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お誘いを受けたハロウィーンパーティー当日の昼。
キッチンにこもって差し入れのクッキーを作っていると、リヴァイさんがひょっこりと現れた。一緒に紅茶を飲もうと私を探していたそうだ。
でもリヴァイさんは私の返事を聞く前に——
「団子でも作ってるのか?」
と、何故か不思議そうな顔で一言。
「え?」
生地を落としかけた。は? 何言ってんだこの人は?
「クッキーですが。ハロウィーンパーティー用の」
「クッキー」
「どっから見てもクッキーでしょ……ジャック・オー・ランタンの……かたちで……」
「…………ほう」
どうしよう。リヴァイさんの反応見たら急に不安になってきた――。
「カボチャの形なんて簡単だから平気って思ってたのに……」
「型はどうした、型は」
「見えないんですね。カボチャに」
「……厚みがあってゴツゴツしてるところはカボチャに見えなくもない」
「フォローになってません」
カントリークッキーだと言い張れば形はなんとか誤魔化せるとしても、それだとジャック・オー・ランタンにしようとした意味が無くなってしまう。このままじゃただのオレンジ色のクッキーだ。
(うーん……どうしよう。ハンジさん達に、ハロウィーンらしいの作ってきますって豪語したのに)
「フェリーチェ……。不器用だったんだな、お前」
「いえ、形はちょっとだけ不格好かもしれないけど、味はバッチリですからね!」
「ちょっとだけ」
「……」
――何故だろう。繰り返されるとすごく後ろめたい気分になる。
トレーに並んだ生地をまじまじと見つめるリヴァイさん。やっぱり団子だな、とか言われるのかと思ったのに、出てきた言葉はなんと、
「いっそ開き直ってロッククッキーだとか言っちまえば良いんじゃねぇか?」
「え」
ちょっと待ってください。それはアドバイスなのでしょうか?
「良くない……ていうか、リヴァイさん、ロッククッキーなんて知ってたんだ」
「それくらい俺だって知ってる」
心外だと言わんばかりの顔。
その顔、私もしたい。カボチャを団子と言われ最後には岩にされるとは思わなかった。
あと私はどちらかといえば、ロックよりカントリーの方が好きなんですけどね?
——なんて音楽ネタでふざけてる場合じゃない。
「いやいやいや違いますそうじゃない。これはカボチャ。ジャック・オー・ランタン」
「無理がある」
「それが本音なんですね……」
(でも困ったなぁ。そろそろ焼き始めないと間に合わなくなるのに)
「冷まさないと飾り付け出来ないし……」
「コレを……さらに盛るのか!?」
本音を出したリヴァイさんは容赦無い。そう純粋に驚かれると結構凹む。え? それも無理があると?
「く、うっ……!」
もうリヴァイさんの言う通り「岩でーす」って出した方が、サプライズ的な意味では十分パーティー映えする気がしてきた――。
だけどせっかく立てた計画。妥協するのもちょっと悔しい。
「リヴァイさん。さっきから言いたい放題ですけど、私はまだ諦めませんよ……形が駄目なら仕上げで誤魔化す。デコレーションで勝負です」
「誤魔化す……」
「手伝ってくださいね! ジャック・オー・ランタンのあの特徴ある顔さえ描けばいけます!」
「手伝うだと? 俺がか」
「他に誰がいるんです」
私はチョコペンをリヴァイさんに突き出した。
***
「美味しい! 塩っ気が強めなのが良いね」
「本当、何個でもいけちゃう」
ぎりぎりパーティーに間に合わせたクッキーを、料理上手なニファさんとペトラさんが褒めてくれた。
私は胸を撫で下ろす。
「やった! ありがとうございます」
(塩の分量を間違えてたのは内緒にしておこう)
焼いてる最中に気が付いてヒヤッとしたけど結果オーライなら良いのだ。隣にいるリヴァイさんからのジットリした視線は無視無視!
「ねぇねぇ、コレ、リヴァイも手伝ったんだって? クッキー作り」
「あ? なんか文句でもあるのかよ」
「文句じゃないよ、さすがフェリーチェとリヴァイの合作だなと思って!」
ハンジさんがお酒とクッキーを持って現れた。
リヴァイさんは差し出されたお酒を受け取ると「何が言いたいんだテメェは」という顔をする。ハンジさんがとても興奮してたからだ。
「だってさ! ハロウィーンらしいって言えばジャック・オー・ランタンかな〜って普通思うじゃないか。それが、ゾンビ! まさかのゾンビ! すっげぇ!」
「ゾンビ?」
「ゾンビ……」
それ、ジャック・オー・ランタンです。
「そういうブッ飛んだ発想出来るのは二人くらいだね。うん、私も度肝を抜かれたよ! 見た目こんなグロいのに味は完璧とか、これ以上のサプライズある?」
「…………」
「…………」
結果良ければ全て良し、と素直に喜べないレベルの褒め言葉を頂いてしまった。
もう一度心の中で呟く。ハンジさん。
(それ……ジャック・オー・ランタン……です。ですよね?)
恐る恐るリヴァイさんを見上げれば、表情を変えずにお酒を飲んでいた。怒ってるのかも分からない。
「あの、リヴァイさん」
「普通じゃ……つまらねぇしな。サプライズにもならねぇ……」
「え!?」
誤魔化した――!? 出来上がった時、あんなに満足気な顔してたのに!
「ちょっとリヴァイさん、良いんですか? ゾンビで」
「ウケれば良いって面してたのはお前だろ。そもそもアレはお前のベースがあってのもんだろうが」
「確かにそうだけど……じゃあ何でデコレーション頑張ったのかって話ですよ」
「……」
好評価も時と場合によっては残酷に響く。
私もリヴァイさんも盛り上がる皆を大人しく眺めながら「来年は絶対にジャック・オー・ランタン」とリベンジを誓ったのだった――。
ジャック・オー・ランタンは消えた
ちなみに、パーティー後リヴァイさんの部屋で
『岩塩みてぇな代物作り出したお前が悪い』
『リヴァイさんの描いた顔があそこまでホラーじゃなきゃ良かったのでは』
と、ゾンビクッキー……じゃなかった、可愛いカボチャクッキーを食べながら二人で反省会? をしたのは言うまでもない。