同棲設定
はじめは、本当にただダメ元で、降谷さんに頼んでみただけだった。
「この間の、東都ビルでのテロ未遂事件の概要教えてくれないですか?」
宮野や黒羽に頼めば調べてくれるけれど、二人に苦労させなくても降谷さんに聞けば一発だよなと思って。
――教えるわけないだろ。
そう眉を吊り上げた降谷さんに怒られるのだと分かっていても、一応聞いてみた。
けれど、降谷さんは予想に反してにっこりと微笑みを返してきたのだ。
「いいけど、代わりにきみはなにをしてくれる?」
「え、マジで? なんでもする!」
ここで降谷さんは、目を細めた。小さな声でオレのことを「バカ」と罵ってもいた。
「軽々しく『なんでも』なんて答えたことを後悔させてあげよう」
物騒なことを言いながら「おいで」とにこにこ笑った降谷さんに手をひかれ、連れて行かれたのは寝室だった。
その日は明け方まで眠ることも許されず、元気すぎる降谷さんに付き合わされた。
ぐったりとベッドに突っ伏しながら「本当にコレで捜査資料くれるんだよな……」と恨みがましく降谷さんを横目で見たオレに、既にスーツ姿に着替えた降谷さんは、昨晩の色欲の欠片も見当たらないそれはもう素晴らしく爽やかな笑みを浮かべて言ったのだ。
「そんなこと言ったかな?」
思わず舌打ちが漏れた。
シーツを握りしめるオレの頭を乱雑に撫で、降谷さんは機嫌良さそうに笑いながら出ていった。
少し動いただけでもひびくような痛みが残る腰を撫でた。
ふん、と鼻を鳴らし、ベッドに突っ伏した。
――それが一回目。
二回目はボイスレコーダーを用意してみた。
リビングに入る前にこっそりと録音ボタンを押し、ソファに座っている降谷さんに前回と同じように捜査資料を強請った。
降谷さんはまたも笑顔でオッケーをした。
そのままソファの上に押し倒され、服を剥かれ、降谷さんに促されてフェラだってしてやった。が……顔に出されても大人しくしてたし、出したのを舐めろと言われたら丁寧に吸い出してやった。
それなのに……っ、気を失って朝になると降谷さんはとっくに出勤していて、ご丁寧にデータを消されたボイレコが枕の横に置かれていた。
すぐさまメッセージアプリで「昨日の約束覚えてますよね?」と送った。既読はすぐについた。
『きみと約束なんてしたかな?』
――なるほど。そうくるわけか。
それが二回目。
オレだって、そこまで「バカ」じゃないから、さすがに二度も続くと学習する。
♥
「いまアンタが担当してる案件の資料がほしいんですけど!」
一週間ぶりに帰宅した降谷さんに、おかえりより先に手を突きだした。
降谷さんは目を丸くして、口端を持ち上げる。
「……いいよ」
オレの突き出した手を取って、指先にキスをおとす。
うえ、キザ。
オレが半眼になっているのに、降谷さんは楽しそうに目尻を下げると、靴を脱いでオレの背を押した。
「さて、今日はなにをしてもらおうかな」
シャツの胸ポケットに一応忍ばせていたボイレコはするりと抜き取られ、手際よくデータを削除されると、玄関の靴箱の上に乗せられた。
「もっと直接的な言葉で誘ってくれてもいいんだよ」
降谷さんが甘い吐息混じりの声で囁く。
首筋がくすぐったくて、ぶるりと震えた。
「……なんのことですかね」
とぼけたふりをして、寝室の扉をあける。
オレの言葉を正しく理解しているらしい降谷さんはやっぱり機嫌がよさそうに笑っていた。