凪潔SS
「もぉ、のめらいってぇ〜……」
真っ赤な顔で、ふにゃふにゃな声でギブ宣言した潔がテーブルに沈む。
潔が受け取らなかった焼酎グラスをくいっと飲み干せば、喉が熱くなった。
まあ、確かにこの味は潔には無理だったか。
腕を枕に顔を伏せてしまった潔の真っ赤な頬を人差し指でつっついた。
「おい、潔。寝る前に水飲んどけよ」
ジョッキに入った水を潔に飲ませようとすると、潔の正面の席でスマホゲームに夢中だった凪がのっそりと立ち上がった。
「お、凪トイレか? ここ出て右まっすぐ突き当たり左な」
凪の隣に座って俺と一緒に、二十歳になったばかりの潔に酒の味を教えてた玲王がすかさず凪に声をかける。
凪は生返事で歩き出すと、すぐに俺の隣ーーつまり潰れてる潔の背後に座り込み、潔の丸まった背中に覆い被さった。
「これ俺のだし」
凪がじとりと牽制するような視線を俺に向けてくるのが面白くて、潔の頬を指でグリグリしてやる。
潔が呻いて、いやいやと首を横に振る。
「あー、いじめっこだ」
「いじめてねーよ、愛情表現だろ」
にっと笑うと、むっと唇を尖らせた凪は、潔を無理やり机からひっぺがして自分の胸に潔の背中を預けさせた。
酔い潰れてくったり目を瞑った潔はいい夢でも見てるのか唇を綻ばせている。
凪はそんな潔の顎を親指と人差し指で持ち上げると、上から覗き込むようにして唇を合わせた。
げっ、まじか。
「お前なあ、いくら潔が酔い潰れてるからってなにしてもいいわけじゃねーぞ。同意ないキスは犯罪な」
ちらっと凪の保護者玲王に目を向けると、ワイングラスを口の手前で傾けて薄紫のシャツをびしょびしょに濡らしていた。赤じゃなくて白でよかったな。
「恋人同士のキスが犯罪なわけないでしょ」
見たくもない友だち同士のキスシーンに辟易してる俺たちに、凪がさらに爆弾を落とした。
玲王が「……は?」と気の抜けた声を漏らした。
お前も知らなかったのかよ。
凪にふにふにほっぺを摘まれてた潔がうっすら目を開ける。凪は、その瞳を独り占めするように潔の顔を自分の方に固定して、また唇を啄んだのか、ちゅっと軽い音が俺と玲王が息を殺して見守る室内に響いた。
「ん、なぁぎ…………らめらって、つきあってるのバレちゃうれしょ…………」
酔っ払って馬鹿になってる潔の甘ったるい声が聞こえてくると、凪がパッと潔から顔を離して、潔の体を抱き込んで俺たちから顔を見れないようにした。
「うぁ……、今の声はダメ。二人とも今すぐ忘れてよ」
「俺らだって聞きたくなかったっつーの……」
頭を抱えて項垂れる玲王に完全同意。
焼き鳥のタレで汚れたおしぼりを丸めて、凪の額に軽く投げつけた。
「つか、いつから付き合ってたんだよ」
「えー……わかんない。いつのまにか? 手繋ぐようになって、キスして、エッ」
「そこまで聞いてねーわ」
玲王がおしぼり2投目を投げて凪の額にまたヒットした。
ぐぇっ、と潔を抱えて倒れ込んだ凪の胸元で、潔は幸せそうによだれを垂らしながらぐうすか眠っている。
あーあ、こいつ明日二日酔いと記憶があったら羞恥で死ぬな。だから水飲めって言ったのに。