凪潔SS


「なぁぎ」

ベッドに肘をついて寝転がり、ゲームをしてる凪に声をかける。凪はスマホを見つめたまま「んー」と気のない返事をした。スマホをタップする手は忙しそうで、俺は凪の意識の外だ。

同室の馬狼は一足先に身支度を整えて食堂へ、その次に起き出した千切はシャワーを浴びに行った。俺は凪を起こして、ゲームのデイリーをこなす凪を待ってるとこ。
先に俺が食堂に行くと凪は拗ねるし、めんどくさーいとか言ってご飯を食べなくなるから10分だけ凪のゲーム待ちをする。

凪の使っているベッドに腰掛けて、後ろから凪のスマホ画面を覗き込む。凪は俺の存在を気に留めないで、ズバババとゲームの中で銃をぶっ放していた。
「なぁぎ、もう10分経つよ」
「んー……」
つんつんと背中を突いてみる。
俺はこうされたらくすぐったいけど、凪は無反応だ。感度が死んでるのかも。
ごろんと凪の背中に寝そべる。あったかくて広い枕だ。凪がパタパタと足を動かした。
「おわったか?」
「あ〜……あと…………、」
凪の返事が途絶えた。ゲームに夢中で、完全に意識を遮断されたっぽい。
凪の背中に頭を預けたまま、天井を睨みつけて唇を尖らせる。

「10秒以内に終わりにしないと、もう一生ちゅ、ちゅぅしてやんない」
いいかげん腹減ったし、心を鬼にしてそう宣言する。べつに構ってもらえないのが寂しかったわけじゃない。だってもう約束の10分過ぎてるし、はやくご飯食べて練習したいし。
凪が「うへえ、めんどくさ……」とぼやいた。
めんどくさくて悪かったな。
ムッとして早口でカウントを開始する。
「10 9 8 7」
「あーまってまって、あと10秒」
そうのんびり口にした凪が振り向いて、肩越しに目が合う。
「なーな、ろーーく、ごーーー、よーーーーん 」
カウントが凪の口調につられて甘くなる。
「さーーーーん、にーーーーー……まだ?」
目尻をゆるめた凪が体を捻りながら起きる。凪の背枕を満喫していた俺の頭は、座った凪の膝の上に落ちた。
「はい、ちゅぅ」
背中を丸めた凪が、俺の唇に音を立てて触れた。
「ちゅーしろなんて言ってなくね?」
「そーだっけ?」
すっとぼける凪に頬を撫でられて、目を細める。凪は俺の頬を人差し指でつんつん触れて、首をこてんと横に倒した。

「潔って意外と甘えんぼさんだよね」

それはきっと、お前にだけかも。
18/36ページ
スキ