モブになった僕&私が降新のラブを目の当たりにする話
降新にあてられるモブな私♂♀(当て馬や見守り設定)
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俺は某芸能事務所で働くしがないサラリーマン。
今日は担当してる俳優が休日のため、街中でスカウトをすることにした。
しかし、今はマスク社会で人の顔がわからぬ世の中だ。
鼻より上が整っていてもマスクの下はどうなっているのか予想は不可能。もし声をかけて、隠れた部分がイマイチだったら気まずくて死ぬ。
やっぱり今日は諦めて帰るかと思ったところで、スタイル抜群小顔でサファイアブルーの瞳が印象的な男の子とすれ違った。
もちろんマスクをかけているが、見えるところは全てが完璧だった。
すらりとした痩躯に、ぴんと伸びた背筋。歩き方まで美しい。
どこかに所属するモデルかもしれない。
――いやでもマスクの下は歯並びが悪かったり、鼻が大きかったりするかもしれない。
そう思いながらも、ついその子の後ろをつけてしまっていた。
その子はすぐにカフェに入った。
しめた、と思い、俺も後を追ってカフェに入った。
マスクを外せば、彼の顔面が確認できる。
空席に座った彼の、真正面の席に俺も腰を下ろす。
そうすると、彼は不思議そうな目で一瞬、俺を見たような気がした。
そりゃそうだ。空席だらけの店内で真正面の席に座られたら、不審に思うよな。でも怪しいものじゃないんだ、許してくれ。
彼は甘いテノールボイスで「すみません」と店員を呼び、アイスコーヒーを注文した。
声までいいのか。これは期待してしまう。
彼を観察しながら、俺もメニューに目を通し、ホットカフェラテを注文した。
彼のテーブルにアイスコーヒーが運ばれてくる。
ありがとうございます、とお礼を言った彼はマスクに手をかけた。
形のいい耳にかかった紐が外される。
「……っ、!」
思わず息を呑んだ。
普段それなりに美形も目にしてきている俺ですら、うっかり見惚れてしまう美貌がそこにはあった。
すっと通った鼻筋、ピンクに色づく小さな唇。
アイスコーヒーにストローを刺す、白雪のような手。
伏せられたまつ毛は黒々と長く、目元に影を落とす。
まさに現代版白雪姫……っ、じゃない、王子!
気付いたら勢いよく立ち上がっていた。
カフェオレを運んできてくれた店員さんが驚いてカップを揺らし中身をソーサーに溢した。
謝る店員さんに、そのままで大丈夫だと伝え、勇足で彼の元に向かおうとした。
踏み出した足がたたらを踏んで、自分の元へ戻ってくる。
強い力で、後ろから肩を押さえつけられていた。
「彼になにか?」
振り向くと、長身の男がいた。
褐色の肌に意志の強そうなきりりとした眉。青灰色の垂れ目がちな瞳。
おっ、こっちもイケメンだな。
「ふ…あむろさん、遅れそうだっつってたのに、随分早かったな」
白雪が目を丸くして俺の後ろの男を見た。
「きみから、誰かにつけられてるかもしれないなんて連絡がきてのんびりしてられないだろ」
男はそう言って、じろりと俺を睨んだ。
……つけられてるかもしれないって、俺のことか!
「すみません!怪しいものではないんです!」
慌ててジャケットのポケットに入れていた名刺を取り出し、差し出す。
男は鋭い視線で俺の名刺を確認すると肩から手を離した。
「……またか」
また?ってことはやっぱり白雪は何度もスカウトされてきてるってことか。
白雪にも名刺を渡す。
白雪は、気まずそうに人差し指で頬を掻いた。
「……その反応、もしかしてもうどこかの事務所に入ってる?」
「いや、入ってないですけど…」
「芸能界に興味ない感じ?」
「そうですね。すみません」
にっこり笑顔で断られて、がっくり肩が落ちる。
時間をかけて説得したいが、隣の男からの圧がすごい。
「連絡先だけでも…」と、ダメ元で粘ってみるが、「ごめんなさい」と即答されてしまった。
「もういいですよね? 行こう、工藤くん」
男が促すと、白雪くんは立ったままアイスコーヒーを飲み干して、マスクを顔に戻してしまった。
「気が変わったら、いつでも連絡して」
男と並んで立ち去っていく後ろ姿に声をかける。
振り向いた白雪くんが会釈をする。
彼から連絡がくるのをダメ元で待とう、と思いながら振り返ると、俺が座ってた席のテーブルの上に渡したはずの名刺が2枚並んで置かれていた。
いつのまに……?
結局、今日の収穫はゼロ。
また白雪くん待ちで、あの場所を辛抱強く張り続けよう、と決意する。
帰社して先輩に「すげえイケメンがいたんですよ」と白雪くんの外見を語って聞かせた。
先輩は、俺の話を聞きながら興味なさそうにスマホをいじっていた。
「ちょっとちゃんと聞いてくださいよ。まじめちゃくちゃ美人だったんスから。暫くあそこで張ろうと思ってて」
「ねえ、それってこの子じゃない?」
語る俺の言葉を遮って、先輩はスマホの画面を見せつけてきた。
「あ!」
そこに写っていたのは紛れもなく今日俺がスカウト失敗した白雪くんだった。
「ばっかだね〜、この子は工藤くん! あの藤峰有希子と工藤優作の一人息子よ! 顔がいいだけじゃなくて運動神経抜群、頭脳明晰の神の最高傑作よ?! 今までどんな大手事務所が声をかけても、全部断ってんだから、うちみたいな弱小事務所に所属するわけないっしょ〜! あー、でもいいな! 生くどうくん! 私も見たかった!」
先輩がスマホを指で撫でてうっとりと呟く。
白雪くんは、どうやら工藤新一という名前で、探偵をしているらしい。
自分のスマホで検索してみると、一応一般人?なのにファンサイトがわんさか出てきた。気付くと、つい手がファンサイトにあげられたくどうくんの写真を保存してしまっていた。
「あーあ、アンタもくどしんの魅力に狂ったか……」
「だって、どの角度で見てもめちゃくちゃ美しいじゃないっすか…………なにこの奇跡……すご…………」
隠し撮りですら毎秒美しいってどういうことだ?
オレの画像フォルダはあっという間に工藤新一で埋まっていくのだった。