束縛の中の限られた自由
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6
受け取った書類を机に置き、ハンジは「まぁまぁ」とフェリーチェに声をかけた。
「座りなよ、フェリーチェ。お茶でも飲んでいって? これから休憩しようと思ってたところなんだ。良い茶葉があってね~。って! リヴァイに分けて貰ったヤツなんだけどさ」
あははっ! と少し大袈裟に笑って見せるハンジに、フェリーチェも微笑み素直にソファーに座った。
頬がピンク色なのは廊下を走ってきたせいらしい。
突然飛び込んできたフェリーチェに初めは誰かに追われでもしてるのかと思ったが、すまなそうに書類を出され、その理由が分かった。
(お昼の時、結構落ち込んでたからなぁ。続けてのミスは、小さくてもショック大……か)
「きっと紛れ込んじゃったんだね」
「リヴァイさんにも、そうフォローされたばっかりです」
肩を竦めてフェリーチェは切なそうに笑う。
「モブリットにも時々あるよ」
「そうですね。でも、フェリーチェさん。一枚くらい分隊長には全く影響しませんよ。この人、兵長が一日で仕上げる書類、平気で一週間くらい溜めますから」
「リヴァイとフェリーチェの仕事が速過ぎるんだよ」
「分隊長が遅らす分、速く仕上げて調整してくれてるんです」
溜息を吐くモブリットと紅茶を淹れるハンジに、フェリーチェは苦笑を明るい笑みに変えた。
「そういえばクッキーがあった! あれ食べよう!」
「全く……話を逸らすのだけは速いんですよねぇ」
ブツブツ言いながらでも、モブリットはすぐに行動する。その後姿に「ありがとー」と手を振った。
「昨日のデートはどうだった? 楽しかった?」
問いかけにフェリーチェはこくりと頷く。
リヴァイとよく行く店に行ったと聞き、納得した。
「あそこは店の雰囲気が良いから」
「今度はみんなで行きましょうね」
「いいね! ミケとエルヴィンも誘おう。四人でも時々行くんだ。二人もあそこは『落ち着く』って気に入ってるよ」
今後を想像しているのか、フェリーチェはニコニコしながら紅茶を飲んでいる。
モブリットに勧められてクッキーを手にし、「いただきます」と礼儀正しくお辞儀をした。
――さて。ここからが本題だ。
「食事だけして帰って来たのかい?」
「えっ!?」
「ほら、食後二人で少し街を歩いたとか……散歩的な?」
「……お散歩はちょっとだけ……」
小さな声でそう言って、フェリーチェは恥ずかしそうに下を向いた。
手を繋いだことはリヴァイから聞いているので、なんとなく分かる。そうか。その散歩の時に手を繋いだって事か――。
「たまには夜の散歩もいいもんだよ! リヴァイはフェリーチェをちゃんとエスコート出来てた? 一人でどんどん歩いて行っちゃいそうだもんなぁ」
「そ、そんなこと無いです! ちゃんと……」
途中で止めてしまうフェリーチェは、誤魔化す様にクッキーを口にする。
リスが木の実をかじってるようにしか見えないのが、いかにもフェリーチェだ。
「そっかそっか。ちゃんとデートらしいこと出来たんだね。誘って良かったじゃないか、フェリーチェ」
「っ!?」
何気なく言った言葉に、フェリーチェは過剰に反応した。
ぼろぼろと崩れたクッキーが、口元から膝の上に落ちていく。これには、ハンジもギョッとした。
「フェリーチェ?」
「わーっ! ご、ごめんなさいっ。床にも落ちて……!」
「いやそれは全然大丈夫だから! ……どうしたの? 顔真っ赤だよ?」
「……んん~っ……」
こぼしたクッキーを片付けた後、フェリーチェはギュッと目をつぶって唸り始めた。唸るといっても、低い声ではないので迫力は全く無いし、むしろ可愛い。
数秒そんな事をしていたフェリーチェは、次に、両手を勢いよくハンジに突き出した。
「おぉっ!?」
「て、て……手を繋いだんですっ!」
「手」
うん! 知ってる!
「短い時間でしたけど……」
「まぁ、リヴァイならそんな感じなのも分かるね」
「……」
両手を出していたフェリーチェは、今度は慌てて左手を引っ込める。
繋いだ手は右手なのだ、と言いたいらしい。行動まんまで表す姿が可愛い以外何物でもなく、ハンジはついニヤけてしまった。
リヴァイと同じ事してるのに、この差はなんだ!
(……まぁ……リヴァイが顔を赤くしながら片手を見せてきたら、気味悪くて仕方無いけど……)
「ザ・仲良しって感じで、私は良いと思うけど?」
「も……問題はですね……」
フェリーチェは、はぁ……と短く溜息をつく。顔はまだ赤かった。どちらかといえば、気持ちさっきより赤い気もした。
「誘った? っていうか……その、お願いしたのは私なんですけど……」
(おや。意外)
頬を染めて小声になっているフェリーチェを見て、ハンジは思った。
てっきりリヴァイが、薄暗くいい雰囲気の中で我慢出来なくなったのだとばかり思っていたのに。
「え。全然、問題じゃないでしょう?」
「何故お願いしたのかという点で、非常に不思議なんです……!」
フェリーチェは深呼吸してからハンジに改めて向き直った。思わず、ハンジも背を伸ばしてかしこまってしまう。
チラリと横を見ると、モブリットまで緊張していて、これからどんな重大発表が出てくるのか……壁外調査前の会議の様な空気になる。
「そうしたいと思ったんです。そして、それがすっごく……すっごく我慢出来なかったんですよっ!」
「え」
「え」
「ですよね!? 不思議ですよね!? いままでそんな事考えた事も無かったし、そんな気持ちになるとは……思いませんでした! どうしてなのか、いま私ちょっと混乱してます……っ」
わぁっ! と、両手で顔を隠したフェリーチェの耳が林檎の様に真っ赤だった。
「フェリーチェ……リヴァイと手を繋いだんだよね?」
思わず再確認してしまった。
顔を隠したまま、フェリーチェはこくこくと頷く。
(え……。手、繋いだだけで……?)
モブリットを見ると彼も頬をほんのり染めていて……。
肘で脇を突き、ハンジは、モブリットにコソッと話しかけた。
「ちょっと。なんでモブリットまで赤くなってんの」
「いや……すみません。なんかあまりにもあれで……」
「……うん」
全然説明になってない。
だけど、気持ちは分かった。確かにそうだ。
“なんかあまりにもアレ”
(何それ! 本当アレだよっ!!)
フェリーチェの手前、平静を装っているけど、脳内では頭を抱えて悶絶する。
(ああもう! リヴァイ執務室? 今すぐ飛んで来い! リヴァイのせいで、フェリーチェがエライ事になってる!)
見たら絶対、“なんかあまりにもアレ”になるから!
自分でも上手く表現出来ないが、気持ちは全員で分かち合える筈だ。
かつて、こんな可愛さ壮大な“照れ”? があっただろうか……。
無い。多分無い。だからなのか、見てるコッチもつられて、どうにかなりそうだ!
「フェリーチェ……大丈夫?」
「ひゃぁぁぁ」とジタバタしてるフェリーチェに声をかけると、フェリーチェは何度も頷いた。
そして、ピタリと動きを止める。次に顔を上げた時には、赤面はどこへやら、大真面目な顔をしていた。
混乱してると言っていたが、なるほど……この状態を見る限り、その混乱は相当のようだ。
「ハンジさん。……前に教えてもらったヒントですが……」
「ん? ああ! あれね」
「やっぱりまだ分かりません」
「え! マジで!?」
(分かったから、こんな状態になってるのかと思ったんだけど!?)
「でも、なんかこう……ここまで出かかってる様な、そんな感じで…」
「うん。喉まで……ってやつか」
「そこで、一つお聞きしたいことが……」
「ん?」
フェリーチェの綺麗で大きな瞳が自分を見つめてくる。
強い力で引き込まれそうだ。その緑の水晶の中に飛び込んだら、そこからはどんな世界が見えるのだろう――。
「私、ハンジさんとモブリットさんが好きです! あの……。お二人は、私の事をどう思ってくれてますか?」
「唐突だね!?――うん、もちろん好きだよ! 大好き! ね? モブリット?」
「は、はい……好きです」
親愛を伝えるだけの「好き」でも、やっぱり男というものは、そういう言葉を口にする事に気恥ずかしさがある様だ。
モブリットは、フェリーチェのキラキラした目から視線をずらして答えた。
「ありがとうございます」
ホッとしたようにフェリーチェの表情が和らぐ。
しかし、その顔はすぐに真逆の色になった。不安そうに――。
「でも、リヴァイさんの『好き』は……違うそうです」
ポツリと呟かれた言葉に、ハンジとモブリットは顔を見合わせた。
そりゃそうだろうな、と思うものの、それを言うのは余計なお世話というもの。
それに、見てる限りフェリーチェは大分正解に近付いてるみたいだ。
解るまでそう時間もかからないだろう――。
「……。戻らなきゃ」
紅茶を飲んだフェリーチェはカップを置くと立ち上がり、「ごちそうさまでした」と丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った――。
受け取った書類を机に置き、ハンジは「まぁまぁ」とフェリーチェに声をかけた。
「座りなよ、フェリーチェ。お茶でも飲んでいって? これから休憩しようと思ってたところなんだ。良い茶葉があってね~。って! リヴァイに分けて貰ったヤツなんだけどさ」
あははっ! と少し大袈裟に笑って見せるハンジに、フェリーチェも微笑み素直にソファーに座った。
頬がピンク色なのは廊下を走ってきたせいらしい。
突然飛び込んできたフェリーチェに初めは誰かに追われでもしてるのかと思ったが、すまなそうに書類を出され、その理由が分かった。
(お昼の時、結構落ち込んでたからなぁ。続けてのミスは、小さくてもショック大……か)
「きっと紛れ込んじゃったんだね」
「リヴァイさんにも、そうフォローされたばっかりです」
肩を竦めてフェリーチェは切なそうに笑う。
「モブリットにも時々あるよ」
「そうですね。でも、フェリーチェさん。一枚くらい分隊長には全く影響しませんよ。この人、兵長が一日で仕上げる書類、平気で一週間くらい溜めますから」
「リヴァイとフェリーチェの仕事が速過ぎるんだよ」
「分隊長が遅らす分、速く仕上げて調整してくれてるんです」
溜息を吐くモブリットと紅茶を淹れるハンジに、フェリーチェは苦笑を明るい笑みに変えた。
「そういえばクッキーがあった! あれ食べよう!」
「全く……話を逸らすのだけは速いんですよねぇ」
ブツブツ言いながらでも、モブリットはすぐに行動する。その後姿に「ありがとー」と手を振った。
「昨日のデートはどうだった? 楽しかった?」
問いかけにフェリーチェはこくりと頷く。
リヴァイとよく行く店に行ったと聞き、納得した。
「あそこは店の雰囲気が良いから」
「今度はみんなで行きましょうね」
「いいね! ミケとエルヴィンも誘おう。四人でも時々行くんだ。二人もあそこは『落ち着く』って気に入ってるよ」
今後を想像しているのか、フェリーチェはニコニコしながら紅茶を飲んでいる。
モブリットに勧められてクッキーを手にし、「いただきます」と礼儀正しくお辞儀をした。
――さて。ここからが本題だ。
「食事だけして帰って来たのかい?」
「えっ!?」
「ほら、食後二人で少し街を歩いたとか……散歩的な?」
「……お散歩はちょっとだけ……」
小さな声でそう言って、フェリーチェは恥ずかしそうに下を向いた。
手を繋いだことはリヴァイから聞いているので、なんとなく分かる。そうか。その散歩の時に手を繋いだって事か――。
「たまには夜の散歩もいいもんだよ! リヴァイはフェリーチェをちゃんとエスコート出来てた? 一人でどんどん歩いて行っちゃいそうだもんなぁ」
「そ、そんなこと無いです! ちゃんと……」
途中で止めてしまうフェリーチェは、誤魔化す様にクッキーを口にする。
リスが木の実をかじってるようにしか見えないのが、いかにもフェリーチェだ。
「そっかそっか。ちゃんとデートらしいこと出来たんだね。誘って良かったじゃないか、フェリーチェ」
「っ!?」
何気なく言った言葉に、フェリーチェは過剰に反応した。
ぼろぼろと崩れたクッキーが、口元から膝の上に落ちていく。これには、ハンジもギョッとした。
「フェリーチェ?」
「わーっ! ご、ごめんなさいっ。床にも落ちて……!」
「いやそれは全然大丈夫だから! ……どうしたの? 顔真っ赤だよ?」
「……んん~っ……」
こぼしたクッキーを片付けた後、フェリーチェはギュッと目をつぶって唸り始めた。唸るといっても、低い声ではないので迫力は全く無いし、むしろ可愛い。
数秒そんな事をしていたフェリーチェは、次に、両手を勢いよくハンジに突き出した。
「おぉっ!?」
「て、て……手を繋いだんですっ!」
「手」
うん! 知ってる!
「短い時間でしたけど……」
「まぁ、リヴァイならそんな感じなのも分かるね」
「……」
両手を出していたフェリーチェは、今度は慌てて左手を引っ込める。
繋いだ手は右手なのだ、と言いたいらしい。行動まんまで表す姿が可愛い以外何物でもなく、ハンジはついニヤけてしまった。
リヴァイと同じ事してるのに、この差はなんだ!
(……まぁ……リヴァイが顔を赤くしながら片手を見せてきたら、気味悪くて仕方無いけど……)
「ザ・仲良しって感じで、私は良いと思うけど?」
「も……問題はですね……」
フェリーチェは、はぁ……と短く溜息をつく。顔はまだ赤かった。どちらかといえば、気持ちさっきより赤い気もした。
「誘った? っていうか……その、お願いしたのは私なんですけど……」
(おや。意外)
頬を染めて小声になっているフェリーチェを見て、ハンジは思った。
てっきりリヴァイが、薄暗くいい雰囲気の中で我慢出来なくなったのだとばかり思っていたのに。
「え。全然、問題じゃないでしょう?」
「何故お願いしたのかという点で、非常に不思議なんです……!」
フェリーチェは深呼吸してからハンジに改めて向き直った。思わず、ハンジも背を伸ばしてかしこまってしまう。
チラリと横を見ると、モブリットまで緊張していて、これからどんな重大発表が出てくるのか……壁外調査前の会議の様な空気になる。
「そうしたいと思ったんです。そして、それがすっごく……すっごく我慢出来なかったんですよっ!」
「え」
「え」
「ですよね!? 不思議ですよね!? いままでそんな事考えた事も無かったし、そんな気持ちになるとは……思いませんでした! どうしてなのか、いま私ちょっと混乱してます……っ」
わぁっ! と、両手で顔を隠したフェリーチェの耳が林檎の様に真っ赤だった。
「フェリーチェ……リヴァイと手を繋いだんだよね?」
思わず再確認してしまった。
顔を隠したまま、フェリーチェはこくこくと頷く。
(え……。手、繋いだだけで……?)
モブリットを見ると彼も頬をほんのり染めていて……。
肘で脇を突き、ハンジは、モブリットにコソッと話しかけた。
「ちょっと。なんでモブリットまで赤くなってんの」
「いや……すみません。なんかあまりにもあれで……」
「……うん」
全然説明になってない。
だけど、気持ちは分かった。確かにそうだ。
“なんかあまりにもアレ”
(何それ! 本当アレだよっ!!)
フェリーチェの手前、平静を装っているけど、脳内では頭を抱えて悶絶する。
(ああもう! リヴァイ執務室? 今すぐ飛んで来い! リヴァイのせいで、フェリーチェがエライ事になってる!)
見たら絶対、“なんかあまりにもアレ”になるから!
自分でも上手く表現出来ないが、気持ちは全員で分かち合える筈だ。
かつて、こんな可愛さ壮大な“照れ”? があっただろうか……。
無い。多分無い。だからなのか、見てるコッチもつられて、どうにかなりそうだ!
「フェリーチェ……大丈夫?」
「ひゃぁぁぁ」とジタバタしてるフェリーチェに声をかけると、フェリーチェは何度も頷いた。
そして、ピタリと動きを止める。次に顔を上げた時には、赤面はどこへやら、大真面目な顔をしていた。
混乱してると言っていたが、なるほど……この状態を見る限り、その混乱は相当のようだ。
「ハンジさん。……前に教えてもらったヒントですが……」
「ん? ああ! あれね」
「やっぱりまだ分かりません」
「え! マジで!?」
(分かったから、こんな状態になってるのかと思ったんだけど!?)
「でも、なんかこう……ここまで出かかってる様な、そんな感じで…」
「うん。喉まで……ってやつか」
「そこで、一つお聞きしたいことが……」
「ん?」
フェリーチェの綺麗で大きな瞳が自分を見つめてくる。
強い力で引き込まれそうだ。その緑の水晶の中に飛び込んだら、そこからはどんな世界が見えるのだろう――。
「私、ハンジさんとモブリットさんが好きです! あの……。お二人は、私の事をどう思ってくれてますか?」
「唐突だね!?――うん、もちろん好きだよ! 大好き! ね? モブリット?」
「は、はい……好きです」
親愛を伝えるだけの「好き」でも、やっぱり男というものは、そういう言葉を口にする事に気恥ずかしさがある様だ。
モブリットは、フェリーチェのキラキラした目から視線をずらして答えた。
「ありがとうございます」
ホッとしたようにフェリーチェの表情が和らぐ。
しかし、その顔はすぐに真逆の色になった。不安そうに――。
「でも、リヴァイさんの『好き』は……違うそうです」
ポツリと呟かれた言葉に、ハンジとモブリットは顔を見合わせた。
そりゃそうだろうな、と思うものの、それを言うのは余計なお世話というもの。
それに、見てる限りフェリーチェは大分正解に近付いてるみたいだ。
解るまでそう時間もかからないだろう――。
「……。戻らなきゃ」
紅茶を飲んだフェリーチェはカップを置くと立ち上がり、「ごちそうさまでした」と丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った――。