吾輩は猫である。名前はまだ無い。正確に言えば、れっきとした名前は無いが人間共は吾輩をそれぞれ好きなように呼ぶ。その時、小僧が吾輩の前を通り際に言った。

「あっ、オスシ！」

何だそれは。変な名前で呼ぶでない。全く、無礼な小僧だ。フンッと鼻を鳴らしていると、後ろから聞き慣れた足音がした。この足音は＿＿あやつだな。しかし、吾輩は決して振り向かない。何故なら、吾輩から人間に近づくなど、あってはならないのだから。

「＿＿おや？名前じゃないですか。」

こやつもなかなか良いネーミングセンスをしているではないか。褒めてやろう。先程の小僧との差に気分を良くし、仕方なく吾輩の頭を撫でる事を許可してやる。

「光栄に思うがいい。」

「はいはい、貴方は相変わらずプライドが高いですね。」

こやつは吾輩が喉を鳴らせばすぐに意味を理解する。実によく出来た人間だ。全く、他の人間共も少しは見習って欲しいものだ。

「もう少し素直に甘えてきてもいいんじゃあないですか？」

何を言うか。吾輩を他の猫と同じにするでない。吾輩が人間に媚を売り、愛想を振りまくなどある筈がないのだ。だが、その失言、吾輩の広大な心で許してやるとしよう。感謝するがいい。

「そろそろ行こうかな＿＿。」

「何を勝手にやめている、吾輩が特別に許可しているのだぞ！」

「はいはい、そんなに怒らないでください。」

うむ、それで良い。ほら、抱き上げる事も特別に許可してやるぞ。

「よいしょ＿＿。」

感謝するが＿＿お、おいっ！変な所を触るな！

「＿＿ん？名前、貴方＿＿メスだったんですか。」

無礼者め！我が拳を食らうがいい！

「痛っ！」

ざまぁないな、当然の報いだ。

「すみません＿＿でも、納得です。だって、こんなにも美しいのだから。」

そのような言葉で吾輩が簡単に揺らぐとでも思っているのか！次は無いと思え！

「なんだかんだ優しいんですよね、貴方。」

「にゃあ。」