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「新作だって!」
ペトラさんは元気よく言い、テーブルの上に小さな小さな丸い缶をみっつ並べた。
オルオさんとエルドさんとグンタさんが、興味深げに覗いた。私もそれに続く。
「何だコレ?」
「食いもんじゃないよな」
「リップバームだよ。女の子の必需品なんだから」
ペトラさんが胸を張ると、オルオさんは缶を一つつまみ上げ、リップバームとペトラさんを交互に見た後にフッと笑った。
「ペトラも女か。一応は」
「はぁ!? 何言ってんの? 立派な女子だよ! 失礼な!」
「ペトラさん。このローズって書いてあるのは? 薔薇って?」
「うん。香り付きなんだ。ほら見て、こっちはレモン。でこれがミルクティー」
「女の趣味は分からないな……」
エルドさんは苦笑しながら、レモンのリップバームの匂いを嗅ぐ。
「本物みたいだ。すごいな」
驚いた顔に、私も俄然興味が湧いた。
「でしょう?」
「私、ミルクティー味試したいです!」
「味じゃなくて、香りね」
ペトラさんは笑いながらリップバームをくれる。缶を開けると紅茶の香り。人差し指で唇に塗ると、その香りがもっと強く感じられる。
「あ。なんか本当に紅茶飲んでる気分……」
「面白いよね〜。色々種類が増えてくの分かる気がする。ね、フェリーチェ、今度一緒にお店見に行こう? 他にも気になるお店があるのよ」
「はい!」
楽しみだなぁ……と、先の事を考えたらついつい顔が緩んでしまう。見に行ったら、あれもこれもとなっちゃいそう!
——なんて、あんまりにもニヤニヤしてたからだろうか?
オルオさんは私を見て「なにもそんな」と言った。
「瑞々しい唇してるんだから……別につけなくてもいいんじゃないか? フェリーチェは」
「え?」
予想もしなかったオルオさんの言葉。それを聞いた他の三人は目を見開いて、
「セクハラだ」
「セクハラだな」
「セクハラでしょ!」
と、矢継ぎ早に続けた。
「はぁ!? そんなつもりでなんか言ってねぇぞ!」
「言い方がやらしい。瑞々しいって……それは無いわ〜」
ジロリと横目でペトラさん。エルドさんとグンタさんは、ニヤニヤしながら頷いている。
「……私はセクハラを受けてたんですか……?」
「オッ、オイオイ! 違うぞ! 誤解するな!」
慌てるオルオさんに私は笑った。大丈夫です。ちゃんと分かってますよ。お世辞ですよね、今のは。
オルオさんはまだ三人に色々言われて焦ってたけど、これはいつもの事なので、私はのほほんと四人を見ていた。
――仲良いなぁ……本当。
「お前ら騒々しいぞ。バカ騒ぎが外まで響いてる」
ワイワイしてるそのタイミングでリヴァイさんが部屋に戻って来て……。
これで揃った、リヴァイ班プラス補佐一名。
リヴァイさんは、私達が囲むテーブルに並んだ話題のリップバームにすぐ目をつけ、ペトラさんに聞いた。
「なんだそれは?」
「香り付きリップバームですよ。兵長」
「リップバーム?」
「ペトラさんが買ってきたんです! 私はミルクティーのをお借りしました!」
教えてあげると、リヴァイさんは「は?」という顔で首を傾げ「ミルクティー?」と呟く。
驚いたのはその後だ。なんと、私の唇をペロッと舐めた。
「っ!?」
「へ、兵長!」
「しねぇじゃねぇか。味なんて」
不満気に言うリヴァイさんに、目はまん丸、顔は真っ赤になったペトラさんが叫ぶ。
「味じゃなくて香りです! 香りっ! というか……その確かめ方はアウトですよ!」
「これ以外でどんな方法がある? 無ぇだろ。……それより、このリップバームってのは一体何なんだ」
「兵長……リップって単語にだけ反応したんですか……脊髄反射並です……」
リヴァイ班の日常?
(セクハラか?)
(セクハラなのか?)
(でも、自分の彼女だぞ?)
(堂々とイチャつかれるとツッコミに困るな……)
(いや……むしろここは無視すべき……)
(だが放っておいてエスカレートしたらどうする……)
(はい! そっちの男ども! ざわつかない!)
《ペトラさんは、リヴァイ班で一番の苦労人です……。》