絶対零度が溶けていく
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✽1✽
「リヴァイさんリヴァイさんっ」
歩いていると背後から声が聞こえてきた。
振り向くとフェリーチェ。パタパタと嬉しそうに走ってくる。
リヴァイはそれを見るとあからさまにげんなりした顔をした。
「……なんだ。名前は一度呼ばれれば分かる。何度言ったら分かるんだ、いい加減覚えろ。それから就業中は」
「林檎を頂いたんです! お茶の時間にいかがですか? 私切ります」
「人の話を聞け」
キッ! とリヴァイがきつい視線を向けると、フェリーチェはじっとリヴァイの顔を見上げる。
これどうしましょう?
二つの林檎を持ち小首を傾げ聞いてきた。全く人の話を聞いてない。
「……林檎をどうするか気にする前に自分の仕事を気に掛けたらどうだ」
「私の仕事は午前中に終わってますよ? あとはリヴァイさんの報告書を校正するだけですので早く終わらせてくださいね。あっ、ハンジさん! ハンジさんもよかったらお茶しに来てください!」
「え! 私もいいの? 行く行く! サボっても行くよ」
「勝手に誘うな。おいハンジ。お前は来なくていい」
「待ってます。今日は私が張り切ってお茶を淹れると決めてるんです」
「じゃあ尚更だ。後でちゃんと伺うよ」
だからお前ら人の話を聞け!
はぁ……、とリヴァイから溜息が漏れた。
そんなリヴァイの溜息など気にも留める事無く、フェリーチェはハンジに「絶対ですよー」と言いながら、もと来た道を再び走って行った。
いや。あれは“気にも留めていない”のではない。聞いていないのだ……。
「随分リヴァイに慣れたねぇ、フェリーチェは。どうだい? あの癒しを日々間近で感じる気分は?」
「癒しだ? あれがか? ……うるさくてしょうがねぇ」
「またまた! 素直じゃないね」
「いつまで経っても慣れねぇと思ったら、慣れた途端に態度が急変だぞ? 仕事は完璧だがこっちの話は殆ど聞かねぇし、ああやってウロチョロしやがるから肝心な時に居やしない」
「へぇ! じゃあリヴァイが焦がれて追いかけてる側なんだ?」
「違う!」
誤解を招く言い方をするな! リヴァイは納得がいかないらしく眉間に皺を寄せた。
「ふーん」
その表情を隣で見ているハンジはニヤニヤ笑っていた。面倒だのうるさいだのと言っている割には、フェリーチェを気にかけ、ちゃんと見守っている。
元々仲間や部下を大事にする男だが、かたや女性に対しては扱いがなっていないというか……とにかく冷たい部分があるのがリヴァイという男だ。
女は苦手だ。
以前からリヴァイはそう言っている。告白してくる女を片っ端から振っていくのは兵団内では言わずと知れた話だ。
粗暴で神経質となれば普通は女性から嫌煙されるもの。
だが彼の場合は、人類最強の兵士と謳われる強さとふとした折にみせる気遣いに惹かれる女性が後を絶たず、常に絶大な人気を誇っていた。男性からしてみれば羨ましい限りだろう。
しかし当の本人にはそれすらも煩わしいらしい。
「恋人くらいいてもいいじゃないか」というハンジの言葉に、
——女は面倒くせぇ。何かあればああして欲しいこうして欲しいと自分の意見ばかりを押し付けてくるし、最後には泣いて縋りやがる。人の話を聞かねぇ相手に付き合う程こっちは暇じゃねぇ。
なんて返した事もあった。
(つまり、ある程度女を知ってから嫌ってるって訳だ)
フムフムとハンジはその時思い、それなら放って置くしかないか……と考えたものだ。
あの言葉は、今もリヴァイの持論なのだろうか?
「君があんなにフェリーチェを心配して気にかけてあげるとは、私もビックリだ」
「だから何でそうなる」
「え? 違うの?」
「心配だ? 勝手な事を言うな」
フンッ、とハンジから顔をそむけたリヴァイは歩く速度を速めた。
背中に、この人図星を突かれて不機嫌なんですよー、と張り紙を付けたくなる。
分かり辛い男だけど知ってしまえば解りやすい。ハンジが知るリヴァイはただの不器用な男なのだ。
「エルヴィンから任された奴だから仕方がねぇ。アイツに何かあれば、エルヴィンだって開発部長に顔向け出来なくなるだろうからな」
「まぁねー。フェリーチェは開発部の宝みたいだし、部長さん直々の頼みともなると、エルヴィンのいう訳アリってのも重要任務っぽく聞こえるよね?」
「まぁ、そういう事だ」
「忠実に任務遂行! って?」
リヴァイは、そうだ当たり前だろうとしれっとした顔で言った。
全く。分かってないなぁリヴァイは……。ま、それならそれでいいんだけどね。
「じゃあ、それを完遂しなきゃいけないリヴァイは大変だ。その任務遂行対象さんはここ最近で急に注目度が上がってるよ?」
「あ?」
「知らないのかい? もともとフェリーチェは兵団内でも目立つ子だけど、あの子が此処に慣れて歩き回る様になってから姿を見た隊員達も増えててさ。噂も多いよ」
「その程度の話なら耳にした事はあるが」
「うーん。リヴァイのいうその程度の話ってやつがどんなもんか、私は知らないけど……。噂をしてる大半は男性隊員だからねぇ。……って言ったら意味分かるかい?」
「胸クソ悪そうな話か」
「うん。そうだね。ここにはリヴァイの嫌いな女性が沢山いるけど、その女性に飢えてる狼も沢山いる。お行儀の良い狼なら問題ないだろうけど……悪かったら大問題だと思わない?」
瞬間、無言になったリヴァイは歩を止めた。
ハンジも合わせ足を止め、そっと彼の表情を窺う。苦々しい顔だ。
あ。リヴァイ、眉間、眉間! いやぁここ最近で一番怖い顔だなぁ。
そうからかいたいが、我慢する。蹴りが飛んできて痛い思いをするのも嫌だし、何より転がってたら面白いモノを見逃しそうだ。
「分隊長! やっと見つけましたよ! 本当にあなたは……いい加減仕事してください!」
「あ! やばいモブリットだ!」
ああもう! 肝心な時に!
地団駄踏んだが、もう遅い。すっ飛んできた自分の副官に捕まり、ハンジは執務室へと強制連行となった。
見逃がしたくないものを見逃さないために、見逃してほしい。モブリットに是非そう言いたい。
「ハンジ」
「んんー?」
「お前、アイツとのさっきの約束忘れるなよ。俺もアイツの世話係として聞いておきたい事がある」
「……。っはーい! 分かったよー!」
さっきは来るな。とか言ってた癖に!
(世話係として聞きたい事、ねぇ……。本当にそうなのかい?)
聞いたとしても無駄だろう。今は。
ズルズル副官に引きずられながら、ハンジはリヴァイの舌打ちを聞いた。いつも聞いてるそれだけど、なんだかいつもより盛大だ。うん。いいものを見た。
「分隊長。何ニヤニヤしてるんですか! 部屋に戻ったらその顔絶対泣き顔ですからね!?」
「えぇーっ」
もっと面白いものを見る為に、これは頑張らねばならなそうだ。
引きずられながらハンジは思った。
――どうやって逃げ出そう。
「リヴァイさんリヴァイさんっ」
歩いていると背後から声が聞こえてきた。
振り向くとフェリーチェ。パタパタと嬉しそうに走ってくる。
リヴァイはそれを見るとあからさまにげんなりした顔をした。
「……なんだ。名前は一度呼ばれれば分かる。何度言ったら分かるんだ、いい加減覚えろ。それから就業中は」
「林檎を頂いたんです! お茶の時間にいかがですか? 私切ります」
「人の話を聞け」
キッ! とリヴァイがきつい視線を向けると、フェリーチェはじっとリヴァイの顔を見上げる。
これどうしましょう?
二つの林檎を持ち小首を傾げ聞いてきた。全く人の話を聞いてない。
「……林檎をどうするか気にする前に自分の仕事を気に掛けたらどうだ」
「私の仕事は午前中に終わってますよ? あとはリヴァイさんの報告書を校正するだけですので早く終わらせてくださいね。あっ、ハンジさん! ハンジさんもよかったらお茶しに来てください!」
「え! 私もいいの? 行く行く! サボっても行くよ」
「勝手に誘うな。おいハンジ。お前は来なくていい」
「待ってます。今日は私が張り切ってお茶を淹れると決めてるんです」
「じゃあ尚更だ。後でちゃんと伺うよ」
だからお前ら人の話を聞け!
はぁ……、とリヴァイから溜息が漏れた。
そんなリヴァイの溜息など気にも留める事無く、フェリーチェはハンジに「絶対ですよー」と言いながら、もと来た道を再び走って行った。
いや。あれは“気にも留めていない”のではない。聞いていないのだ……。
「随分リヴァイに慣れたねぇ、フェリーチェは。どうだい? あの癒しを日々間近で感じる気分は?」
「癒しだ? あれがか? ……うるさくてしょうがねぇ」
「またまた! 素直じゃないね」
「いつまで経っても慣れねぇと思ったら、慣れた途端に態度が急変だぞ? 仕事は完璧だがこっちの話は殆ど聞かねぇし、ああやってウロチョロしやがるから肝心な時に居やしない」
「へぇ! じゃあリヴァイが焦がれて追いかけてる側なんだ?」
「違う!」
誤解を招く言い方をするな! リヴァイは納得がいかないらしく眉間に皺を寄せた。
「ふーん」
その表情を隣で見ているハンジはニヤニヤ笑っていた。面倒だのうるさいだのと言っている割には、フェリーチェを気にかけ、ちゃんと見守っている。
元々仲間や部下を大事にする男だが、かたや女性に対しては扱いがなっていないというか……とにかく冷たい部分があるのがリヴァイという男だ。
女は苦手だ。
以前からリヴァイはそう言っている。告白してくる女を片っ端から振っていくのは兵団内では言わずと知れた話だ。
粗暴で神経質となれば普通は女性から嫌煙されるもの。
だが彼の場合は、人類最強の兵士と謳われる強さとふとした折にみせる気遣いに惹かれる女性が後を絶たず、常に絶大な人気を誇っていた。男性からしてみれば羨ましい限りだろう。
しかし当の本人にはそれすらも煩わしいらしい。
「恋人くらいいてもいいじゃないか」というハンジの言葉に、
——女は面倒くせぇ。何かあればああして欲しいこうして欲しいと自分の意見ばかりを押し付けてくるし、最後には泣いて縋りやがる。人の話を聞かねぇ相手に付き合う程こっちは暇じゃねぇ。
なんて返した事もあった。
(つまり、ある程度女を知ってから嫌ってるって訳だ)
フムフムとハンジはその時思い、それなら放って置くしかないか……と考えたものだ。
あの言葉は、今もリヴァイの持論なのだろうか?
「君があんなにフェリーチェを心配して気にかけてあげるとは、私もビックリだ」
「だから何でそうなる」
「え? 違うの?」
「心配だ? 勝手な事を言うな」
フンッ、とハンジから顔をそむけたリヴァイは歩く速度を速めた。
背中に、この人図星を突かれて不機嫌なんですよー、と張り紙を付けたくなる。
分かり辛い男だけど知ってしまえば解りやすい。ハンジが知るリヴァイはただの不器用な男なのだ。
「エルヴィンから任された奴だから仕方がねぇ。アイツに何かあれば、エルヴィンだって開発部長に顔向け出来なくなるだろうからな」
「まぁねー。フェリーチェは開発部の宝みたいだし、部長さん直々の頼みともなると、エルヴィンのいう訳アリってのも重要任務っぽく聞こえるよね?」
「まぁ、そういう事だ」
「忠実に任務遂行! って?」
リヴァイは、そうだ当たり前だろうとしれっとした顔で言った。
全く。分かってないなぁリヴァイは……。ま、それならそれでいいんだけどね。
「じゃあ、それを完遂しなきゃいけないリヴァイは大変だ。その任務遂行対象さんはここ最近で急に注目度が上がってるよ?」
「あ?」
「知らないのかい? もともとフェリーチェは兵団内でも目立つ子だけど、あの子が此処に慣れて歩き回る様になってから姿を見た隊員達も増えててさ。噂も多いよ」
「その程度の話なら耳にした事はあるが」
「うーん。リヴァイのいうその程度の話ってやつがどんなもんか、私は知らないけど……。噂をしてる大半は男性隊員だからねぇ。……って言ったら意味分かるかい?」
「胸クソ悪そうな話か」
「うん。そうだね。ここにはリヴァイの嫌いな女性が沢山いるけど、その女性に飢えてる狼も沢山いる。お行儀の良い狼なら問題ないだろうけど……悪かったら大問題だと思わない?」
瞬間、無言になったリヴァイは歩を止めた。
ハンジも合わせ足を止め、そっと彼の表情を窺う。苦々しい顔だ。
あ。リヴァイ、眉間、眉間! いやぁここ最近で一番怖い顔だなぁ。
そうからかいたいが、我慢する。蹴りが飛んできて痛い思いをするのも嫌だし、何より転がってたら面白いモノを見逃しそうだ。
「分隊長! やっと見つけましたよ! 本当にあなたは……いい加減仕事してください!」
「あ! やばいモブリットだ!」
ああもう! 肝心な時に!
地団駄踏んだが、もう遅い。すっ飛んできた自分の副官に捕まり、ハンジは執務室へと強制連行となった。
見逃がしたくないものを見逃さないために、見逃してほしい。モブリットに是非そう言いたい。
「ハンジ」
「んんー?」
「お前、アイツとのさっきの約束忘れるなよ。俺もアイツの世話係として聞いておきたい事がある」
「……。っはーい! 分かったよー!」
さっきは来るな。とか言ってた癖に!
(世話係として聞きたい事、ねぇ……。本当にそうなのかい?)
聞いたとしても無駄だろう。今は。
ズルズル副官に引きずられながら、ハンジはリヴァイの舌打ちを聞いた。いつも聞いてるそれだけど、なんだかいつもより盛大だ。うん。いいものを見た。
「分隊長。何ニヤニヤしてるんですか! 部屋に戻ったらその顔絶対泣き顔ですからね!?」
「えぇーっ」
もっと面白いものを見る為に、これは頑張らねばならなそうだ。
引きずられながらハンジは思った。
――どうやって逃げ出そう。