凪潔SS
久しぶりの脱獄。
前と同じ二週間の休暇に、収監中はめったに二人っきりになれない潔から、「明日、凪の家行ってもいい?」なんて聞かれたら、そりゃ期待するでしょ。
俺たち、付き合ってるわけだし。
ゴムもローションも新しいの準備して、柄にもなく、駅まで潔のこと迎えに行って、家について速攻で後ろから抱き着いたら、潔はエロいこととは無縁そうな、キラキラした目で俺を見上げた。
「凪、昨日のプレミアリーグの試合一緒に見よ!」
なんとかっていう選手のゴールがすごくて、って語る潔の声が、耳を滑っていく。
へー、そうなんだ。
俺の興味皆無の声色なんてまったく気にしないで、床に座った潔がスマホを手に取った。
「……テレビ使っていーよ」
潔にリモコンを握らせて、ベッドと潔の間に身体をねじ込ませた。潔はもう動画に夢中で、俺の存在を気にも止めない。
潔が集中しだしたら、俺の声は潔の耳に届かないし、大抵なにをやっても気づかれない。
ちゅうっと汗ばんだ首筋に吸い付いた。しょっぱい。
あんまやりすぎると、「ジャマすんなら帰る」って言われかねないから、潔に怒られないギリギリのスキンシップを楽しむ。
腹を撫でるのはセーフ。頬にキスもオッケー、視界を塞ぐのはダメだから、口にキスはできない。首を舐めるのは……身じろいだけど、いいっぽい。腹を撫でていた手を、シャツの裾からもぐりこませて乳首を触ろうとしたら、ぺしっと手を叩かれた。大人しく腹に戻って、潔の腹筋の薄い線を撫でる。
「ん~……」
潔の肩に顔を埋めて、すんっと匂いを嗅ぐ。制汗スプレーっぽいミントの匂いがした。
あー……こーいうのもいーかも。
窓から差し込む春のぽかぽかした日差しと、潔の体温に誘われて、うとうとしていると、潔が突然立ち上がった。
「うぇっ」
潔の肩から頭が落ちて、眠気が吹っ飛んでいく。
「動画見てたら、サッカーしたくなった! 駅から凪んち向かう途中であったおっきい公園球技オッケーだよな。あそこいこ」
目ざとすぎるだろ。
潔は俺がベッドの下に隠してたサッカーボールを見つけて取り出すと、俺の手を引っ張った。
「ほら、いこーぜ」
「んぇ~……休暇中くらいゆっくりいちゃいちゃしよーよ」
「今いっぱいいちゃいちゃしてたでしょ……!」
なんだ、気付いてたんじゃん。
「え~、あんなんじゃ足りなーい。もっとしよ?」
潔を見上げて、首を傾げる。潔は、じわじわ頬を赤くしてぷいっとそっぽを向いた。
「か、……帰ってきたら…………。今日、凪んち泊まるつもりだし、」
「え?」
「いーから、行くぞ!」
ボールを抱えた潔が、玄関まで走って逃げていく。
騒がしい扉が閉まる音がして、ようやく重たい腰を上げる。
「いま、俺めっちゃいい彼氏じゃん……」
このまま横になって昼寝したっていいのに、ちゃんと潔を追っかける気持ちになった自分を称えて、のろのろスニーカーを履いて外に出る。
ドアの前、ボールの上に座って待ってた潔が「遅い」と文句を言った。
♡ ♡ ♡
散歩を喜ぶ犬みたいに、リード代わりの俺の腕をぐんぐん引っ張った潔に連れられて公園にたどり着くと、速攻でチビたちに囲まれた。
「うわ、でっけえ。巨人だ、巨人!」
足元でぎゃあぎゃあ喚く三人のチビを見下ろすと、取って食うわけでもないのに、びくっと身体を跳ねさせたチビらが潔の後ろに隠れた。
「おい、凪。いじめんなよ」
「いじめてないしー」
ぷっと笑った潔が、しゃがんで近くにいた茶髪のチビの頭を撫でた。
「このお兄ちゃんデカいだけで、こわくないって」
潔が俺を指さす。
茶髪のチビは俺を凝視していた視線を外して、潔を見ると、目を丸くした。
「いさぎよいちじゃん!」
「え……呼び捨て?」
チビが潔を指さして、フルネームを叫ぶ。それに気づいて、公園で遊んでた他のチビも集まってきた。
「うわー! いさぎよいち、本物?」
「一応、本物だけど……」
潔はへにょんと眉を下げて、人差し指で頬を掻いた。
一応っていうか完全に本物じゃん。
「じゃあ、こっちのおまえ、なぎせいしろー? まじでっか!」
「おまえっていうな、チビ」
生意気そうなチビの頭を片手で掴んで、ぐりぐりする。
「チビじゃねえ! ってか、もしかしてサッカーしにきたの?」
生意気少年の瞳が、さっきの潔みたいにキラキラ光り出す。
はー……。
最悪の展開を予想して、首に右手を当て、雲一つない潔の目みたいな青空を仰ぐ。
「俺たちとサッカーしよ!」
きゃんっと子犬が吠えるみたいな誘いに、俺の愛犬潔は簡単に乗ってしまった。
……マジ無理。子どもの体力無限大すぎ。
「もーむり。俺、きゅうけー」
足元に纏わりつくチビ二人を引きずって、足で引いた歪なラインのコートから出て、地面に座り込む。
「どーん!」
「ぐへえ」
しゃがんだ途端、背中からチビがよじ登ってきた。
振り払ってもすぐまた昇ってくるから、もう好きなようにさせておくしかない。
「こんなん全然デートじゃねーじゃん……」
ちびっこ三人相手にまだ走りまわってる潔は、おとなげなくボールを一人でキープして、正面から同時に突っ込んでくる三人をひらりと交わすと、バックヒールショットを決め、ゴール線の上にボールを通過させた。
潔が振り向いて、俺を見る。
夕日を背負った潔は、きらきら輝く笑顔を浮かべ、俺に向かってVサインを見せた。
「はー……ずっる」
なんだよその笑顔。無敵じゃん。心臓えっぐ。
バグを起こした心臓を押さえて、俺を遊具にするチビたちに話しかける。
「ねー、あのかっこいいの俺の。いーでしょ」
意味なんてわからないだろうけど、自慢する。
ふーん、とか、そーなんだ、とかどうでも良さそうな返事を聞いてると、ドリブルした潔がチビを引き連れてこっちにやってきた。
「凪、そろそろ帰ろーぜ。お前らも、もう終わりな」
足を止めた潔は、しゃがんだ俺の股の間にボールを転がした。
潔は、もうちょっとっと強請るチビの頭を撫でて、Tシャツの裾をめくり、額に浮いた汗をそこで拭った。
汗の浮かんだ腹筋がエロい。
「ファンサあざっす」
「は? なに、……バカだろ」
潔は俺の視線に気づいて、さっとシャツの裾を下ろした。
俺にエロい目で見られてるって気づいた潔もエロいな。
「もーかえろー。おなかへったー」
潔の肩にもたれかかって、空腹を訴える。
潔不足でぺこぺこの身体を満たしてほしい。
潔はチビから手を離して、くしゃっと笑うと、俺の前髪をよしよしと撫でてくれた。
「やっと構ってもらえてよかったな、セイシロー」
くそ生意気そうな顔をしたチビが俺を見上げて、ぽんっと太ももを叩いてくる。
「いや……おまえらのせいで構ってもらえなかったんだけど」
チビを見下ろして背中を丸め、ぽふっと頭の上に手を乗せる。
「いさぎよいち、セイシローずっとお前と遊びたそうに見てたから、帰ったらいっぱい遊んでやって」
なぜか兄貴面したチビは、潔に向かってそう言った。
潔は、一瞬目を丸くして、それから肩を揺らして爆笑した。
「凪、良いお兄ちゃんができてよかったじゃん」
「え~……」
俺、今日ずっといいお兄ちゃんだったつもりなんだけど。
まーいいか。帰ったら潔にいっぱい遊んでもらえそうだし。
「ほら、もう解散しろ、お前ら。五時過ぎてるし、早く帰んなきゃ怒られるだろ?」
笑いが落ち着いた潔が、チビたちに解散を促す。
チビたちは公園の時計台を目にして「やっべ!」と走り出した。
あっという間にチビたちがいなくなって、人気の少なくなった公園で、ぴたっと潔にくっつく。
「……なに?」
「ん~……ちょいつまみぐい」
俺を見上げる潔の唇を、ちゅっと奪うと、潔の顔が夕日より真っ赤に染まった。
「ここ外!」
「もう薄暗くなってきたし、見えないって」
もう一回しときたいけど、そこは今夜のために我慢して、潔から離れる。
潔が俺の肩を掴んだ。振り向きざまに、唇を奪われる。
「……見えないんだろ?」
目じりを下げた潔が、小さく笑った。
あ~~~……………その表情も、ちょー好き。
前と同じ二週間の休暇に、収監中はめったに二人っきりになれない潔から、「明日、凪の家行ってもいい?」なんて聞かれたら、そりゃ期待するでしょ。
俺たち、付き合ってるわけだし。
ゴムもローションも新しいの準備して、柄にもなく、駅まで潔のこと迎えに行って、家について速攻で後ろから抱き着いたら、潔はエロいこととは無縁そうな、キラキラした目で俺を見上げた。
「凪、昨日のプレミアリーグの試合一緒に見よ!」
なんとかっていう選手のゴールがすごくて、って語る潔の声が、耳を滑っていく。
へー、そうなんだ。
俺の興味皆無の声色なんてまったく気にしないで、床に座った潔がスマホを手に取った。
「……テレビ使っていーよ」
潔にリモコンを握らせて、ベッドと潔の間に身体をねじ込ませた。潔はもう動画に夢中で、俺の存在を気にも止めない。
潔が集中しだしたら、俺の声は潔の耳に届かないし、大抵なにをやっても気づかれない。
ちゅうっと汗ばんだ首筋に吸い付いた。しょっぱい。
あんまやりすぎると、「ジャマすんなら帰る」って言われかねないから、潔に怒られないギリギリのスキンシップを楽しむ。
腹を撫でるのはセーフ。頬にキスもオッケー、視界を塞ぐのはダメだから、口にキスはできない。首を舐めるのは……身じろいだけど、いいっぽい。腹を撫でていた手を、シャツの裾からもぐりこませて乳首を触ろうとしたら、ぺしっと手を叩かれた。大人しく腹に戻って、潔の腹筋の薄い線を撫でる。
「ん~……」
潔の肩に顔を埋めて、すんっと匂いを嗅ぐ。制汗スプレーっぽいミントの匂いがした。
あー……こーいうのもいーかも。
窓から差し込む春のぽかぽかした日差しと、潔の体温に誘われて、うとうとしていると、潔が突然立ち上がった。
「うぇっ」
潔の肩から頭が落ちて、眠気が吹っ飛んでいく。
「動画見てたら、サッカーしたくなった! 駅から凪んち向かう途中であったおっきい公園球技オッケーだよな。あそこいこ」
目ざとすぎるだろ。
潔は俺がベッドの下に隠してたサッカーボールを見つけて取り出すと、俺の手を引っ張った。
「ほら、いこーぜ」
「んぇ~……休暇中くらいゆっくりいちゃいちゃしよーよ」
「今いっぱいいちゃいちゃしてたでしょ……!」
なんだ、気付いてたんじゃん。
「え~、あんなんじゃ足りなーい。もっとしよ?」
潔を見上げて、首を傾げる。潔は、じわじわ頬を赤くしてぷいっとそっぽを向いた。
「か、……帰ってきたら…………。今日、凪んち泊まるつもりだし、」
「え?」
「いーから、行くぞ!」
ボールを抱えた潔が、玄関まで走って逃げていく。
騒がしい扉が閉まる音がして、ようやく重たい腰を上げる。
「いま、俺めっちゃいい彼氏じゃん……」
このまま横になって昼寝したっていいのに、ちゃんと潔を追っかける気持ちになった自分を称えて、のろのろスニーカーを履いて外に出る。
ドアの前、ボールの上に座って待ってた潔が「遅い」と文句を言った。
♡ ♡ ♡
散歩を喜ぶ犬みたいに、リード代わりの俺の腕をぐんぐん引っ張った潔に連れられて公園にたどり着くと、速攻でチビたちに囲まれた。
「うわ、でっけえ。巨人だ、巨人!」
足元でぎゃあぎゃあ喚く三人のチビを見下ろすと、取って食うわけでもないのに、びくっと身体を跳ねさせたチビらが潔の後ろに隠れた。
「おい、凪。いじめんなよ」
「いじめてないしー」
ぷっと笑った潔が、しゃがんで近くにいた茶髪のチビの頭を撫でた。
「このお兄ちゃんデカいだけで、こわくないって」
潔が俺を指さす。
茶髪のチビは俺を凝視していた視線を外して、潔を見ると、目を丸くした。
「いさぎよいちじゃん!」
「え……呼び捨て?」
チビが潔を指さして、フルネームを叫ぶ。それに気づいて、公園で遊んでた他のチビも集まってきた。
「うわー! いさぎよいち、本物?」
「一応、本物だけど……」
潔はへにょんと眉を下げて、人差し指で頬を掻いた。
一応っていうか完全に本物じゃん。
「じゃあ、こっちのおまえ、なぎせいしろー? まじでっか!」
「おまえっていうな、チビ」
生意気そうなチビの頭を片手で掴んで、ぐりぐりする。
「チビじゃねえ! ってか、もしかしてサッカーしにきたの?」
生意気少年の瞳が、さっきの潔みたいにキラキラ光り出す。
はー……。
最悪の展開を予想して、首に右手を当て、雲一つない潔の目みたいな青空を仰ぐ。
「俺たちとサッカーしよ!」
きゃんっと子犬が吠えるみたいな誘いに、俺の愛犬潔は簡単に乗ってしまった。
……マジ無理。子どもの体力無限大すぎ。
「もーむり。俺、きゅうけー」
足元に纏わりつくチビ二人を引きずって、足で引いた歪なラインのコートから出て、地面に座り込む。
「どーん!」
「ぐへえ」
しゃがんだ途端、背中からチビがよじ登ってきた。
振り払ってもすぐまた昇ってくるから、もう好きなようにさせておくしかない。
「こんなん全然デートじゃねーじゃん……」
ちびっこ三人相手にまだ走りまわってる潔は、おとなげなくボールを一人でキープして、正面から同時に突っ込んでくる三人をひらりと交わすと、バックヒールショットを決め、ゴール線の上にボールを通過させた。
潔が振り向いて、俺を見る。
夕日を背負った潔は、きらきら輝く笑顔を浮かべ、俺に向かってVサインを見せた。
「はー……ずっる」
なんだよその笑顔。無敵じゃん。心臓えっぐ。
バグを起こした心臓を押さえて、俺を遊具にするチビたちに話しかける。
「ねー、あのかっこいいの俺の。いーでしょ」
意味なんてわからないだろうけど、自慢する。
ふーん、とか、そーなんだ、とかどうでも良さそうな返事を聞いてると、ドリブルした潔がチビを引き連れてこっちにやってきた。
「凪、そろそろ帰ろーぜ。お前らも、もう終わりな」
足を止めた潔は、しゃがんだ俺の股の間にボールを転がした。
潔は、もうちょっとっと強請るチビの頭を撫でて、Tシャツの裾をめくり、額に浮いた汗をそこで拭った。
汗の浮かんだ腹筋がエロい。
「ファンサあざっす」
「は? なに、……バカだろ」
潔は俺の視線に気づいて、さっとシャツの裾を下ろした。
俺にエロい目で見られてるって気づいた潔もエロいな。
「もーかえろー。おなかへったー」
潔の肩にもたれかかって、空腹を訴える。
潔不足でぺこぺこの身体を満たしてほしい。
潔はチビから手を離して、くしゃっと笑うと、俺の前髪をよしよしと撫でてくれた。
「やっと構ってもらえてよかったな、セイシロー」
くそ生意気そうな顔をしたチビが俺を見上げて、ぽんっと太ももを叩いてくる。
「いや……おまえらのせいで構ってもらえなかったんだけど」
チビを見下ろして背中を丸め、ぽふっと頭の上に手を乗せる。
「いさぎよいち、セイシローずっとお前と遊びたそうに見てたから、帰ったらいっぱい遊んでやって」
なぜか兄貴面したチビは、潔に向かってそう言った。
潔は、一瞬目を丸くして、それから肩を揺らして爆笑した。
「凪、良いお兄ちゃんができてよかったじゃん」
「え~……」
俺、今日ずっといいお兄ちゃんだったつもりなんだけど。
まーいいか。帰ったら潔にいっぱい遊んでもらえそうだし。
「ほら、もう解散しろ、お前ら。五時過ぎてるし、早く帰んなきゃ怒られるだろ?」
笑いが落ち着いた潔が、チビたちに解散を促す。
チビたちは公園の時計台を目にして「やっべ!」と走り出した。
あっという間にチビたちがいなくなって、人気の少なくなった公園で、ぴたっと潔にくっつく。
「……なに?」
「ん~……ちょいつまみぐい」
俺を見上げる潔の唇を、ちゅっと奪うと、潔の顔が夕日より真っ赤に染まった。
「ここ外!」
「もう薄暗くなってきたし、見えないって」
もう一回しときたいけど、そこは今夜のために我慢して、潔から離れる。
潔が俺の肩を掴んだ。振り向きざまに、唇を奪われる。
「……見えないんだろ?」
目じりを下げた潔が、小さく笑った。
あ~~~……………その表情も、ちょー好き。