壊れた機械人形に、永遠の死と愛を
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1
――フェリーチェ。君が何故ここに居るのか、改めて言う必要は無いだろう。
脳内に響く低い声にハッと我に返ったフェリーチェの頬を、風がふわりと撫でていった。
お気に入りの高台から見る景色は今日も綺麗だ。陽の光が降り注ぐ中、遠くから子供達の甲高い声が聞こえる。
子供の笑い声は希望だよと、以前ハンジが言っていた。明るく響く音は確かに街の空気を煌めかせていて、彼女が希望と言い表すのも頷ける。世界を照らす音だと思った。
空を見上げ、街を見渡し、最後にフェリーチェは目を閉じる。
(私は何故あそこに居るのか……か)
そんなのは簡単。わたしの、わたし達の命がある場所だから。
そして――。
「お母さん……」
フェリーチェの母親アリスも、開発部の優秀な研究員だった。次に部長になるのは彼女しかいないと誰もが口を揃えて言う程、人望も実力もあった。開発部を訪れる中央の人間達から何度も聞かされ、だからお前もそうであれ、いや、それ以上の研究員にならなければいけない、ずっとそう言われてきたフェリーチェ。
「…………ママ……」
母はいつだって綺麗で優しくて、自分に「愛してる」と言い微笑んでくれた。たとえどんなに小さな事でも、自分との約束は絶対に忘れずに守ってくれる。大好きな大好きなお母さん。
純粋な想いに憧れが加わり、フェリーチェは必死にもう会えない母親の背中を追って。幼い心と脳に、大人達の言葉と知識を詰め込んだ。
「私……ちゃんと出来るかな……」
はしゃぐ子供の声を追いかける大人の怒り声が聞こえてくる。悪戯した子達を注意しているのかもしれない。
けれども声には怒りだけではない何かが混じっていた。それはきっと親心で。見守る優しさ以外にも沢山のものが詰まっている。フェリーチェが忘れてしまったもの。父と母に貰ったはずの響きは、失った過去のピース。
その空白は暗い音で埋められていた。
――フェリーチェ。君には何度も教えただろう? 約束は守るためにあると。それを聞かないから、こんなふうに怪我をしてしまうんだ。
フェリーチェは右肩をギュッと掴んだ。
幼い頃の自分の声が、明るい空の下に蘇る。
『ごめんなさい』
扉の向こうに何があるか知りたかったの。
会いたい人がいると思ったの。
お仕事は……お仕事はちゃんとします。
――許されない。規則だからだ。
――もう痛いのは嫌だろう?
――がっかりさせないでくれ。お前には期待しているんだぞ。もちろん、皆が、だ。
冷たく静かな怒りの声が雨の様に降ってきた。
寒くて震えた。
怖くて泣いた。
自分のした事がとんでもない罪だと知った。
アインシュバルはフェリーチェを抱き締め、震える小さな声で何度も何度も「すまない……すまない……」と繰り返す。
はじめて受けたこの傷は、誰かを失望させ、アインシュバルを悲しませる、罪の証なのだ。
――フェリーチェの中でその時ひとつの灯火が消えた……。
恩返し、期待に応える、存在価値。
フェリーチェの概念は正しく完成する前に歪み始めた。アインシュバルが誤りを正そうと必死になっても、その目の届かない場所で悪意が囁きフェリーチェの耳を塞ぐ。
だからフェリーチェには正解が分からなかった。唯一分かるのは、数式。失敗も成功もそれで大体片が付く。そうしてアリスの背を追うフェリーチェは、ますます研究に没頭するようになったのだ。
“悪意の塊”達がそれを見て唇の端をいやらしく引き上げているとは知らずに。
もう痛まない古傷をチリチリと焦がすのは何なのか。
自分の背を押す何者かの手なのだろうか。
二度目に受けたそれは契約の証。
わたしの命はわたしのものではなく、捧げるためにあるもの。
他を守り己を殺す正しさをここに。
フェリーチェは懐中時計で時間を確認すると、パチンと勢いよく閉じた。
行かなきゃ。
今“ここ”に居る意味を知る為にも――。
✽✽
高台から街の広場へ向かう時、以前エルヴィンと訪れたカフェの前を通った。
店にはテラス席が出来ていて、数人がその席を利用している。穏やかそうな老夫婦と、エルヴィンの様な紳士が一人。
紅茶を嗜む夫婦の隣のテーブルで、難しそうな顔をしながら大きな紙を広げる紳士は、その紙を埋める文字を読んでいるようだった。
(なんだろうあれ。設計図みたいな……提案書の大きい版みたいな……)
絵も描かれている。
フェリーチェは横目で見ながら通り過ぎた。
紳士が読んでいたのは設計図でも提案書でもなく新聞。しかしそう教えてくれる者は、彼女の横にいない。今は遠く離れた場所にいるからだ――。
(私ももう少し頑張れば、あのお店で本を読めるようになれるかも!)
エルヴィンとの会話を思い出し、フェリーチェは少しだけ胸を弾ませる。美味しい紅茶とシナモン香るアップルパイ。覚えている甘さに自然と頬が緩んでしまった。
不安もあったけど、思い切って出てみたら案外大丈夫そうだ。今のところ迷わず歩けている。
「さてと。何から始めようかな」
見慣れた広場に着くとフェリーチェは次はどうしようと思案する。
行き詰まりゼロに戻したい数字と思考はまだ完全にリセットされていなかった。クライダーとの一件が完全に消化されていない分、その作業が遅れている。一晩の内に一年分を経験した気分でいるフェリーチェにとって、それは、いつもはすぐ出来る事が出来なくなっている原因の一つ。
「紅茶店に行ってみようかな」
経験に経験が重なると、新たな思考と行動が生まれる。思えば調査兵団に来てからの日々がそうだった。
紅茶店の店主は紅茶だけじゃなく沢山の事を教えてくれるので、彼の話を聞けば、きっとしそびれた気分転換になるはず。
決めた。
フェリーチェは賑やかな広場を後にした。
人にぶつからない様に。人だかりは避ける様に。通行人の視界になるべく入らない様に。歩みは止めない。覚えた道をひたすら行く。
そうして紅茶店のある路地裏に入ろうとした時だった。フェリーチェの足が止まる。
(え。そこで話……? お店行くのにここ通らなきゃいけないのに……)
数人の男女が道の真ん中で話をしていた。全員カフェテラスにいた紳士と似た表情で、雰囲気は開発部の皆が酔った時に繰り広げる討論会の様だ。
咄嗟に建物の影に隠れたフェリーチェは深呼吸した。知らず内に緊張してしまう。そして、彼らの話をコッソリ聞いて――。
「だから、調査兵団なんかとっととやめちまえばいいんだよ! ご立派なツラ並べて毎回出てくがいっつも何の成果も出せねぇでよ! そのくせタダ飯だけはしっかり食いやがる。俺らの税金を何だと思ってるんだ」
「あんなのに期待してる連中も馬鹿だよな。もう同罪でいいだろ」
「この間の調査……。レイラの娘さん、指の一本すら戻って来なかったらしいよ。酷い話だねぇ……。見ていられなかったよ」
逃げたくても足が動かなかった。まるで膝までガッチリと土で固められたみたいだ。ベッドに鎖で固定された時の感覚にも似ている。
(え…………)
手先が冷え、頬の筋肉が引き攣る。
冷たい声音は次々とフェリーチェの耳を刺した。
「あの時の奪還作戦もよ、言っちまえば口減らしじゃねぇか。王政なんてそんなモンだ。いざとなりゃあ俺達を見捨てりゃ良いって思ってんのさ」
「調査兵団だけじゃなく駐屯兵団の奴らだってろくでもないよな」
「だけど、しっかり仕事してくれる人だって中には……」
「なんだ? お前さんアイツらの肩持つのか?」
「そ、そういう訳じゃ……」
「シガンシナ区が巨人に潰されて、ウォール・マリアが陥落した時も何も出来なかった奴等だぞ! 俺は故郷を潰された。今も何一つ許しちゃいない…………何が調査兵団だ! 何が駐屯兵団だよ!」
青年の怒気と叫びが殴りかかる様にフェリーチェに届いた。その勢いに土も鎖も爆ぜ消える。
ふらりとバランスを崩しながらフェリーチェは後退し、大通りへ逃げ出した。でも上手く前へ進めない。足は重く、地面はあちこち歪んでいる。頭痛が襲ってきて耐えられなくなったフェリーチェは道端にしゃがみこんだ。
「…………うそだ…………」
掠れた声が、地面に落ちた。
「あら? リヴァイ兵長の……。っ!? ちょっと大丈夫!? 顔真っ青よ!」
駆け寄って来た女性を見上げると、焦った表情が自分を見つめる。
(この人……知ってる)
何度か行ってるお店でよく見かける人だ。楽しそうに笑ったり歌ったりしている人達といつも一緒にいる。初めて会った時は「人形みたい」と言われ戸惑ったっけ――。
妙に冷静に考える自分と、割れそうな頭に苦悩する自分が混在していた。
「……だいじょ……ぶで……す」
「私の家すぐそこなのよ。うちで休んで! 立てる?」
「へいき……」
「な訳ないじゃない! このまま返したらリヴァイ兵長に怒られちゃうわ。あんなにあなたのこと大事そうにしてるのに――」
(リヴァイ……さん……?)
差し出される手にそろそろと手を伸ばす。
女性の手はとても温かく、何故か胸が切なくなった。刺さった冷たさを溶かしてくれる気がして、それだけでも頭痛が少し和らぐ。
「あの……」
「大丈夫よ。行きましょう?」
自分に向けられる優しい微笑みにホッとした。だけどそれと同時に、さっきの厳しい顔の人達が頭に現れて。
調査兵団へ向けられる激しい嫌悪。そして――。
「ありがとう、ございます……本当に……大丈夫です」
立ち上がって女性にゆっくり頭を下げた。
そして足を動かす。お願い動いて。
「あ! 待って……!」
女性の声を振り切り、フェリーチェは走り出した。
――フェリーチェ。君が何故ここに居るのか、改めて言う必要は無いだろう。
脳内に響く低い声にハッと我に返ったフェリーチェの頬を、風がふわりと撫でていった。
お気に入りの高台から見る景色は今日も綺麗だ。陽の光が降り注ぐ中、遠くから子供達の甲高い声が聞こえる。
子供の笑い声は希望だよと、以前ハンジが言っていた。明るく響く音は確かに街の空気を煌めかせていて、彼女が希望と言い表すのも頷ける。世界を照らす音だと思った。
空を見上げ、街を見渡し、最後にフェリーチェは目を閉じる。
(私は何故あそこに居るのか……か)
そんなのは簡単。わたしの、わたし達の命がある場所だから。
そして――。
「お母さん……」
フェリーチェの母親アリスも、開発部の優秀な研究員だった。次に部長になるのは彼女しかいないと誰もが口を揃えて言う程、人望も実力もあった。開発部を訪れる中央の人間達から何度も聞かされ、だからお前もそうであれ、いや、それ以上の研究員にならなければいけない、ずっとそう言われてきたフェリーチェ。
「…………ママ……」
母はいつだって綺麗で優しくて、自分に「愛してる」と言い微笑んでくれた。たとえどんなに小さな事でも、自分との約束は絶対に忘れずに守ってくれる。大好きな大好きなお母さん。
純粋な想いに憧れが加わり、フェリーチェは必死にもう会えない母親の背中を追って。幼い心と脳に、大人達の言葉と知識を詰め込んだ。
「私……ちゃんと出来るかな……」
はしゃぐ子供の声を追いかける大人の怒り声が聞こえてくる。悪戯した子達を注意しているのかもしれない。
けれども声には怒りだけではない何かが混じっていた。それはきっと親心で。見守る優しさ以外にも沢山のものが詰まっている。フェリーチェが忘れてしまったもの。父と母に貰ったはずの響きは、失った過去のピース。
その空白は暗い音で埋められていた。
――フェリーチェ。君には何度も教えただろう? 約束は守るためにあると。それを聞かないから、こんなふうに怪我をしてしまうんだ。
フェリーチェは右肩をギュッと掴んだ。
幼い頃の自分の声が、明るい空の下に蘇る。
『ごめんなさい』
扉の向こうに何があるか知りたかったの。
会いたい人がいると思ったの。
お仕事は……お仕事はちゃんとします。
――許されない。規則だからだ。
――もう痛いのは嫌だろう?
――がっかりさせないでくれ。お前には期待しているんだぞ。もちろん、皆が、だ。
冷たく静かな怒りの声が雨の様に降ってきた。
寒くて震えた。
怖くて泣いた。
自分のした事がとんでもない罪だと知った。
アインシュバルはフェリーチェを抱き締め、震える小さな声で何度も何度も「すまない……すまない……」と繰り返す。
はじめて受けたこの傷は、誰かを失望させ、アインシュバルを悲しませる、罪の証なのだ。
――フェリーチェの中でその時ひとつの灯火が消えた……。
恩返し、期待に応える、存在価値。
フェリーチェの概念は正しく完成する前に歪み始めた。アインシュバルが誤りを正そうと必死になっても、その目の届かない場所で悪意が囁きフェリーチェの耳を塞ぐ。
だからフェリーチェには正解が分からなかった。唯一分かるのは、数式。失敗も成功もそれで大体片が付く。そうしてアリスの背を追うフェリーチェは、ますます研究に没頭するようになったのだ。
“悪意の塊”達がそれを見て唇の端をいやらしく引き上げているとは知らずに。
もう痛まない古傷をチリチリと焦がすのは何なのか。
自分の背を押す何者かの手なのだろうか。
二度目に受けたそれは契約の証。
わたしの命はわたしのものではなく、捧げるためにあるもの。
他を守り己を殺す正しさをここに。
フェリーチェは懐中時計で時間を確認すると、パチンと勢いよく閉じた。
行かなきゃ。
今“ここ”に居る意味を知る為にも――。
✽✽
高台から街の広場へ向かう時、以前エルヴィンと訪れたカフェの前を通った。
店にはテラス席が出来ていて、数人がその席を利用している。穏やかそうな老夫婦と、エルヴィンの様な紳士が一人。
紅茶を嗜む夫婦の隣のテーブルで、難しそうな顔をしながら大きな紙を広げる紳士は、その紙を埋める文字を読んでいるようだった。
(なんだろうあれ。設計図みたいな……提案書の大きい版みたいな……)
絵も描かれている。
フェリーチェは横目で見ながら通り過ぎた。
紳士が読んでいたのは設計図でも提案書でもなく新聞。しかしそう教えてくれる者は、彼女の横にいない。今は遠く離れた場所にいるからだ――。
(私ももう少し頑張れば、あのお店で本を読めるようになれるかも!)
エルヴィンとの会話を思い出し、フェリーチェは少しだけ胸を弾ませる。美味しい紅茶とシナモン香るアップルパイ。覚えている甘さに自然と頬が緩んでしまった。
不安もあったけど、思い切って出てみたら案外大丈夫そうだ。今のところ迷わず歩けている。
「さてと。何から始めようかな」
見慣れた広場に着くとフェリーチェは次はどうしようと思案する。
行き詰まりゼロに戻したい数字と思考はまだ完全にリセットされていなかった。クライダーとの一件が完全に消化されていない分、その作業が遅れている。一晩の内に一年分を経験した気分でいるフェリーチェにとって、それは、いつもはすぐ出来る事が出来なくなっている原因の一つ。
「紅茶店に行ってみようかな」
経験に経験が重なると、新たな思考と行動が生まれる。思えば調査兵団に来てからの日々がそうだった。
紅茶店の店主は紅茶だけじゃなく沢山の事を教えてくれるので、彼の話を聞けば、きっとしそびれた気分転換になるはず。
決めた。
フェリーチェは賑やかな広場を後にした。
人にぶつからない様に。人だかりは避ける様に。通行人の視界になるべく入らない様に。歩みは止めない。覚えた道をひたすら行く。
そうして紅茶店のある路地裏に入ろうとした時だった。フェリーチェの足が止まる。
(え。そこで話……? お店行くのにここ通らなきゃいけないのに……)
数人の男女が道の真ん中で話をしていた。全員カフェテラスにいた紳士と似た表情で、雰囲気は開発部の皆が酔った時に繰り広げる討論会の様だ。
咄嗟に建物の影に隠れたフェリーチェは深呼吸した。知らず内に緊張してしまう。そして、彼らの話をコッソリ聞いて――。
「だから、調査兵団なんかとっととやめちまえばいいんだよ! ご立派なツラ並べて毎回出てくがいっつも何の成果も出せねぇでよ! そのくせタダ飯だけはしっかり食いやがる。俺らの税金を何だと思ってるんだ」
「あんなのに期待してる連中も馬鹿だよな。もう同罪でいいだろ」
「この間の調査……。レイラの娘さん、指の一本すら戻って来なかったらしいよ。酷い話だねぇ……。見ていられなかったよ」
逃げたくても足が動かなかった。まるで膝までガッチリと土で固められたみたいだ。ベッドに鎖で固定された時の感覚にも似ている。
(え…………)
手先が冷え、頬の筋肉が引き攣る。
冷たい声音は次々とフェリーチェの耳を刺した。
「あの時の奪還作戦もよ、言っちまえば口減らしじゃねぇか。王政なんてそんなモンだ。いざとなりゃあ俺達を見捨てりゃ良いって思ってんのさ」
「調査兵団だけじゃなく駐屯兵団の奴らだってろくでもないよな」
「だけど、しっかり仕事してくれる人だって中には……」
「なんだ? お前さんアイツらの肩持つのか?」
「そ、そういう訳じゃ……」
「シガンシナ区が巨人に潰されて、ウォール・マリアが陥落した時も何も出来なかった奴等だぞ! 俺は故郷を潰された。今も何一つ許しちゃいない…………何が調査兵団だ! 何が駐屯兵団だよ!」
青年の怒気と叫びが殴りかかる様にフェリーチェに届いた。その勢いに土も鎖も爆ぜ消える。
ふらりとバランスを崩しながらフェリーチェは後退し、大通りへ逃げ出した。でも上手く前へ進めない。足は重く、地面はあちこち歪んでいる。頭痛が襲ってきて耐えられなくなったフェリーチェは道端にしゃがみこんだ。
「…………うそだ…………」
掠れた声が、地面に落ちた。
「あら? リヴァイ兵長の……。っ!? ちょっと大丈夫!? 顔真っ青よ!」
駆け寄って来た女性を見上げると、焦った表情が自分を見つめる。
(この人……知ってる)
何度か行ってるお店でよく見かける人だ。楽しそうに笑ったり歌ったりしている人達といつも一緒にいる。初めて会った時は「人形みたい」と言われ戸惑ったっけ――。
妙に冷静に考える自分と、割れそうな頭に苦悩する自分が混在していた。
「……だいじょ……ぶで……す」
「私の家すぐそこなのよ。うちで休んで! 立てる?」
「へいき……」
「な訳ないじゃない! このまま返したらリヴァイ兵長に怒られちゃうわ。あんなにあなたのこと大事そうにしてるのに――」
(リヴァイ……さん……?)
差し出される手にそろそろと手を伸ばす。
女性の手はとても温かく、何故か胸が切なくなった。刺さった冷たさを溶かしてくれる気がして、それだけでも頭痛が少し和らぐ。
「あの……」
「大丈夫よ。行きましょう?」
自分に向けられる優しい微笑みにホッとした。だけどそれと同時に、さっきの厳しい顔の人達が頭に現れて。
調査兵団へ向けられる激しい嫌悪。そして――。
「ありがとう、ございます……本当に……大丈夫です」
立ち上がって女性にゆっくり頭を下げた。
そして足を動かす。お願い動いて。
「あ! 待って……!」
女性の声を振り切り、フェリーチェは走り出した。
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