短編集
「すごい雨…こりゃ傘あってもずぶ濡れかもね…って、え!?」
窓から外を眺めていた五条の視界に、傘も差さずに立っている女の姿が飛び込んできた。
それが知り合いとなれば、尚更見過ごしても居られない。
慌てて傘を持って外に出た。
「ちょっと、何してんの!?こんなどしゃ降りに…」
「五条…」
女は俯いて立ち尽くしたままだ。
「あぁもう話は後!とにかく入んなさい!」
無理やり引っ張って部屋に連れて入る。
「あーあ、もう全身ずぶ濡れだね…とりあ」
とりあえずタオル持ってくる、それは最後まで言えなかった。
ぐすりと啜り上げる音。雨に濡れた頬には、涙が混じっているらしい。
「あー…とりあえず、温まっといで」
彼女を風呂場に放り込み、座ってどうしたものかと頬杖をつく。
(何かあったのはわかるんだけど…何で僕のとこ来たの?)
巷では『最強』の誉れ高く人外の強さのように語られる五条悟も、神でも物の怪でもない人間だ。
人としての情も、柔軟さとシビアさを合わせてはいるが、ある程度は持っている。
…『愛は呪い』と言い切っていても、止められない恋慕だってある。
(…こんな日に、こんな所に、あんな格好で、あんな顔して、あんな状態で来ないでよ…!)
どしゃ降りの雨の中、傷ついた様子の女が泣きながら、全身ずぶ濡れで男の部屋に。
間違いでも起こるにはうってつけだ。
果たしてこの状況でそんな状態の惚れた女を前にして、五条の理性がどこまで持つだろうか。
最強の呪術師と言えど、ただの男でもある。
(あ、着替え…僕の着せるしかないよね?)
…危ない要素がまたひとつ。
とりあえずだいぶ大きいが着替えを着せて、温かい飲み物を用意した。
「ココアしかないんだけど、いい?」
「うん、ありがとう…」
受け取ったマグカップを両手に持って1口飲むと、ほっとした顔をした。
「はぁ…沁みる…」
「で、どしたの?」
「うん…フラれた」
「はぁっ!?あの、婚約してた人!?破談!?」
「うぅぅ~っ…!」
またぽろぽろ涙を零し始める。
五条は開いた口が塞がらない。
だからこそ、自分は今まで彼女を口説かずにいたのに。
(どうせ破談になるんなら、とっとと奪っちゃえば良かったよ…それにしても)
「婚約までしてたのに、一体何で」
「他に好きな人が出来たんだって!もう頭に来て指輪投げつけて帰ってきたけど、時間が経ったら何か悲しくなってきて…五条とパーっとバカやって気晴らしでもと思ったけど何か泣けてきて…」
「それで来るに来れなくて、突っ立ってた、と?どれくらいあそこにいたの」
「30分くらいかな…」
「風邪引くよ!?」
「もーどーでもいいよ…」
「…はぁ」
相変わらず涙を零しながら投げやりな事を言う…もう駄目だ。
「あー…もー…!」
ぎゅっ
「ちょ、えっ?」
「どうでもいい、なんて言わないの。君に何かあったら、次は僕が泣くよ?」
「ご、五条?」
「そんな傷心の時に言うのはずるいけどさ、僕、君が好きだよ。だからこんな風になってるの見てられない」
「………………」
堪えきれずに抱き締めて、彼女がその腕の中でフリーズしているのがわかる。
「あ、あの、えっ?」
「勘違いしないでね。僕が言うのは、触れたい、キスしたい…抱きたい。そういう『好き』だよ」
「え、えっ!?」
すっかり涙の引っ込んだ彼女を離し、距離を取る。
「でも、ずっと悪友やって来たからさ、君が僕をそういう風に見てないのは知ってる。だから今すぐ手出しはしないよ。完全に弱みにつけ込んでるしね。返事は…いつか、答えが出たら、聞かせてくれればいい」
「…………う、うん……」
「さ、結構いい時間だし、疲れたでしょ。今日はもう寝るといいよ。ベッド使っていいから」
寝室はこっち、とドアを開けると、慌てた様子で聞いてくる。
「ご、五条は?」
「一緒に寝るわけにいかないでしょ?だからソファで寝る」
「でも、いきなり押しかけたの私だし…」
「一応お客様だし女の子をソファ寝はさせられないよ」
申し訳なさそうにしているが、僕にだってそれくらいの優しさはあるんだよ。
すると、さっきの話を聞いていたかと疑いたくなる提案を出してきた。
「…なら、私端っこで寝るから五条も」
「一緒のベッドに入ったら間違いなく手を出す自信あるけど、いいの?覚悟出来てる?」
これは本音。答えを聞く前に既成事実作っちゃいそう。
「もーちょっと時間下さい…」
「うん。だから、大人しくあっちで眠ってねー」
彼女を寝室に押し込んで、ドアを閉める。
自分ももう寝ようと、仮眠用の毛布を引っ張り出してソファに横になる。
目隠しを外して目を閉じて…眠りに落ちたものの、暫く後に意識は覚醒した。
間近で覗き込む気配がある。
彼女だ。
「……………」
黙って自分の顔を見ているようだが…
「五条は、ずっと私を大切にしてくれる…?」
掠れた上に声になるかならないか、程度の音量で囁く。
目を開けて答えようか迷った刹那、彼女は寝室に戻って行った。
「………(迷ってるなぁ)」
ごろりと寝返りを打つ。
多分、ずっと自問自答していたんだろう。
(そうやってずっと僕の事を考え続けてくれれば…結構近いうちに返事が聞けそうだね)
数日後。
「なぁに?お話って」
「その…こないだの返事」
呼び出されてみれば、改まった様子の彼女がそこに。
「その、付き合っても、いい、よ。多分、五条の事、そういう意味でも、嫌いじゃない」
今までの関係を考えたのか、割と素直ではない返事だったけど、充分だった。
「ありがとう。
僕は、ずっと君を大切にするよ」
抱き締めて囁けば、びくりと肩を跳ね上げる。
「もしかして…聞いてた?」
「気配で起きてた。目を開けようか迷ったら、君が戻っちゃったんだ」
肩の力を抜いて、身を預けてくる。
「…そういう事だから、絶対大切にしてね、私を」
「もちろん」
ずっと片思いしてて、やっと思いの通じた嬉しさって、半端じゃないね。
こうなると、彼女をフッた元婚約者…最初は彼女を泣かせた罪でマジビンタしようと思ってたけど、むしろ感謝しないと、かな?
おわり
窓から外を眺めていた五条の視界に、傘も差さずに立っている女の姿が飛び込んできた。
それが知り合いとなれば、尚更見過ごしても居られない。
慌てて傘を持って外に出た。
「ちょっと、何してんの!?こんなどしゃ降りに…」
「五条…」
女は俯いて立ち尽くしたままだ。
「あぁもう話は後!とにかく入んなさい!」
無理やり引っ張って部屋に連れて入る。
「あーあ、もう全身ずぶ濡れだね…とりあ」
とりあえずタオル持ってくる、それは最後まで言えなかった。
ぐすりと啜り上げる音。雨に濡れた頬には、涙が混じっているらしい。
「あー…とりあえず、温まっといで」
彼女を風呂場に放り込み、座ってどうしたものかと頬杖をつく。
(何かあったのはわかるんだけど…何で僕のとこ来たの?)
巷では『最強』の誉れ高く人外の強さのように語られる五条悟も、神でも物の怪でもない人間だ。
人としての情も、柔軟さとシビアさを合わせてはいるが、ある程度は持っている。
…『愛は呪い』と言い切っていても、止められない恋慕だってある。
(…こんな日に、こんな所に、あんな格好で、あんな顔して、あんな状態で来ないでよ…!)
どしゃ降りの雨の中、傷ついた様子の女が泣きながら、全身ずぶ濡れで男の部屋に。
間違いでも起こるにはうってつけだ。
果たしてこの状況でそんな状態の惚れた女を前にして、五条の理性がどこまで持つだろうか。
最強の呪術師と言えど、ただの男でもある。
(あ、着替え…僕の着せるしかないよね?)
…危ない要素がまたひとつ。
とりあえずだいぶ大きいが着替えを着せて、温かい飲み物を用意した。
「ココアしかないんだけど、いい?」
「うん、ありがとう…」
受け取ったマグカップを両手に持って1口飲むと、ほっとした顔をした。
「はぁ…沁みる…」
「で、どしたの?」
「うん…フラれた」
「はぁっ!?あの、婚約してた人!?破談!?」
「うぅぅ~っ…!」
またぽろぽろ涙を零し始める。
五条は開いた口が塞がらない。
だからこそ、自分は今まで彼女を口説かずにいたのに。
(どうせ破談になるんなら、とっとと奪っちゃえば良かったよ…それにしても)
「婚約までしてたのに、一体何で」
「他に好きな人が出来たんだって!もう頭に来て指輪投げつけて帰ってきたけど、時間が経ったら何か悲しくなってきて…五条とパーっとバカやって気晴らしでもと思ったけど何か泣けてきて…」
「それで来るに来れなくて、突っ立ってた、と?どれくらいあそこにいたの」
「30分くらいかな…」
「風邪引くよ!?」
「もーどーでもいいよ…」
「…はぁ」
相変わらず涙を零しながら投げやりな事を言う…もう駄目だ。
「あー…もー…!」
ぎゅっ
「ちょ、えっ?」
「どうでもいい、なんて言わないの。君に何かあったら、次は僕が泣くよ?」
「ご、五条?」
「そんな傷心の時に言うのはずるいけどさ、僕、君が好きだよ。だからこんな風になってるの見てられない」
「………………」
堪えきれずに抱き締めて、彼女がその腕の中でフリーズしているのがわかる。
「あ、あの、えっ?」
「勘違いしないでね。僕が言うのは、触れたい、キスしたい…抱きたい。そういう『好き』だよ」
「え、えっ!?」
すっかり涙の引っ込んだ彼女を離し、距離を取る。
「でも、ずっと悪友やって来たからさ、君が僕をそういう風に見てないのは知ってる。だから今すぐ手出しはしないよ。完全に弱みにつけ込んでるしね。返事は…いつか、答えが出たら、聞かせてくれればいい」
「…………う、うん……」
「さ、結構いい時間だし、疲れたでしょ。今日はもう寝るといいよ。ベッド使っていいから」
寝室はこっち、とドアを開けると、慌てた様子で聞いてくる。
「ご、五条は?」
「一緒に寝るわけにいかないでしょ?だからソファで寝る」
「でも、いきなり押しかけたの私だし…」
「一応お客様だし女の子をソファ寝はさせられないよ」
申し訳なさそうにしているが、僕にだってそれくらいの優しさはあるんだよ。
すると、さっきの話を聞いていたかと疑いたくなる提案を出してきた。
「…なら、私端っこで寝るから五条も」
「一緒のベッドに入ったら間違いなく手を出す自信あるけど、いいの?覚悟出来てる?」
これは本音。答えを聞く前に既成事実作っちゃいそう。
「もーちょっと時間下さい…」
「うん。だから、大人しくあっちで眠ってねー」
彼女を寝室に押し込んで、ドアを閉める。
自分ももう寝ようと、仮眠用の毛布を引っ張り出してソファに横になる。
目隠しを外して目を閉じて…眠りに落ちたものの、暫く後に意識は覚醒した。
間近で覗き込む気配がある。
彼女だ。
「……………」
黙って自分の顔を見ているようだが…
「五条は、ずっと私を大切にしてくれる…?」
掠れた上に声になるかならないか、程度の音量で囁く。
目を開けて答えようか迷った刹那、彼女は寝室に戻って行った。
「………(迷ってるなぁ)」
ごろりと寝返りを打つ。
多分、ずっと自問自答していたんだろう。
(そうやってずっと僕の事を考え続けてくれれば…結構近いうちに返事が聞けそうだね)
数日後。
「なぁに?お話って」
「その…こないだの返事」
呼び出されてみれば、改まった様子の彼女がそこに。
「その、付き合っても、いい、よ。多分、五条の事、そういう意味でも、嫌いじゃない」
今までの関係を考えたのか、割と素直ではない返事だったけど、充分だった。
「ありがとう。
僕は、ずっと君を大切にするよ」
抱き締めて囁けば、びくりと肩を跳ね上げる。
「もしかして…聞いてた?」
「気配で起きてた。目を開けようか迷ったら、君が戻っちゃったんだ」
肩の力を抜いて、身を預けてくる。
「…そういう事だから、絶対大切にしてね、私を」
「もちろん」
ずっと片思いしてて、やっと思いの通じた嬉しさって、半端じゃないね。
こうなると、彼女をフッた元婚約者…最初は彼女を泣かせた罪でマジビンタしようと思ってたけど、むしろ感謝しないと、かな?
おわり