凪潔SS
潔世一の眠りは深い。
アジアカップ予選1回戦、2—0で日本の勝利。
その勝利に1G1Aで大貢献した潔は、宿泊している施設に戻るバスの中ですでに夢の中にいた。
試合中フルで発揮される潔の超越視界は、脳と体に負荷がかかるようで、試合後は大抵ぶっ続けで20時間以上眠り続けてしまう。
そこでついたあだ名は眠れる森のエゴイスト。
でも長いから縮めて眠り姫になった。眠りストが最終候補に残ってたけど、潔が嫌がりそうだからって理由で姫に軍配があがった。
潔は影でそう呼ばれてることを知らないけど。
じゃんけんで負けて、今日姫をベッドに運ぶ王子役は愛空になった。最悪。
愛空はそういう目で潔を見てないっていうけど、それならじゃんけんに参加しないでほしい。
愛空のあとについて潔の部屋に行こうとするのを、レオに止められ食堂に引きずられていく。
「いさぎ~……まだ寝てる?」
今回、潔との同室は千切だったけど、訪ねていくと普通にドアを開けてくれた。
これが凛とかだとガン無視するから詰むけど、大抵の奴らは俺と潔の関係を知ってるからドアくらいは開けてくれる。
さすがに部屋まで変わってくれるやつはいないけど。
「寝てるから、起こすなよ」
「うぃー……」
ベッドで丸まって眠る潔に近づいて、まろやかな頬に人差し指を突き刺す。
「んぅ……ぐぅ」
潔の眉間に皺が寄って、嫌がるように小さく首を振りシーツに頭を擦りつけた。
「あ~……かわいい」
「あ、こら。起こすなって言ってんだろ」
ふにふにのほっぺに誘惑されて、つんつんしていると後頭部に千切のチョップを食らった。地味に痛い。
「こんなんじゃ潔は起きないからダイジョーブ」
「起きなくても、嫌がってんだろ……」
「へーきへーき」
千切の呆れた視線を受けながら、潔ががっしり抱き込んでる枕を力づくで引きはがして、ぽいっと床に放る。
「おまえな……」
「こんな枕より、俺の方がいい抱き枕だから」
パタパタと枕を探してさまよう潔の腕に捕まるようにベッドに寝そべると、潔の両腕は俺の身体を見つけて、木にしがみつくコアラのように抱きついてきた。
「……すぅ」
俺の腕に額を押し付け穏やかな寝息を立てる潔の髪を撫で、後頭部に唇を押し付ける。
千切が額に手を押し当て、ため息をついた。
「ここ俺の部屋でもあるんだから、おっぱじめんなよ」
「潔が寝てるのにそんなことするわけないじゃん」
「おまえはしそうだから言ってんの」
「えー……心外。待てはちゃんと潔に躾られてるよ。わんわん」
「あーっそ」
「ぐえ」
千切は俺が捨てた枕を拾って、俺の顔面に押し付けてきた。
「じゃあ、俺は食事に行ってくるけど……部屋は譲らないから、するなよ」
「はいはい、いってらっしゃーい」
ばいばい、と手を振って千切を見送る。
部屋の扉が閉まって、眠り潔と二人きり。
薄く開いた唇の端から零れる唾液を親指で拭って、ちゅっと触れるだけのキスをした。
二人っきりだし、これくらいは許してほしい。
「…………、」
潔の寝息が乱れ、耳から首筋がじんわり赤くなっていく。
「ありゃ、起きちゃった?」
本当に眠り姫じゃん。
顎に手をかけ、顔を覗き込む。
潔はちらりと片目を開けて、すぐに閉じてしまった。
「ん、どっち?」
「……ぐー……すやすや」
「なんだ、寝てるのか……」
あまりにも可愛すぎる寝たふりに、騙されてあげることにした。
俺が無理強いしない優しい彼氏でよかったね、潔。
潔の背中に手をまわしてぽんぽんと背中を叩くと、潔はまたすぐに本物の寝息を立て始める。
潔のぽかぽか体温のおかげで俺も眠くなってきた。
ふあ、とあくびをして、潔の抱き枕としての任務を遂行することにする。
つまりは、健全な添い寝だ。
「おやすみ、よいち。またあしたね」