お見合い相手はリヴァイさんでした。
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仕事帰りの最寄り駅構内。
どうしようかと考えた末、帰りとは反対の電車に乗った。
今日は金曜、明日はお休み。
たまには一人で、ウィンドウショッピングでもしよう……。
そろそろ先に進みましょうか。
窓を流れる景色を見ながら、スマホを取り出した。
着信無し。メールは、毎日同じ時間にくるメルマガだけだ。
(珍しいな。叔母さんから飲みに行こうって入って来ない)
お決まりの様に、金曜となると誘いのメールが来てたのに。
仕事、忙しいのかな?
(……いや。ないな)
あのキッチリ定時に帰る為には、昼間の労力惜しみません的な人が。
――目的の駅に着いた。今度は人の波に乗る。
大きな駅は、丁度ラッシュと重なって多くの人で溢れかえっていた。金曜というのもあって、待ち合わせの定番スペースにはジッと立ってる人が多い。時々、女の子達の「待った〜?」とか「久しぶり〜!」という高い声が聞こえてきた。
一人で人混み歩く時って、何故か早足になるよね。これ何でだろう。お喋りしてないからかな?
ハンジ叔母さんは、喋ってても早いけどね。
――なんて考えていたら、私より足早な人がすぐ右側を通り過ぎていった。ドキッとする。
あんなに急いで、どこ行くんだろう? 待ち合わせに遅れそうなのかな……?
待ち合わせかぁ……。
金曜の夜は、叔母さんとご飯を食べるのが大体だ。その後はミケさんのお店へ。そこにリヴァイさんやエルヴィンさんが加わって……みんなで飲む。
私は最近、特に予定の無い時はこんな感じで過ごしていた。
一週間の仕事は、この夜が楽しみで頑張れてたりもする。
それで、週末はリヴァイさんと一緒。土日のどちらかは必ず会っている。一緒にいるの……当たり前になってきたな――。
雑貨屋なんかを覗いていたら、時間はすぐに過ぎてしまう。十一月に入ったばかりだけど、すでに世間はクリスマスモード。雑貨も、サンタクロースやクリスマスツリーといった具合で、色は赤と緑とゴールドでいっぱい。
(クリスマスかぁ……。そういえばリヴァイさん、二十五日が誕生日って言ってたっけ)
私は二十四日だから、クリスマスより誕生日パーティーか。どんな風にお祝いしよう?
スノーマンの小さなぬいぐるみを見て、つい笑ってしまう。リヴァイさんのデスクにあったクラゲのぬいぐるみを思い出した。
ビックリしたし恥ずかしかったけど……嬉しかったんだよね。私。
この先の事はよく分からないけど、考えると心が逸る。ワクワクとかドキドキとはちょっと違う。何だろうな、これ――。
「あ。ハンジ叔母さんだ」
バックの中で着信音が鳴った。
この曲は叔母さん専用で設定してるから、画面を見なくてもすぐ分かる。はいはーい、と気楽に出たら、
『フェリーチェ? ああ~……俺、なんだが……』
いきなり男の人の声。
ギョッとして、お店の中だというのに大声を出してしまった。
「ミ、ミケさんっ!?」
叔母さんの電話から何の御用ですかっ!!?
✽✽✽
「悪いな、急に。驚いただろう?」
「はい、ちょっと。でも……“コレ”は一体どうしちゃったんですか?」
ミケさんのお店に入った途端に目に入ってきた光景に、再度驚く。
叔母さん……なんでこの時間に、もうすでに出来上がってるの?
酔い潰れる寸前の“コレ”を前に、溜息。
メール来ない筈だよ。一足も二足も早く一人で最終目的地に到着してんじゃん。
「ハンジは今日、有給だったんだ」
いつもは一番最後に合流するエルヴィンさんまで居るから、またまた驚きだ。どうしたんですか? エルヴィンさんまで!
「私もね」
こちらの疑問を察したのか、エルヴィンさんは笑った。
「もしかして……デート?」
「まさか。朝から呼び出されたんだよ」
「あー……。叔母さん……得意ですからね、そういうの」
そういえば、自分がこのメンバーに加わった原因も叔母さんだった……。
普段は仕事に疲れた様子のエルヴィンさんが、今日は違う疲労を見せてた。こりゃ相当振り回されたな。気の毒に……。
「ところで、お二人はどこへ?」
「それが……」
「フェリーチェーーっ! おっそい!」
「遅いって……。叔母さんが早過ぎんでしょ、むしろ!」
「ちがーう! その遅し速しじゃないっ」
「何、その遅し速しって…」
「これを見よっ!」
バックから何かを出してきた叔母さんが、テーブルの上にドッサリと分厚いものを置いた。
それを見て言葉を失う。
「えっ!? なんで結婚式場のパンフレットがこんなに??」
「あんた達が、のんびりゆったりしてるからでしょ。私が代わりに事前調査してきた」
「事前……調査……」
エルヴィンさんを見上げた。分かった、分かりましたよ! その疲労の原因が!
なんか……ものすっごいすみません! うちの叔母がご迷惑をっ!!
「すみません……エルヴィンさん」
「いや、なかなか出来ない経験で楽しかったよ」
「そうだよ~? エルヴィンも結構演技派でねぇ。ノリノリだったんだから」
「もう叔母さん……。いいよこんな事までしなくても。人を巻きこんじゃ駄目でしょ」
ミケさんが持ってきてくれたウーロン茶を叔母さんに渡す。一気にそれを飲み干した叔母さんは、ニヤニヤ顔を真顔にした。
「私は、フェリーチェの幸せだけを願ってんの!!」
「ハンジ叔母さん……」
「可愛い娘のキレイな花嫁姿。それだけを夢見て、私はフェリーチェを育ててきたんだからね!」
「いや、叔母さんはお母さんじゃないから。確かに半分育てられた様なもんだけどさ」
「こんなに素直でいい子に育ってくれて……。どこに嫁に出しても恥ずかしくないのよ、ねぇ分かる!? エルヴィン!」
「そうだな。……今日幾度となく聞いたぞ、それ」
「リヴァイと親戚になるのは複雑だけど、あの男は間違いない!……複雑な心境だけど……これだけは間違いない!」
ターン! と勢いよくグラスを置くと、叔母さんは「ミケ! お代わり!」と叫んだ。
――この勢い。まさかウーロン茶をウーロンハイだと思ってんじゃ……。
「フェリーチェ……。ハンジは、明日にでも打ち合わせだとか言い出しそうだぞ? 気を付けないと」
エルヴィンさんが耳打ちしてきた。
うんうん、と頷く。このテンションは、先行き読めず恐ろしい……。
「叔母さん。気持ちは嬉しいけど、結婚が決まった訳じゃないんだから……」
「決めてないの!? この期に及んで何をモタモタしてんだ、リヴァイはっ!」
「いや……それはね、私が」
「フェリーチェに何の不満があんだっての!」
「――エルヴィンさん助けて……」
「私とミケじゃ手に負えないから、フェリーチェを呼んだんだよ……」
エルヴィンさんと二人で溜息を吐く。
ミケさんは一人、カウンターの中で肩を竦めていた。
「フェリーチェ。もうこうなったら、最終兵器だ!」
「……別に出さなくてもいいよ。何出るか分からないし、怖い……」
「逆プロポーズなさい! そして式挙げて! で、私に披露宴プロデュースさせて! いや、やる!」
「え!? 最終目的ソコなのっ!?」
てか、逆プロポーズって何っ!!
リヴァイさんがお店に来た時には、超ハイテンションなハンジ叔母さんを前に、私達三人は途方に暮れていた。
勿論、人の結婚を夢見てる叔母さんが、噂のリヴァイさんに絡んだのは言うまでもなく……。
絶対血を見る! と青ざめた私達。
ところが、予想に反してリヴァイさんは「分かった、分かった」と静かにお酒を飲むばかり。結局、叔母さんもその横で「分かってるならね~」とブツブツ言いながらリヴァイさんに付き合っている内に、酔い潰れてしまった――。
「意外な対処法だった! そうか、叔母さんがあのテンションになった時は、黙って一緒に飲んでればいいんだ……!」
「俺より早くハンジを潰しそうだな、お前は」
抑揚の無い声で、リヴァイさんは言った。
「でも、あの状態の叔母さんを、エルヴィンさん達に丸投げして良かったのかな……」
「今に始まった事じゃない。平気だろ」
「今までも、リヴァイさんの家に泊まってたりしてたんですよね? 何で今日は皆を泊めてあげないんですか?」
リヴァイさんが住むマンションは、ミケさんのお店からそう遠くない。叔母さん達が、なだれ込む様にしょっちゅう泊まりに来てる事は、みんなから聞いてる。
パジャマパーティーみたいで、面白そうだよなぁ……。私もちょっと参加してみたい。
「なんか合宿っぽいし、楽しそう!」
「本気で言ってるのか?」
「何でですか?」
一人で住むには持て余すだろう広さ。馬鹿みたいに広くは無いけど、3LDKの家は一人暮らしにはやっぱり大きい。
(皆で泊まるのも、空間の有効活用だよね? 賑やかなのは良い事だと思う!)
リヴァイさんの家、殺風景すぎだから。
「アイツが起きたら、アレを突き付けられて何が始まるか分かったもんじゃねぇぞ」
「……」
リビングのソファーに座って、目の前のテーブルにあるパンフレットの山を見る。
私とリヴァイさんは、同時に溜息を吐いた。
「考えてから物を言え」
「……ですね」
アイスティーに手を伸ばしたリヴァイさんの冷静な判断? を聞いて、私には素朴な疑問が浮かんだ。ん? 叔母さんを二人に任せて置いてきたなら……
「何でこれ、律儀に貰って来たんですか? 置いてきちゃえば良かったのに」
持っていけ! と紙袋に詰め込まれた、多くのパンフレット。てっきり突き返すかと思ったのに、リヴァイさんはそこでも「分かった」と素直に受け取った。
「置いていかれたとなったら、ハンジの執念は更に深まる。これ以上余計な事をされたら堪ったもんじゃねぇ」
「あ。そうか!」
古くからの友人とあって、流石にハンジ叔母さんの事をよく理解していますね。リヴァイさん!
「それよりも……フェリーチェ」
「はい?」
「今日も言われるがままにココに来てるが、お前はそれでいいのか?」
「えっ……」
飲もうとしてたアイスティーは取り上げられ、テーブルに戻される。恐る恐る横を見ると、三白眼の瞳が、心なしかいつもより鋭く私を見てた。
「それは……」
リヴァイさんの質問にドキッとする。
今まで何回もリヴァイさんの部屋に来て、週末を過ごしている自分。
確かに「来い」とは言われた。だけど、強要された訳じゃない。そういう時は必ず、リヴァイさんは私の返事を待っていた。
――あのお見合いの日と同じ様に。
「私の……意思ですよ?」
「“コレ”もか」
やんわりとソファーに押し倒された。
私を見下ろすリヴァイさんは、なんかいつもと雰囲気が違う。
――何でそんなに切なそうな顔してるの?
見上げる私も、つられて胸が苦しくなった……。
「もちろんです。私、何も考えないでノコノコ男の人についていく程……馬鹿じゃないですよ……」
「付いて行きそうだから聞いてんだ」
「付き合ってる彼の家に来るのは、普通です……」
「……」
ゆっくり重ねた唇。撫でるようにそっと触れるリヴァイさんの唇に、身体がすぐに反応する様になったのは、初めてこの部屋に来てからだった。
二人で観覧車に乗った日の夜――。
気持ちの変化がいつ……何がキッカケだったか。
一緒にいるうちに自然と……?
でも、その言い方じゃ、まるで情にほだされたみたいじゃない?
それは違う。自分の気持ちが変わった瞬間が、何度もあった。何度もあって、少しづつ変わった。
「…んっ」
「フェリーチェ、お前……」
私の反応を見てる。
リヴァイさんの視線を感じる。
「――『俺』じゃなくても“自分の男”なら理由になる」
「……っ、は」
「そうだろ?」
違いますよ、って言葉が出てこない。出させてくれないって言う方が正しいかも。
這う手と指先に反応させられて。
キスを強請る舌に同じ熱を貰う。
最初に私に触った時、リヴァイさんは「練習だ」と笑った。それはいつもの俺様発言と変らなくて、「ちょっと待った!」って、私がジタバタしたのは確かだ。
だけど、本当に嫌だったら受け入れたりはしない。
「リヴァイさんは“私の男”だも、ん」
「……」
キモチ良さは、リヴァイさんの指と舌で教え込まれた。
こうして言葉の合間を埋めてる行為は、甘い刺激で体中が震えることなんだって。
「あ……」
でも、あんなにあからさまな事を言ってた癖に、リヴァイさんは最後の一線を絶対に超えない。いつも私だけ……――。
「フェリーチェ、こっちを見ろ」
私がどこを見ているのかに気付いたリヴァイさんが、両手で頬を包んで私を上向かせた。
テーブルの上に置かれた沢山の冊子に、揺り動かされたのは私だけじゃないんだな……と思う。
選択の機会を、リヴァイさんはくれたんだ。――私がいつまでも覚悟を決めないからかな?
「……今日、雑貨屋さんに行ったんです」
「は?」
「クリスマス近いじゃないですか。お店の中、クリスマスグッズでいっぱいなんですよ」
「……あぁ」
「で、スノーマンのぬいぐるみを見つけてですね。アレ、どうでしょう?」
私の言葉に「意味が分からない」と眉根を寄せたリヴァイさんに、笑って言った。あの時思ったのは、
「大っきいクリスマスツリーとかも考えたんですけど、私達じゃクリスマスっていうより誕生日会だし。でも、やっぱりクリスマスっぽいのも欲しいじゃないですか。だから、」
「待て、フェリーチェ。……何が言いたい」
「……ここには、リヴァイさんらしくシンプルな方が似合います。賑やかなのは諦めるから、小さいぬいぐるみと私だけで良いですよね? オフィスのデスクみたいに」
最近は、リヴァイさんと一緒にいる時の事ばかり考えてた。だって、
「私、リヴァイさんの事……好きです。今は、ずっと一緒に居たいなって、思ってます……」
だから……と続けるものの、ごにょごにょ中途半端な声で誤魔化してしまう。――こんなこと自分から言うとは思わなかったよ。
「今日はその……さ、最後ま」
「馬鹿だな。お前」
「え゛!? ここでそれですか!?」
「俺はずっと前からそうだ。今は……――」
「!!」
耳元で囁かれた事に驚く間もなく、キスで隙間を埋められた。
私だって、黙ってただ受け入れてた今までとは違う。
リヴァイさんの首に腕を回して、自分から「全部欲しい」と伝えた――。
「ひとつだけ聞きたいんですけど」
「なんだ」
「どうしてずっと待っててくれたんですか?」
「……」
えっと……。そこ黙っちゃいます?
お前の事を大事にしたかったとか、こう女子がキュンとしちゃうの無いんですか? それとも、求める方がダメですか?
「『バージンじゃなきゃバージンロード歩けない』とか、本気で思ってんじゃねぇかって思ったからだ。お前……ドラマ&漫画脳だからな」
「……そこまで酷くない」
ボソッと一言。
リヴァイさんの笑いが腕と肩の動きで分かった私は、相手の胸元に擦り寄った。
「そうか」
頭を撫でる手と、額に押し当てられた唇に、好きな人と結ばれるってこんなに幸せなんだな……としみじみ思ってしまう。
それは、初めてリヴァイさんの腕の中で朝を迎えた日の事だった……――。