短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――怒られてます。
いえ。実際は、怒鳴られたり殴られたりとか、そんな事されてる訳じゃないのですが……。
無言で睨まれるって、結構怖いんですね。
リヴァイさんだから特に。
絡めた指が愛になる
「だから。言い訳してるわけじゃないですよ?あれはうっかり……。偶然というか……不可抗力というか……。あぁ! 事故です! 巻き込まれ事故っ」
「……ほぅ……」
やっと口を開いてくれたかと思えば、低い声でそれだけ。
まずい。余計怒らせたかもしれない。
素直に謝ってた方が良かった? でもそうしたら、あれは自分が悪かったみたいになってしまう。それだけは違う。私は怒られるような事は、断じてしてない。
ソファに足を組んで座るリヴァイさんは、チラリとこっちを見て舌打ちをした。
ちなみに私はその横で正座。リヴァイさんに向き座っている。
事情を知らない人が見たら、かなりシュールな光景だ。
「お前は、“うっかり”他の男とああいう事をするのか」
「だから! あれは私の意志なんか関係無く起こってしまった事なんですって……」
――後ろから急にぶつかってきた人がいて。
そうしたらその勢いで前につんのめり転びそうになった私。
それを運良く? も、目の前にいた男性が抱きとめてくれた。
でも、突然知らない人に密着されるなんて思いもしなかった私は、瞬時にパニック状態。
挙句には助けてくれた彼を押しのけてしまっていた。
『っ!!!』
『大丈夫ですか!? 危ない!!』
逃げようとした私は再び転びそうになり、結局はまたその人に……。
――後はありがちな展開。
どうしてこんなことに!? と相手を見上げた時、たまたま通りがかったリヴァイさんが私達の姿を見てしまったのだ。
そこだけ見たら、私とその男性が抱擁してる様にしか見えなかったはずだ。
その後、悪魔も泣いて逃げそうな位おっかない顔のリヴァイさんに、男性から引き剥がされ、引きずられ――そしてこの状況に。
(こ、怖い顔だ……)
リヴァイさんのこの顔は、まだまだ続くのだろうか……。
「無防備過ぎる。想像力が足りない」
「あんなの予想出来てたら、私は予言者になれますよ……」
「そういう意味じゃねぇ。アホが」
グイッと腕を引かれたかと思ったら、今度は強い力で放り投げられた。
「ぅぎゃっ!?」
視界はあっという間に天井とリヴァイさんで埋まる。
よくもまぁ正座からこの体勢になれたもんだと思ったけど、リヴァイさんの力なら片腕で私をひっくり返す位、何てこと無いんだろう。
「なんだその声」
「だって急にこんな事するから……」
「急にされたのはさっきだって同じだったんだろ。何故今みたいな声を上げて嫌がらなかった」
「……だってそれは……」
(本当にビックリして、声にもならなかったんだもん)
「ったく、お前は……」
言葉に詰まっていると、リヴァイさんは深く重い溜息を吐きながら私の手を取った。
「リヴァイさん?」
指を絡め、黙ってジッとこちらを見つめるだけの彼。
「あの……」
至近距離にドキドキしていると、リヴァイさんは私に見せつける様にゆっくりと指に口付けた。
「っっ!?」
「その顔だ。さっきのお前は他の男の腕ん中で、驚いているだけじゃなくそれに似たカオをしていた」
「な……? えっ?」
「今にも泣きだしそうな顔をしてた癖に、いっちょ前に頬は染めやがって……。お前は知らないだろうが、男はそういう女の顔に欲や加虐心を煽られるもんだ。覚えておけ」
「だって私、助けられただけですよっ!?」
「だからお前は解ってねぇ」
「リヴァイさん……もしかして私の事信用してくれてないんですか……?」
「それも違う」
リヴァイさんは眉を顰める。
「他の男を、簡単に信用するなと言っている」
俺だけ見てろ。
俺だけを想っていればいい。。
他の男に隙を見せるんじゃねぇ。
リヴァイさんはそう言って、指を絡めたまま今度は手首に唇を寄せた。
ほんの少しだけ自分に近付く唇に、触れられた部分が熱を持った気がする。
もっと近づいて欲しい。
そう思うのはリヴァイさんだけだ。
「私、ずっとリヴァイさんしか見てません」
「……だろうな」
「知ってるくせに、意地悪な事ばかり言うんですね」
「加虐心を煽られると言っただろ」
フッと微笑みを落とされた。同時に、顔を傾けたリヴァイさんの顔が近づく。
「………」
――そっと触れるだけの口づけはもどかしい。
でもリヴァイさんは、いつもそうして私を焦らす。何度もそれを繰り返して、「もっと」「早く」を言い出せない私が黙って震えてるのを見て愉しんでいるのだ。なんて意地が悪い……。
「見てろと言っただろう、フェリーチェ。目ぇ瞑ってんじゃねぇよ」
「だ、だって……っん!」
「本当、虐め甲斐がある奴だな」
「やっ……! 待って、あっ」
唇は首に移ってしまった。結局キスは貰えない。
移った場所を柔らかく食まれ、舌と吐息の熱さにぞくりと粟立つ背中。跳ねそうになる身体は覆い被さってきたリヴァイさんに拘束される。
「……っ!!」
「動くな」
高温の点は鎖骨まわりや首筋を絶えず撫でまわすように移動し、時々「はぁっ……」としっとり重い吐息が耳に流し込まれて……。
(やだ。これ気がおかしくなる……)
唇が、寂しい。
「んん……リヴァイさ……」
「もっと聞こえる様に呼べよ。……俺の名を口にして欲しがれ。その顔見せるのは俺だけだと証明しろ」
「――リヴァイさんっ」
「フェリーチェ……」
耳に言葉と低い声を流し込んできたリヴァイさんが、そっと私の髪を梳いた。
絡める指先に力を込めたのは、私が先なのかリヴァイさんが先なのか分からなかったけど、「名前を呼んで欲しがれ」と言った上で私の名前を呼んでくれるという事は、リヴァイさんも私を欲していると自惚れてもいい筈だ。
耳朶を甘噛み、そして舐められるともう限界だった。耳は一番の弱点なのだ。口内を犯される前に耳が犯され、ダイレクトに響いてくる水音が下腹部を熱くさせる。
「んん、っぁ」
「フェリーチェ」
私の思考が鈍ってきてるのも、期待に全身が火照っているのも、全部知ってる上で繰り返される行為。
「……おねが……っは、リヴァイさ……キス、して」
私の吐息まじりの懇願に、クスッという小さな笑い声が耳に届いた。
「悪くねぇな、その声。そそられる」
「そ、それ止めてくださっ……!」
耳に響くささやかな振動と吐息まじりの低い声は心臓に悪い。鼓動が速まり過ぎて、どうにかなった心臓が止まってしまうかもしれない。いつもそんな感覚に襲われた。
「だから目を瞑んなと言ってんだろうが。覚えの悪い奴だな、フェリーチェ。これじゃあ何度忠告しても、他の男に無防備な顔を晒し続ける羽目になる。お前が俺の言う事をちゃんと聞くのは一体いつになるんだ?」
「リヴァイさん……しか……見てないって、言ってるのに……」
「――あぁ……そうだな。お前のいう“意地悪”とやらを言ってみただけだ。いちいち反応するのが面白い」
「……っ!? ど、どこまで私……からかわれるんですかっ」
「うるせぇよ」
時々言葉と行動が裏腹になるのが、リヴァイさんだ。
ぴしゃりと私の言葉を遮った癖に、唇をなぞってくる親指はとても優しい。
「我慢もここまでだな。お前ももう文句言わずに大人しく抱かれろ」
声だけじゃなく全てを奪っていく様なキスをやっとくれたリヴァイさんは、それまでとは全然違う甘ったるい声で私の名前を何度も囁く。
「フェリーチェ……。ほらお前も呼べよ。俺はまだ足りねぇ」
「リヴァイさ………リヴァイさん……っん……もっと」
キスだけじゃ足りない。
同じくらい私もリヴァイさんの名前を呼びながら、幾度も幸せに堕ちる。
絡めた指が離れる事は無くて、リヴァイさんはギュッと力を込めて手を握った。私をいつまでも快楽の深淵から解放してくれない。
呼び声に重ねる色情が何度も溶かされ、何度も繰り返される夜。
きっともう無理だ。
離れられないし、逃げられない。
(それは私だけじゃない、きっとリヴァイさんも同じ)
蜜夜に蕩けながら思った——。
14/14ページ