モブになった僕&私が降新のラブを目の当たりにする話
降新にあてられるモブな私♂♀(当て馬や見守り設定)
名前変換設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大学入学したての新一くんとラ●ンするの枠外でいちゃいちゃしてる降新のはなし
0415
――現在、恋敵大量発生中。ただちに状況を確認されたし。
ソファの上に放置されたスマホが放つメッセージの受信音は、警告音だ。
今月大学に進学したばかりの恋人は今、環境の変化に伴う新しい人間関係を構築する期間にある。
そうしたいわゆる出逢いの期間に、やたらと顔が良いだけではなく、高校生探偵としても有名だった彼の周りに、有象無象の輩が蔓延ることはとっくに予想済みである。
当のスマホの持ち主でもあり、僕の恋人でもある新一くんは、ソファに仰向けで寝そべり、学校帰りに買って来た推理小説に没頭しているためスマホに興味を示していなかった。
恐らくここで僕がスマホを操作し、メッセージを代わりに確認したところでなんの反応もしないだろう。
「新一くん」
スーツのジャケットを椅子の背にかけてから、ソファの脇に移動した。新一くんを踏まないようソファの隅に腰をかけ、恋人の名前を呼ぶと、気の乗らない声が返ってくる。
「スマホ鳴ってるよ」
「ん……」
「ほら、急用かもしれないよ?」
「んー」
ソファの肘掛部分に放りだされていた左足が、僕の膝の上に置き場を変えた。
「足癖が悪いな」
白い靴下を脱がせ、むき出しになった足の裏に指を立て、そうっと指を広げたり狭めたりを繰り返す。新一くんが身体を捻りながら笑った。逃げ出そうとする足首を掴んで、思いっきりくすぐる。すると右足が僕の背中を蹴った。右足も掴んで、左足と一緒に僕の膝の上で拘束する。
「やぁ、めろって!」
目尻に涙を浮かべた新一くんが、顔を真っ赤にして僕を睨んでいた。
迫力がなくて大変可愛い。
床に落ちた本を横目に、新一くんに覆いかぶさる。
そうすると新一くんは視線を彷徨わせて、そうっと瞳を閉じた。長い睫毛がふるふると揺れている。
口内に溜まった唾液が甘い。音を立てないように飲み込んで、ソファで未だ唸り続けているスマホを新一くんの頬にくっつけた。
「鳴ってるよ、ずっと」
新一くんは細めた青い瞳でスマホを睨んだ。小さく尖った唇に親指を添える。かさついた下唇を押すと、小さな白い歯で噛まれてしまった。
「急用じゃねえから」
新一くんの腕が、僕の身体を捕える。進んで腕の中に閉じ込められてしまう。
「そうかい?」
「今日大学でクラスのグループメッセージに登録されたから、うるせーんだよ。二十人くらいでくだらねー話してる」
「なるほどね」
「貸せよ」
新一くんが僕の手からスマホを抜きとった。
ちらりと見えてしまったメッセージの受信画面はクラスのグループトークだけではなく、可愛らしい女の子のアイコンもいくつか並んでいたけれど、新一くんはそれらの通知を確認することもなく全てオフにした。
――現在、恋敵大量発生中。ただし、マル対にその気はない模様。
――了解。引き続き警戒を怠らず、注視せよ。
「零」
スマホを床に置いた新一くんが、もの言いたげな視線を向けてくる。
「靴下脱がすから冷えたんだけど」
僕の腰に引っ掛かっている左足を手探りで触ってみると、確かにつま先が冷たくなっている。右手で冷えたつま先を包み込んで、かさついた唇にキスをした。
「責任持って温めるよ」
耳元で囁く。「ん」と短い返事が聞こえた。さっきとは違い、甘く身体の芯に響く声だった。
♡ ♡ ♡
0504
とろんとした瞳で緩慢に瞬きを繰り返す新一くんの、湿った髪に指を通す。
この子の汗でしっとりと濡れた身体はどうしてこんなに心地いいのだろうか。
行為を終えても手放しがたく、腕の中にとどめたままでいる。
「眠っていいよ」
寝かしつけるために、こめかみにキスをした。新一くんは、小さく首を横に振って、枕元のあたりで手をパタつかせる。
「スマホ……」
「ああ、充電切れたみたいだったね」
〇時を越え、五月四日になってから忙しなく鳴り響いていたスマホは、三度目のゴムを変えたあたりで鳴らなくなっていた。昨日も充電しないまま大学に行っていたから、恐らく通知によって最後の電池が奪われたのだろう。
ベッドの脇を探り、コンセントに繋がったままの充電ケーブルを指に引っ掛け、沈黙していた新一くんのスマホに差し込んでやる。
「さみ……」
スマホに差すケーブルを探していたせいで出来た隙間を新一くんが埋めてくれた。ちゅうっと胸の上を吸われ、くすぐったさに口角がゆるむ。
「甘えんぼ」
「うるせ……」
くあっと小さくあくびをした新一くんは、僕の手から回収したスマホの電源を入れた。画面から溢れた眩い光。室内の暗さに慣れた新一くんの瞳には耐えられなかったようで、眉間にしわを寄せ、目を瞑り、スマホの画面を僕の方に向けた。
瞬間、新一くんの指が滑って表示された画面を見てしまったのは、僕の過失ではない。
『ホームズ展に一緒に行こうよ!』
公安で培われた技術で、画面いっぱいに並んだ文字を一瞬で読み取ってしまう。
そこに表示されていたのは、新一くんへの好意で溢れた文面に、デートの誘い。
新一くんは、随分積極的な女の子に好かれているようだった。
「行くの?」
画面の明るさを下げてから、新一くんの手の向きを変えスマホの画面を向けてやる。
新一くんは眩しそうに目を細めて文を読み取るとゆっくり文字を打ち込みはじめた。
「行くわけねーだろ」
目尻に溜まる水滴に吸い付いて、新一くんの指の動きを見守る。
「あ、待った」
僕の静止は間に合わず、新一くんの指は打ち込んだばかりのメッセージを送信した。
ひゅぽっという間抜けな音が、自分に好意を持つ相手に『恋人がすねる笑』なんて惚気交じりの残酷なメッセージを届けてしまったことを知らせる。
瞬時に既読マークがついた。
「なんだよ……零がオレの代わりに行くとか言うんじゃねえだろうな」
「どうしてそうなる? きみの思考回路がショートしてないか心配だよ」
むっと尖った下唇を親指と人差指でつまむ。
ふにふにしていて可愛い。
「……せっかく誘ってもらったんだし、楽しんでこいよ、くらいは返したら?」
新一くんは手早くメッセージを返すと、枕の下にスマホを突っ込んだ。
「なんで君がモテるのか不思議だな」
「は? 急に悪口?」
「綺麗な顔をしてるからなあ……騙されちゃうよね」
下唇を弄んでいた指を横に滑らせ、今度は親指と人差指で左右の頬を摘まんでタコの唇を作る。
顔の造形を崩しても、すっごくかわいくて参ってしまう。
「にゃにしゅんやよ」
ふっと笑って可愛い顔から手を離した。
性格が悪いことに、僕は今優越感に浸っているのかもしれない。
「本当によかったの、チケット。きみ抽選外れたって言ってなかった?」
「いいんだよ……オレだったら、やだし」
「なにが?」
「アンタが! なんかの趣味でどうしてもチケット欲しかったとして、それで、っ他の女と行ったらそんなの嫌だろ……だから、オレもそういうのはしない」
「ねえ、」
「なに」
「二番煎じじゃつまらないから誕生日プレゼントで渡すのはやめようと思ったんだけど、あるんだチケット」
「えっ」
キラキラと新一くんの瞳が輝く。
明日の朝、起きたら渡すつもりだった発券済みのチケットをマットレスの下から取り出して見せると、新一くんが滅多に見せない子犬みたいな顔をした。
「うわ……、もしかして神様?」
ホームズが絡むと新一くんは少し情緒がおかしい。
「神だなんて言わないでくれ。僕はきみの恋人だよ」
新一くんの両手が伸びてくる。
てっきり抱きしめてくれるのかと思ったのに、新一くんは後生大事に両手でホームズ展のチケットを包み込んで、にまにまとだらしない顔をしていた。
それがいいのか悪いのかはさておき、シャーロックホームズに勝る恋敵は目下確認できないようだ。僕もふくめて。