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『愛してるよ、フェリーチェ』
亡くなった人の何を一番先に忘れてしまうか。
それは《声》だと聞いた事がある。
(そうなんだろうな……)
私の夢の中の父と母はいつも笑って「愛してるよ」って言ってるけど、あんなに大好きだった声……頭のなかで再生出来なくなってるもの。
(ごめんね。お父さんお母さん)
少し淋しい。
でもね、一度も忘れたことないよ。
二人が私をうんと愛してくれたこと――。
気持ちを言葉にするならば
「ようやくお目覚めか。フェリーチェ」
目を開けてぼんやり天井を眺めていたら、リヴァイさんの声が頭のすぐ横で聞こえた。
「あれ……リヴァイさん……いたんですか」
ソファーでいつの間にか寝てしまっていたらしい。起き上がりリヴァイさんに言うと、リヴァイさんは読んでいた本を閉じて不機嫌顔になった。
「ここは俺の部屋だぞ」
「……そうだった。このブランケットは?
リヴァイさんが?」
「よく寝ていたからな。風邪でもひかれたら困る」
テーブルには空になったカップが置いてある。それを見れば、どの位リヴァイさんがひとりで時間を過ごしていたか分かった。リヴァイさんは本を読む時、いつも以上にゆっくり紅茶を飲むのだ。
「ありがとうございます! でも、起こしてくれても良かったのに……」
「よく寝ていたから、と言っただろう」
真っすぐ伸びてきた手がポンと軽く頭に乗った。大きな使命を持つその手は、ブレードを握る時は力強く、私に触れる時は優しい。
「夢でも見てたのか? 時々ニヤニヤ笑ってたぞ」
「夢……? あ、見てたかも」
「ほう」
「父と母の。時々夢で会えるんです」
リヴァイさんは小さな声で「そうか」と言った。穏やかな顔で。
「とっても幸せな夢ですよ。二人ともいつも私にあい……あああ!」
微笑んだかもしれないリヴァイさんを見ながら喋っていると、とんでもなく重大な事に気が付いて。
これはもう叫ばずにいられない! と叫んだら、普段はそんなに驚かないリヴァイさんがビクッと体を揺らした。不意打ちの叫び声には結構な攻撃力があるみたい。よし、今度から使えるな。
「そういえば、リヴァイさんって好きとか愛してるって言わないですよね!」
「は? なんだ急に」
「だって聞いたこと無い!」
「言ったことも無いのに聞くも何もあるか。おい、その顔やめろ」
「リヴァイさん、自分では『結構喋る方だ』とか言ってるくせに。父はしょっちゅう母と私に愛してるって言ってましたよっ」
「それはお前の父親だからだろ。俺はお前の父親じゃねぇ」
くうぅ……! そりゃあ確かにそうですけど! 父は、そういう人でしたけど!
リヴァイさんがあんな風に「愛してるよ」とか言うなんて思ってないですけど!
「悪いが俺はそういうのに慣れてない。言ったこともねぇからどんな顔して言うもんなのかも分からねぇ」
「……ですよね。知ってました」
「……」
でも一回くらいはなぁ……とか。ちょっと考えてしまう。いや、ちゃんと分かってるのだ私だって。こういう事はお願いして言って貰うものじゃないし、言葉が無いから気持ちも無いという訳じゃない。私には私の、父には父の、リヴァイさんにはリヴァイさんの表し方がある。
「フェリーチェ。だが……これだけは言える」
「え?」
「俺はお前の事を自分より何より大事なもんだと思っている。だからとにかく失いたくねぇ。……これをお前風に言い換えるとしたら、なんて言えばいいんだ?」
「え……」
私と目が合うと、リヴァイさんはいかにも“困ってます”という顔を斜め下に向けた。
な、な、なに……なんですかその顔!?困って……照れてるんですか!?
「そんなの! 分かりませんよぉおおおっ! リヴァイさんずるいっ」
「はぁ!? お前が言えと言ったんだろうが!」
「ちょっ、もう恥ずかしくなってきた!」
「おい、てめぇ待てフェリーチェ……もぐるな。顔見せろ」
「駄目ですっ……こんな顔見せられない!」
ブランケットを被り必死に顔を隠す。
(まさかこんなに破壊力のある発言されるとは思わなかったよ!)
一言の『愛してる』よりもなんか凄いこと言われた気が……!
「フェリーチェ。おい……出てこい」
布越しに聞こえる音が、ジリジリと私の耳を焦がしていく。
低く優しい甘い声。
(うぅ……いつまでもこのままって訳にはいかないし……)
でも、私はどういう声で、どういう言葉で、この気持ちをリヴァイさんに伝えればいいんだろう――。
まずは「大好き!」って叫んでみようかな……。