募る
「嫌やったら俺と開ける?」
ナンパ男みたいなこと言い出すし
どないしたん これ
「開けへん。1人で飲む言うとるやん」
「冷た」
冷たいのは侑やん
昔から ずっとそう
私のこと ええように思ってないくせに
「結婚せんかったこと、なんでサムに言わんと黙っとったん」
「治とは もうかなり前に、連絡も取り合わんし会わんて話になったから」
全部タイミング悪いねん
私と治は そういう運命なんやろ
ほーん て
自分から聞いてきといて
その興味なさそうな感じな
どうでもええ まぁもう会うことないし
「サムんこと、ええ程たぶらかしよって ほんまに」
耳を疑ったわ
こいつなんやねん 鬼の子か
ほんまに治と兄弟やと思えん
ブラコンやとは思てたけど想像以上やったわ
「2回もなぁ」
しかも2回て何 いつのこと言うとんの?
きつい
つらい
なんで私がこいつに責められなあかんの
「そんなつもりは…なかったけど、傍から見たらそうやったかもな。ごめんな」
突き刺すような視線
やっぱり私が悪い女や思われてんねん
ええよ それで
「せやけど、もう会うてへんやん。治のことは好きやった。今でも好きや。でも今は全部捨てて、一人でおるやん。もうほっといてくれへん?」
「やって どうする?サム。これ ほっといてもええ?」
「?」
侑が手にしたスマホから
「あかん」って言う大きな声が漏れとる
「いや〜 思わんとこで言質とれたわ」ヘラっと笑う侑
「ひかりちょぉそこで待っとって」
スマホから響いてくる声
声の主は 絶対治やねん
驚きのあまり 言葉が出てこうへん
「絶対やで!待っててや」
侑にスピーカー通話繋がれてた…?らしいこの状況
「むっ、むりむりむり!私、帰る」
「ひかり先輩、もう逃げたらあかんと思うわ」
侑に行く手を阻まれる
逃げる癖
やめなあかんって決めたんやったて思い出す
けど
「今逃げたら、さすがのサムもキレんで」
侑に腕掴まれて 身動きがとられへん
「こっちも色々とめんどいねん。せやから逃げんとってな」
あ、腕掴んでたらサムに触んなとか言うてキレられそうやな そんなことをひとりごとのように呟いて
私が着とる服 そのフードを掴んどる
「報酬はその酒でええよ」
レジ行こか 言うて
結局侑の買う予定やった分も なんか知らんけど私がまとめて一緒に払わされとるし
高級スーパーやから何もかも高い
「何で私が…」
「ええやろひかり先輩♡」
人が変わったような ぶりっこ顔
なんやねん なんか腹立つな
そうこうしとるうちに ほんまに治が来て
「店は?」って聞く侑に
「言うとる場合か。一旦閉めとる、すぐ戻る」
何このめちゃくちゃな再会の仕方…
って思うんやけど
久しぶりに会うた治は
私のことを見てめっちゃ嬉しそうに笑った
今の状況についていけてへんけど
会えたこと 会いにきてくれたことが嬉しくて目頭が熱くなる
気づいたら涙が頬を伝ってて
「あかん、止まらん…ごめん」って謝ったら
何も言わんと それを指で優しく拭ってくれた
つらかったあの時
隣で何も言わず居てくれたこと 思い出す
その懐かしさや温かさが 心地よい
私が手にしてた荷物をさりげなく持ってくれたから
「これ 侑に払わされたんやけど」
って言うてみたら
「は〜〜〜〜!?なんでお前ひかりにたかっとんねん」
そういえば名前呼び捨てになっとる
なんてことに今気づく
もう気を使わんでもええし
隠さんでもええ
我慢せんでもええ
好きでおってええんかな
「先輩やん。こんくらいええやろ」
「あかん。お前こん中やったら一番稼いどるやろ」
「いや ちゃうやん。サムめっちゃ稼いどるやん。俺知っとるし」
「ちゃうやろお前や」
「喧しねん」
急な喧嘩始まるし
私の存在忘れてへん?っちゅーくらい 空気なんやけど
「早よ店戻らなあかんわ」って
治に「行くで」って 車乗せられて
ちゃんと話もせんままに色々進んどるんやけど
結局 久しぶりに来てしまったおにぎり宮で
買ったばかりのあの日本酒を開けて
侑も一緒に乾杯して
「これめっちゃうまいやん」て笑顔になっとるし
一人で飲むより 絶対美味しいよな
治のほう見たら目が合うて
「治のことが好きやてさっきのやつ、また後でゆっくり聞かせてもらうわな」
そう言って ふっふと笑った
あぁその笑った顔 やっぱりめっちゃ好き
顔が熱い 思わず手で押さえる
侑がすかさず
「そうして。俺そんなん見たないから二人の時にせぇ」
って言うから
「そうします」って真面目に返した
あとで
治を失った期間のこと 全部話して
好きやって気持ち ちゃんと伝えよう
治と過ごした二ヶ月間
あの 嘘のように満たされとった日々
間違った選択も
遠回りした道のりも
傷つけ合った日々も
私たちには必要やった
「幸せにするわ」
最愛の人からの言葉に
私は 満面の笑みを浮かべたのだった
時々 夢やったんやないかなと思う
最後に会うた日から もう半年が経つ
青春は取り戻せんもんなんやと知った
私はあの後 悩みに悩んで
両親に「好きな人ができた」と正直に打ち明けた
今さら結婚をやめる?
そんなことできるわけない
そう言って 父親は血相変えて怒ってきたし 母親はそんな父と私に板挟みにされる毎日
母親は 私のせいでいつも泣いとった
でも私にはもう 嫁ぐ覚悟などなかった
大きなダイヤがついた指輪はあの日から外したまま
とても高価で 素敵なもの
せやけど 私がほんまに欲しいと思ったものとは
どうやら違ったらしい
勝手なのは百も承知やし
お相手に恥をかかせるのは申し訳ない以外に言葉が出ん
せやけど こんな気持ちでやっていけるわけないんよ
私は 治が好き
会えんようになった時 しばらくは虚無感に襲われて
落ち着いた頃には 好きやと思う気持ちがまた勝手に大きくなっとった
一緒になれんのわかっとっても
好きな気持ちは膨れるばかりで どうしようもない
結婚を取りやめたからと言って その好きな人とは今さら一緒になられへん
なるつもりもないことは伝えた
今はもう会うてないし 会われへんて
どないしようもないねん 気持ちが変わったんやもん
結婚してもええな そう思ってたんは嘘やない
何度頭を下げても 父親は最後までええ顔せんかった
でも私も自分を曲げられへんかった
全て捨てる気でおる
「絶対結婚せん。ごめんなさい、私にはできへん」
想像以上に怒らせてしまった私は
あの後 家を勘当されて ほんまのひとりぼっちになった
一人暮らしを始めて数ヶ月
私のことを心配しとる母親からの連絡はたまにある
その度
ごめん
こんな出来の悪い娘でごめんね
そう思いながら 元気なことだけはきちんと伝える
実家を出て 寂しさはあるけど不便さはない
外は 思ってたよりも自由で 心地よかった
恋愛はほんまに タイミングやとおもう
私は昔から取捨選択するのが下手やった
そして いつも間違ったほうを選ぶ
本当は続けたかった仕事
結婚することを理由に辞めてしまったから
また違う会社で 一から働き始めた
リスタートする
もう失うもんがない
きっと またやりがいのある仕事ができる
次は臆病にならんと 好きな人と一緒になる道を選べたらええな
楽な方へ逃げる癖も もうやめる
新しい職場にも慣れてきた頃
取引先の人と会うとった場所で 偶然侑を見かけた
待って なんでこんなとこにおるん
大阪におるはずやんな
人違いであってほしいけど あれは間違いなく侑や
私は気づかれんようになるべく端のほうを 俯き加減で歩いた
「あ」
たぶん 侑は私に気づいた
でも私は気づかんふりして 足早に進み続けた
「やっぱりサムの」
そう言って マスクを外した侑
「…取らんでもわかるけど」
こんなデカい金髪 わからんわけないやろ
なんでいちいちマスク外すねん
しかもサムのなんやて ほんまにいつもいつも
いつの話してんねん
「佐藤さん」
「あ はーい!すぐ行きます」
取引先の人に呼ばれてその場を離れようとした
「自分、結婚したんやんな?」
「…」
「なぁ 聞いとる?」
私はやっぱり侑が苦手 なんやろ 威圧感やろか
「してへん 破談になった」
「ほんまに?」
「ほんまや」
「まだ実家住んどんの?」
「住んでへん。勘当されたから出た」
「勘当?そんなことある?」
何ちょっと笑ろてんねん と思ってまう
「あるみたいやね。私もそこまでされると思ってなかったわ。もう行ってええ?」
当たり前やけど ほんまに 治とよぉ似とる
見た目だけはな
こんなところで侑に会うとは思ってなかった
嫌でも思い出してまう
一緒になれんかった彼のことを
思い出したらあかん 苦しくなるだけ
「佐藤さん さっきの人ってブラックジャッカルの宮選手やないですか?」
取引先の人にはしっかり見られとったようで
「あ〜……です、かね」
「いや絶対そうやんね。もしかして友達?」
「いえ、全然。同じ高校やっただけです」
「そうなんや 佐藤さんは ああいうタイプが好き?」
何の話 …そんな話いる? と思ってしまう
「全然です。顔はまぁ…ええんですけど、それ以外は全くタイプとちゃいますね」
「やっぱりイケメン好きなんやね。それ以外はあかんって、じゃあどんな男が好きなん? 佐藤さんモテるやろ? 今、彼氏とかおるん?」
この馴れ馴れしさに嫌悪感を抱く
会話がチャラい めんどくさい
仕事の話進めて 早よ帰りたいなと思いつつ
「笑顔の素敵な、優しい人で 行動力のある起業家がええですね。黒髪で身長は180センチ以上、顔はさっきの宮選手と同等かそれ以上で。パンよりは米派、なんでも美味しそうに食べる人」
シーンとなった
固まっとるやん そらそうやと思うわ
「ちょっとちょっと〜具体的すぎへん? そんなイケメンどこにもおらんて」
うっさいな
おるし
もう会われへんけど
「可愛いからって理想高すぎへん?そんなん言うとったら 婚期逃すよ」
嫌なこと言う人やな ほっといて
こっちはほんまに婚期逃しとるいうねん
心の中で呆れるほどに悪態をつく
でも これ以降
いつ会うても その取引先の男はなんも言うてこんようになった
侑と偶然会うたあの日から数日後
予想もしてなかったことが起きる
侑と また会うことになる
しかも滅多に行くこともない セレブ御用達の高級スーパーで
欲しかったお酒が その高級スーパーなら取扱いがあると聞いた私は ウキウキしながら買い物に出かけた
そのスーパーは 思った以上にたくさんの種類が置いてあった
さすが高級スーパーは違うな なんて思いながら
様々な種類の商品を見て楽しんだ後
お目当ての品をカゴに入れた
「あ」
背後から聞こえた声
振り向くと 侑がおった
ここまでくると腐れ縁やわ
侑も またお前かい みたいな顔をした
そんな表情 治もするんかな?なんて一瞬想像してしまう
上下黒のウェア
トレーニング帰りかな なんて勝手に思う
目はずっと合うてるのに 話すことはない
「家この辺?」
先に口を開いたのは侑やった
「遠からず近からずやわ」
私が手にしとった買い物カゴ
その中を一瞬ちらっと見た侑
「こんなん飲むん?」って
いわくつき独身女の買い物カゴの中身が 日本酒って
相当やばない
見られてから気づいて ちょっと恥ずかしくなる
「これめっちゃええやつとちゃうん?」
「まぁ お高いわな」
「1人で飲むん?」
「そうやけど」
「寂しっ」
あかんの?ほっといてよ
もしかしてかわいそうとか思われとる?
めんどいから無視してレジの方へ向かった
「これ持ってサムの店いく?」
「なんでやねん。行かんやろ」
何 急に 不気味やわ
後ろついてこんといてほしい
「これに合う サイッコーにうまいもん作ってくれると思うけど」
そりゃそうやろな 治やもん
でもそんな話しとんちゃうねんてイライラが募る
「嫌やったら俺と開ける?」
ナンパ男みたいなこと言い出すし
どないしたん これ
「開けへん。1人で飲む言うとるやん」
「冷た」
冷たいのは侑やん
昔から ずっとそう
私のこと ええように思ってないくせに
「結婚せんかったこと、なんでサムに言わんと黙っとったん」
「治とは もうかなり前に、連絡も取り合わんし会わんて話になったから」
全部タイミング悪いねん
私と治は そういう運命なんやろ
ほーん て
自分から聞いてきといて
その興味なさそうな感じな
どうでもええ まぁもう会うことないし
「サムんこと、ええ程たぶらかしよって ほんまに」
耳を疑ったわ
こいつなんやねん 鬼の子か
ほんまに治と兄弟やと思えん
ブラコンやとは思てたけど想像以上やったわ
「2回もなぁ」
しかも2回て何 いつのこと言うとんの?
きつい
つらい
なんで私がこいつに責められなあかんの
「そんなつもりは…なかったけど、傍から見たらそうやったかもな。ごめんな」
突き刺すような視線
やっぱり私が悪い女や思われてんねん
ええよ それで
「せやけど、もう会うてへんやん。治のことは好きやった。今でも好きや。でも今は全部捨てて、一人でおるやん。もうほっといてくれへん?」
「やって どうする?サム。これ ほっといてもええ?」
「?」
侑が手にしたスマホから
「あかん」って言う大きな声が漏れとる
「いや〜 思わんとこで言質とれたわ」ヘラっと笑う侑
「ひかりちょぉそこで待っとって」
スマホから響いてくる声
声の主は 絶対治やねん
驚きのあまり 言葉が出てこうへん
「絶対やで!待っててや」
侑にスピーカー通話繋がれてた…?らしいこの状況
「むっ、むりむりむり!私、帰る」
「ひかり先輩、もう逃げたらあかんと思うわ」
侑に行く手を阻まれる
逃げる癖
やめなあかんって決めたんやったて思い出す
けど
「今逃げたら、さすがのサムもキレんで」
侑に腕掴まれて 身動きがとられへん
「こっちも色々とめんどいねん。せやから逃げんとってな」
あ、腕掴んでたらサムに触んなとか言うてキレられそうやな そんなことをひとりごとのように呟いて
私が着とる服 そのフードを掴んどる
「報酬はその酒でええよ」
レジ行こか 言うて
結局侑の買う予定やった分も なんか知らんけど私がまとめて一緒に払わされとるし
高級スーパーやから何もかも高い
「何で私が…」
「ええやろひかり先輩♡」
人が変わったような ぶりっこ顔
なんやねん なんか腹立つな
そうこうしとるうちに ほんまに治が来て
「店は?」って聞く侑に
「言うとる場合か。一旦閉めとる、すぐ戻る」
何このめちゃくちゃな再会の仕方…
って思うんやけど
久しぶりに会うた治は
私のことを見てめっちゃ嬉しそうに笑った
今の状況についていけてへんけど
会えたこと 会いにきてくれたことが嬉しくて目頭が熱くなる
気づいたら涙が頬を伝ってて
「あかん、止まらん…ごめん」って謝ったら
何も言わんと それを指で優しく拭ってくれた
つらかったあの時
隣で何も言わず居てくれたこと 思い出す
その懐かしさや温かさが 心地よい
私が手にしてた荷物をさりげなく持ってくれたから
「これ 侑に払わされたんやけど」
って言うてみたら
「は〜〜〜〜!?なんでお前ひかりにたかっとんねん」
そういえば名前呼び捨てになっとる
なんてことに今気づく
もう気を使わんでもええし
隠さんでもええ
我慢せんでもええ
好きでおってええんかな
「先輩やん。こんくらいええやろ」
「あかん。お前こん中やったら一番稼いどるやろ」
「いや ちゃうやん。サムめっちゃ稼いどるやん。俺知っとるし」
「ちゃうやろお前や」
「喧しねん」
急な喧嘩始まるし
私の存在忘れてへん?っちゅーくらい 空気なんやけど
「早よ店戻らなあかんわ」って
治に「行くで」って 車乗せられて
ちゃんと話もせんままに色々進んどるんやけど
結局 久しぶりに来てしまったおにぎり宮で
買ったばかりのあの日本酒を開けて
侑も一緒に乾杯して
「これめっちゃうまいやん」て笑顔になっとるし
一人で飲むより 絶対美味しいよな
治のほう見たら目が合うて
「治のことが好きやてさっきのやつ、また後でゆっくり聞かせてもらうわな」
そう言って ふっふと笑った
あぁその笑った顔 やっぱりめっちゃ好き
顔が熱い 思わず手で押さえる
侑がすかさず
「そうして。俺そんなん見たないから二人の時にせぇ」
って言うから
「そうします」って真面目に返した
あとで
治を失った期間のこと 全部話して
好きやって気持ち ちゃんと伝えよう
治と過ごした二ヶ月間
あの 嘘のように満たされとった日々
間違った選択も
遠回りした道のりも
傷つけ合った日々も
私たちには必要やった
「幸せにするわ」
最愛の人からの言葉に
私は 満面の笑みを浮かべたのだった
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