お見合い相手はリヴァイさんでした。
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目の前を離陸した飛行機が横切っていく。
夜の空港の展望台は、夜景を楽しむ人が沢山いた。
お見合い当日が初デートです。
「おぉーっっ! すっごい近っ! 迫力!」
「もっとマシな反応出来ないのかよ。子供が初めて飛行機見た様な反応だぞ、ソレ」
横でリヴァイさんが呆れ顔で言った。
柵に背を預けて、飛行機も夜景も見る気が無い人に言われたくない。
「こんな近くを飛んでくの見た事無いんですよっ」
「乗った事は?」
「修学旅行で沖縄行った時と、友達と卒業旅行で長崎行った時! どっちも集合時間に遅刻してギリギリで乗り込んだから、近くで見た事ありません!」
「自慢げに言う事じゃねぇ……」
溜息が聞こえたけど、すぐに飛行機の大きなエンジン音に消されていく。
あの波乱しかなかったお見合い後。車で送ってくれると思っていたのに、リヴァイさんが向かった先はこの空港だった。
美味しいご飯を食べさせて貰ったのは嬉しかった。自分じゃ、こんな所まで誰かとご飯を食べに来るなんて発想浮かばない。
職場の飲み会で男性陣と賑やかに過ごす事はあっても、レストランで二人きりで食事……なんて事はあまりないから余計かな。無かったとは言わない。私だって、そこそこ男の人から誘われた事あるし。
ただ、場所はカジュアルだったけど。ファーストフードとか、ファミリーレストランとか、フードコートとか……あれ?カジュアル分類していいのか?これ。
……せめてイタリア料理の店くらい出てくれば良かったのに。そういう所は女子としか行ったこと無いじゃん、私。
「空港の展望台なんか、男と来た事…一度はあるだろうと思っていたが……?」
「有る訳無いじゃないですか。こんなお洒落スポット。夜景は女子と盛り上がるものですし」
「いや。違う」
リヴァイさんは、無表情をさらに無にした。
……この人は極めている、無を。
と思う。
「でもまぁ……それなら良かった」
呟きは確かに聞こえた。だけど、その意味がどっちなのか分からない。
私が今喜んでいる事が、良いと言いたいのか。
男の人と来た経験がない事が、良いと言いたいのか。
「どっちですか!?」
「はぁ? つうか、うるせぇ。大声出すな、恥ずかしい」
「だって飛行機の音大きいから……」
「お前と付き合っていた男は、散々だっただろうな……」
「お付き合いなんて無いですよ。映画と水族館とプラネタリウムと夢の国と科学博物館くらいなら誘われて行きましたけど」
「……最後の博物館ってなんだ……」
「私、一人でよく行きますけどね。常設展示が結構面白くて侮れません」
「…………」
「……その憐みの目、やめてください」
リヴァイさんの細められた目に抗議する。
いいじゃん。一人で博物館くらい。映画も水族館もプラネタリウムも行くよ。夢の国はさすがにまだ無いけど。
「そういえばキスも初めてだって言ってたか……。本当に驚くほど何も経験無ぇんだな、お前は」
「……ほっといてください。人の大事なファーストキス勝手に奪っておいて」
「手に入れたもんに手ぇ出して何が悪い」
「……」
(言うだけ無駄だった……)
こんな感じでも、この付近にいる人には、私達は立派な恋人同士とかに見えてしまうんだろうか。
さっきお見合いしたばっかの、にわかカップルなのに。
「じゃあ、これから俺が連れまわして経験させてやろう」
「リヴァイさんが言うと、嫌な予感しかしないんですけど……」
「失礼な奴だ。これでも色々考えている。馬鹿にするな」
何故か怒られた。
期待してるから裏切らないでください、と言おうとして、私は開けた口をストップさせる。
当たり前みたいに言ってる自分が未だに信じられないけど、なんにも嫌な事が無いって、すごいと思ったり。キスとかされちゃってるのに。
リヴァイさんに見られてる事に気付いて、私はまた飛び立つ飛行機に視線を移した。
その刺す様な視線は、まだ慣れない……。
沈黙が気まずいって事はなかった。
私はずっと夜景を見ていて、リヴァイさんは相変わらず柵に寄りかかったまま。時々見られてるなぁって思う時があるけど、それに対して不快感は無い。
こういう時って何か喋った方がいいのかな?昼間聞けなかったリヴァイさんのお仕事についてとか……?
でも、それじゃあお見合いの延長戦みたいだよね……。
ね、あの人ちょっと良くない?
誰? あ、本当だ。
私の耳に、ちょっと離れたトコからそんな会話が聞こえてきた。
見なくても、こっちの方に向けられてる声だってのは分かる。女性2人。コソコソ何か喋ってるけど、響く飛行機の音にほとんど消されてしまう。でも、明らかなのは、リヴァイさんに対しての賛辞だって事。
カッコイイ!――確かにそれは認めます。
クールそうだね。――いえ。ただの無愛想ですよ。
なんか色々リードしてくれそうだし。――度が超えているので、俺様にしか思えません。
女の子達の途切れ途切れのリヴァイさん品評会に総評を加えていると、気付いてしまった。
(リヴァイさん、黙ってればモテるんじゃん! マイナスイメージ分が、乙女脳で良い感じに変換されてます!)
「だから、黙ってれば良いんじゃないかなって思う」
「あ? さっきから黙ってんじゃねぇか。お前には誰の声が聞こえてんだよ」
「乙女達の品定め論議」
「………頭がおかしくなったか?」
やっと目が合った。
と、私に向いたリヴァイさんは必然的に彼女達にも向く事になる。あ!、なんて小さく聞こえたから、その子達がどんな顔をしているか大体想像出来た。リヴァイさんも一瞬声に反応したので、きっと視線が合った筈だ。
多分、そういう時って……微笑んだり、そこまでいかなくても、それなりにそれなりな顔するよね? 少なくとも、私にはそういうイメージがある。
「…………」
「……チッ」
「…………」
――リヴァイさんにそれを求めてはいけなかった。
ものすっごいしかめっ面にリヴァイさんはなった。……そこはもう少しサービスしてあげても良いと思うんだけど。だって、彼女達褒めてくれてたんだよ?
「フェリーチェ」
「はい?」
「今度はうまくやれよ」
「何がっ……っ」
グイッと頭を引っ張られる。「!?」リヴァイさんは、やっぱり断りも無く突然にキスをしてきた。
下唇を甘噛みされた驚きに口を開きかけると、すかさず入り込んでくる舌。
ちょっと!! またですか!?
「ん゛〜〜っ!」
引こうとした体も頭も、リヴァイさんにがっちりホールドされて、どう足掻こうが動けなかった。結局、あっちの気が済むまでされるがままだ。
「やっぱり下手くそだな」
「!?」
だからまた言うか!それ!
でも、悔しいけど息切れ起こしてしまってるもんだから、反論出来ない私。
「よし。行くぞ」
「よし、って何!?」
強引に手を引かれて、展望台撤退。
後ろで、「きゃあ~!! 見た!?」って隠す気ゼロの高い声が聞こえた。リヴァイさんは知らぬ顔だ。聞こえてるはずだけど。
「もう! なんであんなとこでするんですかっ」
「あんな所じゃなきゃ良いのかよ」
「良くない!」
エレベーターの中でコソコソ抗議する。リヴァイさんも小声だった。他の人も乗っているからだろうか?
だったらその配慮、もっと多いに活用して欲しいんですけど!
「フェリーチェの事を、妹じゃないかと勝手に決めつけてたからな。アイツ等」
「……アイツ等? リヴァイさんの事カッコイイって言ってた子達?」
眉を顰めたリヴァイさんが私を見た。エレベーターが一度止まり、人が入れ替わる。一番下まで行くのか……奥に立つリヴァイさんは動かなかった。
「なんでそんなの分かったんですか?」
「口の動きを見てれば分かる……普通だろ。兄妹で空港に遊びに来るなんて珍しい、とか言ってやがった」
――普通じゃない。私はそんなに分かりません。読唇術取得してんのか? この人は。それって社長スキルなの? 従業員可哀想だな、うかうか変な事喋れないよ。
「え……だからって“あれ”? 公衆の面前ですよ!!」
「見せつけるためには、あの程度で丁度良い」
「あの程度って……結構な程度なんですけど!?」
「人前で普通のキスなんか出来るかよ。馬鹿が」
「は!?」
リヴァイさんの“普通”って何だ! 恐ろしい!
「しかし上達しねぇな、お前は」
「上達するほどしてないもん」
「……練習」
「要らない!」
エレベーターが止まる。今度は全員入れ替え。もちろん私達も降りた。
「それだと俺が困るだろうが。いつになったら俺は満足出来るようになるんだ」
「……え……」
「初歩中の初歩のキスであれじゃ、先が思いやられる……。少しは努力しろ。次に進めねぇ」
「……」
次とは?どちらへ進む気ですか……?
――子供じゃないから、それくらい聞かなくても分かる。
というかですね。私達、今日初めて会ったんじゃなかったでしたっけ?
何でしょうこの会話。お付き合いする事にしたのは確かだけど、まだ「恋人なんです、私達!」って堂々と言える状態でもないのに。え? そう思ってるの私だけ?
「フェリーチェ……。お前、考えてる事がまんま顔に出てるが……。まさか俺とヤるのが嫌だって言うんじゃねぇだろうな」
「いえ、そんな……」
「ほう……。その気はある、と」
「あっ!!?」
「ならいい。少し位なら妥協してやる」
フッとリヴァイさんが笑った。
無表情というか……仏頂面というか、リヴァイさんのその表情が崩れる瞬間は、私だってドキッとする。
女の子達の噂話を思い出して、今更ながらちょっとの優越感と、なんともいえない気持ちが湧いた。
(妹じゃないもん……)
そんなに私は、リヴァイさんに似合わない様に見えるのかな……。
「そういえば、買いたいものがあると言ってなかったか?」
「あ! そうそう! 空港限定のスイーツです! テレビの特集で見て、食べてみたかったやつっ!」
「……お前、テレビ大好きだろ……。ドラマだのスイーツだの、情報源は全てソコか」
「今、暇人って言ったでしょう」
「言ってねぇ」
混んでいる旅客ターミナルを歩く間、リヴァイさんは私の手を引っ張ったり、人との間にさりげなく隙間を作ったりしていた。
お前はトロい! と文句を言いながら。
――だけど、そのおかげで私は人混みを歩きやすい。
「優しいのか優しくないのか……。どっちかにしてください……」
「は? 何か言ったか?」
「いえ……リヴァイさんはカッコいいですねって言ったんです!」
「…………」
一瞬固まって。
リヴァイさんは、ふんっと顔を逸らした。
「思ってない事を言うな」
(思ったから言ったのに)
先に行く後姿を見ながら、つい笑ってしまう。
いつの間に、手、繋いでるし。
でもやっぱり嫌じゃないんだよなぁ……。
(リヴァイさんって、変な人……)
そういう私も……変なんだけどね。
ちょっとだけ、胸が熱い——。