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(いつもの事だが、コイツは一体いつ仕事をしてるんだ?)
休憩にお茶を飲む時間を狙ってやって来るハンジを見て思った。これじゃあモブリットも苦労するだろう。
まぁ、俺には関係無いから知らんが。
「美味しそうです!」
テーブルに置かれたハンジの手土産を見て、フェリーチェは目を輝かせた。
コイツは上手いモノが食えると大袈裟なほどに喜ぶ。それを知ってるからこそ、ハンジもエルヴィンも事あるごとにフェリーチェに手土産を持ってくる。最近はモブリットやミケまで持ってくる始末だ。
コイツは、犬猫じゃねぇ。
餌付けすれば自分のものになると思うなよ、テメェ等。
「私、甘い物は大好きです」
「だよね! いつも美味しそうに食べてくれるから、私も探しがいがあるよ」
頬を緩ませるハンジに、フェリーチェは屈託の無い笑顔を向けた。
お前は存分に餌付けされてる場合か。
「今日はまた一段と甘そうなのを持ってきたもんだな」
「リヴァイは甘いの苦手だっけ?」
「……いや。過ぎるのはよくねぇが、紅茶に合う程度には問題無い」
「ああ、良かった。ならどうぞ!」
ひとつくらいは付き合いで食わないとフェリーチェは泣きそうな顔をして「折角持って来てくれたんですから一緒に食べてください」と言う。
泣かれると困るので一応言う事は聞いてやるが……結果自分も餌付けされてる気分になるのはどうなんだ。全く。
やれやれと妙に凝った作りの菓子を口に入れた。と、想像以上の甘さに一瞬手も口も止まる。
「ありゃ。リヴァイには甘過ぎたかぁ」
「大丈夫ですか? リヴァイさん。お菓子食べてるとは思えない顔してますよ?」
「すまない。俺には無理だ……。フェリーチェ、残りはお前が食ってくれ」
「えっ!」
横に座ってるフェリーチェに食べかけの菓子を差し出すと、何故か驚き急に落ち着かなくなった。
俺と俺の持つ菓子を交互に見、最後にはハンジに縋る目を向ける。何だ、その反応は。
「リヴァイ、気付いてあげなよ。それ、間接キス」
「あ?」
ハンジの言葉にフェリーチェを覗き込んだ。困った、と言わんばかりの苦笑がこちらを見ていた。
そのくせどこか残念そうな顔をしているところ、これを食べたいという食い意地は消えてないらしい。
「ガキか。これくらいで」
食い気か色気かと迷う程の事か?
そう思ったものの、色気には縁の無さそうな顔を前にしてみたら妙な納得感はあった。ああ、成程。
なら迷う必要は無いと教えればいいだけだ。
残っていた菓子を口に入れ、フェリーチェの後頭部に手を回した。
そのまま自分に引き寄せ口移しで食べさせる。吐き出されても困るので舌で口内に押し入れた。
元々小さく口に入れるとほろほろと崩れていくそれは、喉に詰まらせる事もなくフェリーチェの口内で消えていく。
少しづつ無くなっていく様を舌で確かめていると、抵抗と驚きの声に紛れて苦しげな吐息が耳に届いた。
……なんだ。程遠いと思っていたが、中々そそる声出せんじゃねぇか。
「これはこれで悪くない。おいハンジ。この程度の手土産ならいつでも歓迎だ」
「気持ちは分かるけど、それじゃあフェリーチェの身が持たないと思うよ……」
ハンジは気の毒そうに俺の横を見て言った。
コイツ等が餌を持って来るなら、自分はそれを食わせてやればいいんだなと考え、それならば手土産くらいは大目に見てやろうと思ったのだが……。
それ以来甘い菓子を持ってくる奴はいなくなった。
いや。むしろ食い物を持って来る奴がいなくなった。
甘くて美味しいお菓子をあげよう
奴等の餌付け行為は無くなったが、代わりに彼女への貢ぎ物が増えた事に、自分は最近複雑な思いでいる……。