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現実に王子様なんていない、いくら私でもそれくらいのこと解ってる。もう子供じゃない。夢物語は所詮夢なんだ。
だけど、たまに夢に見ちゃうのはいいよね? 許されるよね?
夢の中で素敵な王子様と恋するくらいは、現実逃避の結果論で片付けられるんだから……。
ゆっくりと目を開けた。木漏れ日が頬にあたってて、自分がいつの間にか横になって眠りこけてた事に気付く。
どれくらい寝てた? 分からないけどもう戻らなきゃ。
なんてぼんやり考えながらも、あと五分……と重い瞼に逆らわずにいようとした時だった。
目の前に足。視界に紛れも無く入っているのは人間の足だ。
あし?
誰の? 私のじゃないよね、当たり前だけど。
私は足の主を確かめるべく、爪先からゆっくりそのラインを追っていった。
見上げた先、相手の顔は逆光で見えづらい。まぶしくて目を細めた所で、その相手は話し始めた。
「ようやくお目覚めか、お姫様。さっきから何度もキスしてやってるのにちっとも起きないとは、全くいい度胸してやがる」
「起きたならいつまでも転がってんじゃねぇ。さっさと立て。行くぞ」
ぽかん、と見上げたままの私に、影の姿のその人は小さく溜息を吐いた。
「何処にだ? という顔だな。姫がキスで起こされ行く場所といえば城に決まってる。式とやらは面倒でしかないが、お前が誰のモノか奴等に知らしめるには都合良い。付き合ってやる」
「まさか嫌だとか言うつもりじゃねぇだろうな? だが言うだけ無駄だぞ諦めろ。お前が泣いて嫌がっても俺は掻っ攫って行くまでだからな」
随分な言い草。挙句有無を言わさない雰囲気で彼はこっちに手を差し伸べた。
「早く手を出せ」と凄んでる。……あの。怖いんですけど。
でも、言葉と雰囲気の割に、私が手を取るのを待っている様だ。
私がおずおずと手を出すと、彼は満足そうに「いい子だ」と笑った。
「っていう夢を見たんです。あれ、絶対リヴァイさんですよね?」
「俺が知るか」
「お姫様って呼んでくれたから、あの時のリヴァイさんは王子様だったって事になります……。はぁ……」
「迷惑そうな顔で溜息を吐くな。俺も迷惑だ。勝手にお前の夢にキャスティングすんじゃない」
「いえ。私はちっとも迷惑じゃないですけど……。どうせ出てくるならもっと王子様っぽくしてくれればいいのに。あれじゃプロポーズされてんだか、怒られてんだか分かりません。いつものおっかなくて無愛想なリヴァイさんとなーんにも変わりません」
夢のくせに自分の理想とは大きく違った。夢ってほら、自分の深層心理が反映されんじゃないの? あれ大嘘?
「夢の中でくらいは愛想の良いリヴァイさんを見たかった……。ん? でもそれは果たしてリヴァイさんと言っていいんでしょうか?」
「……お前な……。言っとくがお前だってテメェの夢と現実じゃ何も変わってねぇぞ」
リヴァイさんは眉を顰めて言う。何の事ですかと私も負けじと眉根を寄せると、リヴァイさんの指は私の眉間をグリグリ回す様に押した。それ止めろと言いたいらしい。
「何度キスしても全然起きねぇ」
「そんなの私に言われても分からな……ええ、ええっっ―!?」
うるさい。
今度は指で眉間を弾かれた。痛い! 少しは加減して!
――いやいやいや。違う、そうじゃない!
「ちなみに言っておくが、式云々は俺も夢と同感だ……。だがお前を嫁に貰う時くらいは、俺だってそれなりには考える。覚えておけ」
「そうなんですか!?……良かったぁ。私結構結婚式とか夢見てる部分あるんで嬉し……あれ?――え、ぅえええっ!?」
「本当うるせぇなお前は。そろそろ戻るぞ。まだ仕事が残ってる」
ちょっと不機嫌そうな声音でリヴァイさんは言って、さっさと歩き始めた。
私はそれを慌てて追う。これ夢ですか?
現実ですか? と後ろ姿にしつこく聞く私に、リヴァイさんは溜息と一緒に振り返った。
「お前は夢と現実どっちが良いんだ? フェリーチェ。どっちも嫌だなんて抜かしたら蹴り飛ばす」
「……げ、現実……に決まってるじゃないですか」
「いい子だ。それでいい」
リヴァイさんは夢と同じ顔で笑った。
夢だろうが現実だろうが、彼は私の恋をちゃんと成就させてくれるらしい……。
少女の夢物語
(花嫁はこうして予約されました)