束縛の中の限られた自由
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4
店が建ち並ぶ通りを抜け石畳の坂道を上ると、小高い場所は公園の様な広場になっていた。
高台からは街の様子が見渡せる。
自分からしてみれば何の変哲も無い、極めて普通の街並みが広がっているだけだが、フェリーチェにとってはまるで違うものに見えるのだろう。
木製の柵から身を乗り出し、フェリーチェは「すごい!」「きれい!」と繰り返した。
ハンジは勿論、リヴァイも彼女をここには連れて来ていない……という事を知り、心がふと軽くなったエルヴィンは、フェリーチェの後ろ姿を見つめながら自分の頬の硬さが消えるのを自覚する。
考えれば自分にもまだしてやれる事がある。そう思うと幾分気持ちが楽になった――。
「あまり身を乗り出すと落ちてしまうぞ」
声をかけると、乗り出した姿のままこちらを振り返るフェリーチェが「はい!」と笑う。
――ああ……だから危ないと……。
華奢な身体は、高台に吹く風に簡単に攫われてしまいそうだ。
自分の言う事の半分も分かってなさそうなフェリーチェに、エルヴィンは珍しくハラハラとして、
「フェリーチェ……」
幼子でも窘めるように名を呼んだ。
その声音にフェリーチェもやっとエルヴィンの言いたい事が分かったようで、柵から下りて苦笑を見せる。
「今日は下にリヴァイさんがいないから、落ちたら困りますもんね」
「……リヴァイ?」
自分の言っている意味が伝わっていないと気付いたのだろう。フェリーチェは、「ああ!」と手をぽん! と叩いた。
「前に、お昼を食べてない事がバレてしまって……『早く降りて来い』と下から言われたんですよ」
「……ん?」
初めはよく理解出来なかったが、部分的な言葉を拾えば何となくその形が見えてくる。
つまり、
「フェリーチェは、リヴァイに言われて高い場所から下りた……と」
「はい! 二階から!」
「二階……。具体的に何があったかは知らないが、二人が無茶をしたことだけは分かったよ……」
「ハンジさんにも言われちゃいました。でも、リヴァイさんが受け止めてくれる事は無茶じゃないですよ?」
リヴァイが受け止めてくれると、信じていたからこそ飛び降りた……。「無茶じゃない」という言葉に、フェリーチェの気持ちが集約されている。
その時のことを思い出しているのか、フェリーチェは一人でクスクスと笑っていた。
何があったかは確かに分からない。だが、その時のリヴァイの気持ちは察する事が出来る。
(余程、フェリーチェをその場から離れさせたかったらしいな……)
ただ食事をさせたいが為に、二階から飛び降りさせるなど普通は有り得ない。
一体何があったのやら……。
考えると、苦笑と溜息が出る。
「ここからは街がよく見えますねぇ……。いつも歩いている場所を、上から眺めるなんて不思議な気分です」
柵からは降りたものの、フェリーチェは相変わらず街並みを興味深そうに見下ろしていた。
瞳をキラキラさせて。
空と町……彼女にとっては懐かしい風景なのだろう。
「兵団での生活はどうだ?」
「開発部とは違い過ぎて戸惑う事ばかりです。でも、新しい発見に出会うのは、何でも楽しいですね」
「フェリーチェはここでは開発部の研究員ではなく、調査兵団の事務補佐官だ。立場も何もかも全く違うのだから、戸惑いがあっても不思議じゃない」
「…………。……はい」
「兵団の者達は、調整日は自由に過ごしている……君だってもっと自由に街に出たりしていいんだよ。開発部では、明確な休みの日なんて無かったんだろう?」
「そう言われてみれば……そうですね?」
首を傾げるフェリーチェに、エルヴィンは微笑みを向けた。
研究が趣味、生活の一部なんていうフェリーチェにとっては、仕事と休日の境など今まで存在しなかったのかもしれない――。
「お休みの日には、いつもと違う事をする。……とても素敵ですね」
遠くを見つめながら呟くフェリーチェの目は、まるで何かを愛しんでいる様に見える。
僅かな時間……そこに目の前のものを映していない事に気付いた。
(君のその目は何を見ている?……リヴァイなのか?)
リヴァイだけ、か――?
フェリーチェの横顔を見つめ、エルヴィンは言葉を飲み込む。
「……本当に綺麗」
「……」
エルヴィンが「帰ろう」と声をかけるまで、フェリーチェは飽きる事も無く、眼下の風景と空をジッと眺めていた――。
店が建ち並ぶ通りを抜け石畳の坂道を上ると、小高い場所は公園の様な広場になっていた。
高台からは街の様子が見渡せる。
自分からしてみれば何の変哲も無い、極めて普通の街並みが広がっているだけだが、フェリーチェにとってはまるで違うものに見えるのだろう。
木製の柵から身を乗り出し、フェリーチェは「すごい!」「きれい!」と繰り返した。
ハンジは勿論、リヴァイも彼女をここには連れて来ていない……という事を知り、心がふと軽くなったエルヴィンは、フェリーチェの後ろ姿を見つめながら自分の頬の硬さが消えるのを自覚する。
考えれば自分にもまだしてやれる事がある。そう思うと幾分気持ちが楽になった――。
「あまり身を乗り出すと落ちてしまうぞ」
声をかけると、乗り出した姿のままこちらを振り返るフェリーチェが「はい!」と笑う。
――ああ……だから危ないと……。
華奢な身体は、高台に吹く風に簡単に攫われてしまいそうだ。
自分の言う事の半分も分かってなさそうなフェリーチェに、エルヴィンは珍しくハラハラとして、
「フェリーチェ……」
幼子でも窘めるように名を呼んだ。
その声音にフェリーチェもやっとエルヴィンの言いたい事が分かったようで、柵から下りて苦笑を見せる。
「今日は下にリヴァイさんがいないから、落ちたら困りますもんね」
「……リヴァイ?」
自分の言っている意味が伝わっていないと気付いたのだろう。フェリーチェは、「ああ!」と手をぽん! と叩いた。
「前に、お昼を食べてない事がバレてしまって……『早く降りて来い』と下から言われたんですよ」
「……ん?」
初めはよく理解出来なかったが、部分的な言葉を拾えば何となくその形が見えてくる。
つまり、
「フェリーチェは、リヴァイに言われて高い場所から下りた……と」
「はい! 二階から!」
「二階……。具体的に何があったかは知らないが、二人が無茶をしたことだけは分かったよ……」
「ハンジさんにも言われちゃいました。でも、リヴァイさんが受け止めてくれる事は無茶じゃないですよ?」
リヴァイが受け止めてくれると、信じていたからこそ飛び降りた……。「無茶じゃない」という言葉に、フェリーチェの気持ちが集約されている。
その時のことを思い出しているのか、フェリーチェは一人でクスクスと笑っていた。
何があったかは確かに分からない。だが、その時のリヴァイの気持ちは察する事が出来る。
(余程、フェリーチェをその場から離れさせたかったらしいな……)
ただ食事をさせたいが為に、二階から飛び降りさせるなど普通は有り得ない。
一体何があったのやら……。
考えると、苦笑と溜息が出る。
「ここからは街がよく見えますねぇ……。いつも歩いている場所を、上から眺めるなんて不思議な気分です」
柵からは降りたものの、フェリーチェは相変わらず街並みを興味深そうに見下ろしていた。
瞳をキラキラさせて。
空と町……彼女にとっては懐かしい風景なのだろう。
「兵団での生活はどうだ?」
「開発部とは違い過ぎて戸惑う事ばかりです。でも、新しい発見に出会うのは、何でも楽しいですね」
「フェリーチェはここでは開発部の研究員ではなく、調査兵団の事務補佐官だ。立場も何もかも全く違うのだから、戸惑いがあっても不思議じゃない」
「…………。……はい」
「兵団の者達は、調整日は自由に過ごしている……君だってもっと自由に街に出たりしていいんだよ。開発部では、明確な休みの日なんて無かったんだろう?」
「そう言われてみれば……そうですね?」
首を傾げるフェリーチェに、エルヴィンは微笑みを向けた。
研究が趣味、生活の一部なんていうフェリーチェにとっては、仕事と休日の境など今まで存在しなかったのかもしれない――。
「お休みの日には、いつもと違う事をする。……とても素敵ですね」
遠くを見つめながら呟くフェリーチェの目は、まるで何かを愛しんでいる様に見える。
僅かな時間……そこに目の前のものを映していない事に気付いた。
(君のその目は何を見ている?……リヴァイなのか?)
リヴァイだけ、か――?
フェリーチェの横顔を見つめ、エルヴィンは言葉を飲み込む。
「……本当に綺麗」
「……」
エルヴィンが「帰ろう」と声をかけるまで、フェリーチェは飽きる事も無く、眼下の風景と空をジッと眺めていた――。