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走らせていたペンを止め、マグカップを手にした。
――口を付け傾けて気付く。紅茶はもう無い。
ああ、いけない。お休みの前の日だからって、つい夢中になっちゃった……。
カップとペンを置いて。ノートを閉じる。
窓の外は真っ暗。
目を向けて、また気付いた。
――雨、降ってる……。
パタパタと窓を打つ、雨粒の音。
規則正しいようでいてそうではない、その音にしばらく耳を傾けた。
(夜の雨は少し寒く感じるな……)
リヴァイさんは、もう寝たのかな?
本とか読んでるのかな? まさか、仕事の書類は読んでないよね。
起きてたら紅茶を飲んでる?
独特なカップの持ち方をする、綺麗な指とあたたかい手を思い出して……。
自分で自分の髪の毛を、くしゃっと掻き乱した。
あの手が好き。
「馬鹿が」って言って呆れ顔をした後に、フッと小さく微笑む表情が好き。
空になったマグカップを見つめて、もう一度思った。
――起きてますか? 紅茶を飲んでますか?
(私も、ご一緒しても良いですか……?)
背中に雨の音を感じながら、ドアに手を伸ばした。
でも、ドアを開ける事は出来なくて。
それなのに、おでこだけは……部屋を出たいとなんか必死にドアを押していて。
落ち続ける雨粒の音に自分の溜息を隠した――。
『理由が無くても、リヴァイさんに会いに行ければいいのに……』
ただ一緒にいたい、それだけで――。
午前零時、外は雨。
ページをめくり、カップに手を伸ばした。
――持ち上げた瞬間に気付く。紅茶はもう無い。
ああ……つい。休日前夜だからいいか…と、読書に没頭してしまった。
本を閉じ、テーブルに置く。
窓の外の闇に目を向けたところで、また気付いた。
――雨か。いつの間に。
パタパタと窓を打つ雨粒の音。
規則正しいようでいてそうではない、その音にしばらく耳を傾けた。
(夜の雨は不思議だ……)
よほど激しくない限り、部屋の静寂が際立つ気がする――。
アイツは……寝たか?
いや。起きてるな。きっと時間も忘れて、数字と記号の羅列をノートに書き込んでる。
シャワーを浴びても、ろくに髪を乾かしもせずにいるだろう。
夜たまに部屋にやって来ると、その髪はいつも水分を多く含んでいる。酷い時は毛先から水滴が落ちてるくらいだ。
――あの髪は甘い。
仕方無くタオルで拭いてやると、タオルに移った石鹸の香りに混じってアイツの甘い香りが舞い、まるで誘う様に鼻腔をくすぐってくる。
その香りも「ありがとうございます」と笑う表情も、愛しい。
空になったカップを見つめ、思った。
(今日は来ないんだな)
ドアを三回ノックして。何かを期待した様な眼差しで。
(……違うか。期待してるのは俺の方だ)
ソファーの背に頭を預け、雨音を聞いた。
聞き続けていると、自分のもとへ向かってくる小さな足音に聞こえてくるのは、いかがなものか……。
落ち続ける雨粒の音に自分の溜息を隠した。
『待っているのではなく、アイツを迎えに行ければいいんだが……』
俺のそばにいろ。
ただその想いだけで、朝までずっと抱き締めていたい。
午前零時、外は雨。
それぞれの部屋から、相手を想い続ける――。