お見合い相手はリヴァイさんでした。
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「これに決めました!」
店内をウロウロ歩き回っていたフェリーチェは、入り口付近にある棚の脇で待っていた俺に、スノーマンの置物を二つ突き出して見せた。
「ぬいぐるみは、やめたのか」
「こっちの方が気に入ったから」
笑うフェリーチェは、会計をしてくると再び店の奥に消えていく。
――後は戻ってくるのを待つだけだ。
店の外に出て壁に寄りかかり、ハァと息を吐く。何もしていないが……疲れた。慣れない場所にジッと立っているのは、相当精神にくる。
「疲れちゃいました? やっぱりあそこで待っててくれてれば………」
隣に戻ってきたフェリーチェは、申し訳なさそうに声のトーンを落とした。
あそことは、ショッピングモールの中庭に面した、コーヒーショップの事を言っているのだろう。
しょげてるフェリーチェの頭を撫でてから、歩くのを促した。
「俺が好きでついてきたんだ。気にするな」
「でも、リヴァイさん……」
「……。だったら、今度は俺に付き合え。休憩だ」
「休憩――」
前方に見えてきたコーヒーショップを指差せば、フェリーチェの表情はパッと変わった。
「喜んで付き合います! あそこのティーラテ美味しいんですよねっ」
俺を追い抜き、更には置いていく勢いでフェリーチェの足が速まる。思わず「子供かよ」とツッコミたくなる、はしゃぎっぷりだ。
「おい。よそ見をするな。人にぶつかる」
言った時には、もうぶつかっていた。
「…………」
ごめんなさい、と相手に謝っている姿を見て思う。やっぱりツッコんでおくべきだろう。
(子供か、お前は)
二人の将来を決めましょう。
ここ数日は天気も悪く真冬の気温が続いていたが、今日は久しぶりの晴天。気温も一か月前に戻ったのでは? と思うくらいに暖かい。
吹き抜けの中庭も陽に恵まれている。フェリーチェは、そこで休憩しようと言った。
「あ~……和む~」
のほほんとした顔で紙カップのティーラテを飲み、フェリーチェはこれまたのほほんとした口調で言葉を零した。
さっきまでは子供で、今度は年寄りか。
思いつつ、隣を見る。
季節柄、クリスマスツリーに飾り付けられている中庭のシンボルツリーを、フェリーチェは満面の笑みで眺めていた。
(………確かに、和む)
俺の場合、ティーラテにでも、ツリーにでも無いが。
「あれだけ大きいと飾りつけも大変だろうなぁ……。ね? リヴァイさん?」
「――そうだな」
「うちにあったのは小っちゃかったから、お父さん達とやるとあっという間に終わりましたよ。ちょっと物足りなかったな~」
「そういうもんなのか?」
「そういうもんです」
――成程。
遅めに起きたせいで朝食時間がずれた為、昼を少し過ぎた時間になっても、俺もフェリーチェも昼食を取る気にはならなかった。
そんな訳で、しばしの休憩の後は、ショッピングモールの中を歩いて回り、昼食も遅く取る事にする。
そう決まると、他に寄りたい店が数件あるのだと、フェリーチェは指折り数え始めた。
「さっきみたいなお店と、文房具と本屋と……。あ! そうだ! ザッハトルテが美味しいお店があるんです! そこもっ」
「昼飯食う前に、何を食うってんだお前は」
「……それもそうですね。じゃあ、それはお持ち帰りにして」
ついでに誕生日ケーキも予約しましょうね。
得意げな顔が、また目の前にあるクリスマスツリーを見上げた。
水族館、雑貨、誕生日ケーキ……どれも今まで縁の無いものだった。
フェリーチェに会ってから、これ以外にも色々縁遠かったものが集まってきている。以前だったら、興味も無く見向きもしなかったものばかりだ。
しかし今、それらは不思議とすんなり自分の中に溶け込んできている。
フェリーチェが運んでくるものだからだろう。
他の女ではこうはならなかった――。
目の前のクリスマスツリーと、楽しそうに写真を撮っている他人達の姿。こういった生き方もあるのだと、新たな選択肢を知った。
「あ!」
「あ?」
「リヴァイさん、ちょっとこれ持ってて」
「は? おい?」
急に紙カップを押し付けられ、訳も分からずとりあえず受け取る。
立ち上がったフェリーチェは、クリスマスツリーのもとへ走って行った。そこには、転んだまま泣いてる子供が一人。……あれか。
「そういえばアイツ、子供好きだったか……」
そもそものキッカケといえる、ハンジの悪巧みに付き合った時の事を思い出した。
あの時も、子供によく目を向けていた。幼ければ幼いほど、瞳が和らいでいた気がする……。
「……」
フェリーチェは、転んだ子供に手は差し伸べても、その子供を起き上がらせる事はしなかった。自分で立ち上がらせようと声をかけている姿は、事情を知らない人間が見たら母親だと間違っても、おかしくは無いだろう。
泣き止んだ子供が立ち上がると、フェリーチェは、膝を少し払ってやり笑った。子供もつられて笑っている。
(慣れたもんだな。弟妹がいる訳でもないのに)
その後、慌てて駆け寄って来た母親と少し会話を交わし、フェリーチェはまた走って戻って来た。
「チョコレート貰っちゃいました~!」
「ガキから貰ってガキみたいに喜ぶな。……それは礼か?」
「はい。可愛いですね〜。ポケットから飴とか色々出てくるんですよ。ミニカーとか!」
「お前も、バッグから飴やらガムやらを出してくるな。いつも」
「……そうですけど。それはつまり、子供と一緒って言ってます?」
細めた目を向けてくるフェリーチェのむくれっぷりが面白くて、笑ってしまった。
放って置いたら膨らみそうな頬を摘んでから、ラテを飲む。大分ぬるくなってはいるが、この陽気なら気にならない。
「そうじゃねぇよ。可愛いっていう意味で言ったんだ」
「……分り辛いですよ。どうせならハッキリ言っちゃってください」
頬を赤くしたフェリーチェも、ぬるくなったラテを飲んだ。「和む~」と、さっきと同じ事を言っている。
しかし、それが照れ隠しの一言である事は、安易に想像がついた。
(和むというか面白いというか……)
それはともかく、その赤い頬をもっと赤くする方法を、俺は知っている――。
「フェリーチェ」
「はい?」
「お前が一番可愛い」
「な゛!?」
耳元で囁けば、案の定、頬どころか耳まで赤くしてフェリーチェは硬直した。カップに口をつけたまましばらく動かない。
「いつまで固まってんだ」
「だ、だって! リヴァイさんが急に変な事言うから!」
「変な事なんか言ってねぇだろ。それに、お前がハッキリ言えと言ったんだろうが」
「言いましたけどっ……そうくると思わなかった!」
掌で顔をあおぐ仕草をするフェリーチェは、「びっくりした〜」と呟いている。
「リヴァイさんって、いっつもそう」
中庭を駆け回っているガキの声に消されそうな声だったが、ちゃんとこっちには届いた。
いつも驚かしてくる、という意味か?
それはお前も同じだろ。お互い様だ。
「フェリーチェ」
「……今度は何ですか?」
ついでだ。
もう一度驚け。
「ツリーも買って帰るか」
「えっ!?……えっ、ツリー!?」
「どうせ必要になるんだろ」
「??――やった! クリスマスらしくもなる!」
(……お前、意味をよく理解して喜んでんのか?)
「大きめサイズがいいです!」
これは分かってねぇな、絶対――。
✽✽✽
――クリスマスツリーは、私の身長よりちょっと高いサイズを選んだ。
当然、飾り付けも子供の時よりやりがいがあって、楽しかった。リヴァイさんもブツブツ言いながらも手伝ってくれたしね!
ていうか、なんで「俺もやるのかよ……」とか言ってたんですか。リヴァイさんが買って帰ろうって言ったんでしょ。
(あの時、大っきなツリー見て「やっぱり良いもんだなぁ」って思ったんじゃないの? それとも、私が実家にあったツリーの話したから?)
――ま、どっちでもいいやっ!
広いリビングに置いたら、買う時は大き過ぎたかな? と思ってたサイズもしっくりきてる。
電気を暗めにすると電飾が映えてとってもキレイだ。リヴァイさん家はスッキリしてるから、余計にツリーが引き立つんだと思う。
「みんなを呼んでパーティにすれば良かったですか?」
「冗談言うな。アイツらがはしゃげるようにと買ったんじゃない」
「それもそっか」
叔母さん達、今頃ミケさんのお店で大騒ぎしてるんだろうなぁ。
想像出来る。他のお客さん、巻き込まれてないといいけど……。
「クリスマスに誕生日って、お祝いをまとめられてる気がして子供の時は不満だったけど、今回だけは『よかったな!』って思います」
「今回だけは?」
「あ……今回だけじゃ……ない、ですよね?」
「当たり前だ」
つい恐る恐る聞いてしまったけど、即答で返されてホッとした。
「お前は自分のことを、俺の何だと思ってるんだ」
「……彼女」
「馬鹿が」
それも即答ですか……!
お付き合いしてれば『彼女』でしょう? 他に何があるって言うんですか!?
という目でリヴァイさんを見ると、リヴァイさんは呆れかえった顔でソファーから立ち、キッチンに入って行った。キッチンに?
「リヴァイさーん?」
反応ナシ。
「お酒ですかぁ? まだ残ってますけど? それとも氷?」
何度か問いかけた後、やっと戻ってきたリヴァイさん。……その手に小さな紙袋が見えて、私はドキッとした。
それって……。
「これ、プレゼントですか?」
「それ以外に何に見える?」
「プレゼントにしか見えませんけど」
「じゃあ、聞くな」
テーブルに置かれたそれを、開けろと促され、私は言われるがままに紙袋の中身を取り出した。
真っ白い小さな箱。中身はアクセサリーだとすぐ分かる。
――こ、これって……ゆ、指輪……!?
どうしよう。開けるだけなのに緊張してきた……。
ドキドキしつつ、水色のリボンを解こうとしたら、
「違う」
と、リヴァイさん。
え。何が? これ私宛じゃないの? まさかのドッキリですか?
リヴァイさんを見る。すると、そっちを先に見ろ、と袋を指差し言われた。
なんだ。順番あるんですね……。確かに、中にはまだ手紙がある様ですけど……手紙!? え? 手紙!
リヴァイさんからお手紙って、何か不思議な感じだなぁ……と箱と同じ白の封筒を出す。
あ。これカードか。バースデーカード兼クリスマスカードかな?
それより、この重みは……?
疑問と一緒に封筒をひっくり返すと、中から出てきたのは鍵だった。
「もしかして、合鍵ですか!?」
「あぁ」
「……うそっ」
合鍵なんて貰えると思わなかった私は、嬉し過ぎて涙が出そうになってしまった。まさか私が、男の人から部屋の合鍵を貰う日が来るとは……!
「ずっと渡そうとは思ってたんだけどな。渡すタイミングを迷ってたら……今になっちまった」
「すっごい嬉しい! ありがとう、リヴァイさん!」
「勝手に出入りするのは構わないが、散らかすなよ」
「もちろんですっ」
ふいっとそっぽを向く姿に、笑う。
リヴァイさんがそうする時は、照れている時なんだよね。
私は、今度はカードに手を伸ばした。
(どんなカードかな。開けたら音楽鳴ったり?)
その場合、音楽は誕生日ソングなのか、クリスマスソングなのか。
色々想像して……。
「えっ」
紙の感触に、想像以上の事が起きたのを悟った。
「リヴァイさん……」
「……」
「ちょっとこれ、婚姻届ですがっ!?」
「それは端から迷ってねぇぞ。フェリーチェに合わせたら今になっただけだ。ここまで遅くなったのは……まぁ、お前の自業自得だな」
「渡すタイミングとか、合鍵より迷いが無かったんですか……」
「合鍵以上に迷って欲しかったのか」
「それはそれで微妙だけど」
凄いタイミングでえらいもんを出された! コレも……プレゼントのひとつ!?
だけど、予測が全く出来ないこんな行動でも、リヴァイさんなら最終的に納得出来てしまうというのがまた凄い――。
何も記入されてない用紙を見て、私は「へぇ~婚姻届ってこんなものなんだぁ。初めて見た」とか、ぼんやり思った。
でも、ずっと見てたら「あれ?」と気付く。
「これ、いま書く用ですか?」
「……。お前は、婚姻届を何枚書くつもりなんだ?」
「一枚……」
「……書きたい時に書けばいいだろ」
リヴァイさんは、また、ふいっとそっぽを向いた。
――照れてる! 自分から出してきたのに!
「んー書きたい時って……」
私は、改めて一枚の紙を見つめる。
(これ書いたら、本当にリヴァイさんのお嫁さんになるんだ)
さらっと婚姻届を出してきたリヴァイさんは、もうケロッとした顔でお酒を飲んでいた。
――結婚……最初から迷ってなかったんですね。
当たり前? か。なんてったって、はじまりが“あのお見合い”だもんな……。
何年も経っている訳じゃないのに、振り回されてた最初の頃が懐かしい位に思えた。
(そう思うって事は、私達は短い期間に結構濃縮された日々を送って来たとも言えるんだよね)
ショッピングモールで見たクリスマスツリーを思い出しながら、目の前のツリーを見た私は、満足感を感じる。
うん。やっぱり、このサイズでちょうど良い!
飾るのは少し手間がかかるけど、“みんな”でやればそれも楽しい。これからの恒例行事だね。リヴァイさん!
「よし。今、書きます」
「は!?」
「書きたい時に書けって言った癖に、驚くんですか? しかもそんなに」
「いや……」
珍しく驚きを露わにしてるリヴァイさんに笑った。
決めたら、私は迷わない。
自分の書く欄をさくっと埋めて、仕上がりに頷いた。よしっ!
横でリヴァイさんが何か言いたげな顔をしてたけど、きっと「お前、本当によく考えたんだろうな?」とか言いたいんだと思う。
考えましたよ。もうずっと! しつこいくらいに!
でも、考えても考えても同じところに行き着くんだから、これはもう絶対でしょ!
「これ、今リヴァイさんに渡したら、なんか誕生日プレゼントみたいだと思いません?」
逆プロポーズみたい……とは、あえて言わないでおきます。
「随分と壮大なプレゼントだな。人生貰うのかよ」
「いっちばん最初に“生涯俺のもんだ”発言した人が、何言ってんですか」
「まぁな。お前が出し渋ってただけか」
「別に渋った訳じゃないもん……」
ボソッと言い返したら、クッと笑われる。
悔しいからまた一言。
「返品不可ですよ」
「どんなに不良品でも返す気はねぇよ」
「……」
え。それ素直に喜んで良いんですか……?
言い返そうとしたら、キスで阻まれてしまった。これ、いつの間にか定番パターンになっている……気がする。
「もうひとつ残ってるぞ」
「ん?……あっ」
リヴァイさんが、小さな箱を指差した。
(そうだった。婚姻届けのインパクトが大き過ぎて忘れてた……)
掌に大事に乗せてゆっくり開けると、ダイヤの指輪が。シンプルなデザインは、大人っぽく上品に見える。
「綺麗~! 職場は、ファッションリングは禁止ですけど、エンゲージリングなら平気です!」
「そうか。それはこの上ない虫除けだから、常にしてろ」
「そんな……大事な指輪を蚊取り線香みたいに言わないでくださいよ……」
「大事なのは指輪よりお前だろ」
「~~~っ!」
だから、もう! この人は! どうしてこういう事をサラッと無表情で言えるんだっ!!
いちいち恥ずかしがってる私が、おかしいみたいじゃんかっ!
箱から取り出した指輪を、リヴァイさんは私の左薬指にはめてくれた。サイズはピッタリ。いつの間に調べてたんだろう?
指に収まったエンゲージリングは、とっても感慨深い。この指輪でこれだけ感動しちゃうんだもん。結婚式の時の指輪交換なんて……もう泣くしかないよね?
「返品不可だぞ」
リヴァイさんが言う。
私はそれに、
「返せって言われたら、泣いて拒否しますよ。結果事件になっても知りませんからね?」
胸を張って答えた。
「それなら安心だな」
フッと微笑む目はあまりにも素敵で、見つめてると吸い込まれそう。実際、そんな勢いで私はリヴァイさんにキスをする。
どちらからともなく、指輪の存在を確かめる様に手を繋いだ――。
「……あ! 私もリヴァイさんにプレゼン――トッ!?」
唇を離したと同時に、自分の用意したプレゼントの存在を思い出した私。だけど口を開いた瞬間、視界が引っくり返った。
予告無く押し倒されたので、頭がクラクラする。
「リヴァイさん、私もプレゼント……」
「もう貰った」
「いや、婚姻届の方じゃなくて」
「じゃあそっちは明日の朝で良い」
「えっ、でも」
「俺の誕生日は明日だぞ」
「……たしかに」
壁の時計を見上げると、横になった数字が、今日がまだ終わってない事を教えてくれてた。
明日までまだ時間が……――ん?
「ちょとストップ! リヴァイさん! 今、明日の朝って言いました?」
「言ったが?」
リヴァイさんが首元でこもった声で答える。
吐息がかかって、一瞬身体がビクッと跳ねてしまった。
「朝じゃなく、十二時! 十二時になったら渡します!」
「遠慮しておこう。今はこれで十分だ」
「いえいえ! そこは遠慮しないで!」
耳元で騒がれたのが嫌だったのか、リヴァイさんはちょっと不機嫌そうに顔を上げて私を見た。
「俺は本来、お前だけで十分なんだよ」
(うわぁ……またそういう事を…!)
顔は不機嫌な癖に、動く手はやたら優しい。
頬を撫でる掌も、鎖骨をなぞる指も。だめだめだめ! このままじゃ流されて……
「か、からだ壊れる……!」
「加減はするつもりだ」
「しなかったら壊れるって事ですか!?」
「壊れは……しないだろう? しばらく辛くはなるだろうが」
「……全力で加減してくださいっ」
逃げるのは諦めた。
となると、ここはひとつ、リヴァイさんにお願いするしかない……。
私の懇願には、微笑みと一緒に返事が返ってきた。
「分かった。努力はしよう」
「なんか不安な返事だな………あ! あと、もうひとつ」
「まだ何かあるのか」
「――私も、リヴァイさんだけで十分です」
「……っ」
リヴァイさんの表情が、一瞬だけ大きく変わる。
ぽすっと私の肩に頭を乗せると、リヴァイさんは「そうか……」と小さく呟いた。
「フェリーチェ……。ずっと俺のそばに居てくれ――」
「は、はいっ」
身体に響いてくる低い声。
リヴァイさんの髪が頬に当たって、少しくすぐったい。自分と同じシャンプーの香りがする髪にキスをした私は、幸せいっぱいの中で「ん?」と思う。
照れてそっぽを向く。イコール、顔を見られたくない。
私はその顔が見えない。そして今も見えない。
……という事は……
「照れてるっ!」
「………。フェリーチェ」
「イタッ!」
く、首! 結構本気で噛みつかれた!
「人の事を散々言ってるが、お前は照れるどころか泣いてんじゃねぇか!」
「こ、これは……!」
そう指摘された途端に、目にしがみついてた涙が落ちてしまった私。実はちょっと前からウルウルしてたんだよね……。
「嬉しくて」
「嬉しいなら笑え」
薬指のリングに口付けたリヴァイさんは、次に目元の涙に口付ける。
「笑えよ」
「リヴァイさんがさっきの言葉、目見て言ってくれたら」
「二度も言う事じゃない」
「ケチー。いつもはサラッと出してくる癖にーっ」
「なんの話だ、それは」
「……実は分かってるでしょ…リヴァイさん」
最後は二人で笑って、キスをした――。
Happy End!《最終話》