凪潔SS
しとしと。
まどろみの中、静かに降っていた雨の音がだんだん強くなっていくのが聞こえた。
ざあざあ降りになった雨が、強風に煽られて窓にぶつかりはじめる。うるさい。
「……ぅ、さむ…………」
ぶるりと震えた身体を丸める。体感、まだ起きるには早い。意地で目をつぶったまま布団を手繰り寄せると、抵抗があった。深く考えずに力一杯引っ張って、自分の肩まですっぽり布団をかける。
「……あったか〜」
冷えが治ってきて、またうとうと微睡む。最高の二度寝。寒々しかった雨音も今はもう最高の子守唄だ。
ーーへっくしゅっ。
小さなくしゃみが、右側から聞こえた。
ゆっくり目を開けて仰向けだった身体を音の方に向けると、半袖半パンの潔が、ベッドの上でちっちゃな身体をさらにちっちゃく丸めていた。
潔は目をつぶったまま手をパタパタさせて、俺の温もりを見つけると、もぞもぞ布団の中に入り込んできた。俺も腕を広げて潔を迎え入れる。
潔の腕が冷たい。
俺のあったか体温を分けてあげるために、ぎゅうっと抱きしめる。
目をつぶったまま潔はへらりと笑って、俺の胸筋に顔を埋めると、すやすや寝息を立て始めた。
昨日寝る前に乱れたせいか、寝癖でぐちゃぐちゃの黒髪を撫でる。明るいとこでは青味がかって見える潔の髪もまだ夜モードだ。
天気の悪い休日の朝は、潔もロードワークを諦めて、昼までのんびり過ごす。
だから、左手を伸ばして目覚まし時計の後ろにあるアラームのスイッチをオフにした。
「にどすみ〜、チョキ」
チョキに二度目のおやすみをする。目はとっくに覚めてるけど。
雨の音が弾ける。バチバチ激しく跳ね回ってる。
雨みたいに俺もちょっとだけ、ウキウキしてる。
強風で窓がガタガタ揺れる。びゅうびゅう風の音が聞こえてきて、大雨ってか嵐みたいだ。
そーいえば昨日、うちに来た時、潔は「明日天気悪いっぽい」ってしょんぼりしながら、ぱんぱんになったエコバッグの中身を、うちの冷蔵庫に移していた。
ってことは、今日はおうちでずっとゴロゴロできるじゃん。
俺が、そうピコーンと閃くと同時に、カーテンを貫通して眩い光が部屋を照らした。
ーードーン! ゴロゴロ ガシャーン!
「お〜……」
振動を感じるほどの雷だった。どっかに落ちたのかも。
さすがに潔もびっくりしたのか、伏せられていたまつ毛がふるふる震えるーーなんてことはなく、「うぉっ! なに?!」と布団を跳ね飛ばし、寝起きとは思えない俊敏さで元気よく起き上がった。
「寒い……」
じっと恨みがましく潔を見上げる。
「ぁ、すまん」
潔はおとなしく俺の横に寝転んで、足元で丸まっていた布団を手繰り寄せた。
一枚の布団にぎゅうぎゅうに包まれる。
俺の背中はちょっとスースーする。潔の体を布団ごと抱き寄せて、ぬくぬくついでに、いいとこにあった額に唇を押し付けた。
「雷すげー……」
雷鳴轟くベッドルーム。潔はでこちゅーより雷が気になるらしい。目尻にもちゅーしてやる。潔が見えない外に向けていた意識をやっと俺に向けた。
「せっかく凪の誕生日なのに、こんな天気じゃどこにも行けないな」
あ。たんじょーび。そういえば、俺の。
潔が昨日突然俺ん家に泊まりに来た理由にようやく思い至る。
お誕生日様の俺よりガッカリしてる潔は、もしかしたら外デートの計画でも立てようとしてくれてたのかもしれない。
「この天気のおかげで、潔とこーやってゆっくりできるんだよ」
ぽんぽんって潔の頭を撫でる。
潔が、ふっと吐息で笑った。
「……ゴロゴロしたい?」
「いえーす」
「……そうだと思って、昨日いっぱい食料買い込んできた」
「さすが潔じゃん」
「コンビニのだけど、ケーキもあるから、起きたら食べようぜ」
潔の腕が俺の腰にまわる。潔は首を伸ばして、俺の顎先にちゅーをした。は? 誘い受けじゃん。
「凪、お誕生日おめでと!」
目を細めて笑う潔が俺へのプレゼントってことで寒そうな包装を剥がして、俺のって印を大事にいっこずつつけていく。
悪天候を口実に、ベッドの上で相合布団。最高の誕生日でしょ。