凪潔SS
「……ん、雪……?」
窓もカーテンも閉じ切った真っ暗な寝室のベッドの上で、ゆっくり目蓋を持ち上げた潔は、眠そうな眼を出窓に向けた。
羽毛布団に毛布、ふわふわの敷パッドに潔。
寒い冬を暖かく乗り越えるためのベッドの上のアイテムが、腕から一つ抜け出ていこうとする。
思わずぎゅっと力を込めて、潔を腕の中に閉じ込めた。
「うー……凪、おはよ」
俺の胸に顔を押し付けられた潔がもごもご挨拶をする。
「んー……おはよには早いかな。おやすみ」
ぽんぽんと潔の背中を叩いて、ずり落ちた布団を潔の頭まですっぽり覆う。
潔はもぞもぞ動いて布団から顔を出すと、また「雪」と言った。
「……もしかして、雪好きなの?」
雪なんて寒いし冷たいし、積もったら滑るし凍るしでめんどくさいと思うけど、潔は雪遊びがしたいのだろうか。
一緒に雪合戦でもしようとか言われたらだるいけど、雪にはしゃぐ潔は子どもみたいでちょっとかわいいかもしれない。
潔のくしゃくしゃの前髪に額を押し当てると、潔はきゅっと目をつぶった。
「んー、雪っていうかさ、雪が降った朝って静かじゃん? それって、寒いのと、音の振動が人の耳に届く前に、雪が音を吸収するかららしいんだけど……だから、なんか」
目をあけた潔が内緒話をするように声を潜める。
「いま、世界に俺と凪の二人きりみたいだなって」
潔の瞳が、弧を描く。
今、俺は確実に死んだ。
一度大きく跳ねて消えた俺の心臓に耳を当てた潔は、唇を綻ばせて、俺の背中に手をまわし、とどめを刺してきた。
「あと寒いから、凪とくっつきたくなる」
口の中に大量に溜まった唾液をごくりと飲み下して、潔の上に覆いかぶさった。
布団の隙間から入り込む冷気に身体が冷える前に、お互いの温もりで暖をとる。
今年初めての雪は、カーテンを開ける頃にはもう溶けて、地面に染みを残すだけになっていた。