お見合い相手はリヴァイさんでした。
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行きたい所に連れて行ってやる
言ったからには、文句は言うまい。……だが、よりによって、
「またココか……」
「え? 何か言いましたか?」
「いや……なんでもねぇ」
つまるところ、そういう事です。
「助かった~! リヴァイが捕まって! 他の奴らみんな用事あるって言うんだもん」
「……お前、毎回こんな事してんのか?」
人混みの中でキョロキョロ辺りを見回すハンジに言った。
休日の水族館なんて来るもんじゃない。初めて来るが、ゴチャゴチャしてるわ、ガキは走り回ってるは、落ち着かなくてしょうがねぇ。
「いたいた! あそこ!」
「双眼鏡を出すな。不審者扱いされんだろうが」
言わずもがな、お前の行動はいつも不審だが。
「姪っ子のデートを覗き見とは、全くいい趣味してやがる。……馬鹿じゃねぇのか」
「覗きじゃないよ。偵察と試験! どこの馬の骨か分からん奴にフェリーチェを任せられない! 私がしっかりこの目で見極めてやる」
「言ってる事が親父だぞ」
「リヴァイもしっかり見ててよね!」
「なんで俺が……」
コイツは人の都合を毎度無視するからヒドい。今日だって、珍しく休日に休みを作ったから家でゆっくりしてようと思っていたのに、俺が休みと知るやいなや押しかけて来て、こんな所まで連れてくるとは。挙句の果てには、姪のデートを見守れだと? 何故俺がそんな事までしなきゃならねぇ。
「大体俺は、その姪の顔を知らない。何を見守れって言うんだ」
「あ。忘れてた。はいこれ、フェリーチェの写真」
目の前に一枚の写真が突き出される。受け取ってみれば、一人の娘が笑顔で写っていた。
「ほう……これが問題の姪か」
「可愛いでしょう? すっごく!」
「……いたって普通だろ。良い点といえば、お前に似てない所だ」
「まあ、私の娘じゃないからね〜。でも、私はあの子のこと娘みたいに思ってるよ。ちっちゃな時から面倒見てるし!」
「……気の毒な娘だ。同情する」
人懐っこい笑顔を向けている写真の中の娘に、ハンジが叔母である以上、少なからずお前の生活は平穏無事に行ってる筈がない……と言ってやった。本人が分かっているかはともかくとして。
「うーん。顔はまぁまぁだけど、背が高いだけって気もするねぇ。フェリーチェが可愛い過ぎて、釣り合い取れてなくない? なんかハプニングでもあれば、アイツの中身を試せるのになぁ」
ほらみろ。早速遊ばれてるぞ。
「フェリーチェとやらが、あの男が良いって言ってんだからいいだろ。……だから双眼鏡を出すな!」
「とやら、じゃなくフェリーチェだよ。あー、ちょっと寄り過ぎ! まだ恋人でもないのに図々しい男だな」
「は? 恋人じゃない? じゃあ何だ、アレは」
ようやく人混みの中に、ハンジの姪と男を見つけた。男はひたすら喋っていて、フェリーチェはニコニコと笑っている。アレはどこから見ても、普通の恋人同士に見えんだろ。
「誘われただけ。でも、男の方は確実に狙ってる」
「お前はいつもこの段階で邪魔してんのか」
「嫌だなぁ。私はただ覗き見してるだけだよ? 邪魔だってまだしてない」
覗き見と認めた上に、邪魔する気満々なのも暴露しやがった。コイツ。
「ニヤニヤとフェリーチェを見んな! さり気ないボディータッチ禁止!」
「………」
油断してたら、二人の間に突っ込んで行き、男を殴る勢いだ。
俺は、姪じゃなく叔母を監視していた方が良いんじゃないだろうか……。
溜息を吐き、二人に目を向ける。
「男の方はどうでもいいが、フェリーチェが楽しそうにしてんだからそれでいいだろ……」
そう友人に言い横を見ると、ハンジは2人を追いかけそそくさと移動を始めていた。
「………ハンジ」
だからその双眼鏡をとっととしまえ!
(いい加減疲れてきた……)
人のデートを付け回し、横で細かい実況解説と偏見に満ちた感想を聞かされ続けると、さすがに心身に堪える。しかも、周りは人混み。休日の気分転換というより、これはもう休日の気分損失でしかない。
「あの男、女の子のエスコートだけは上手だなぁ。まさか手馴れてるのかな」
「………」
「リヴァイ的にどう?」
「どうもなにも」
魚類を見るつもりも、親子連れや五月蝿いガキどもも見るつもりが無かったので、ハンジの実況中継はやたら耳に入ってきていた。つられてフェリーチェ達を見ていたせいだろう。あの2人の様子に不自然さを見つけたのは、結構前からだ。
「お前にはアレがエスコート上手に見えんのか? 俺にはそうは見えねぇぞ」
「おおっと! 百戦錬磨リヴァイ様のご意見キター!」
「テメェが話を振ったんだろ! 誰が百戦錬磨だ!」
「ごめんごめん! で、なんであれが下手?」
「男ばかりじゃなく、お前の可愛い姪をちゃんと見てみろ」
そう言ってフェリーチェを見る。
水槽を楽しげに覗いているフェリーチェは、隣にいるガキどもと同じ目をしている。いや。それはそれで「お前大丈夫か?」と言いたくなるが、問題は別にそこじゃない。
「あー……なんか言いたい事分かったかも」
「周りの人波に合わせて歩くのは結構だが、もう少し連れてる女の事を見たらどうなんだ」
「フェリーチェは水族館大好きだからねぇ……。普通の女の子連れてる感覚だと、ちょっと分からないか。それはしょうがないよ」
「惚れた女を落としたくて誘ったんだろうが。あれくらい気付かなくてどうする」
フェリーチェは、水槽を眺めている最中に男に声をかけられると微笑み頷く。先に進む男を気にして、後を追いかける。そして……また笑う。
「アイツ、本当はもう少しゆっくり見たいんじゃねぇのか?」
「そうだよね〜。きっとそうだ。ま、確かにそういうのに気付けない点踏まえると、あの男はフェリーチェの彼氏には向かないか! やった!」
「お前が邪魔するまでも無ぇだろ。本人だって馬鹿じゃない。疲れる相手をわざわざ選ぶかよ」
「だってフェリーチェってさぁ、時々すごく抜けてる時あんだよ。うっかり変な男に掴まったら困っちゃうでしょう?」
「………」
人波の隙間から、フェリーチェの横顔が見えた。
(今までと全く違う顔してやがる)
フロアの真ん中にある円柱水槽を見つめるフェリーチェは、違う顔どころか雰囲気も違う。
静と動、というべきか。それまで無邪気な印象が強かった娘が、急に年相応の女の顔を覗かせている。
(……そんな顔もするのか)
気が付けば、ジッと水槽を見つめる姿に、つい惹きこまれてしまっていた。
その真っ直ぐな目は……嫌いじゃない。
それに——
「ねぇねぇ、リヴァイ」
「あ?」
「お腹空いた」
「……」
どうするコイツ、とりあえず絞めるか。邪魔された感ハンパねぇし。
「時間的にあの二人も食事に向かうみたいだし、私達も何か食べに行こうよ」
「当然お前の奢りだろうな」
「え〜! リヴァイの方が金持ちじゃん!」
その水槽だけは譲れなかったフェリーチェを、男が呼びに戻って来るのが見えた。テメェは気付かず進んでたのかよ。最低だなオイ。
「あの二人、ドコ行くと思う? 尾行して同じトコ入ろう」
「まだ追うつもりか!?」
「解散するまで追うに決まってんじゃん! 変なトコ連れ込もうとしたら、その時は全力でブッ潰す!」
「子供じゃねぇんだから、別にいいだろ」
「リヴァイは、フェリーチェがあの男にどうこうされても良いって言うの!?」
「俺に変な責任を押し付けんな!」
「うぐぐ……この冷徹男〜! フェリーチェが泣く事になったら、後味悪い思いすんのはリヴァイなんだからね! 一緒に尾行してんだから!」
「……オイ。俺はしたくて来てんじゃねぇぞ」
――溜息。
折角の休日は、姪バカの不審行動監視になる様だ。
「……分かった。付き合ってやるから……今すぐ双眼鏡をしまえ」
お前が捕まったら、それこそアイツが泣くだろ。
「と言う訳で、フェリーチェは無事帰路につきました! 食事して、ショッピングモール少し歩いて、無難に時間を潰して……駅解散。ウン、理想だよ! 実に理想的な終わり方! ざまあみろ男! しょんぼりしちゃってさ、あんたの気持ちなんか届かないっつーの! てか、フェリーチェ気付いてないし!」
「……ハンジは酔っているのか?」
エルヴィンが、コソッと聞いてきた。グラスを傾けジンロックを一口。
「一日中このテンションだ」
これでよくフェリーチェにバレなかったもんだ。
「成程。どんなに仕事が忙しくても表情一つ変えないお前が、げんなりしている理由が分かった」
「なぁ、ハンジ。いつもその姪っ子のデートを追ってるのか?」
このバーの主であるミケがカウンターの中からハンジに言い、手を出す。写真を見せてみろ、と言いたいらしい。
「あったりまえじゃん! 可能な限りチェックするよ。幸いにも、フェリーチェ本人が相談してくるからね~。情報はいつでも最新版だよ!――ね? 可愛いでしょう? ウチのフェリーチェ」
ミケからエルヴィンに写真が渡る。フェリーチェの笑顔は変わらず二人に向いてるはずだ。興味深そうに眺めていた二人は、納得し頷いたあと言った。
「恐ろしいな。この子をデートに誘うと、もれなくこの叔母が監視につくのか」
「ああ本当だ。裏からのバッシングが想像つく。男は災難だな」
「おまけに今日は……」
ミケとエルヴィンの視線を感じ、グラスを置いた。
「なんだ」
「「厳しい監視役がもう一人」」
「声揃えて言ってんじゃねぇよ。言っておくが、俺が監視してたのは男じゃない、ハンジだ」
「でも、この子の事だって見てただろう?」
「ついでだ、とか言って結構しっかり見てただろう?」
「……」
揃いも揃ってやかましい。疲れてるんだ。酒くらい静かに飲ませろ。
エルヴィンが俺の目を見てフッと笑った。コイツは昔から言いたい事を隠し、相手の出方を試す時がある。厄介な男だ。
「それで? ハンジはああ言ってるが、本当の所はどうだったんだ? はじめから認める気の無い者の意見を聞いても参考にならないからな」
「別に。普通だろ。アピールしたが次には続かなかった……典型的な例だ」
「アピール? 指輪買ってやるとかか?」
「飛躍し過ぎでしょう、ミケ。それはフェリーチェじゃなくても引くよ」
場面場面を思い出してみた。確かに男はそれなりにアピールしていたものの、あれでは伝わる訳が無い。肝心なフェリーチェが、全くうわの空なのだ。食事をしていても、そこら辺を歩いていても、男に合わせ話はするが、視線は赤ん坊や小さなガキを度々追う。話の内容よりそっちの方が興味あるようだった。
――子供好きか。
水族館でガキと並んで目ぇ輝かせてるワケだ。
「フェリーチェ本人の中身を見れるヤツじゃなかった。ちゃんと見てやってれば、話も合ってあんなにつまらなそうにはしていない。大方、容姿から気に入ってテメェの妄想に当てはめてるだけだろ。気持ち悪い」
「えっ? フェリーチェ、そんなにつまらなそうにしてた? そこまでは気付かなかった! ずっとニコニコ笑ってたから」
「ほお……」
「へぇ……」
三人の視線が集中してくる。ニヤニヤと笑うハンジは「そっかー」と言い、エルヴィンは俺の肩を叩いた。
「よく見ているじゃないか」
「私よりもね」
「寄ってくる女は連れてても、自ら女をつくる事が無かったリヴァイがなぁ……。な? ハンジ。お前はどう思う?」
「文句言いながらも、結局最後まで付き合ってくれたからねぇ。途中で帰らなかったのは、つまるところそういう事でしょう?」
「ああ。つまるところそういう事だろう。……で、リヴァイ。どうなんだ? ハンジの姪っ子は」
「指輪は贈りたかったのか? 贈るのか?」
「……」
――ハンジが叔母というのは今後の懸念材料になるだろう。だが、コイツはどうにでも出来る……問題無い。あるとしたら、今日みたいにアイツに寄ってくる男だ。
「まぁ……悪くなかった」
「「「やっぱり!」」」
うるせぇ!この出歯亀野郎どもが!
✽✽✽
「フェリーチェ」
ハンジへの土産を探していたフェリーチェを呼べば、俺の声にパッと振り向いたフェリーチェが駆け寄って来る。
「なあに? リヴァイさん。良い物見つけました?」
雑音が多い中離れていても、フェリーチェは大抵俺の声に気付く。
呼ばれて素直に寄ってくる姿は子供っぽい。だが、それが可愛い。
「見ろ。お前の好きなクラゲをぬいぐるみでデフォルメすると、フォルムが限り無くこっちのタコのぬいぐるみに近くなる。面白いな」
「……それ、なんで私の顔の横にぬいぐるみを並べて言うんですか?」
「間の抜けた顔が似てい」
「似てない!」
俺の手からクラゲのぬいぐるみを奪うと、フェリーチェはそれの頭を撫でる。和らぐ目を見て、気に入ったのだと分かった。相変わらず分かりやすい奴だな、お前は。
「タコと一緒に買うか。紅白揃ってめでたくなるぞ。そうなれば、ますます近付くな、フェリーチェ」
「私の頭は、別におめでたくないですっ」
「お前の頭の話じゃねぇよ」
「は?」
キョトンとする顔。
そうだな。お前には分かるまい。
……その内教えてやる。
フェリーチェの手からぬいぐるみを奪い返して、更に同じものを一個追加しレジに向かった。それ買うんですか? 本当に? と、後をついてくるフェリーチェに笑う。
「デスクに飾る。お前に似た間抜け面見ながら仕事するのも、中々面白そうだからな。こっちはお前のだ。自分の間抜け面を確認して笑え」
「っ……!」
目を丸くしたかと思えば、頬を赤く染めたフェリーチェ。……タコも買うか。似てるぞ。
「リヴァイさんって……ずるいです! そういう事サラッと言うんだもん!」
「“間抜け”か? 不満なら“アホ”に変えてやってもいいぞ」
「ち、違いますっ! そうじゃなくてっ」
フェリーチェは、ぷいっと顔を逸らした。
(知ってる。コッチはわざと言ってるんだ)
可愛過ぎんだよ、その照れた顔も。見たいと思うのは当然だろうが。
「よし。長居は無用だ」
「また出た……その、よしって変な気合い何なんですか?」
「即刻撤収だ」
右斜め前方十メートル……売店内に一体。
左横三十メートル……ガキ用のタッチプール付近に一体。
後方五十メートル……イルカショーステージ出入り口に…………双眼鏡。
(あの暇人バカ三人組め……)
今の今まで俺が気付いてないとでも思ってんのかよ。つくづくナメられたもんだな、ったく。
ぬいぐるみの入った袋を、フェリーチェに放った。
「あっ!? ちょっ!」
慌ててそれを受け止めた身体を引き寄せて、
「今はこれで我慢しろ」
唇を一瞬だけ合わせる。
顔を離すと、顔を赤くしたフェリーチェが視線をずらした。最近コイツ……文句言わなくなったな。調教の成果か?
「この後は俺の行きたい所に行くぞ。撒いてやる」
「は? 撒く?」
フェリーチェの手を取り、人の隙間を縫う様にして歩いた。
二体と双眼鏡が移動しているのを見たのは、移動後数分だけ。完全に撒いたようだ。アイツ等……後でたっぷり礼をしてやる。
「リヴァイさん、水族館楽しかったですか?」
「あー……」
始終邪魔はあったが、まぁ色々楽しめた。色々と……な。
「……悪くねぇな」
「やった! また来ましょうね!」
「だが、フェリーチェ……。今後、お前が行き先決めていい時は事前にハンジには言うなよ」
「叔母さんに? なんで?」
「最新版の情報を与えるな」
「……?」
再びキョトンとしたフェリーチェの頬を、つまみ――。
「その今の顔」
「間抜け面じゃないですからねっ!」
即答のフェリーチェに笑う。
こんな顔も中身も可愛い女を相手すんのは初めてだ、フェリーチェ……――。