猿美SS
『八田ちゃんおめでとう!』
『八田くん、好き好き大好き! 生まれてきてくれてありがとう~!』
『だいすきなやたみさきくん♡ お誕生日おめでとう!』
『八田くんハッピーバースデー! いくつになっても大好き!』
『やたくん~~~! おめでとおお!! 一生愛してる!』
7月20日0時00分。
日付が変わるとともに、各SNSのタイムラインには祝福の言葉が溢れかえった。「つぶやいったー」のトレンド1位にあがった「八田美咲」のタグをクリックすると投稿された呟きが爆速で更新されていく。
――おめでとう、おめでとう、だいすき、あいしてる。
140字に収まった似たり寄ったりの言葉。時々添付されているイラストや写真の八田美咲は、ほとんどが満面の笑顔だった。
いくらスクロールしても終わらない美咲の誕生を祝うメッセージ。
きっと美咲は、これらを見たら、顔をくしゃくしゃにして、べそをかきながら笑い、照れくさそうに鼻をかくのだろう。
美咲のタンマツの電源は、ピロピロ通知がうるさくなる前に切った。来年までには、7月20日の0時~9時までメッセージを通知しなくなるアプリでも作って仕込んでおこうと思っている。
「……さるひこぉ」
すぴすぴ寝息を立てていた美咲が、ベッドの上で手を彷徨わせている。目をつむったままもぞもぞと身体を起こそうとするから、抜け出したベッドに戻ることにした。
布団の中にもぐりこむと、美咲の手が俺を見つけて落ち着いた。汗ばんだ身体をぴったりとよせてくる。2時間前に服を剥いた肌はそのままだ。つまり、全裸。
何度こういうことをしても、朝に夜の痕跡が残っていると羞恥で絶叫する美咲がかわい……面白くて、行為後も後処理はしても服は着せないことが多い。
美咲の眉間に寄ったしわに指を押し付ける。「うー……」呻った美咲が薄っすらとまぶたを持ち上げた。日の光を閉じ込めたような瞳が僅かに漏れる。
「なんだよ……」
むにゃむにゃと美咲がなにかを言っている。
耳を近づけると、かぷりと耳たぶを噛まれた。
「けーきうまい……」
「……よかったな」
耳を離して、唾液に濡れたそこを手のひらで拭う。
寝ぼけた美咲は、ふにゃりと力の抜けた笑みを浮かべた。
ステージの上やカメラの前に立つときには見せない、オレだけが見ることのできる表情。
それに、溜飲を下げてやることにする。
大人気アイドル八田美咲。みんなの八田美咲。
――そんなのは所詮、幻想だ。
「美咲、誕生日おめでと」
耳元で囁くと、美咲はくすぐったそうに肩を揺らして笑った。
俺の胸の上に投げ出された左腕をとる。左手で腕を撫で、手首を掴んだ。そして、シルバーリングをつまんだ右手を近づける。
さっき、美咲から離れベッドからおりたのは、これをとりにいくためだった。
美咲の左手薬指に、指輪をはめる。
美咲は寝ぼけ眼にゆっくり瞬いていた瞳を大きく見開いた。
「結婚しよ、美咲」
美咲の瞳に大粒の涙が浮かぶ。とてもアイドルとは思えないぐしゃぐしゃの顔で、美咲は何度も頷いた。
「さ、るひこぉ……おええ、……っ」
「うん、」
「おえ、ぜってぇ、さるひこ幸せにするからな……っ」
首を伸ばした美咲が、唇にぶつかったきた。がつんっと歯があたる。
――八田美咲は、かっこわるくて、かっこいい、俺だけのアイドルだ。
『八田くん、好き好き大好き! 生まれてきてくれてありがとう~!』
『だいすきなやたみさきくん♡ お誕生日おめでとう!』
『八田くんハッピーバースデー! いくつになっても大好き!』
『やたくん~~~! おめでとおお!! 一生愛してる!』
7月20日0時00分。
日付が変わるとともに、各SNSのタイムラインには祝福の言葉が溢れかえった。「つぶやいったー」のトレンド1位にあがった「八田美咲」のタグをクリックすると投稿された呟きが爆速で更新されていく。
――おめでとう、おめでとう、だいすき、あいしてる。
140字に収まった似たり寄ったりの言葉。時々添付されているイラストや写真の八田美咲は、ほとんどが満面の笑顔だった。
いくらスクロールしても終わらない美咲の誕生を祝うメッセージ。
きっと美咲は、これらを見たら、顔をくしゃくしゃにして、べそをかきながら笑い、照れくさそうに鼻をかくのだろう。
美咲のタンマツの電源は、ピロピロ通知がうるさくなる前に切った。来年までには、7月20日の0時~9時までメッセージを通知しなくなるアプリでも作って仕込んでおこうと思っている。
「……さるひこぉ」
すぴすぴ寝息を立てていた美咲が、ベッドの上で手を彷徨わせている。目をつむったままもぞもぞと身体を起こそうとするから、抜け出したベッドに戻ることにした。
布団の中にもぐりこむと、美咲の手が俺を見つけて落ち着いた。汗ばんだ身体をぴったりとよせてくる。2時間前に服を剥いた肌はそのままだ。つまり、全裸。
何度こういうことをしても、朝に夜の痕跡が残っていると羞恥で絶叫する美咲がかわい……面白くて、行為後も後処理はしても服は着せないことが多い。
美咲の眉間に寄ったしわに指を押し付ける。「うー……」呻った美咲が薄っすらとまぶたを持ち上げた。日の光を閉じ込めたような瞳が僅かに漏れる。
「なんだよ……」
むにゃむにゃと美咲がなにかを言っている。
耳を近づけると、かぷりと耳たぶを噛まれた。
「けーきうまい……」
「……よかったな」
耳を離して、唾液に濡れたそこを手のひらで拭う。
寝ぼけた美咲は、ふにゃりと力の抜けた笑みを浮かべた。
ステージの上やカメラの前に立つときには見せない、オレだけが見ることのできる表情。
それに、溜飲を下げてやることにする。
大人気アイドル八田美咲。みんなの八田美咲。
――そんなのは所詮、幻想だ。
「美咲、誕生日おめでと」
耳元で囁くと、美咲はくすぐったそうに肩を揺らして笑った。
俺の胸の上に投げ出された左腕をとる。左手で腕を撫で、手首を掴んだ。そして、シルバーリングをつまんだ右手を近づける。
さっき、美咲から離れベッドからおりたのは、これをとりにいくためだった。
美咲の左手薬指に、指輪をはめる。
美咲は寝ぼけ眼にゆっくり瞬いていた瞳を大きく見開いた。
「結婚しよ、美咲」
美咲の瞳に大粒の涙が浮かぶ。とてもアイドルとは思えないぐしゃぐしゃの顔で、美咲は何度も頷いた。
「さ、るひこぉ……おええ、……っ」
「うん、」
「おえ、ぜってぇ、さるひこ幸せにするからな……っ」
首を伸ばした美咲が、唇にぶつかったきた。がつんっと歯があたる。
――八田美咲は、かっこわるくて、かっこいい、俺だけのアイドルだ。
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