短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
(う、動けない……)
朝目覚めたら、ベッドの中でガッチリと私の身体は拘束されていた。
顔は動かせるけど、とにかく身体がどうにもならない。なにこれ。すごい辛いんですけど?
原因はもちろん分かってる。
目の前のこの人、リヴァイさんだ。
昨日の夜、おやすみなさいと言って眠った時は普通だった。
普通過ぎてそっけないから、手ぐらい繋ぎたいと言ったくらいだ。
——なんだそれ。子供かよ。
呆れ顔で言われ、しかも初めのうちはやんわり断られて泣きそうになった。
——ひどい……リヴァイさんもう私のこと飽きたんでしょ。こうやって一緒に寝てくれるのも渋々なんだ……ひどい。もう一緒に寝ない。自分の部屋帰る。
良く考えたら、泣き落としにソフトに脅迫……面倒なのを嫌がるリヴァイさんには、きっと更に面倒に思えた事だろう。
——分かった……。折れてやる。
溜息まじりの承諾は、願いが叶った割にひどく切なくて。
ああ……。もしかしたら、今夜が彼と過ごせる最後かもしれない。思えばこうして一緒のベッドに寝ていても、ただそれだけの日々だった。恋人だと思っていたのは、私の独り善がりだったのか……。
そう思いつつも、私が言う前に俗にいう恋人繋ぎをしてくれるリヴァイさんの優しさは嬉しかった。
……彼は何を考えているのだろう? 分からないから怖い。
だから、不機嫌そうな顔は見ない振りをし、彼の胸に頬を寄せ私は眠ったのだ。態度は冷たくても身体は温かいもの。
それに。
(こうしてこっそり泣いても、私に愛想を尽かしたリヴァイさんは気付かないだろうし……)
「…………」
って思ったのに、この事態は何? 何が起きてるの? とりあえず私の涙返せ。
恋人繋ぎどころか身動き取れないほど抱きしめられてるなんて……初めてなんですが。
「リヴァイ……さん?」
そっと呼んでみた。
いつも私より後に寝て、私より先に起きるリヴァイさんの寝顔を見るのも初めてだ。寝てると眉間の厳しさが消えてちょっと可愛いとか……なにそれずるい。
「離すかよ」
寝てる筈の人が言った。
ん? 気のせい? 寝言?
「飽きる訳ねぇだろ。なに泣いてんだ馬鹿」
「起きてる!?」
「とっくに起きてた」
そこでやっとリヴァイさんが目を開ける。
すぐ目の前で合う視線。片腕だけ拘束が解かれた。
「……。最近抑えが利かなくなってきていた。だが、お前側の事情を考慮すれば……。それを人の気も知らずに、随分とひでぇコトを言ってくれる。しかも泣くだと?」
「抑えって……? そんなの教えてくれなきゃ、私分かんないし」
ふわりと撫でる様に頬に触れてくる彼の目は、いつもと少し様子が違う。怒ってもいないし、かといって笑ってもいない。
その目も、今初めて見た……気がする。
「寝顔見てるだけで欲情するとか言える訳ねぇだろうが。ひっついて眠られたらこっちの身がもたねぇんだよ」
「は、はい!? 何言って……」
「そうか、分からないか。……お前は馬鹿だしな。なら丁度良い」
一瞬で、動けなかった身体が自由になった。でもその代りに逃げ道を塞がれた。
そんな風に身体に跨られたら、私は何も出来ない。結局不自由に後戻りだ。
しかも、なんだか今までより状況がおかしくなってる気がする……?
「とりあえず、涙が出る程よがって啼くまでは止めねぇから、それまでによく理解しろ」
「えっっっ!?」
「覚悟しろよフェリーチェ。朝から嫌だとかいう今更な言い訳は聞いてやらん。俺をここまで煽った罰だ」
不敵に頭上で笑われて、その目が扇情の色に染まっている事に気が付く。
見たこと無いわけだ。
こんな振り切った色気、リヴァイさんは私に向けた事が無かった……。
「おい、口開けろ。お子様なキスで済ましてやるのは昨日までだ」
「く、口っ!?……っ」
息も出来なくなる様なキスを受けながら、私は昨日こっそり泣かなきゃよかったと後悔する。
知ってたら、リヴァイさんの前でなんか泣かなかった。彼のいない所で一人で泣けば良かったんだもの。
――泣いた事で、無駄に彼を煽ってしまったようだ。
本能と理性のあいだ
まさか本当に泣くまで抱き続けるなんて。
愛される事を知って流す涙は、切なくも悲しくもない。
ただ喜びの涙だった——。