凪潔SS


今日こそ告るって決めて、凪の家に遊びにきてもうすぐ2時間。そろそろ帰らないと夕飯に間に合わなくなる。
半分減ったペットボトルのお茶と、凪が開けるときに中身をぶちまけたポテチの袋を見つめて、緊張で乾いた唇を舐めた。
「凪、俺……好きな人いるんだ」
からっからの声で言葉を絞り出す。
横目でじっと俺のことを見ていた凪は、つまらなそうにテーブルに頬杖をついた。
「……知ってる」
「えっ?! 知ってる?!!!」
「なに驚いてんの。わかりやすいもん、潔って」
そう言って凪が、とんでもないやつの名前を口にした。
なにが分かりやすいだよバカ。全然わかってねーじゃんか。
「ちがうし」
即答すると、凪は「じゃあ、」と言って違う名前を出してきた。
確かにサッカーうまいし、あいつのプレーには目を惹かれるけど、でも好きってそういう意味じゃないから。
「ちがう」
むっと眉間に皺を寄せ、唇を尖らせる。凪は視線を伏せて、また別の名前を挙げる。
「なに、俺凪の中でそんな恋多き男なの?」
「……そー見えるし、」
ムカつく通り越していっそ悲しくなってきた。
一世一代の告白をするのに、こうやって流されて、視線すら合わせてもらえないのが悔しくて、凪の胸ぐらを掴んだ。
ぎゅっと絞られた心臓の痛みを誤魔化すように口角をあげて、凪と強制的に視線を合わせる。
「凪は全然俺のことわかってない」
凪のいつも眠たそうな目蓋が持ち上がる。丸くなった目が可愛い。
吸い込まれるみたいに凪の唇に、自分の唇を押し付けた。
「……せいぜい意識しろ、ばーか」
パッと凪の胸ぐらから手を離して、その場から逃走しようとした。合意を得てないキスは犯罪だ。強制わいせつ罪。玲王経由で有能な弁護士雇われたら負ける。
ぼやぼやする視界の中でそんなことを考えてたら、床に放置されてた凪のジャージを踏んづけて思いっきりすっ転んだ。べたんと顔から床にダイブする。ダサすぎ。
「えっと、潔……だいじょーぶ?」
戸惑う凪の声が背後から聞こえてくる。
うつ伏せのままぐすっと鼻を鳴らして凪のジャージに鼻水をつけた。
「ねえ、もしかして泣いてる?」
「泣いてねーよ……」
突っ伏したまま立ち上がらずにいると、凪がそばに座る気配がした。ぽんっと大きな手が俺の頭をぐりぐり撫でてくる。
「俺、潔の言う通り、全然潔のことわかってなかったっぽい」
「……、」
「でも、潔も俺のこと全然わかってない。意識なら、もうずっと前からしてるし」
ちゅっと、甘い音が近くで聞こえた。首の後ろをむずむずする感覚を襲う。
「は……っ?!」
恥ずかしさで上げられなかった顔を跳ね上げて手のひらでうなじを抑える。すると今度は、唇にふわふわした柔らかいグミみたいな感触が当たった。
「な、ぅ……っ、ん、ン〜〜〜っ!」
開きかけの口の中に、ぬるぬるしたなめくじみたいなものが入りこんでくる。まつ毛の先にある榛色の瞳が、ゴール前でトラップを決める時みたいにキラキラ光っていた。
「ちょー好き。潔、俺たち両想いだね」
ペロリと濡れた唇を舐める凪がエロ過ぎて、そっと両手で凪の顔を覆った。
「あ、なにすんの」
「いやだって、今おまえ教育上よくない顔してるから……」
「え〜……どんな顔かわかんないけど、べつによくない? ここ潔と俺しかいないでしょ」
俺の手首を掴んだ凪が、熱い舌で俺の手のひらを舐めてかぷりと手首を食んだ。噛まれた脈が刺激されて、心臓がドックンドックン跳ね上がる。
「……ちょ、ぉ」
ずり下がった手のひらから現れた凪の瞳がゆるく弧を描く。

「いいね、俺のこと意識してる潔。超かわいい。そういう顔、もっと俺に見せてよ」
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