パラレルいろいろ
「うっ……」
突然身体を襲った重苦しさに、微睡んでいた意識が一気に覚醒する。
宵闇の中うっすら瞳を開く。タオルケットで覆われた自身の腹部が、ひどく膨れ上がっていた。重苦しさの原因は、これに違いない。そっとタオルケットを捲り腹の上を覗き込む。すると、まんまるの黒い塊が見えた。
僕が布団に入った時は、壁にぴったりとくっつくようにして寝入っていた新一くんが、僕の腹の上に移動していた。
新一くんは、僕の腹に顔を埋め、木の枝にしがみつくコアラのように、僕の身体にもたれかかっている。「しんいちくん」寝起きでぼやけた声で、彼の名前を呼んだ。長い前髪を、指で梳く。腹から唸り声が聞こえた。どうやら起きているらしい。
新一くんの脇の下に手を差し込み、胸のあたりまで引っ張り上げる。ベッドサイドに置かれたナイトランプをつけ、顔を覗き込む。
ゆらゆら。熱で潤んだ青い瞳に、吸い込まれる。
うっかりベッドにひっくり返し、その上に覆い被さってしまった。主張する股間を本能で新一くんの腹に押し付け、ふにゃりとした感覚に、熱に浮かされた思考回路が一気に正常な働きを取り戻した。
危うく、嗅覚を支配する甘美な香りに脳を浸らせてしまいそうになってしまった。
……ヒートか。
新一くんのパジャマのボタンを外しかけていた手を叱咤し、きちんと一番上までボタンを止める。新一くんは、安心したように小さな吐息を吐き出した。
新一くんの第二性別はオメガだ。
オメガには三ヶ月に一度ヒートを起こし、一週間程度日常生活を送ることが難しくなってしまうという特性があった。
通常のオメガはヒート期間、人間の三大欲求全てが性欲に傾く。大抵はヒート初日から三日目までに性欲のピークを迎え、それ以降は落ち着く傾向にある。しかし、新一くんのヒートはブーストがかかるのが遅かった。ヒート三日目までは、熱を持った身体の症状は、体調の悪さに現れる。
つまり、いくら新一くんの身体から僕を誘うフェロモンが出ていようと、新一くんは風邪をひいたような状態にあるから、激しいセックスには耐えられないのだ。
その証拠に、いつも気分が盛り上がっている時に勃起したペニスを押し付けると、同じくらい硬くなった新一くんのペニスとぶつかるのに、今日は力なくくったりと横たわっている。
「……今日の予定は変更だな」
お昼に予定していた工藤邸でのガーデンパーティーも、夜に予約していたレストランの予約も、朝がきたらキャンセルの連絡にまわらなければならない。
ベッドに仰向けに倒れ込む。新一くんがのっそりと起き上がり、僕の上でうつ伏せになった。
普段は滅多に自分から寄ってきてくれない新一くんが、こうして自分からくっついてきてくれるのもヒートの恩恵だ。我慢はできると言っても、股間は依然イライラしているので、つい新一くんの太ももに擦り付けてしまう。じゃれるように何度か腰を揺する。新一くんが「しつけぇ」と笑った。
「新一くん、お誕生日おめでとう」
起きたら一番に言おうと決めていたことを、ようやく口にする。
本当は日付が変わる瞬間に言いたかったのだが、生憎帰宅できたのは丑の刻を回る頃で、新一くんはとっくに眠っていた。そのためだけに起こすのも忍びなく、今になってしまった。
今年もきっと一番に、新一くんにおめでとうと言ったのは服部くんなのだろう。羨ましさと微笑ましさ半分ずつ。そこにほんの僅かの嫉妬心。けれど、対面で祝えたのは僕が一番だと溜飲を下げる。
新一くんは、ぱちぱちと瞬きをして、それから蒼い瞳をきらりと輝かせた。
「今年は零さん独り占めだな」
布団の中で、新一くんが伸び上がって、僕の唇に軽くキスをした。
曰く、去年僕が新一くんの誕生日に休みをとったのに、結局は誕生パーティーの裏方に回り、料理の準備やゲストの対応に追われていたりしたのが、寂しかった、と。かなり噛み砕いていえばそんなことを新一くんはボソボソと呟いていた。
たまらなくなって新一くんの唇を食んだ。いうことを聞かない暴君がはちきれんばかりに成長している。新一くんは、そんな僕の事情に気付いて、いたずらっ子のように笑い、身体を擦り寄せてきた。
「信頼してるぜ、零さん」
とりあえず、今は精一杯その信頼に応えようと思う。
甘い身体を抱きしめて、三日後が楽しみだねと囁いた。新一くんは、息を呑んで固まったあと、「おー……」と消えいりそうな声で返事をした。
朝になったら、たくさんのご馳走の代わりに、卵とじうどん一杯に愛情を注ごう。
それから、たくさん甘やかして、可愛がって、抱きしめて、キスをして、僕のパンツを剥いで巣作りの素材にする新一くんを見守りたい。
僕にたくさんの幸せを運んでくれるきみが、生涯幸せでいられますように。
出会った頃より、もっと美しく、大人びた顔つきになった新一くんの顔中にキスの雨を降らす。
きみと年を重ねていけることの幸福を噛み締める。なんだか少し、涙が出そうだった。
突然身体を襲った重苦しさに、微睡んでいた意識が一気に覚醒する。
宵闇の中うっすら瞳を開く。タオルケットで覆われた自身の腹部が、ひどく膨れ上がっていた。重苦しさの原因は、これに違いない。そっとタオルケットを捲り腹の上を覗き込む。すると、まんまるの黒い塊が見えた。
僕が布団に入った時は、壁にぴったりとくっつくようにして寝入っていた新一くんが、僕の腹の上に移動していた。
新一くんは、僕の腹に顔を埋め、木の枝にしがみつくコアラのように、僕の身体にもたれかかっている。「しんいちくん」寝起きでぼやけた声で、彼の名前を呼んだ。長い前髪を、指で梳く。腹から唸り声が聞こえた。どうやら起きているらしい。
新一くんの脇の下に手を差し込み、胸のあたりまで引っ張り上げる。ベッドサイドに置かれたナイトランプをつけ、顔を覗き込む。
ゆらゆら。熱で潤んだ青い瞳に、吸い込まれる。
うっかりベッドにひっくり返し、その上に覆い被さってしまった。主張する股間を本能で新一くんの腹に押し付け、ふにゃりとした感覚に、熱に浮かされた思考回路が一気に正常な働きを取り戻した。
危うく、嗅覚を支配する甘美な香りに脳を浸らせてしまいそうになってしまった。
……ヒートか。
新一くんのパジャマのボタンを外しかけていた手を叱咤し、きちんと一番上までボタンを止める。新一くんは、安心したように小さな吐息を吐き出した。
新一くんの第二性別はオメガだ。
オメガには三ヶ月に一度ヒートを起こし、一週間程度日常生活を送ることが難しくなってしまうという特性があった。
通常のオメガはヒート期間、人間の三大欲求全てが性欲に傾く。大抵はヒート初日から三日目までに性欲のピークを迎え、それ以降は落ち着く傾向にある。しかし、新一くんのヒートはブーストがかかるのが遅かった。ヒート三日目までは、熱を持った身体の症状は、体調の悪さに現れる。
つまり、いくら新一くんの身体から僕を誘うフェロモンが出ていようと、新一くんは風邪をひいたような状態にあるから、激しいセックスには耐えられないのだ。
その証拠に、いつも気分が盛り上がっている時に勃起したペニスを押し付けると、同じくらい硬くなった新一くんのペニスとぶつかるのに、今日は力なくくったりと横たわっている。
「……今日の予定は変更だな」
お昼に予定していた工藤邸でのガーデンパーティーも、夜に予約していたレストランの予約も、朝がきたらキャンセルの連絡にまわらなければならない。
ベッドに仰向けに倒れ込む。新一くんがのっそりと起き上がり、僕の上でうつ伏せになった。
普段は滅多に自分から寄ってきてくれない新一くんが、こうして自分からくっついてきてくれるのもヒートの恩恵だ。我慢はできると言っても、股間は依然イライラしているので、つい新一くんの太ももに擦り付けてしまう。じゃれるように何度か腰を揺する。新一くんが「しつけぇ」と笑った。
「新一くん、お誕生日おめでとう」
起きたら一番に言おうと決めていたことを、ようやく口にする。
本当は日付が変わる瞬間に言いたかったのだが、生憎帰宅できたのは丑の刻を回る頃で、新一くんはとっくに眠っていた。そのためだけに起こすのも忍びなく、今になってしまった。
今年もきっと一番に、新一くんにおめでとうと言ったのは服部くんなのだろう。羨ましさと微笑ましさ半分ずつ。そこにほんの僅かの嫉妬心。けれど、対面で祝えたのは僕が一番だと溜飲を下げる。
新一くんは、ぱちぱちと瞬きをして、それから蒼い瞳をきらりと輝かせた。
「今年は零さん独り占めだな」
布団の中で、新一くんが伸び上がって、僕の唇に軽くキスをした。
曰く、去年僕が新一くんの誕生日に休みをとったのに、結局は誕生パーティーの裏方に回り、料理の準備やゲストの対応に追われていたりしたのが、寂しかった、と。かなり噛み砕いていえばそんなことを新一くんはボソボソと呟いていた。
たまらなくなって新一くんの唇を食んだ。いうことを聞かない暴君がはちきれんばかりに成長している。新一くんは、そんな僕の事情に気付いて、いたずらっ子のように笑い、身体を擦り寄せてきた。
「信頼してるぜ、零さん」
とりあえず、今は精一杯その信頼に応えようと思う。
甘い身体を抱きしめて、三日後が楽しみだねと囁いた。新一くんは、息を呑んで固まったあと、「おー……」と消えいりそうな声で返事をした。
朝になったら、たくさんのご馳走の代わりに、卵とじうどん一杯に愛情を注ごう。
それから、たくさん甘やかして、可愛がって、抱きしめて、キスをして、僕のパンツを剥いで巣作りの素材にする新一くんを見守りたい。
僕にたくさんの幸せを運んでくれるきみが、生涯幸せでいられますように。
出会った頃より、もっと美しく、大人びた顔つきになった新一くんの顔中にキスの雨を降らす。
きみと年を重ねていけることの幸福を噛み締める。なんだか少し、涙が出そうだった。