モブになった僕&私が降新のラブを目の当たりにする話
降新にあてられるモブな私♂♀(当て馬や見守り設定)
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「お姉さま」
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
お姉さまの姿を見るたび、この言葉がこれほど似合う人は他にはいないだろうと思う。
濡れ羽色の長い髪がさらさらと風に靡く。やぼったく見える濃紺のセーラー服も、お姉さまが着ればまるでドレスのよう。すらりと長い手足を優雅に動かし、振り返ったお姉さまは私の姿を見つけると、小さく微笑んだ。
「ごきげんよう」
春の色をした麗しい唇から、少しハスキーな声が聞こえる。蒼い海を彷彿とさせる宝石のような瞳に、私の姿だけが映っていた。
藤峰さまよ、と色めき立つ声がする。「今日もお美しいわ」「昨日の音楽の授業でヴァイオリンを披露したという話はもう聞いた?」「一昨日の体育の授業で活躍した話は?」「英語の抜き打ちテストで一人満点だったという話もよ」箱庭の中に生きる誰もが、お姉さまに注目している。
そんなお姉さまのことを「お姉さま」と呼べるのは私だけの特権。
季節外れの転校生であったお姉さまと、私が出逢ったのは運命だった。中庭でお姉さまが迷子になっていたところに、私が声をかけたのがきっかけ。それから何度か声をかけるうちに、お姉さまは、私のことを「妹のように可愛い」と言ったの。だから私も「お姉さまがいたらこんな感じかしら」と返して、二人でくすりと笑いあった。その日から、私とお姉さまは姉妹になった。
「ごきげんよう、お姉さま。あのね、今日は調理実習があったの」
手にしていた小さな紙袋から手のひらサイズの袋を取り出して、お姉さまに差し出す。
「……私に? ありがとう」
お姉さまは白雪のような手のひらの上に袋を乗せて、蒼いリボンでとめていた封をあけた。
「クッキー? おいしそうね」
「ねえ、食べてみて」
お姉さまの腕にくっついて上目遣いでそうねだる。お姉さまは困ったように眉尻を下げて「お行儀が悪いわ」と私の額を突っついた。
「藤峰さん、いまいいかな」
後ろから嫌な声が聞こえた。ぼそぼそとこもった喋り方。鼓膜を震わす低い音に胸の中がムカムカしてくる。
お姉さまは、私の後ろに視線を向け、その美しい瞳に、地味で暗くて悍しいものを映した。
「はい、大丈夫です。宮藤先生」
宮藤──宮藤はじめ。産休にはいった国語の先生の代わりに臨時で雇われている教師だ。背は高いけれどいつも背筋を丸めておどおどしている。前髪の長い黒髪はいつもボサボサで不潔だし、オタクみたいなフレームの太い黒縁メガネもきっと指紋がベタベタで汚らしいに違いない。
帰国子女のお姉さまは、国語があまり得意ではないとかで、放課後この教師に補講してもらっている。
「ごめんね。クッキーはあとでいただくわ」
お姉さまはリボンを不格好に結ぶと、私の頭を一撫でしてくれた。それだけで、体の中の憤りが解消されていく。
褐色肌の宮藤の隣に並ぶと、お姉さまの色の白さが一層際立ち、煌めいているように見えた。
♦︎
「っあー! 疲れる! 蒸れる!」
ガバッと足を開いて椅子に座った新一くんは、頭を掻き毟って、膝下丈のスカートをたくし上げた。そしてスカートの裾でバタバタと風を送る。
我が校で品行方正、淑女の鏡と囁かれる藤峰透。その中の人は、立派な男の子、大学生探偵工藤新一その人である。
「こら、いくら人目がないからと言って、油断しない」
丸めた国語の教科書で軽く頭を叩く。新一くんは「体罰反対」と唇をとがらせ、頬を膨らませた。
国語の補講を名目に自習室を貸し切っているから、いまこの場には僕と新一くんの二人しかいない。とはいえ、教師と生徒二人きりの部屋で鍵をかけるわけにもいかないので密室ではない。いつ他の誰かがこの部屋に入ってきてもおかしくはないのだ。だから新一くんも、一番蒸れているはずのウィッグを外さずに耐えているのだろう。
藤峰透と、宮藤はじめ。
いまの僕たちの偽名だ。僕は、公安のマークしている宗教団体に不穏な動きがあり、掴んだ情報からなにかあると踏み、この全寮制の女子高に教師として潜入した。そうしたら、女装して女の子にモテモテになっている新一くんを発見してしまった。
新一くんのほうは、詳しくは教えてくれないが、どうやらこの高校の学園長から行方不明になっている少女を探してほしい、と依頼を受けてやってきたようだ。
利害が一致しそうだと判断し、いまは新一くんとは協力体制を敷いている。
「さっきのクッキーもらってもいい?」
「ん」
新一くんが机の上に水色の袋に青いリボンがついた袋をのせた。
「何か入ってるとおもう?」
「さあ、どうかな。調べてみないと」
ジャケットのポケットにクッキーをしまう。新一くんが理想のお姉さまを演じて接触している相手こそ、僕たちがターゲットにしている少女だった。両親が件の宗教組織の幹部で、失踪した少女が懇意にしていた相手。
「なあ、」
机に突っ伏していた新一くんが、甘えた声をだした。すらりとした白い指が細い首の中央を押す。
「くどうせんせ、」
声質が変わる。少年っぽさが残った甘い声が、僕を誘う。
新一くんは、自分が座っていた椅子から、パイプ椅子に座る僕の上に移動した。パイプ椅子が軋む。激しくすると壊れそうだ。新一くんが僕の首にするりと腕を回してきた。
「……れーさん」
耳元で僕にだけ聞こえるように、新一くんが名前を呼ぶ。
新一くんの耳たぶを、くすぐるようにつまむ。
「してもいい?」
恥ずかしそうに俯く癖に、大胆にスカートの裾を持ち上げた新一くんが腰を揺らす。ん、と掠れたいやらしい声が室内に響いた。腰に手を回す。新一くんは僕のメガネを外し、後ろ手にテーブルの上に置くと、僕の頬を両手でつかみ、上から唇を押し付けてきた。
ガタッ!
扉の外で物音がする。クッ、と口端を吊り上げた新一くんがにんまり笑う。
「これで釣れっかな?」
「……きみのそういうとこ、大好きだよ」
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
お姉さまの姿を見るたび、この言葉がこれほど似合う人は他にはいないだろうと思う。
濡れ羽色の長い髪がさらさらと風に靡く。やぼったく見える濃紺のセーラー服も、お姉さまが着ればまるでドレスのよう。すらりと長い手足を優雅に動かし、振り返ったお姉さまは私の姿を見つけると、小さく微笑んだ。
「ごきげんよう」
春の色をした麗しい唇から、少しハスキーな声が聞こえる。蒼い海を彷彿とさせる宝石のような瞳に、私の姿だけが映っていた。
藤峰さまよ、と色めき立つ声がする。「今日もお美しいわ」「昨日の音楽の授業でヴァイオリンを披露したという話はもう聞いた?」「一昨日の体育の授業で活躍した話は?」「英語の抜き打ちテストで一人満点だったという話もよ」箱庭の中に生きる誰もが、お姉さまに注目している。
そんなお姉さまのことを「お姉さま」と呼べるのは私だけの特権。
季節外れの転校生であったお姉さまと、私が出逢ったのは運命だった。中庭でお姉さまが迷子になっていたところに、私が声をかけたのがきっかけ。それから何度か声をかけるうちに、お姉さまは、私のことを「妹のように可愛い」と言ったの。だから私も「お姉さまがいたらこんな感じかしら」と返して、二人でくすりと笑いあった。その日から、私とお姉さまは姉妹になった。
「ごきげんよう、お姉さま。あのね、今日は調理実習があったの」
手にしていた小さな紙袋から手のひらサイズの袋を取り出して、お姉さまに差し出す。
「……私に? ありがとう」
お姉さまは白雪のような手のひらの上に袋を乗せて、蒼いリボンでとめていた封をあけた。
「クッキー? おいしそうね」
「ねえ、食べてみて」
お姉さまの腕にくっついて上目遣いでそうねだる。お姉さまは困ったように眉尻を下げて「お行儀が悪いわ」と私の額を突っついた。
「藤峰さん、いまいいかな」
後ろから嫌な声が聞こえた。ぼそぼそとこもった喋り方。鼓膜を震わす低い音に胸の中がムカムカしてくる。
お姉さまは、私の後ろに視線を向け、その美しい瞳に、地味で暗くて悍しいものを映した。
「はい、大丈夫です。宮藤先生」
宮藤──宮藤はじめ。産休にはいった国語の先生の代わりに臨時で雇われている教師だ。背は高いけれどいつも背筋を丸めておどおどしている。前髪の長い黒髪はいつもボサボサで不潔だし、オタクみたいなフレームの太い黒縁メガネもきっと指紋がベタベタで汚らしいに違いない。
帰国子女のお姉さまは、国語があまり得意ではないとかで、放課後この教師に補講してもらっている。
「ごめんね。クッキーはあとでいただくわ」
お姉さまはリボンを不格好に結ぶと、私の頭を一撫でしてくれた。それだけで、体の中の憤りが解消されていく。
褐色肌の宮藤の隣に並ぶと、お姉さまの色の白さが一層際立ち、煌めいているように見えた。
♦︎
「っあー! 疲れる! 蒸れる!」
ガバッと足を開いて椅子に座った新一くんは、頭を掻き毟って、膝下丈のスカートをたくし上げた。そしてスカートの裾でバタバタと風を送る。
我が校で品行方正、淑女の鏡と囁かれる藤峰透。その中の人は、立派な男の子、大学生探偵工藤新一その人である。
「こら、いくら人目がないからと言って、油断しない」
丸めた国語の教科書で軽く頭を叩く。新一くんは「体罰反対」と唇をとがらせ、頬を膨らませた。
国語の補講を名目に自習室を貸し切っているから、いまこの場には僕と新一くんの二人しかいない。とはいえ、教師と生徒二人きりの部屋で鍵をかけるわけにもいかないので密室ではない。いつ他の誰かがこの部屋に入ってきてもおかしくはないのだ。だから新一くんも、一番蒸れているはずのウィッグを外さずに耐えているのだろう。
藤峰透と、宮藤はじめ。
いまの僕たちの偽名だ。僕は、公安のマークしている宗教団体に不穏な動きがあり、掴んだ情報からなにかあると踏み、この全寮制の女子高に教師として潜入した。そうしたら、女装して女の子にモテモテになっている新一くんを発見してしまった。
新一くんのほうは、詳しくは教えてくれないが、どうやらこの高校の学園長から行方不明になっている少女を探してほしい、と依頼を受けてやってきたようだ。
利害が一致しそうだと判断し、いまは新一くんとは協力体制を敷いている。
「さっきのクッキーもらってもいい?」
「ん」
新一くんが机の上に水色の袋に青いリボンがついた袋をのせた。
「何か入ってるとおもう?」
「さあ、どうかな。調べてみないと」
ジャケットのポケットにクッキーをしまう。新一くんが理想のお姉さまを演じて接触している相手こそ、僕たちがターゲットにしている少女だった。両親が件の宗教組織の幹部で、失踪した少女が懇意にしていた相手。
「なあ、」
机に突っ伏していた新一くんが、甘えた声をだした。すらりとした白い指が細い首の中央を押す。
「くどうせんせ、」
声質が変わる。少年っぽさが残った甘い声が、僕を誘う。
新一くんは、自分が座っていた椅子から、パイプ椅子に座る僕の上に移動した。パイプ椅子が軋む。激しくすると壊れそうだ。新一くんが僕の首にするりと腕を回してきた。
「……れーさん」
耳元で僕にだけ聞こえるように、新一くんが名前を呼ぶ。
新一くんの耳たぶを、くすぐるようにつまむ。
「してもいい?」
恥ずかしそうに俯く癖に、大胆にスカートの裾を持ち上げた新一くんが腰を揺らす。ん、と掠れたいやらしい声が室内に響いた。腰に手を回す。新一くんは僕のメガネを外し、後ろ手にテーブルの上に置くと、僕の頬を両手でつかみ、上から唇を押し付けてきた。
ガタッ!
扉の外で物音がする。クッ、と口端を吊り上げた新一くんがにんまり笑う。
「これで釣れっかな?」
「……きみのそういうとこ、大好きだよ」
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