壊れた機械人形に、永遠の死と愛を
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4
雨の中、駿馬達を走らせた。
どしゃ降りではないのが救いだ。これなら予想より早く兵舎に戻れるだろう。
だが、泥濘んだ地面を意識しながら駆けていると、晴れていればもっと……と急く気持ちからつい無理な事を考えてしまう。
(昨夜の内に動いていたら……)
後悔先に立たずだ。考えるだけ無駄な事。だが、何度抑えつけても、たられば思考が湧いてくる。
「クソが……」
フードを深く被り直しリヴァイは舌打ちした。
頬に当たる冷たい雨が鬱陶しい――。
✽✽✽
フェリーチェの話をしてからリヴァイの胸に広がる悪い予感の不快さは晴れることはなく、更に降り出した雨に助長され彼を不機嫌の塊に変貌させた。
当然、そんな男を社交の場へ出す訳にいかない。リヴァイは「心配するな。務めは果たす」と言ったが、エルヴィンは首を縦に振らなかった。確かに、やれと言えばこの男はそれなりにこなすだろう。初めはそのつもりだった。だがそれで良いのだろうか?
リヴァイは勘が鋭く、判断は冷静で、エルヴィンもそれに助けられ何度も窮地を脱してきた。今回だけ、お前の勘違いだと流せる訳がない――。
エルヴィンの頭に浮かんだ、フェリーチェとアインシュバルの顔。特にアインシュバルの、思い詰めた様な切なげな微笑み。
これ以上あの二人を闇の連鎖に沈めたくない。フェリーチェを失う訳にはいかない。
半分諦め「それでもいい」と思ってもない事を口にする男と、「これでいい」と間違いと支配を享受する娘を救えるのは自分達しかいないだろう。
自分達――いや、正しくはリヴァイだと思う。リヴァイならばきっと。地下街と壁外で生き抜いている男が持つ心の強さが、フェリーチェを守り変えるはず……。
(二人がここまで惹かれ合うとは思わなかったが、それも深く考えれば当然だったのかもしれない……似てない様で、よく似ている)
どうにも出来ない現実を突きつけられてショックを受けながら、それでも自分がすべき事を必死に考えようとしているいつかの夜のフェリーチェの表情が、ここからどうするか……と思案している目の前のリヴァイの顔に重なる。
「リヴァイ。お前なら出来るだろう」
「――何がだ?」
「前に言った……覚えているはずだ」
「……」
監視者は自ら手を出す事は無い。しかし実行者はどこから関わってくるか想像が出来ない。誰なのかも当然、現段階では謎だ。――エルヴィンの中にも説明出来ない嫌な予感はあった。
だからこその決断。リヴァイをパーティーに参加させず兵舎に帰す。無茶をさせてしまうが、今すぐ行動すれば宵っぱりのフェリーチェが眠る前には到着出来るだろう。
心配が杞憂に終わる事が一番だが、もし何かが起こるとすれば、常にフェリーチェのそばにいるリヴァイとハンジが離れた時が可能性が最も高いだろう。ヴェイルがリヴァイの前に現れたタイミングも引っかかる。
エルヴィンがそう伝えると、リヴァイはより厳しい顔つきになり「そうだな」と呟いた。
「あの時……無理矢理にでもアイツを引っ張ってくれば……」
重低音が床に落ちた。
✽✽✽
濡れたマントを脱ぎ捨て兵舎に入ると、いつもと違う雰囲気を感じた。
リヴァイは眉根を寄せる。
消灯時間をとうに過ぎ人影は無いが、どうも空気が落ち着いていない。ついさっきまで誰か――それも一人ではなく結構な人数が歩き回っていたような……忙しない空気が残っている気がする。
(あんな話をした後だ。驚きはしねぇが)
何かがあった。そう肌で感じた。
暗い廊下を、自室に戻るかそれともフェリーチェを探すか迷いつつ歩く。出かける前に部屋の合鍵をフェリーチェへ預けたが、もし起きていたとしてもこの時間に居るとは思えない。鍵を渡した時、頰を染めながら嬉しそうにしていたが、主不在の部屋で夜を明かす程フェリーチェは無遠慮な女ではないだろう。自分としてはそれを期待して渡したところがあるのだが。
(……。何も考えずアイツの部屋に行ける時間でもねぇしな)
俯き思案すれば前髪から落ちる雫。
リヴァイは髪を掻き上げ息をフッと吐いた。やはり自室が先か――。
「兵長!」
「お前ら……」
と、バタバタと駆け寄ってくる男が二人現れた。グンタとエルドだった。戻る予定はまだ先の上司を夜通し待っている訳がないので何かが起きたのは確実、しかも自分の部下がこうして動き回っているとなると――。
奥歯を噛み締めた。
「兵長どうしてここに! 予定では……」
「ああ、少し事情が変わってな。こっちは何だ。随分と騒がしかったみてぇだな」
「――はい。それが……」
「どうせフェリーチェ絡みだろう? 何があった」
「えっ!? 何故それを」
「……」
そんなつもりはなかったが、隠した焦り等が、二人へ向けた目に出てしまったらしい。グンタもエルドも、リヴァイの負の感情がこもる鋭い視線に肩をビクつかせ表情を凍らせる。
「――別に、死んじゃいねぇんだろ……」
リヴァイがボソリと呟くと、黒髪から水分がぽたぽたと肩に落ちた。それにハッとしたグンタがエルドの肩を叩く。
「エルド、説明を。俺はタオルを取ってくる」
ああ、と頷いたエルドは走っていくグンタを少し見送ってからリヴァイに向いた。
自分だってまだ信じられないでいる――彼女がこうなるなんて誰が想像出来た?
エルドは息を吐き心を落ち着かせてから、静かに言った。
「フェリーチェが技術班の人間と揉め、騒ぎになりました。その際に技術班一名が負傷、その場から逃げ出したフェリーチェは階段から転落し、現在治療中です……意識がまだ戻らないようで……」
「――は?」
リヴァイの思考が一瞬止まった。
「揉めた? アイツが?」
「はい」
「逃げ出したって事は……相手を伸したのはフェリーチェなんだな。あげく転落、意識不明だと? あの馬鹿……」
リヴァイが拳を強く握りしめるのをエルドは見逃さなかった。普段からあまり動揺を見せたりしない男が、僅かとはいえそれを隠せずにいる。拳もそうだが、瞳。常に冷静なアッシュグレーが揺れている様に見えた。
「お前はそれを見たのか?」
「いいえ。自分よりペトラの方が詳しいと思います」
「そうか。フェリーチェとやり合った奴の話が聞きたいが……分かるか、エルド」
「彼なら食堂に。俺らも話が聞きたかったので残ってもらっています。技術班の班長もまだいるのでは――」
「なら話は早い。行くぞ」
「えっ」
すぐに歩き始めたリヴァイの背を追いかけ、エルドは慌てて声を上げた。
「兵長! フェリーチェの所に行かないんですか!」
「……。アイツは治療中なんだろ? だったら、医者でも何でもねぇ俺が行っても邪魔なだけだろうが」
「ですが!」
「――目が覚めたらこっぴどく叱ってやる」
低い声が聞こえてくる。纏う空気が暗く重い。今、どんな表情をしているのか。
足早に先を行く上司の背を見つめ、エルドは、行ってやれば良いのにと思った。事情聴取なんて後でいくらでも出来るのだから、今は自分達に任せてくれればいいのだ。本当はすぐにでもフェリーチェの元へ行きたいのでは?
(どんな事情があったのか分かりませんが、この雨の中、無茶をしてでも戻ってきたのはその為なんでしょう?)
――そう言いたい気持ちを堪えてエルドは後を追う。あえてそうしないのだろうリヴァイの胸中を考え、今はただ上司の判断に従おうと思った。
雨の中、駿馬達を走らせた。
どしゃ降りではないのが救いだ。これなら予想より早く兵舎に戻れるだろう。
だが、泥濘んだ地面を意識しながら駆けていると、晴れていればもっと……と急く気持ちからつい無理な事を考えてしまう。
(昨夜の内に動いていたら……)
後悔先に立たずだ。考えるだけ無駄な事。だが、何度抑えつけても、たられば思考が湧いてくる。
「クソが……」
フードを深く被り直しリヴァイは舌打ちした。
頬に当たる冷たい雨が鬱陶しい――。
✽✽✽
フェリーチェの話をしてからリヴァイの胸に広がる悪い予感の不快さは晴れることはなく、更に降り出した雨に助長され彼を不機嫌の塊に変貌させた。
当然、そんな男を社交の場へ出す訳にいかない。リヴァイは「心配するな。務めは果たす」と言ったが、エルヴィンは首を縦に振らなかった。確かに、やれと言えばこの男はそれなりにこなすだろう。初めはそのつもりだった。だがそれで良いのだろうか?
リヴァイは勘が鋭く、判断は冷静で、エルヴィンもそれに助けられ何度も窮地を脱してきた。今回だけ、お前の勘違いだと流せる訳がない――。
エルヴィンの頭に浮かんだ、フェリーチェとアインシュバルの顔。特にアインシュバルの、思い詰めた様な切なげな微笑み。
これ以上あの二人を闇の連鎖に沈めたくない。フェリーチェを失う訳にはいかない。
半分諦め「それでもいい」と思ってもない事を口にする男と、「これでいい」と間違いと支配を享受する娘を救えるのは自分達しかいないだろう。
自分達――いや、正しくはリヴァイだと思う。リヴァイならばきっと。地下街と壁外で生き抜いている男が持つ心の強さが、フェリーチェを守り変えるはず……。
(二人がここまで惹かれ合うとは思わなかったが、それも深く考えれば当然だったのかもしれない……似てない様で、よく似ている)
どうにも出来ない現実を突きつけられてショックを受けながら、それでも自分がすべき事を必死に考えようとしているいつかの夜のフェリーチェの表情が、ここからどうするか……と思案している目の前のリヴァイの顔に重なる。
「リヴァイ。お前なら出来るだろう」
「――何がだ?」
「前に言った……覚えているはずだ」
「……」
監視者は自ら手を出す事は無い。しかし実行者はどこから関わってくるか想像が出来ない。誰なのかも当然、現段階では謎だ。――エルヴィンの中にも説明出来ない嫌な予感はあった。
だからこその決断。リヴァイをパーティーに参加させず兵舎に帰す。無茶をさせてしまうが、今すぐ行動すれば宵っぱりのフェリーチェが眠る前には到着出来るだろう。
心配が杞憂に終わる事が一番だが、もし何かが起こるとすれば、常にフェリーチェのそばにいるリヴァイとハンジが離れた時が可能性が最も高いだろう。ヴェイルがリヴァイの前に現れたタイミングも引っかかる。
エルヴィンがそう伝えると、リヴァイはより厳しい顔つきになり「そうだな」と呟いた。
「あの時……無理矢理にでもアイツを引っ張ってくれば……」
重低音が床に落ちた。
✽✽✽
濡れたマントを脱ぎ捨て兵舎に入ると、いつもと違う雰囲気を感じた。
リヴァイは眉根を寄せる。
消灯時間をとうに過ぎ人影は無いが、どうも空気が落ち着いていない。ついさっきまで誰か――それも一人ではなく結構な人数が歩き回っていたような……忙しない空気が残っている気がする。
(あんな話をした後だ。驚きはしねぇが)
何かがあった。そう肌で感じた。
暗い廊下を、自室に戻るかそれともフェリーチェを探すか迷いつつ歩く。出かける前に部屋の合鍵をフェリーチェへ預けたが、もし起きていたとしてもこの時間に居るとは思えない。鍵を渡した時、頰を染めながら嬉しそうにしていたが、主不在の部屋で夜を明かす程フェリーチェは無遠慮な女ではないだろう。自分としてはそれを期待して渡したところがあるのだが。
(……。何も考えずアイツの部屋に行ける時間でもねぇしな)
俯き思案すれば前髪から落ちる雫。
リヴァイは髪を掻き上げ息をフッと吐いた。やはり自室が先か――。
「兵長!」
「お前ら……」
と、バタバタと駆け寄ってくる男が二人現れた。グンタとエルドだった。戻る予定はまだ先の上司を夜通し待っている訳がないので何かが起きたのは確実、しかも自分の部下がこうして動き回っているとなると――。
奥歯を噛み締めた。
「兵長どうしてここに! 予定では……」
「ああ、少し事情が変わってな。こっちは何だ。随分と騒がしかったみてぇだな」
「――はい。それが……」
「どうせフェリーチェ絡みだろう? 何があった」
「えっ!? 何故それを」
「……」
そんなつもりはなかったが、隠した焦り等が、二人へ向けた目に出てしまったらしい。グンタもエルドも、リヴァイの負の感情がこもる鋭い視線に肩をビクつかせ表情を凍らせる。
「――別に、死んじゃいねぇんだろ……」
リヴァイがボソリと呟くと、黒髪から水分がぽたぽたと肩に落ちた。それにハッとしたグンタがエルドの肩を叩く。
「エルド、説明を。俺はタオルを取ってくる」
ああ、と頷いたエルドは走っていくグンタを少し見送ってからリヴァイに向いた。
自分だってまだ信じられないでいる――彼女がこうなるなんて誰が想像出来た?
エルドは息を吐き心を落ち着かせてから、静かに言った。
「フェリーチェが技術班の人間と揉め、騒ぎになりました。その際に技術班一名が負傷、その場から逃げ出したフェリーチェは階段から転落し、現在治療中です……意識がまだ戻らないようで……」
「――は?」
リヴァイの思考が一瞬止まった。
「揉めた? アイツが?」
「はい」
「逃げ出したって事は……相手を伸したのはフェリーチェなんだな。あげく転落、意識不明だと? あの馬鹿……」
リヴァイが拳を強く握りしめるのをエルドは見逃さなかった。普段からあまり動揺を見せたりしない男が、僅かとはいえそれを隠せずにいる。拳もそうだが、瞳。常に冷静なアッシュグレーが揺れている様に見えた。
「お前はそれを見たのか?」
「いいえ。自分よりペトラの方が詳しいと思います」
「そうか。フェリーチェとやり合った奴の話が聞きたいが……分かるか、エルド」
「彼なら食堂に。俺らも話が聞きたかったので残ってもらっています。技術班の班長もまだいるのでは――」
「なら話は早い。行くぞ」
「えっ」
すぐに歩き始めたリヴァイの背を追いかけ、エルドは慌てて声を上げた。
「兵長! フェリーチェの所に行かないんですか!」
「……。アイツは治療中なんだろ? だったら、医者でも何でもねぇ俺が行っても邪魔なだけだろうが」
「ですが!」
「――目が覚めたらこっぴどく叱ってやる」
低い声が聞こえてくる。纏う空気が暗く重い。今、どんな表情をしているのか。
足早に先を行く上司の背を見つめ、エルドは、行ってやれば良いのにと思った。事情聴取なんて後でいくらでも出来るのだから、今は自分達に任せてくれればいいのだ。本当はすぐにでもフェリーチェの元へ行きたいのでは?
(どんな事情があったのか分かりませんが、この雨の中、無茶をしてでも戻ってきたのはその為なんでしょう?)
――そう言いたい気持ちを堪えてエルドは後を追う。あえてそうしないのだろうリヴァイの胸中を考え、今はただ上司の判断に従おうと思った。