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降谷さんとオレの関係ってなんだろう。
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友だちと呼ぶには遠くて、知り合いというには距離が近い。
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コナンから新一の身体に戻って一年。
いつのまにか恒例になっていた、近況報告という名の月二の食事会の場で、ぼんやりと考える。 -
食事会と言っても、降谷さんが選んだカジュアルレストランや定食屋で二人でたわいない話をするだけの気楽な場だ。
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今日は、夕方に降谷さんおすすめの定食屋に呼ばれた。
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その店は、オレが春から通う大学の近くにあった。
安くて美味いのに、東都大生は学食で昼食を済ませることが多いから、サラリーマンの昼休憩の時間を除けば比較的空いているらしい。 -
降谷
まだあまりお腹がすいていなかったのかな
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いつの間にか降谷さんの前からは生姜焼き定食が乗った盆が下げられている。
オレの前にはまだからあげのたっぷり乗った皿がほぼ手付かずの状態で残っていた。 -
新一
からあげ一個食べますか?
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降谷
いいの?
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パッと顔を輝かせた降谷さんの口元に、箸でつまんだ唐揚げを近づける。
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降谷さんは箸も下げられちまってるし、オレの箸を使うしかない。
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断じて、下心とかじゃねーから。
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降谷さんは目を丸くしたあと、照れ臭そうに微笑んで大きく口を開いた。ぱくっと豪快に、一口で唐揚げを箸から奪っていく。
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もぐもぐと口を動かして、目尻を緩める。
そうやって唐揚げを美味しそうに食べる降谷さんに、つい次の唐揚げを差し出そうになっちまう。 -
でもこれはオレの夕飯だ。
降谷さんの食べっぷりを見てると、それだけで腹一杯になるけれど、オレが食べないと降谷さんが、オレの口に合わなかったんじゃないかとか、体調が悪いんじゃないかとあれこれ気にしてしまう。 -
降谷さんの口に持ってき損ねた唐揚げを自分の口元に運ぶ。ぱくりと噛み付いて、唐揚げから溢れる肉汁に思わず「うま」と呟いた。
降谷さんが満足気に目を細める。 -
降谷
だろ?
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新一
さすが、降谷さんの教えてくれる店に外れはねーな
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降谷
きみにそう言ってもらいたくて新規開拓に勤しんでるんだ
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降谷
だから、ご褒美にもうひとつくれ
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茶目っ気たっぷりにウインクした降谷さんはテーブル越しに身を乗り出して薄く口を開けた。
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ぎゅうっと胸が絞られた。
心臓が飛び跳ねる。 -
降谷さんの無防備な口に、小皿に乗っていたたくわんを放り込む。
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降谷
ごちそうさま
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唐揚げじゃなかったのに、嬉しそうな降谷さんは小気味いい音を立ててたくわんを飲み込んだ。
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降谷さんとオレの関係ってなんだろう。
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また同じことを考える。
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知り合いという関係よりもっと近づきたいけれど、年の離れた友人だとか、可愛い弟みたいなポジションには収まりたくはない。
公安の事件に関われる協力者にも興味はあるけれど、きっとそれだけじゃ足りない。 -
黙々と食事を進めて白米を最後の一口放り込む。
箸を置いて、視線を正面に向けると、柔らかい表情でオレを見ている降谷さんと目があった。 -
オレと視線が合うと、一層目尻が緩む。
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その、慈しむような視線に息が止まった。
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新一
……好き
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気づけば「ごちそうさま」の代わりにそう言っていた。
ハッとして口を閉じるのとほぼ同時に、目を見開いた降谷さんがテーブルに手をついた。 -
降谷
どれくらい?
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降谷
どんな感情で?
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食い気味に降谷さんが問い詰めてくる。
まるで犯人を自供に追い込む刑事さんのようだ。ようだ、っつーか本職だ。 -
ここは取調室でも、オレと降谷さんは犯人と刑事という関係でもないけれど。
黙秘を決め込むオレに、降谷さんは咳払いをすると姿勢を正した。 -
降谷
やっぱりここでこれ以上の話をするのはやめよう
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降谷
少しドライブしてから帰ろうか
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そういうと降谷さんはさっさとお会計を済ませて立ち上がった。
降谷さんの勢いに飲まれて、オレも店から出る。降谷さんは愛車の停めてある駐車場に向かって歩きだすと、店前の明かりが届かなくなった場所で、オレの隣に並び、人差し指にそっと中指を絡めた。 -
降谷
……僕はズルい大人だから、きみの上気した肌にほぼ確信を得たうえで、きみをまだ家に帰すつもりはないんだけど
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降谷
このまま僕についてきてくれるかい?
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ずるい大人はそう言って、オレを見つめた。
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言葉よりも雄弁に語りかけてくる熱烈な視線に、人差し指からすぐに離れていきそうな中指を掴んで思いっきり胸元に引き寄せる。
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新一
どれくらいかなんて、もう測れねぇくらい
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新一
好きだぜ、アンタのこと
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口元に連れてきた中指に、唇を落とした。
さっき食べたからあげの油がついたかもしれない。
口の中はからあげにたっぷり含まれたにんにくの臭いが残ってる。 -
さすがにはじめてのキスが唐揚げの味は嫌だって思ったのに、この人は。
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現実的なキスの味に、ドリアンよりはマシだったと思うことにした。
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