お見合い相手はリヴァイさんでした。
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朝からおかしいと思ってたんだよね。
ハンジさんが押しかけてきて、勝手に用意されていたふわふわワンピースに着替えさせられ、ぽいっ! と車に放り込まれたから。
一体どこに拉致されるんだと思ったら……まさかこんな高級ホテル。
そしてまさかの……お見合いですか!?
お見合い相手はリヴァイさんでした。
「ちょっとハンジ叔母さん! 何これ、どういうこと?」
「叔母さんじゃないでしょ。ハンジさんとお呼びっ」
「そういうことじゃない! 私、こんなの聞いてないよ」
「言う訳ないじゃん。言ったら絶対来ないでしょ、フェリーチェ」
「……来ないよ! 当たり前でしょ」
相手を小突きながらコソコソ話す私たちの前で、二人の男性が座っていた。
一人は長身の紳士然とした人。ニコニコ笑って私たちを見てる。
もう一人は小柄で不愛想な人。そっぽを向いて私たちを見ていない。正座もせずに偉そうに座ってた。
なんだろ。この人たち。随分対照的な二人だ。
「フェリーチェ。こちらはエルヴィン。私と同じ職場で、同期なんだよ」
「……こんにちは」
「写真で見るよりずっと可愛らしいね。よろしく、フェリーチェ。私はエルヴィン・スミス。そしてこの男がリヴァイ・アッカーマンだ。彼とは昔からの友人でね」
「……こんにちは」
「……」
この無愛想め。
挨拶してるのにチラリとも見ない!
「リヴァイ……。今からそんな調子でどうするんだ。フェリーチェに呆れられてしまうよ」
……なるほど。話の流れから分かったけど、私のお見合い相手は、このリヴァイという人らしい。
ここまで来ちゃったら逃げられないだろうから、何とかやり過ごしてさっさと帰ろうと思ってた。要は、適当に話をしてとりあえずニコニコしてればいいんでしょ?
ハンジさんの顔も立てなきゃいけないと思ったから、大人な対応しようと思ってたけど……この人その気もないじゃん!
私より年上なのに、「こんなはずじゃなかった」感丸出しだよ!
「悪いね。この男はいつもこんな調子で……」
「寡黙で精悍な顔立ちの男ってのはいつの時代も女子の間では人気があるもんさ。ね? フェリーチェ?」
いや。寡黙にも程がある。せめて場の空気くらい読んで欲しい。
「………そ、そうですね」
とりあえず愛想笑いを。
気まずくなってお茶を飲んだら、リヴァイさんも湯呑に手を伸ばした。変な持ち方。
「じゃあ〜、あとは若い二人に任せて……」
「えっ!?」
来たばかりだというのに、ハンジさんはしれっと、そんな“お見合いあるある”な言葉を発した。
「えっ!?」
慌ててエルヴィンさんに助けを求めたけど、彼は彼で何も言わずに微笑みを返してくる。
人のいい笑顔向けてきてる割に、有無を言わさない圧があった。
「叔母さん!」
「ハンジさんとお呼びっ」
「こんな状態で置いてかれても……全然お見合いらしくないじゃん!」
「だから、今からそれをあんた達でするんでしょ」
「違うよっ。お見合いって、普通は間に入ってくれる人が場を良くしてから、じゃあ後は二人で…ってやつなんでしょ!?」
「嫌がってる割に、そんなドラマから引っ張ってきたベタな展開期待してんのか……。いい? フェリーチェ? 現実とはドラマの様にはいかないものなんだよ。さ、自力で頑張ってきな!」
「勝手に連れてきておいて……!」
またコソコソ話す私たち。
それをやっぱり微笑み見てるエルヴィンさん。
そして、不愛想なお見合い相手はこっちを見てな…………見てる!!
バッチリと目が合って、体が固まった。
これは……睨まれてるの?
すっごい視線痛いんですけど……!
「じゃ、行こうかエルヴィン」
「そうだな。いつまでも邪魔しちゃ悪い……。リヴァイ、帰りはちゃんと送ってあげるんだぞ」
「……わかっている」
帰りはちゃんと送ってあげる?
ちょっと待って……なんで一緒に帰るの。
この場で適当に世間話をした後、それでは後日改めてお返事を……で、さようならするんじゃないの?
絶対第一印象で決めたよね? 風な微妙に後味悪い結果で終わるのが、お見合いじゃない?
ていうか、この人やっと喋った!
タン、とふすまが閉められて、あっという間にハンジさんとエルヴィンさんは居なくなってしまった。
私とリヴァイさんでは広すぎる和室は、途端に静まり返る。
そこへ絶妙なタイミングで、ししおどしの音。
こんなところばっかりドラマで見たことあるお見合いシーン用意されても……。
「……面倒臭ぇな。なんでこんな事までしなきゃいけねぇんだ……」
溜息を吐いたリヴァイさんは、指でネクタイを緩めそう呟く。
低く落ち着いた声は意外にも怖さも嫌味も感じさせず、それには私も少しホッとした。
短時間とはいえ、一緒に時間を潰さなきゃいけない相手だもん。多少の会話が続く人じゃないと……。
「リヴァイさんも……その、やっぱりこのお見合いは嫌々用意されたものだったんですか?」
「…………俺“も”だと?」
面倒臭いなんて言うもんだから、てっきり私と同じ様に無理矢理連れてこられたんだと思ってた。
そうなら、同士で共感出来て会話弾むかな? って考えたのに……当てが外れたっぽい。なんかリヴァイさん、一気に周りの空気冷やしてる。
「え……違うんですか……?」
どうやらあちら側は事情が違うらしい。
大人の事情というものは本当によく分からないものだ。私も一応社会人だけど、いっつもこのよく分からない制度に振り回される。
「じゃあ、何でここに……」
もしも断れたなら、遠慮なく断ってくれれば良かったのに……。
「来たいから来たんだろうが」
「…………は?」
「このクソ忙しい中休みを取る為、時間調整にどれだけ苦労したと思ってる……。だからこんな面倒な事は必要無ぇって言ったんだ。それをあの二人……」
「リヴァイさん、叔母さ……ハンジさんとも知り合いだったんですか?」
「アイツらとは同期だった」
リヴァイさんは深く息を吐くとお茶を一口すする。
同期? 三人とも?
驚きの新情報に開いた口が塞がらない私を見て、リヴァイさんはチッと舌打ちをした。
なんで今ので舌打ちされたんだ? 私。
「あれ? でも今“だった”って……」
「俺は独立して一人でやってる。一人といっても数人雇ってる奴はいるが」
「なっ! 社長!」
なんか「よっ! 社長!」みたいなノリになってしまった。
それに気を悪くしたのか、リヴァイさんの目がスッと細くなった。
「お前……本当に何も聞いてねぇんだな。……クソッ、あの行き遅れ眼鏡め」
「聞くも何も、私は今日急にここに連れてこられて……」
「……つまりお前は嵌められて、俺はアイツらの酒のツマミにされるという事か」
「つまみ?」
そう言うと、リヴァイさんはブツブツと何やら一人で呟き始めた。
成程。俺が苦戦すると思っていると……。
随分舐められたもんだ。ならばコッチも変化球で攻めてやる。
……野球でも始めるのだろうか?
やだなぁ。見合いじゃなく野球しようとか言われんの。私ルールあんまり知らないし。
高校のソフトボールの授業で、先頭打者で打ったあと三塁に走って怒られた位だもん。あの時は友達と先生に「教科書読んで出直して来い」ってしばらく見学させられたなぁ……。
「フェリーチェ。行くぞ」
ぼけっと思い出に浸っていたら、急に現実に引き戻された。
しかも当たり前の様に呼び捨て!?
ビックリしたけど、何故かこの人が言うと前からそう呼ばれてたような気がしてくる。これは不思議だ。
「え。行くってどこにですか? お庭で雑談コース?」
「お前は本物の馬鹿か。この流れで、今更見合いの定番繰り広げてどうする」
「まさか、リヴァイさんもハンジさんみたいにドラマと現実は違うって言うんですか。……えぇ~分かってます。月9とかで恋愛ものとか、更に言うなら胸キュン漫画とか二時間ドラマとか見過ぎだって事くらい。でもですねぇ、女子はそういうのに何故かリモコン反応させちゃうんですよ。性です性。趣味が無いと特に」
「……ほう。現実よりドラマが好みか。ならば話は早い」
やれやれと立ち上がった私に近寄って来たリヴァイさんは、「特別に教えてやる」と私を見下ろした。
男性にしては小柄だけど、私の方がもっと小さいので身長差で簡単に上下関係が出来上がる。いや、初めからリヴァイさんの方がやたら偉そうだったから、すでに仕上がっていた。
ていうか、近い! 距離近い! 小顔!
「お前は俺の事を見たことも無ぇだろうが、俺はお前の事をずっと前から知っている」
「……そ、そうなんですか!? あっ! ハンジさんから何か聞いてたり……!?」
「ああ。まぁそれだけじゃねぇが……。アイツに、早くお前に会わせろと言ったのは俺だ」
「なんでまた」
「……惚れた女を他の男に持っていかれたら困る。……一日でも早く俺のモノにしたかった」
「は?……え゛ッ!?」
「おかげで面白がったアイツらにすっかり遊ばれたが、まぁ結果的には俺の望み通り…………」
リヴァイさんは私を見て言葉を止めた。そのままゆっくりと近づいてくる顔。一回の瞬きの間に彼の唇が私の唇に重なって、数秒間1㎜たりとも離れない。生温かく柔らかな感触が生々しくて、硬直した。
「……ふぁ、ファーストキスッッ!!!」
「あ? 初めてだと?」
何の前兆も無く、当然気持ちの準備だってする間もなく、あっさり奪われてしまったファーストキス。ショックよりパニックになってる私に、リヴァイさんはまた「ほう…」と頷いた。納得してるのはリヴァイさんだけだ。私、完全に置いて行かれてる。
えっと、えっと……一体何がどうしてこうなった……!?
「それはまた好都合だな。1から教えるとなると調教のし甲斐もある」
「……こ、これ以上何が起きるっていうんですか……怖い事サラッと言って! 嫌ですよ! とんでもない!」
「色々あるだろうな、そりゃ。だが安心しろ。俺は惚れた女にはとことん甘くする主義だ」
「いえ……意味分からないし……。こっちの意見はどこ消えた……」
「なんだ。選択肢を与えろって言うのか」
「無い方がおかしいです!」
「……。じゃあ選べ。今すぐ逃げるか、俺のモノになるか」
リヴァイさんはそう言ってふすまなどを開け放ち、部屋の入り口に寄りかかると私をジッと見た。
腕を組んで動かない。
私を逃してくれる気はあるようだ。
出入口とそこにいる俺様を交互に見て、私は簡単な答えを出すのを渋っていた。
逃げた方が良い。この見合い相手はきっととんでも無い人だ。逃げるべきだ。
じゃないと、確実に私の人生設計がななめ上方向に行ってしまう。
……そう思っているのに、足が中々動かなかった。
「フェリーチェ。俺はどちらでも構わない。好きに決めろ…」
これまで勝手に言いたい放題やりたい放題だった癖に、最後の最後でリヴァイさんは当たり前な事を言った。
選ぶ権利があるのは当然だ。私はお見合いさせられに来たんだから。好きで来た訳じゃない。断って何が悪い。
だけど……。
「……今日だけじゃ、リヴァイさんの事分かりませんから……」
「は?」
「自分の将来を預けるかもしれない相手を、第一印象だけで決めるのも……」
「……ハハッ」
急に笑い出したリヴァイさんに、私は驚いた。
仏頂面が笑ってる。
この人、笑うんだ……。
「変な奴。嫌がってんのか喜んでんのかよく分からねぇ」
「変な事はこれっぽっちも言ってないですけど?」
「お前……ただ惰性で付き合うって考えは無いのかよ。そういう恋愛に別れは付きものだろうが。いざとなりゃそれを理由に終われるとか思わねぇんだな」
「別れる……終わり……?」
「で、どうすんだ? 逃げるのか?」
「……」
リヴァイさんの前まで行く。
彼は私の結論を黙って待ってた。
私も出した答えを伝えるだけなのに、変な間を作ってしまう。
だからほら。また絶妙なタイミングでししおどしの音が……。
「言っておきますが、私は、“第一印象で断ったなコイツ”っていうお見合いの典型的パターンに当てはめられるのが嫌なだけですからねっ!」
「……ッ」
手で顔を隠すリヴァイさんは、くくくと肩を揺らしまた笑った。
「なんだ……それは。つうか、見合いじゃねぇだろ」
「な、何にもおかしくないっ!」
「まぁいい……何であろうとお前は俺を選んだ。もう生涯俺のモノだ」
「えっ!? ちがっ……結論ちょと先延ばしにしましょうって話ですよ!?」
「また選択の機会を与えろって言うのか?……勝手な奴だな」
「どっちが!?……なんで今ここでリヴァイさんを選ぶと、最終決定! みたいになるんですか!」
「だから嫌なら逃げろと言っただろうが」
「ただ付き合うって考えはないのか、って言いましたよね?」
「その場合、俺は別れる気など一切無い」
「…………え゛」
騙された!? やっぱり逃げとけば良かった……!
「フェリーチェ、この際だから言っておく。お前が俺は嫌だと言うなら、俺じゃなきゃ駄目だと言わせるまでだ。先に言った筈だぞ。惚れた女にはとことん甘くする。教えてやるよ、じっくりとな」
「それは……あの……」
「この先が楽しみだ」
近くなっていた距離は、手を引かれるとあっという間にゼロになる。
リヴァイさんは、言葉通り楽し気に私の腰に手を回してくっついてきた。
「待った! リヴァイさん!」
「待つかよ、馬鹿が。——もう散々待った」
逃げられない。逃げる間もない。
あっという間にファーストキスどころかセカンドキスまで奪われる。しかも、初心者に対して舌まで入れてくるって……!?
「ん……んんっ!?………!!?」
「――下手くそ。本当に1から教えなきゃならねぇんだな、お前」
たまたま廊下を通りがかった従業員に見られた上に、下手くそ呼ばわりされて……ショックが倍増する。
だってしょうがないじゃん……初めてなんだから……!
と、そこまで言いかけて、私は更なるショックを受けた。
人に見られた事より下手くそって言われたことの方に凹んでるって……なんなの私……! 初対面の人相手に!!
リヴァイさんにずるずる引きずられて駐車場に向かう間、私はまず叔母さんに文句を言わなければ! と思う。
このお見合いのおかげで、確実に私の今後の人生は斜め上を行くものになりそうだからだ……!
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