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彼女の交渉術
フェリーチェの用事に付き合った帰り道、ファーランはご機嫌なフェリーチェの横顔を見つめた。
交渉の末に手に入れた、地下街では入手困難な高級ワイン。
ファーランも驚いたフェリーチェの交渉術は、ほとんど彼女の可愛らしさと見え隠れする色香によるもので、戦略的思考などとは程遠いものであった。それでもこれだけの成果を上げたという事は、きっと誰も気付かない内にフェリーチェのペースに嵌っていたという事だろう。
男も女も惑わす才能。
フェリーチェの、姉や母親代わりだという娼婦達の顔を思い出し、ファーランは目を瞑り深く頷いた。
——うん。絶対に、姐さん達に仕込まれてるな。
「みんなで飲もうね! 久しぶりにパーティーだ〜」
「フェリーチェは一杯だけな。めちゃくちゃ酒弱いだろ。まぁ、俺が言わなくてもリヴァイが絶対に止めると思うけど」
「そう? 別に弱くないよ」
「……。俺は忘れてないからな。初めてフェリーチェと飲んだ日の事」
酔うとキス魔になるなんて、とんでもない罠だ。
幸い唇は奪われなかったとはいえ、頬に何度も押し付けられた柔らかな感触は、当時なかなか消えなかったのを覚えている——しばらくリヴァイにネチネチ絡まれた事も。
生きた心地がしなかった数日間。あんなのはもうゴメンだと、ファーランはあれから飲みの場にフェリーチェがいる時は離れた席に座っている。自衛は大事だ。
「みんなで飲むの楽しいのになぁ……」
「ハハ……」
リヴァイは楽しくないだろう。
一杯飲ませるとフェリーチェを部屋に放り込んでいた。それをやり遂げてから、ようやく落ち着いて飲み始めるのだ。部屋に戻る頃には、酔い潰れたフェリーチェはぐっすり夢の中。朝まで起きないそうだ。
リヴァイ曰く、キス魔は隔離に限るらしい。……それもあるだろうが、一番は酔ってふわふわしてる可愛い恋人を見せたくない……なんだろとファーランは思っている。
(本当、そういうところだよなぁ……見てるのも慣れたけど)
そういえば、一度リヴァイを揶揄った事がある。
酒が入ってる時なんか盛り上がりそうだけどなぁ、と。勿論、男女のそういうコトについてだ。
『記憶をなくすほど酔ってる相手とヤッてもつまらないだろうが』と機嫌悪そうに返事が返ってきたが……。
フェリーチェを抱き潰して気絶させる男が何を言ってるんだと半分呆れた。理性をどろどろに溶かされたフェリーチェが途中から何も覚えてないのを知ってるだろ、お前は。自分で言ってたよな?
——少なからず、そういう時に男が女に抱くのは支配欲で。
あからさまに出すのは憚られるから理性で隠しているのだ。本音を言えばファーランにだって心の奥底にその欲があったりするが、リヴァイほど強くない。強固な理性を保てるという自信もある。
フェリーチェは、クールな恋人が激重感情の塊だと気付いているのだろうか?
「ファーランとイザベルが家に来て一年の記念日だからね、今日は贅沢しようね!」
「それは嬉しいが……。本当に良かったのか? フェリーチェ」
「へ? なにが?」
「イザベルが使ってる部屋は前はフェリーチェが使ってただろ? 俺達が来た事で、フェリーチェはリヴァイと同じ部屋になっちまったワケだし……。俺はリヴァイと同室で良かったのにって、今でも思ってるぞ」
(まぁ……リヴァイに全力で拒否されたんだけど)
「こっちが一部屋使わせて貰ってるのは、なんだか申し訳ないよなって……女にはプライベートを守れる部屋が必要だろ」
「あぁ! 優しいね、ファーランは」
全然大丈夫なの、とフェリーチェはなんだか嬉しそうだ。
「あのね、リヴァイって誰かと一緒に寝るの嫌いっぽかったんだ。だからこの家に来た時からずっと部屋は別で、離れてて。でもね、私……苦手なんだよね……寝てる時に響いてくる雷の音とか、どこかから聞こえてくる叫び声とか」
「そうなのか」
「うん。だけどリヴァイには『怖いから一緒に寝て』って言えなかったでしょ? ちっちゃい時は布団に潜って震えてた」
「誰かと寝るのが嫌い……そりゃあ相部屋も嫌がるワケだ。嫌でも誰かを選べって言われたら、俺よりフェリーチェ選ぶのは当然だな。恋人だし」
「でもさ! はじめはベッド別にするって言われたんだよ!? 二人だと狭いからって! は? 充分スペースありますが!?」
「意外過ぎる……今はあんなにベッタリなのに」
「それはねぇ〜、私がここぞとばかり『怖い』『寒い』『寂しい』『一緒に寝て』って甘えたからだと思う」
フェリーチェはクスクス笑うと、リヴァイは初め渋々付き合うという感じだったと言った。
(オイオイ嘘だろ。想像出来ねぇ)
「それが今はね、私が夜中に喉乾いたから何か飲もって起きようとすると、すぐ、どこ行くんだってぎゅってしてくるんだよ。行くなって首に噛み付いてくるのは痛いけど」
「え゙」
「背中向けて寝てると、いつの間にか向き直されるし。朝はキスしないと目開けてくれない」
「…………」
「眠れないってしがみつくと、夜中でもホットミルク作って一緒に飲んでくれるの。早くベッドに戻りたいって言いながら、猫みたいに頭すり寄せてきて……ふふっ、ちょっと可愛いよね」
「……へ、へぇ~……」
(そ、想像……出来な、い)
これは……自分が知ってしまって良い情報だったのだろうか。いや、多分ダメなやつだ。
ファーランはそっと頭を抱えた。今すぐ聞いた事を忘れてしまいたい。
リヴァイがフェリーチェを甘やかしてるのは当たり前として、逆に甘えている様な話は初めて聞いた。しかも、なんかものすごく甘ったるい感じで。
(アイツにもプライドがあるだろうから、そんな話を自らする訳ないよな……)
「だからね、今と〜っても幸せ! ずっとこうしたかったんだぁ」
言葉通り心底幸せそうな表情を見せるフェリーチェに、ファーランは成程な……と感心する。
自分に重たい感情を抱くリヴァイが良い、と。
(リヴァイも知らない内にフェリーチェのペースに嵌っていったってコトか)
——男も女も惑わす才能。
ある意味、フェリーチェは自分達の中で一番か弱いが、とんでもなく最強なのかもしれない。
(俺もいつ巻き込まれるか分かったもんじゃないな)
やっぱり自衛は大事だ、と改めて思ったファーランだった。
フェリーチェの用事に付き合った帰り道、ファーランはご機嫌なフェリーチェの横顔を見つめた。
交渉の末に手に入れた、地下街では入手困難な高級ワイン。
ファーランも驚いたフェリーチェの交渉術は、ほとんど彼女の可愛らしさと見え隠れする色香によるもので、戦略的思考などとは程遠いものであった。それでもこれだけの成果を上げたという事は、きっと誰も気付かない内にフェリーチェのペースに嵌っていたという事だろう。
男も女も惑わす才能。
フェリーチェの、姉や母親代わりだという娼婦達の顔を思い出し、ファーランは目を瞑り深く頷いた。
——うん。絶対に、姐さん達に仕込まれてるな。
「みんなで飲もうね! 久しぶりにパーティーだ〜」
「フェリーチェは一杯だけな。めちゃくちゃ酒弱いだろ。まぁ、俺が言わなくてもリヴァイが絶対に止めると思うけど」
「そう? 別に弱くないよ」
「……。俺は忘れてないからな。初めてフェリーチェと飲んだ日の事」
酔うとキス魔になるなんて、とんでもない罠だ。
幸い唇は奪われなかったとはいえ、頬に何度も押し付けられた柔らかな感触は、当時なかなか消えなかったのを覚えている——しばらくリヴァイにネチネチ絡まれた事も。
生きた心地がしなかった数日間。あんなのはもうゴメンだと、ファーランはあれから飲みの場にフェリーチェがいる時は離れた席に座っている。自衛は大事だ。
「みんなで飲むの楽しいのになぁ……」
「ハハ……」
リヴァイは楽しくないだろう。
一杯飲ませるとフェリーチェを部屋に放り込んでいた。それをやり遂げてから、ようやく落ち着いて飲み始めるのだ。部屋に戻る頃には、酔い潰れたフェリーチェはぐっすり夢の中。朝まで起きないそうだ。
リヴァイ曰く、キス魔は隔離に限るらしい。……それもあるだろうが、一番は酔ってふわふわしてる可愛い恋人を見せたくない……なんだろとファーランは思っている。
(本当、そういうところだよなぁ……見てるのも慣れたけど)
そういえば、一度リヴァイを揶揄った事がある。
酒が入ってる時なんか盛り上がりそうだけどなぁ、と。勿論、男女のそういうコトについてだ。
『記憶をなくすほど酔ってる相手とヤッてもつまらないだろうが』と機嫌悪そうに返事が返ってきたが……。
フェリーチェを抱き潰して気絶させる男が何を言ってるんだと半分呆れた。理性をどろどろに溶かされたフェリーチェが途中から何も覚えてないのを知ってるだろ、お前は。自分で言ってたよな?
——少なからず、そういう時に男が女に抱くのは支配欲で。
あからさまに出すのは憚られるから理性で隠しているのだ。本音を言えばファーランにだって心の奥底にその欲があったりするが、リヴァイほど強くない。強固な理性を保てるという自信もある。
フェリーチェは、クールな恋人が激重感情の塊だと気付いているのだろうか?
「ファーランとイザベルが家に来て一年の記念日だからね、今日は贅沢しようね!」
「それは嬉しいが……。本当に良かったのか? フェリーチェ」
「へ? なにが?」
「イザベルが使ってる部屋は前はフェリーチェが使ってただろ? 俺達が来た事で、フェリーチェはリヴァイと同じ部屋になっちまったワケだし……。俺はリヴァイと同室で良かったのにって、今でも思ってるぞ」
(まぁ……リヴァイに全力で拒否されたんだけど)
「こっちが一部屋使わせて貰ってるのは、なんだか申し訳ないよなって……女にはプライベートを守れる部屋が必要だろ」
「あぁ! 優しいね、ファーランは」
全然大丈夫なの、とフェリーチェはなんだか嬉しそうだ。
「あのね、リヴァイって誰かと一緒に寝るの嫌いっぽかったんだ。だからこの家に来た時からずっと部屋は別で、離れてて。でもね、私……苦手なんだよね……寝てる時に響いてくる雷の音とか、どこかから聞こえてくる叫び声とか」
「そうなのか」
「うん。だけどリヴァイには『怖いから一緒に寝て』って言えなかったでしょ? ちっちゃい時は布団に潜って震えてた」
「誰かと寝るのが嫌い……そりゃあ相部屋も嫌がるワケだ。嫌でも誰かを選べって言われたら、俺よりフェリーチェ選ぶのは当然だな。恋人だし」
「でもさ! はじめはベッド別にするって言われたんだよ!? 二人だと狭いからって! は? 充分スペースありますが!?」
「意外過ぎる……今はあんなにベッタリなのに」
「それはねぇ〜、私がここぞとばかり『怖い』『寒い』『寂しい』『一緒に寝て』って甘えたからだと思う」
フェリーチェはクスクス笑うと、リヴァイは初め渋々付き合うという感じだったと言った。
(オイオイ嘘だろ。想像出来ねぇ)
「それが今はね、私が夜中に喉乾いたから何か飲もって起きようとすると、すぐ、どこ行くんだってぎゅってしてくるんだよ。行くなって首に噛み付いてくるのは痛いけど」
「え゙」
「背中向けて寝てると、いつの間にか向き直されるし。朝はキスしないと目開けてくれない」
「…………」
「眠れないってしがみつくと、夜中でもホットミルク作って一緒に飲んでくれるの。早くベッドに戻りたいって言いながら、猫みたいに頭すり寄せてきて……ふふっ、ちょっと可愛いよね」
「……へ、へぇ~……」
(そ、想像……出来な、い)
これは……自分が知ってしまって良い情報だったのだろうか。いや、多分ダメなやつだ。
ファーランはそっと頭を抱えた。今すぐ聞いた事を忘れてしまいたい。
リヴァイがフェリーチェを甘やかしてるのは当たり前として、逆に甘えている様な話は初めて聞いた。しかも、なんかものすごく甘ったるい感じで。
(アイツにもプライドがあるだろうから、そんな話を自らする訳ないよな……)
「だからね、今と〜っても幸せ! ずっとこうしたかったんだぁ」
言葉通り心底幸せそうな表情を見せるフェリーチェに、ファーランは成程な……と感心する。
自分に重たい感情を抱くリヴァイが良い、と。
(リヴァイも知らない内にフェリーチェのペースに嵌っていったってコトか)
——男も女も惑わす才能。
ある意味、フェリーチェは自分達の中で一番か弱いが、とんでもなく最強なのかもしれない。
(俺もいつ巻き込まれるか分かったもんじゃないな)
やっぱり自衛は大事だ、と改めて思ったファーランだった。
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