凪潔SS


「なぁぎ、洗濯物回収〜」
からっぽの洗濯かごを持った潔が俺の前に立ってカゴを突き出してくる。
「んぁ〜い……」
スマホで漫画を読んでた手を止めて、枕元あたりに溜まってたスウェットやシャツを一抱えにしてカゴの中に突っ込んだ。
「……ゴミは?」
「一昨日はちゃんとゴミ箱捨てたよ」
疑わしそうな視線を俺に向けた潔は洗濯物でいっぱいになったカゴに手を突っ込んで中を確認するようにかき混ぜた。
何回かエッチした時そのままベッドに放り投げたゴムやティッシュが洗濯物の山に巻き込まれて、知らずに洗濯機に入れてしまったことがあるから警戒しているらしい。
「ん、よし」
カゴの確認を終えた潔はベッドの下に落ちてたタオルを最後に回収すると俺の部屋から出ていった。

♦︎

「ただいま〜」
一日のトレーニングを終え、重くなった体を引きずって帰宅する。おかえりの声もなくて、家の中は自動で電気がついた玄関以外は真っ暗だった。
今日は俺の方が帰宅が早かったらしい。
リビングの床へ肩にかけてたスポーツバックを落として、電気をつけ、まっすぐ窓に向かう。
レースのカーテンを開け、潔が朝干してた洗濯物を取り込もうとするといつもより干された服が少ないことに気づいた。
そーいえば、ここ数日俺の部屋に服回収しに来てなかったかも……。
潔の服だけが揺れてる物干し竿から洗濯物を回収して床に積み上げておく。そしてジャージのポケットからスマホを取り出し、オメガのヒート管理用のスケジュールアプリを開いた。

表示されたカレンダーは来週の金曜日の日付からピンク色に塗りつぶされていた。これは潔のつけているチョーカーから体温や脈拍数などを読み取って、ヒートの開始日を予測してくれる機能がある。カレンダーがピンクに染まるとヒートが始まる可能性が高いってことだ。

自室に入りベッドを確認すると、洗濯物の山がいつもより立派な状態になっていた。
潔はヒートが近づくと、俺の洗濯物を放置する。俺が溜め込んだ洗濯物の山をそのまま巣にするつもりだからだ。
潔からしたら放っておくだけで巣ができるんだから合理的といえば合理的だけど、たまには潔が家中から俺の匂いがついた服を集めてきてせっせと巣を作る姿も見てみたい。
「……よいしょっと」
枕元にあった洗濯物を一塊抱えて、洗濯機に向かう。どさっと腕の中身を洗濯機に突っ込んで、洗剤をてきとーに入れ、スイッチを押す。
今着てるジャージや下着も脱いで一緒に洗っちゃお。
全裸になったついでにシャワーを浴びて出ると、いつのまに帰ってきたのか白いジャージ姿で立ち尽くす潔が脱衣所にいた。
「あ、潔おかえり〜」
洗濯機の上のランドリーラックからタオルを手に取って声をかけると、潔はぎろっと俺を睨んできた。
「なんで、こういうことするんだよ……っ」
「え……めっちゃ怒ってるじゃん。なに?」
「凪の服! なんで洗っちゃうんだよ! 普段ぐちゃぐちゃに放っておくくせに……凪のバカ!」
ぷんぷん怒った潔にびしょびしょの体のまま抱きつく。
「ごめん、こんな怒られると思わなかった」
「謝っても許せねー……凪のかいしょーなし」
「んぇ……そこまでいう?」
むすっと下唇を突き出した潔は俺の手からタオルを奪うと、それで俺の髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜて水気を拭ってくれた。
「明日は洗濯すんな」
「りょーかい」
「絶対だからな? 明後日も」
「ん〜……」
「もうすぐヒートだから、凪の匂いそばに置いておきたいの、わかれよ」
「あ〜……うん、わかった。俺が悪い。ごめん、潔もうしない」
「……わかればいーよ」
可愛いことを言いながら照れて俯いた潔のこめかみにちゅーして、ぐりぐり額を潔の側頭部に押し付ける。
こんなことを言われたら、もう潔に自分で巣作りしろなんて一生言えないし頼めない。
「あと凪……俺来週土曜の試合でるつもりだから」
「……いぇっさー」
最後に付け足された言葉に浮き足だった気持ちが落ち着く。
潔の首につけられたチョーカー型のプロテクターを外して、俺の歯形が残ったうなじを指先で撫でた。潔はうっとりと息を吐いて、わずかに甘いフェロモンを漏らした。
「ちょっとヒート早まるといいね」
せめて週明けすぐに来てくれたら、セックスでヒートを治めてあげられるのに。


♦︎ ♦︎


ヒート予測アプリの読み通り、金曜の夜、帰宅すると潔の誘引フェロモンで家中が甘い桃の香りでいっぱいだった。
廊下にバックを落として、自室へ直行する。
ドアを開けるとベッドの上、溜めに溜め込んだ俺の洗濯物の山を崩した上に丸まって眠っている潔がいた。
そっとベッドに近づいて、潔の顔のそばに腰を下ろす。ゆっくり目をあけた潔は、俺を見上げると瞳を蕩けさせて手を伸ばしてきた。
抱け、と脳を揺さぶる甘い誘惑に抵抗して出窓に手を伸ばす。潔のフェロモンにでも当てられたのか白い花を咲かせたチョキの横にあるアルミのケースを掴んで蓋を開け、うなじに直接打ち込むタイプの抑制剤を取り出す。
横たわったままの潔のうなじを撫でると、潔はころんとうつ伏せになってうなじを差し出してきた。薬を打つ前に、うなじに一度唇を押し付ける。潔が甘い声で鳴いた。潔がシーツを掴んでぴくぴく震えて喜んでる隙に、うなじに抑制剤を打ち込む。
これで強制的にヒートを治めると24時間は発情フェロモンを抑え込める。継続する場合は24時間以内にもう一発打てばいいけど、この抑制剤は打てば打つほど副作用が強くなるからあんまり潔には使ってほしくない。でも俺はストライカー潔世一の番だから、そんな甘っちょろいことは口にできないし、したくなかった。

「なぎ……きもちわるい…………」
「うん、だいじょーぶ。そばにいるから」
この抑制剤はオメガの発情フェロモンが治るまで大体1時間程度、ヒートを上回る体の不快症状で発情を強制的に治める。
潔の場合は吐き気や眩暈、頭痛が主な症状だ。一時間を過ぎれば症状は落ち着いて眠りにつくんだけど、それまでは体をさすってあげることしかできない。
ぐちゃぐちゃになった自分の服の上に寝そべって、唸る潔を抱き込んで丸くなった背中を撫でた。

翌朝ケロッとすっきり爽やかな顔をした潔は、夜通し潔の見守りをしていた俺を置いて、意気揚々と試合に出かけて行った。
テレビで潔の活躍を見ながら、帰ってきたら絶対抱き潰すと心に決める。明日は俺の試合があるけど、俺は潔とヤッた方が調子がいいから問題ない。
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