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夜も大分更けた。
月も高い位置で私を見下ろしている。
(今日は……)
壁外調査から戻った兵士達は、いつも疲弊と悲愴を漂わせて帰ってくる。
帰還の日は兵団内も言葉少なく、静かな夜は鎮魂の空気に満ち夜の闇も濃い。
廊下の微かなランプの灯りさえ、涙の滴の様に見えた。
(……来れない、……の?)
来てくれない事が不安なんじゃない。
リヴァイさんが来れないという事が不安。
いつもと何か違えば、それが彼の心の崩壊を意味していそうで……。
あの人は強い人だから、余計に。
私は調査の間、毎日兵士たちの無事を願い彼の平穏を願い、そしていつもと同じ様に仕事をして待った。全然仕事内容が頭に入ってこないけど……。
――私も、この夜が来るのが怖いのだ。
部屋にノックの音が響く。
ドアに急いで駆け寄り開けると、リヴァイさんが立っていた。
「寝てるかと思った」
「そう思ったのに来たんですか?」
「つい、だ」
ホッとした顔があからさまに出てしまったかもしれない。彼は私の頭を優しく撫でると、何も言わず歩き出した。
私は後を追う。数歩の距離を保って。これはいつもの事。
リヴァイさんは自室のドアを開け私を見た。私も確かめるように彼を見てから部屋に入る。
背後で静かにドアが閉まると、手を引かれ抱きしめられた。
「フェリーチェ」
「……」
「……お前はここにいる」
「はい、リヴァイさん。私はここに」
腕に力が籠められる。痛くても平気。それはリヴァイさんがここにいる
短い吐息が髪に触れて、私はそれを確認してから「おかえりなさい」と彼の背中に腕を回した。
「疲れた」
「知ってます。でも私もちょっとだけ疲れてます」
「ああ、知ってる。俺と同じなんだろ」
「リヴァイさん程じゃありません。私は待ってるだけの身ですから、体力も考える事も少なくて済みます」
「相変わらず減らず口だなお前は。そういう時は、そうですって答えてりゃいいんだ」
「……だって、」
「もういい」
黙れと言わんばかりに、また腕に力が籠められた。
良かった。いつものリヴァイさんだ。
安心できると一気に力が抜ける。
「……痛いんですが」
「だろうな」
「分かってるんなら少し加減してくれても」
「無理だ。分からないのか?」
「……ちょっと言ってみただけです」
フッと笑う気配がした。
私達はいつも同じことを繰り返す。行動も言葉もほぼ同じ。
そして安心する。自分だけが知っている大切な人が、自分の目の前にちゃんといる事を。
壁外調査から戻った兵士達は、いつも疲弊と悲愴を漂わせて帰ってくる。
帰還の日は兵団内も言葉少なく、静かな夜は鎮魂の空気に満ち夜の闇も濃い。
廊下の微かなランプの灯りさえ、涙の滴の様に見える。
そしてみんな、この夜だけは……。
「疲れてるんだろ? 早く寝ろ」
「嫌です。今日こそリヴァイさんの寝顔を見るまで起きてます」
「そう言って毎回すぐ寝るだろうが。お前が目を閉じてから寝るまで一分もねぇ」
「そんな早くない……」
「俺は見てるから知ってる」
「じゃあ、リヴァイさんが三十秒で寝てください。それなら私見れます」
「……早く目ぇ閉じろ、馬鹿が」
「馬鹿って言ったほうが馬鹿……」
「本ッ当お前は減らねぇな、口が」
「その馬鹿を離さないリヴァイさんも…、馬鹿……ってことに……なり、ま……」
やんわりと掌で目を覆われてしまうと、手の大きさと温かさに安心感がまた増し、意識は急速に揺れながら落ちていく。
繰り返す月一度の夜。
同じベッドに二人で入り、抱き締め、抱き締められて、相手の存在を確かめ合う。
そうして、私達は朝まで泥のように眠るのだ――。
目が醒めたらまた二人、笑える様に。
眠る前に迎えにきて
(お前の寝顔を見ると安心出来る……。だから俺は、絶対先に寝ない)
(……リヴァイさん……の馬鹿……)
(……。寝ててもそれかよ)
だけどそれさえも愛おしい。