お見合い相手はリヴァイさんでした。
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職場の食堂でお昼を食べている時だった。
「ねぇ、フェリーチェ。付き合ってる人、いるんでしょう?」
「え。何、突然」
同期の友人に聞かれ、里芋の煮物を取ろうとしていた手が止まる。
ころんっ、とお箸から里芋が逃げ出した。
色々と、ドキドキしっぱなしです。
「この間の金曜日さ、駅前に車で迎えに来て貰ってたじゃない。あれ、彼?」
「……うん。まぁ……」
「カッコいい人だね! 年上? 付き合いだしたの最近?」
「……うん。まぁ……」
「いいなぁっ! 私なんか最近別れたばっかだよ~!」
「え!? あの、違う支店だって言ってた人!?」
「そう! 二股掛けられてたの! 最悪!」
「ふたまたっ!」
「アッチは遊びだ、お前が本命だって泣きついてきてね。どっちが本命とかどうでもいい。裏切った事が許せないんじゃん。あんな奴、こっちから願い下げだっつーの。ファミレスでアイスコーヒー頭からぶっかけて別れてやった」
「そ、そんな……ドラマみたいな事を……!!」
尊敬するよ、友よ!
「ねぇねぇ、その人どうなったの? そういう時って、周りの人は見て見ぬ振りするの? ウェイトレスさんとか、お客様大丈夫ですかとか来ちゃったり?」
「フェリーチェ……相変わらずドラマ脳だね。あんたそのまま脚本家なれるよ」
友人に呆れ顔を向けられてしまった。
向かいのテーブルでご飯を食べていた課長にまで、笑われる。それに苦笑を返して、さっき逃した里芋を口の中へ放り込んだ。今日も、食堂のおばさんの料理はとても美味しい。
「それより、私はフェリーチェの話が聞きたいんですけど?」
「えー……私?」
「どこまで話進んでる? 結婚? ねぇ、結婚?」
「あんた……私の叔母さんみたいになってるよ」
さっきの友人の口調を真似て言った。
彼女は笑って、デザートのプリンを頬張り。
「例の陽気な? 私、その叔母さんと気合うかも。仲良くなりたい!」
「そうしたら、確実に見合いに連行されるよ? そういうの大好きだから」
「え? じゃあ、もしかして彼っていうのは……」
鋭いなぁ……なんて思いながら、私もプリンに手を伸ばした。
もし、友人がハンジ叔母さんのお見合いリストに加わったら、相手は……エルヴィンさんだろうか? それとも、この間連れていかれたバーの店主のミケさんか……。
どちらにしても、ハンジ叔母さんに振り回される事にはなるかもしれない。
自分の事はさておき、人の恋愛観察で満足する人だからなぁ……。
そういえば、リヴァイさんに「行き遅れ野郎」とか言われてたっけ。ちょっと笑ってしまった、あれには。
「私は別にどっちでもいいと思うよ? 二人とも、背は高いし、オトナだし。紳士的だし」
「何それ、突然。頭ん中と現実繋げないでよ。話についてけないんですけど私……」
再び友人の呆れ顔が現れた。
「あ、ごめんね。これ癖なんだよね。リヴァイさんにも、意味が分からないって、散々言われてる」
「へぇ~」
今度はちゃんと口にして言うと、友人は「リヴァイさんっていうの、彼は」とニヤニヤしてた。
――ああ……叔母さんと気合うよ、絶対。
「お見合い相手の素敵な彼とお付き合いか~。そっちの方がよっぽどドラマチックじゃない。……ん? 待てよ? それってつまり……」
「え?」
友人の顔がみるみる変わる。頬を紅潮させて、私の肩をガシッ! と掴んできた。
そのまま前後に振られ、視界が大幅にブレる。食後すぐにソレは酔うから! やめてっ!
「同期内第一号で、寿退社なのっ!?」
「えっ!? ちょっ…違うから!」
「私を置いて行かないでーっ!」
周りの視線が私達に集中する。
慌てて友人の口を塞いで、そのままテーブルの下に頭を押し込んだ。私も頭をそこに隠す。
「決まってないし! っていうか、分からないし!」
「何でよ、嫌なの? リヴァイさんと結婚」
「そ、それは……」
どっかで聞いた事ある台詞に、ドキッとする。
「結婚」と言う言葉に、最近私は敏感だ――。
「お前の友人は、ドラマを地でいくタイプか? さすがは友人だな。類は友を呼ぶ」
「私は違いますけど」
「食事をした後は観覧車に乗って夜景見たい、とかいう奴が言う台詞か」
「………別に……これくらい……誰でもしてますよ……」
「大方、“テレビで見たいつかやってみたいシチュエーション”にリストアップでもしてたんだろ。コレも」
「…………」
リヴァイさん。いつ私の頭の中覗いたんですか? 読唇術だけじゃなく透視もするんですか? メンタリストですか、実は。
何も言えなくなった私に、リヴァイさんは「お前は本当飽きねぇな」と言って、気付くか気付かないかな小さな微笑みを見せた。
――きゅっと胸が詰まる。
最近、この微かな、優しい笑みをよく見る。その度に私はドキドキした。出会った頃は絶対に見なかった表情だ。
初めの印象が、仏頂面で超俺様だったからかな?
でももしかして、その頃からこういう顔してたのだろうか……。
私が知らなかっただけで。
そして、今こうして私が彼の笑顔に気付くのは……私がリヴァイさんの事を意識して見てるからであって――。
「じゃあコレも、お前のリストに入っているだろうな」
「わあっ!? ちょっと! 急に動かないで下さい! 揺れるからっ、揺れてるから!」
「高所恐怖症じゃねぇんだろ。騒ぐなこれ位で」
「実は高所恐怖症ですよ!……ただいま絶賛恐怖中なんですっ!」
「………何故乗りたいと言った」
私の隣に移ってきたリヴァイさんが、呆れ顔で一言。
こちらは真剣に返す。
「学生の時に漫画で見て、憧れてたから」
「ドラマだけじゃなかったのか」
ジトリと見られ、そっと視線を外した……。
「だって……。これだけは、友達みーんなやったって言うんだもん」
「やっぱり、類は友を呼んでんじゃねぇかよ」
なっがい溜息が隣で聞こえる。分かるけど。分かりますけど……。
乙女たるもの、王道は外せないじゃないですか! いや。男の人の間にだってあるでしょう? そういうの!
「無ぇぞ。少なくとも俺には」
「読まれてる!?」
「だから、お前はダダ漏れなんだよ。考えてる事が」
「えっ! 全部!?」
「そうだな……少なくとも俺には」
「同じこと二回言った……」
「まぁ、面白いから付き合ってやる」
リヴァイさんの言っている意味はすぐに分かった。多分、いま一番上だ。真っ暗な空が見えたと同時に、リヴァイさんは私にキスをした。
「……んっ」
「…っ」
(そういえば私……最近「下手くそ」って言われなくなったなぁ……)
リヴァイさんの言う「満足」に、少しは近づいたのかな――?
触れるか触れないかの距離で一度離れて。また重ねて。そんな事を繰り返す中、突然リヴァイさんが、
「フェリーチェ」
吐息交じりに私を呼んだ。
色気を含んだ声とあたたかな息が唇に触れる。
腰に回した腕で身体をぐっと引き寄せられ、頬を撫でられた瞬間、ぞくりと全身に何かが走る。まるで、微弱な電流を流されたみたいに。
「——あっ」
言葉はまた呑まれてしまった――。
そしてすぐに。
携帯が震える音。
「……」
「……」
「……リヴァイさん」
「分かってる」
「出た方が……。さっき言ってたじゃないですか。もしかしたら最悪な電話が来るかもしれないって」
「今かよ」
「これ、その最悪な電話?……ていうかこの人、しつこくないですかっ!?」
「……アイツ……後で蹴り飛ばす」
舌打ちして、リヴァイさんは携帯を取り出した。
「……今は場所が悪い、すぐかけ直す。あ? 悪くねぇよ。タイミングが悪ぃだけだ、オマエのな」
それだけ言って、リヴァイさんは電話を切った。
「リヴァイさん」
「なんだ」
声が不機嫌だ。それにも笑いながら、私は言った。
「今の邪魔も王道ですよっ! 漫画的にも、ドラマ的にも!」
「……お前といると、常にそれが付きまとうのか」
盛大な溜息。
――そろそろ地上に到着だ。
(リヴァイさんといたから、高い所……怖くなかった!?)
多分それどころじゃなかったせいもあるけど。
✽✽✽
付き合え、と連れてこられた場所は、明らかに「オフィスビルです」という所だった。このビルの一室に、リヴァイさんの会社があるらしい。エレベーターで随分と上まで行くので「凄いなぁ」と素直に感動した。
「えー! リヴァイさんのオフィス、すっごい綺麗!」
「普通だ」
塵一つ無いって、こういう事を言うんだな……と思う。余計なOA機器は置いていないみたいだし、個人の机の上も整然としてる。
ここ、モデルルームならぬモデルオフィスなんじゃないの?
私の職場とは大違いだよ! 特に、自分の上司には見習って貰いたい!
「フェリーチェ」
入り口でキョロキョロ見渡していると、リヴァイさんの声が奥から聞こえた。
ドアを開けて、入れと言わんばかり。
おおっ! そこは社長室ですね? 位置的に言って、絶対そう!
会社の社長室なんて見た事も入った事も無いから、ワクワクしながらお邪魔した。そして、
(え……)
驚いた!
「この部屋、一段と綺麗じゃないですか?」
「そうか?」
「机と椅子と、応接セットしか無いですね」
「仕事に必要無いものは置かない。当たり前だろう」
「うちの支店長の机の上、書類と私物で凄い事になってますけど……」
ここまでキッチリしてると、お客様落ち着かないだろうな……。妙な威圧感を感じるよ。取り調べでも始まりそうな勢いじゃん。
頭の中で、刑事ドラマの取り調べ風景が浮かんだ。
『おい。サッサと吐け。お前がやったんだろう!』
――リヴァイさん……ピッタリだよ。
絶対人情に訴えてくるタイプじゃないよね。
「そこ座って大人しくしてろ。すぐ終わらせる」
「了解っ。急ぎのお仕事だったんですか?」
「新人のミスをフォローする」
「あー……大変ですね」
「そうは思ってねぇよ。失敗を繰り返す方が、後々ソイツの能力が上がる事に繋がる。俺はそれを手伝ってやる側だ。まぁ、偉そうに言っても、結果俺が楽する為にやってる様なもんだけどな」
うちの上司に聞かせてやりたいっっ!
責任のなすり合いしたり、失敗に対して文句ばっかのあの人達とリヴァイさんとでは、雲泥の差。私の上司もリヴァイさんみたいな人だったら良かったのに。
――失敗しちゃった新人さんが、ちょっと羨ましい。
「少し退屈させちまうな……。悪いが三十分、いや、二十分時間をくれ」
「大丈夫。私の事は気にせず集中してください」
リヴァイさんはもう一度「悪い」と呟いてから、机の上のノートパソコンに向かった。
キーボードを叩く音がすぐに聞こえ……速っ!?
私が打つと「かたかたかた」の音が、「タタタタタ」の二倍速だよ! こんなに速いキーボードタッチ出来る人いるんだ!
茫然と、仕事の世界に入ってしまったリヴァイさんを見た。
独立して成功する訳だ。素質と能力が普通じゃないんだろうなぁ……私ら凡人と違って。
「……」
多分、もう私の事は目に入ってない。パソコンに向かう目を見て思った。
ちょっと寂しいけど、なんか得した気分になってるのは何でかな?
こんな事でもないと、リヴァイさんが仕事してる姿見れないから……だろうね。
ソファーに座って、キーボードの音を黙って聞いて。またチラッとリヴァイさんを見た時、私は“それ”に気が付いた。
思わず二度見してしまった位だ。ううん、三度見!
え、嘘でしょ!?
あの白の丸い物体は……!
(本当に置いてあるっ!?)
水族館で買ったクラゲのぬいぐるみが、不自然にシンプルな空間に居座ってた。
殺風景な部屋の中、ちょん、といるぬいぐるみ。
あれ見た人、一体どう思うんだろう!? リヴァイさんは、ぬいぐるみのこと聞かれたら、何て答えてるの?
(仕事に必要無いものは置かない)
さっき聞いた言葉を思い出して……急に落ち着かなくなる。
(いま絶対、真っ赤だ私! リヴァイさんに見られなくて良かったっ!)
速い無機質な音と自分の鼓動が、重なるんじゃないかと思う二十分。
最近はリヴァイさんの意外なトコばっかり見てしまって……
(どうすればいいの私っ!)