壊れた機械人形に、永遠の死と愛を
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2
「リヴァイ?」
ハンジに声をかけられ、リヴァイは窓から見える曇り空から視線を外した。
「どうかした?」
「いや……」
なんとも言えない胸の気持ち悪さに眉を顰める。
昨晩リヴァイの前に現れた男の影が空に溶け込んだ様な、薄黒い雲の波。それらはリヴァイの行く先々に纏わり付いている様にゆっくりと流れていた。
「今夜は降りそうだね」
ハンジの呟きに頷いた。
「――で。その酒はどうだ? ミケ」
リヴァイは、スキットルをわずか傾け香りを確かめているミケに声をかける。
スンと鼻を鳴らした後、ミケは「ああ」と目を閉じた。
「毒は入ってないな。この香りには覚えがある。ナナバと飲みに行った店で飲んだ酒だ。ここ最近で一番美味い酒だった……間違いないだろう。確かめるか?」
「いいね! 確認は大事だ」
すかさずハンジがグラスを一つ持ってきて、そこに酒を注いだ。一人一口ずつ口に含む――確かにいつも飲んでいる酒より少しだけ苦味が控えめで後味も良く、美味い酒だった。
「そのヴェイルって男、リヴァイにわざわざ会う為にパーティーに潜り込んだのかな? 熱烈なファンとか……んな訳ないか」
「ある訳ねぇだろクソ眼鏡。俺の話を聞いてよくそんなお気楽な考えが浮かぶな」
「俺が預かったパーティーの名簿にもヴェイル・オーグという名前は無かったな。エルヴィンにこの事は?」
「昨日の晩に話した。少し調べてみるだとよ――名簿にない以上、不審者なのは間違いねぇ。そっちはエルヴィンに任せるしかない」
身元なんかすぐに分かるただの職人だと笑っていたあの男。奴が言うよう、酒に毒は盛られておらず“安いが美味い酒”だった。相手を騙し殺すのが目的でないなら、本当に友好の証として渡してきたのか?
しかし――。
「……素直なジジイには見えなかった。ふざけていたかと思えば脅しみてぇな事を言ってきたりな。どこまで信じていいか分からない奴だ」
だが壁外調査や調査兵団への評価は好意的だった。あの熱弁が演技だと言うなら大した役者だと思う。
(本当に……何なんだあのクソジジイ)
「そのヴェイルがフェリーチェの名前を出してきたのが、一番気になるねぇ。腕の良い職人ならあちこち走り回るのは普通だろうから、行った先々でその周りの色んな噂を耳にする事もあるだろうけど……フェリーチェに関しては限定的過ぎて」
「そうだな。兵団内でもフェリーチェの存在を知らない奴がまだいるくらいだってのに……。街での噂となるとかなり限られるだろう」
水を飲みながらテーブルを囲むハンジとミケの話を窓際で聞くリヴァイは、もう一度空を仰ぎ見た。
フェリーチェのほわんとした笑顔が浮かぶ。リヴァイさん、と自分を呼ぶ声が聞こえた様な気がした。
「あの野郎……。それが一番気に食わねぇ。フェリーチェの事をどこまで知ってやがる」
「王との茶会に潜り込めるなんて冗談を言う奴だからね。開発部にも出入り出来るって言いたいのかな? でも……だとするともっとおかしいか。一般市民の時計職人が、私達だってろくに知らない開発部の存在を知ってるなんて有り得ない」
ハンジはミケが預かったという二日分の名簿をパラパラと捲り「こんなに居たんだ」と呟いた。
リヴァイも確認したが、結局目を通さず仕舞いだった自分が渡されていたものより多くの名前が並んでおり、あのリストに載っていた者達はエルヴィンが厳選した参加者なのだと知った。
始めからこれを渡されていればフェリーチェもあんなに拗ねなかったのだが?
一枚捲る度に舌打ちが出る。
「堂々と名乗り身元を調べてみろなんて言える奴だ。余程の自信があるか、伝えたいメッセージを込めているか、どちらかだろうな」
ミケの言葉にハンジとリヴァイは同意した――。
✽✽
エルヴィンが合流したのは、あと一時間ほどでパーティーが始まるという頃だった。ギリギリまで動いて調べていたようで、部屋に入ってきた時にはその端正な顔に珍しく焦りの色も浮かべていた。
「エルヴィン。何か分かった? 勿論、分かったよねぇ?」
ハンジが、なみなみと水を注いだグラスをエルヴィンに手渡す。言葉が少しだけ嫌味の様な色を含んでいて、リヴァイは珍しい事もあるもんだと思った。何か思う所があるのか、自分ならともかくハンジが先をいくとは……。
「ああ。ヴェイル・オーグという人物については分かった。だが、少し問題がある。人物が分かっても正体が分からない」
「どういうこと?」
エルヴィンは怪訝そうな顔のハンジをチラリと見下ろし、次にミケ、そして最後にリヴァイへと視線を移した。
意味ありげな視線。嫌な予感がする。
「ヴェイル・オーグは、オーグ時計工房という老舗の五代目だ。七年前に店を継いでいる」
「時計職人って本当だったんだ!」
「それ以前は憲兵団に所属していた。怪我をきっかけに退団、その後すぐに工房に入った様だ」
「問題とは?」
予感は強くなる。つい声が低くなるリヴァイにエルヴィンは報告書であろうそれを指で弾いた。
「ヴェイルは二年前にこの世を去っていた。生きてる筈がない人間だ」
「――なに?」
「はぁっ!? 死んでるって何! じゃあリヴァイは幽霊と話をしたって言うの? それに酒だってここに……」
「馬鹿か。幽霊な訳ねぇだろ。現実的に考えろ」
「そうだけど! そんなの分かってるよ、言ってみただけだよ! だってそれってつまり」
「――誰かがヴェイル・オーグに成り済まし、リヴァイに近付いてきた」
ミケが言う。
「正体が分からないというのはそういう事か……。死んだというのは間違いないんだな。ヴェイルには家族がいるのか? 工房は今どうなっているんだ」
「家族はいない。工房はヴェイルの死後、誰かが買い取り管理しているらしい。いま分かっているのはそこまでだ」
二人のやり取りにリヴァイは苛立ちを隠せなかった。進んでいる様で進まない現実がそうさせる。参加者名簿を握り潰した。
「誰か誰かとそればかりじゃねぇか。おいエルヴィン。お前が今言った事は信頼出来る“誰か”さんからの情報なんだろうな」
勿論だと、エルヴィンは頷いた。書類に目を通しながら話を続ける。
「王都の倒産品を商会に流している貴族がいる。所有者が居なくなった不動産を手にすれば、土地建物だけではなくそういう物も手に入る事があるからな。オーグ時計工房はその観点からすると良い物件だったはずだ。――彼は工房の情報を得てすぐに買収しようとしたそうだが、一歩遅かった」
その貴族は以前エルヴィンが話していたビジネスの相手だろう。それならば信頼していい情報源だ。
だが分からない事が増えた。
死んだ人間にわざわざ成り済まし自分の前に現れ、それを暴露する意味だ。
成り済ましのターゲットがヴェイルだった事は――死んだヴェイルとフェリーチェの間に何かがあったと深読みさせる為か?
あの男が持っていたのが殺気ではなく和気だったなら、どうしてこちら側に疑心が生まれる様な真似を――。
「工房を買い取った者がヴェイルを名乗っている可能性が高い……。リヴァイ、その男は他に何か言っていたか? 些細な事でも何でもいい」
エルヴィンに問われ、考えを巡らせる。
コロコロと表情を変える二面性のある男は飄々と語っていた。それを全て覚えている訳ではないが、可能な限り仕草や表情に重なる言葉を反芻する。――と、「戻らねば」という声と懐中時計の金属音が耳に響いた。
「そういえば、俺に会わなかったら『抜けて来た意味が無くなる』と言っていたな……。それと時間を気にしていた」
「抜けて来た?」
「ああ。最後には『また』と言って消えやがった」
「てことは……もう一度リヴァイの前に現れる可能性があるんだね?」
「おそらく」
「私は、名前だけじゃなくフェリーチェの見た目以上の事を知っているのが気になるな……。フェリーチェが紅茶に明るい、なんてどうして言えるんだと思う?」
エルヴィンは何かに気付いた顔をし、それを見たハンジは厳しい顔つきになった。彼女は今日ずっとエルヴィンに対してあたりが強い。その理由を、リヴァイも話す内に気付いていた。
「無理に聞くのはやめておこうと思ってたんだよ。アインシュバル部長や開発部にも事情があるんだろうし……。でもこうなったら話は別だ。あなたも部長もフェリーチェを傷付けたくないんでしょう? 今、ただでさえ不穏なフェリーチェの周りが更に不穏になりかけてる――私達だってあの子を守ってやりたいんだ」
「こっちもお前の意味深な言葉で動かされてきたからな。付き合ってやったんだ。そろそろ知ってる事を全部話せ」
「ある程度は知っていないと動けない。まぁ当然だな、エルヴィン」
三人からそう囲まれて。エルヴィンは観念したのかフッと短く息を吐いてから一人掛けのソファーにゆっくりと腰を下ろす。それを横目で見ながら、リヴァイもハンジとミケがいるテーブルに着席した。
少しの時間すら惜しい。自分の中で焦りと胸騒ぎが強くなっていくのを自覚し、拳を握る。
(どうして俺はこんな所にいるんだ)
ドアの向こう側、パーティー開始に合わせ人の気配が増えていくのを感じながら、リヴァイはフェリーチェを想った。
――ノックは三回。確信と期待でドアを開ければフェリーチェはいつだってそこに居た。抱き締めたい衝動を隠し悪態をつきながら部屋へ入れるのも、ソファーで林檎を頬張る顔や本を読み寛ぐ姿を見つめるのも、自分の当たり前になりつつある。
縁も無ければ、特別手に入れたいとも思わなかった“愛する人と過ごす日々”。いつの間に望むようになったのは彼女だからだ。手放す気は無い、それを邪魔するのは相手が何であろうと許さない。
「フェリーチェが今まで開発部から出られなかったのは中央の奴等がそれを許さないから――って私は考えてるんだよね。しかも相当えげつないやり方で。規則といえば聞こえは良いけど、あの子に対する仕打ちを考えるとそう単純じゃない事は想像出来る。――ハッキリ聞くよ」
ハンジは額をおさえ俯く。僅かに手が震えていた。
「アイツら……フェリーチェを斬っただろ! 何故だ……何故そんな事が出来る……どうしてだよ」
「……」
フェリーチェの傷痕を見てからずっと考えていた。誰が何の為にこんな真似を、と。
悪いのは自分だとフェリーチェは言っていた。だがそれは違うと思う。アインシュバルが傷を見て「すまない」と泣いたのは、フェリーチェに否が無かったからだろう。それなのにフェリーチェはその涙と謝罪を理解していなかった。
何故だ。
きっと教え込まれたのだ。
『こうなったのはお前が悪いからだ』
『お前の行動がこの結果を招いた』
「リヴァイ?」
ハンジに声をかけられ、リヴァイは窓から見える曇り空から視線を外した。
「どうかした?」
「いや……」
なんとも言えない胸の気持ち悪さに眉を顰める。
昨晩リヴァイの前に現れた男の影が空に溶け込んだ様な、薄黒い雲の波。それらはリヴァイの行く先々に纏わり付いている様にゆっくりと流れていた。
「今夜は降りそうだね」
ハンジの呟きに頷いた。
「――で。その酒はどうだ? ミケ」
リヴァイは、スキットルをわずか傾け香りを確かめているミケに声をかける。
スンと鼻を鳴らした後、ミケは「ああ」と目を閉じた。
「毒は入ってないな。この香りには覚えがある。ナナバと飲みに行った店で飲んだ酒だ。ここ最近で一番美味い酒だった……間違いないだろう。確かめるか?」
「いいね! 確認は大事だ」
すかさずハンジがグラスを一つ持ってきて、そこに酒を注いだ。一人一口ずつ口に含む――確かにいつも飲んでいる酒より少しだけ苦味が控えめで後味も良く、美味い酒だった。
「そのヴェイルって男、リヴァイにわざわざ会う為にパーティーに潜り込んだのかな? 熱烈なファンとか……んな訳ないか」
「ある訳ねぇだろクソ眼鏡。俺の話を聞いてよくそんなお気楽な考えが浮かぶな」
「俺が預かったパーティーの名簿にもヴェイル・オーグという名前は無かったな。エルヴィンにこの事は?」
「昨日の晩に話した。少し調べてみるだとよ――名簿にない以上、不審者なのは間違いねぇ。そっちはエルヴィンに任せるしかない」
身元なんかすぐに分かるただの職人だと笑っていたあの男。奴が言うよう、酒に毒は盛られておらず“安いが美味い酒”だった。相手を騙し殺すのが目的でないなら、本当に友好の証として渡してきたのか?
しかし――。
「……素直なジジイには見えなかった。ふざけていたかと思えば脅しみてぇな事を言ってきたりな。どこまで信じていいか分からない奴だ」
だが壁外調査や調査兵団への評価は好意的だった。あの熱弁が演技だと言うなら大した役者だと思う。
(本当に……何なんだあのクソジジイ)
「そのヴェイルがフェリーチェの名前を出してきたのが、一番気になるねぇ。腕の良い職人ならあちこち走り回るのは普通だろうから、行った先々でその周りの色んな噂を耳にする事もあるだろうけど……フェリーチェに関しては限定的過ぎて」
「そうだな。兵団内でもフェリーチェの存在を知らない奴がまだいるくらいだってのに……。街での噂となるとかなり限られるだろう」
水を飲みながらテーブルを囲むハンジとミケの話を窓際で聞くリヴァイは、もう一度空を仰ぎ見た。
フェリーチェのほわんとした笑顔が浮かぶ。リヴァイさん、と自分を呼ぶ声が聞こえた様な気がした。
「あの野郎……。それが一番気に食わねぇ。フェリーチェの事をどこまで知ってやがる」
「王との茶会に潜り込めるなんて冗談を言う奴だからね。開発部にも出入り出来るって言いたいのかな? でも……だとするともっとおかしいか。一般市民の時計職人が、私達だってろくに知らない開発部の存在を知ってるなんて有り得ない」
ハンジはミケが預かったという二日分の名簿をパラパラと捲り「こんなに居たんだ」と呟いた。
リヴァイも確認したが、結局目を通さず仕舞いだった自分が渡されていたものより多くの名前が並んでおり、あのリストに載っていた者達はエルヴィンが厳選した参加者なのだと知った。
始めからこれを渡されていればフェリーチェもあんなに拗ねなかったのだが?
一枚捲る度に舌打ちが出る。
「堂々と名乗り身元を調べてみろなんて言える奴だ。余程の自信があるか、伝えたいメッセージを込めているか、どちらかだろうな」
ミケの言葉にハンジとリヴァイは同意した――。
✽✽
エルヴィンが合流したのは、あと一時間ほどでパーティーが始まるという頃だった。ギリギリまで動いて調べていたようで、部屋に入ってきた時にはその端正な顔に珍しく焦りの色も浮かべていた。
「エルヴィン。何か分かった? 勿論、分かったよねぇ?」
ハンジが、なみなみと水を注いだグラスをエルヴィンに手渡す。言葉が少しだけ嫌味の様な色を含んでいて、リヴァイは珍しい事もあるもんだと思った。何か思う所があるのか、自分ならともかくハンジが先をいくとは……。
「ああ。ヴェイル・オーグという人物については分かった。だが、少し問題がある。人物が分かっても正体が分からない」
「どういうこと?」
エルヴィンは怪訝そうな顔のハンジをチラリと見下ろし、次にミケ、そして最後にリヴァイへと視線を移した。
意味ありげな視線。嫌な予感がする。
「ヴェイル・オーグは、オーグ時計工房という老舗の五代目だ。七年前に店を継いでいる」
「時計職人って本当だったんだ!」
「それ以前は憲兵団に所属していた。怪我をきっかけに退団、その後すぐに工房に入った様だ」
「問題とは?」
予感は強くなる。つい声が低くなるリヴァイにエルヴィンは報告書であろうそれを指で弾いた。
「ヴェイルは二年前にこの世を去っていた。生きてる筈がない人間だ」
「――なに?」
「はぁっ!? 死んでるって何! じゃあリヴァイは幽霊と話をしたって言うの? それに酒だってここに……」
「馬鹿か。幽霊な訳ねぇだろ。現実的に考えろ」
「そうだけど! そんなの分かってるよ、言ってみただけだよ! だってそれってつまり」
「――誰かがヴェイル・オーグに成り済まし、リヴァイに近付いてきた」
ミケが言う。
「正体が分からないというのはそういう事か……。死んだというのは間違いないんだな。ヴェイルには家族がいるのか? 工房は今どうなっているんだ」
「家族はいない。工房はヴェイルの死後、誰かが買い取り管理しているらしい。いま分かっているのはそこまでだ」
二人のやり取りにリヴァイは苛立ちを隠せなかった。進んでいる様で進まない現実がそうさせる。参加者名簿を握り潰した。
「誰か誰かとそればかりじゃねぇか。おいエルヴィン。お前が今言った事は信頼出来る“誰か”さんからの情報なんだろうな」
勿論だと、エルヴィンは頷いた。書類に目を通しながら話を続ける。
「王都の倒産品を商会に流している貴族がいる。所有者が居なくなった不動産を手にすれば、土地建物だけではなくそういう物も手に入る事があるからな。オーグ時計工房はその観点からすると良い物件だったはずだ。――彼は工房の情報を得てすぐに買収しようとしたそうだが、一歩遅かった」
その貴族は以前エルヴィンが話していたビジネスの相手だろう。それならば信頼していい情報源だ。
だが分からない事が増えた。
死んだ人間にわざわざ成り済まし自分の前に現れ、それを暴露する意味だ。
成り済ましのターゲットがヴェイルだった事は――死んだヴェイルとフェリーチェの間に何かがあったと深読みさせる為か?
あの男が持っていたのが殺気ではなく和気だったなら、どうしてこちら側に疑心が生まれる様な真似を――。
「工房を買い取った者がヴェイルを名乗っている可能性が高い……。リヴァイ、その男は他に何か言っていたか? 些細な事でも何でもいい」
エルヴィンに問われ、考えを巡らせる。
コロコロと表情を変える二面性のある男は飄々と語っていた。それを全て覚えている訳ではないが、可能な限り仕草や表情に重なる言葉を反芻する。――と、「戻らねば」という声と懐中時計の金属音が耳に響いた。
「そういえば、俺に会わなかったら『抜けて来た意味が無くなる』と言っていたな……。それと時間を気にしていた」
「抜けて来た?」
「ああ。最後には『また』と言って消えやがった」
「てことは……もう一度リヴァイの前に現れる可能性があるんだね?」
「おそらく」
「私は、名前だけじゃなくフェリーチェの見た目以上の事を知っているのが気になるな……。フェリーチェが紅茶に明るい、なんてどうして言えるんだと思う?」
エルヴィンは何かに気付いた顔をし、それを見たハンジは厳しい顔つきになった。彼女は今日ずっとエルヴィンに対してあたりが強い。その理由を、リヴァイも話す内に気付いていた。
「無理に聞くのはやめておこうと思ってたんだよ。アインシュバル部長や開発部にも事情があるんだろうし……。でもこうなったら話は別だ。あなたも部長もフェリーチェを傷付けたくないんでしょう? 今、ただでさえ不穏なフェリーチェの周りが更に不穏になりかけてる――私達だってあの子を守ってやりたいんだ」
「こっちもお前の意味深な言葉で動かされてきたからな。付き合ってやったんだ。そろそろ知ってる事を全部話せ」
「ある程度は知っていないと動けない。まぁ当然だな、エルヴィン」
三人からそう囲まれて。エルヴィンは観念したのかフッと短く息を吐いてから一人掛けのソファーにゆっくりと腰を下ろす。それを横目で見ながら、リヴァイもハンジとミケがいるテーブルに着席した。
少しの時間すら惜しい。自分の中で焦りと胸騒ぎが強くなっていくのを自覚し、拳を握る。
(どうして俺はこんな所にいるんだ)
ドアの向こう側、パーティー開始に合わせ人の気配が増えていくのを感じながら、リヴァイはフェリーチェを想った。
――ノックは三回。確信と期待でドアを開ければフェリーチェはいつだってそこに居た。抱き締めたい衝動を隠し悪態をつきながら部屋へ入れるのも、ソファーで林檎を頬張る顔や本を読み寛ぐ姿を見つめるのも、自分の当たり前になりつつある。
縁も無ければ、特別手に入れたいとも思わなかった“愛する人と過ごす日々”。いつの間に望むようになったのは彼女だからだ。手放す気は無い、それを邪魔するのは相手が何であろうと許さない。
「フェリーチェが今まで開発部から出られなかったのは中央の奴等がそれを許さないから――って私は考えてるんだよね。しかも相当えげつないやり方で。規則といえば聞こえは良いけど、あの子に対する仕打ちを考えるとそう単純じゃない事は想像出来る。――ハッキリ聞くよ」
ハンジは額をおさえ俯く。僅かに手が震えていた。
「アイツら……フェリーチェを斬っただろ! 何故だ……何故そんな事が出来る……どうしてだよ」
「……」
フェリーチェの傷痕を見てからずっと考えていた。誰が何の為にこんな真似を、と。
悪いのは自分だとフェリーチェは言っていた。だがそれは違うと思う。アインシュバルが傷を見て「すまない」と泣いたのは、フェリーチェに否が無かったからだろう。それなのにフェリーチェはその涙と謝罪を理解していなかった。
何故だ。
きっと教え込まれたのだ。
『こうなったのはお前が悪いからだ』
『お前の行動がこの結果を招いた』