箱庭ロンドの主要楽句

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✽3✽


「ねぇリヴァイ! フェリーチェは?」

 突然執務室に入って来たと思えば、いきなりそんなことを言い出す。
 リヴァイは声の主に嫌な顔を見せた。

「なんだ。うるせぇな」
「フェリーチェだよ。探してるんだ」
「見りゃ分かるだろ。ここには居ない」
「リヴァイの所に居ると思ったのに。じゃあ、どこ行っちゃったんだろ?」

 急いでいる様子はないが、うーんと唸っているハンジに、リヴァイは疑問を投げた。

「調整日は今日までだ。部屋にでもいんだろ? 何なんだ一体」
「居ないからここに来てんじゃん。リヴァイとフェリーチェは、いつもセットでしょう?」
「アイツとコンビを組んだ覚えは無い」
「コンビはコンビでも……もうちょっと色気あるっていうか……“そういう感じ”の方ね。色々と勘繰れるヤツ」

(色気? 勘繰る?)
 リヴァイは持っていた書類を置いた。調整日だが暇なので、明日からの仕事をチェックしていたのだ。
 フェリーチェは朝から見ていない。今日も一緒に過ごしたいと言い出したらどうしようかと思っていたが、そんな様子も無く、ホッとしていたところだったのに……。
 変な言われように少しムカつく。

「テメェが笑えない冗談を言うのは知っているが、とうとう今みてぇなアホ臭いコトまで言うようになったか」

 ハンジは時々からかい半分で自分にフェリーチェの話を振ってくるが、変な方向での冗談を言う様な真似はしない。
 しかし、今の言い方はあからさまとはいえないものの、今までとは違う低俗さを感じた。
――ハンジらしくない言葉だ。

「そういう風にあなた達のことを見ている輩を見つけてね」
「……」
「まぁ、二人はいつも一緒だもん。それっぽい噂の一つもそのうち出てくるだろうなぁとは思ってたけど」
「……」
「想像通りその手のハナシが耳に入ってきたよ。だけど……」

 ハンジは、一瞬言いよどむ。

「構わない。言え」
「うーん……。女の子が流す様な、可愛気ある話じゃない。アレを言いふらしてるのは男だね。分かるでしょ? リヴァイなら」
「……ああ」

――分かった。要するに、

「俺がフェリーチェを慰み物……売女扱いしてるとでも言ってるんだな」
「二人は恋をしてるのかもしれない、なんていう女の子達のほうが可愛いもんでしょう? 男の噂話ってのは、ホントえげつないところがあるよねぇ」
「……」

 自分のことは、いくらでもなんとでも言えばいい。
 だがフェリーチェは年頃の女だ。あること無いこと言われ、彼女自身が傷付くのは……良くない。
 リヴァイはしばらく考えてからハンジに言った。

「そう男共が思う程、おかしな雰囲気を出していたか? 俺は」
「いいや。実に微笑ましい姿なら見せていたけど。フェリーチェが無邪気に君に懐いているのも皆が承知しているし……普段の二人からそういう関係を想像するヤツってあまりいないんじゃないかな」
「………。お前が前に言ってた、フェリーチェを狙う飢えた狼どもか……」

 リヴァイが舌打ちと共に吐き出すとハンジは笑う。「そんなコト言ったっけ?」少し困った顔をしていたが、リヴァイは気付かなかった。

「話が早くて助かるよ。でも、あの子はそうじゃないからねぇ。巻き込まれないように見ていてあげないと。急に変な噂が出てきたから気が気じゃなくて」
「それで、フェリーチェはどこだという話になる……と」
「うん。って言っても、フェリーチェのあの激しい人見知りは、こういう時ばかりは役に立つよね。特に男には寄って行かないしさ」

 そうだな、とリヴァイは返す。
 しかし、一つ気になるところはあった。昨日フェリーチェと街ではぐれた時のアレだ。
 補給隊の若い兵に運悪く捕まったフェリーチェ。ああいった想定外の状況になってしまえば、本人が寄る寄らないなど全く関係無い。
 フェリーチェは警戒あらわに威嚇していたつもりの様だが、笑ってしまうくらい全く通用していなかった。あんなもの、変な趣味を持っている男だったら逆に悦ばせるだけだ。
 そもそも、たまに馬鹿力を発揮するとはいえ、フェリーチェのあの程度の力で男に対抗なんか出来るはずない。
――リヴァイは大きく溜息を吐いた。

「まぁ、懲罰の重さを考えれば、すぐにバレる兵舎内で馬鹿な真似するヤツはいないだろうからな。ここに居れば、やべぇ事に巻き込まれはしない」
「………。そりゃそうだ」
「ただし、外でヤッちまえば分からねぇ」
「外ねぇ……。でもリヴァイ。さっきも言ったけどあの子は酷い人見知りだし、いまだに一人じゃ外に出られない様な娘だよ。男の誘いになんてそれこそ……」
「懐いてるヤツ相手とだったら話は別だろ」
「私達以外にそんなのいないじゃん」
「心当たりはある」
「えっ!?」

 目を丸くしたハンジに、部屋を出ながら言った。

「可能性としては低いがな。とりあえずフェリーチェを探すぞ」

――フェリーチェさん! 今度クライダーと一緒にどこかに行きませんか!

「またアイツだ」

(クライダー……)
 フェリーチェの口から出た、自分が知らない男の名前。
 大丈夫な部類とフェリーチェは言っていたが、何がどう大丈夫なのかまでは自分には分からない。

「へぇ……。そんなコがいるんだ」
「班長から差し入れされている林檎をその男が代わりに届けているなら……二人はよく顔を合わせている事になるな」

 あのフェリーチェに、一緒にいても平気な“男”が出来るとは。
……さぞかしソイツは――。

「気になる?」
「は?」
「フェリーチェが仲良くしてるっていう、その青年だよ!」

 チラリと見れば、ハンジは眼鏡の奥の瞳を輝かせていた。
 ああ、そうだ。コイツはこういう奴だ。相手をからかっても嘲笑はしない。しないが、観察して面白がったりはする。
 大事な事なので今一度確認しておこう。
 面白がる。要らぬ節介を焼く時もある。とても面倒臭い。

「……気にならないと言ったら嘘になるな。でも、それはお前もだろう」
「あったりまえでしょ! だってあのフェリーチェがだよ? リヴァイにだけ中々懐かないで、私達を笑わせていた……あのフェリーチェがだよ?」
「……笑っていたのか、テメェ等は」
「だけど、フェリーチェが中々懐かなかったのは、リヴァイのそのおっかない顔と態度と雰囲気だけだったんだし。今はそれが単なる外面だって事をフェリーチェは分かってるからあんなにリヴァイにべったりなん――イッタ! 痛いって!」

 つんのめったハンジは尻を押さえていた。リヴァイに蹴られたからだ。
 それでも陽気に笑っているハンジに、リヴァイは三白眼を冷ややかに細めた。

「話を逸らしやがって。結局、何が言いてぇんだ」
「リヴァイが考えてるコトに近いかな」
「……チッ」

(コイツは、毎度嫌なところを突いてきやがる)
 舌打ちで返した。
 フェリーチェが当初自分に懐かなかったのは、どうしてだったのか――。
 それを思い出せば、割と単純な事なのだ。

「クライダーという男は、さぞかし優しい男なんだろうよ」

 エルヴィンの様にな。
 リヴァイが言うとハンジが笑った。「ひがまないひがまない」とクスクスと笑いに混ぜる。

「フェリーチェが一番最初に懐いたのがエルヴィンだったの、今になって悔しいんだ!」
「違う……いい加減な事を言うな。アイツはフェリーチェを連れて来た張本人だぞ。あの人見知りが懐かねぇと、外にも連れ出せねぇだろうが。俺は当たり前の事を言ってるだけだ」
「エルヴィンも、餌付けでもしたのかねぇ」

 まだ笑ってやがる。
 クソッ。コイツの笑いのネタにされるのは、もう何回目だ。

「でもさぁ。フェリーチェが、リヴァイとは全く正反対の、物腰柔らかな雰囲気を持つ男性に第一印象良くしたとしてもだよ?」
「お前、どこまでも失礼なヤツだな」
「餌付けされてホイホイ気を許すと思う?」
「……」
「まさか本気でそうは思ってないよね? エルヴィンは開発部の部長直々に紹介されている訳だし、あの子がここに来るまでの間にそれなりに会う機会を設けている筈だ。以前から信頼している相手と一緒に出かけるのと、仲良くなったとはいえ出会ってまもない人間と二人で出かけるのとでは違うでしょう」

 後ろで束ねた馬の尻尾を振り、ハンジはキョロキョロと周りを見ながら歩く。注意深くフェリーチェを探している様だ。

「いくら優しく接してあげてたとしても、それだけでフェリーチェが懐くとは思えない」
「……だが、アイツは林檎で」
「いやいやいや! 自信を持ってくれ!」

 笑顔で背中を叩かれた。

「はぁ!?」
「フェリーチェにとってリヴァイよりイイ男なんて絶対いないからっ」
「うるせぇなクソ眼鏡!」
「どっちがだよ~。あーもう、本っ当リヴァイって……! 変なコト言い出すから余計な心配しちゃったじゃん」

 ハッキリ言わずにハンジは苦笑している。
 リヴァイが睨んでいるのに気付くと、彼女は肩を竦め、

「君がそばにいるんだし、フェリーチェが襲われる事態はきっと無いって。私が心配なのは、自分とリヴァイを侮辱する噂に彼女が心を痛めないかって方だよ」

 優しく、まるで諭すかの様に言った。
――自分の考えは杞憂に終わるらしい。
 しかし、フェリーチェが見つからないことには、どうにも安心出来ないのだ。
 知らず内に歩みは速くなっていた。
 フェリーチェは今どこにいる?
(勝手に消えるなとあれほど言ったじゃねぇか)
 昨日、フェリーチェが居ない事に気付いた時の気分が再び胸に湧いてきた――。



 フェリーチェの行きそうな場所は大体探した。
 図書室。資料室。中庭……一応食堂。
 しかし、どこにも居ない。

「いないねぇ……」
「まったく……アイツは……」

 フェリーチェは活動範囲が狭い。
 こうして二人がかりで探して見つからないのが不思議だ。

「リヴァイの部屋にいたりして」
「俺はいつも鍵をかけてる。どうやって入るんだ。ピッキングでも出来るのか、アイツは」
「フェリーチェだったらやりかねない気もするね! 覚えそうじゃん、誰かが教えれば」
「誰が教えるんだ……。開発部の野郎共は窃盗団か」
「あはははっ! フェリーチェが変なコト覚える前に、合鍵渡しておいた方がいいよ」

 呑気に笑ってるハンジを横目に、リヴァイは溜息を吐いた。

「あ! ねぇエルヴィンの部屋は?」
「あ?」

(何故そこでエルヴィンが出てくる……)

「エルヴィンもしょっちゅうフェリーチェのこと気に掛けてるしさ。ほら、調査前も『一人にさせてすまない』って何度も言ってたじゃない」
「………」
「帰って来た時も何か思い詰めちゃってる感じだったんだよねぇ。これはまぁ推測でしかないけど」

 ハンジがいう事も理解出来た。
 エルヴィンは壁外での晩、自分にフェリーチェの事を聞いてきた位だ。あの時のエルヴィンは、確かにいつもと様子が違っていた気もする。
(そう言えば、妙な事を言っていたな)
 すっかり受け流してしまっていたが。
(フェリーチェを止められるのは、俺しかいない……だったか?)
 あれはどういう意味があったのか。もう一度聞かなくてはならないだろう……。
 リヴァイがそう思い出していると、ハンジが大きな声で誰かを呼び止めた。
 他でもない、エルヴィンだった。

「エルヴィン! フェリーチェ見なかった?」
「……なんだ二人して。フェリーチェを探しているのか?」
「居ないんだよ、どこにも。あの子逃げ足も相当だけど、かくれんぼも得意なのかな?」
「フェリーチェなら、大分前にはなるが……会ったぞ」
「マジで!? 目撃情報出た!」

 ハンジが背中をバシバシ叩いてくる。いい迷惑だ。振り回される手を払い、エルヴィンを見上げた。

「お前の部屋に来たのか。フェリーチェは」

 書類を抱えるエルヴィンは、こちらの言葉に苦笑していた。いいや、と否定の返事が返ってきて、どこかでホッとする自分。
 それなら、と次に聞く。

「どこで、何してた」
「リヴァイ……? それってフェリーチェの事? それともエルヴィン含んだ二人の事?」
「うるせぇな。お前は黙ってろ」
「リヴァイ、そう怖い顔をするな。廊下で会ったんだよ。朝食の後だったな、あれは」

 言った後で、フッと微笑まれた。
 全部お見通しだ、と言わんばかりの笑顔は見ていると自分を苛立たせた。それに、出し惜しみされてる気分になるのは……何故だ。

「白衣を着てね。分厚い本を何冊も抱えていた。あの子は細い体の割に力があるな」

 細い体の割に力があるのは知っている。
 だが、なんだ白衣とは。
 自分の知らない情報が入ってくると、不満が増す。この間からこれの繰り返しだ。
 もう自分は保護者でも監視者でもない。
 もっと他のものだと自覚してからは、フェリーチェの様子が前よりずっと目に入ってくる上、知っていないと気が済まない部分まで出てきた。
――そんな自分にも少し苛立つ。

「白衣? なんでフェリーチェが?」
「ああ……。開発部では、ずっとそんな姿だったよ。あの制服の上に羽織ってね」
「……」
「開発部では皆が白衣を着ていたが、フェリーチェがその姿で歩いているのは、とても目立っていたな。小さな彼女があそこでは一番大きく見えた。……さすがだよ」

 その時の姿を思い出しているのだろう。エルヴィンは持っていた書類に視線を落としながら、遠い目をしていた。何を考えているのか--。
(もういい。やめろ)

「おい、俺はそんな話を聞きに来たんじゃねぇぞ。フェリーチェが、お前と会った後どこに行ったか知らねぇのかを聞いてる」

 自分の声は低く廊下に響いた。
 それにエルヴィンとハンジが苦笑していたが、どうでもよかった。
 そんなに目立つ格好をして歩き回っているのに、自分は何故フェリーチェを見付けられないのか。
 今はそれだけが自分を苛立たせている――。

「そうだな……。この間フェリーチェが、俺に頼みがあると言ってきた。それが関係しているか……?」
「え? 何を?」
「自分に研究をさせて欲しい、と」
「それがあの子の仕事でしょ? 今さら頼むこと?」

 ハンジの疑問に、エルヴィンは「それなんだが」と歯切れ悪く言った。
 チラリと自分へ向けられる視線。……意味があるのか、それは。

「フェリーチェには、ここでは開発部の研究員としての仕事は無いと言った。……壁外に出る前の話だ。自分も同行すると言いだしたから、丁度いい機会だと思って」
「ちょっと待ってよ」

 エルヴィンの言葉をハンジが遮る。リヴァイもそれに続けた。

「ここでは実地調査も兼ねて、と言っていた話はどこに行った」
「そうだよ。それに、フェリーチェはリヴァイの補佐メインだけど、技術班のアドバイザー的な……って言ってたじゃないか。それは、“研究員”としてでしょう?」
「違う」

 エルヴィンは一言で返した。その顔は厳しい。返された言葉にリヴァイとハンジは唖然とした。

「それは、彼女が調査兵団に来る為の表向きの理由でしかない。研究員として外を見るのではなく、あくまで一人の人間として、外の世界に触れてこいというのが、アインシュバル部長の考えだ。個人の価値観と視野が拡がる事は、しいては研究にも繋がる」
「お前は、それをそのままフェリーチェに言ったのか」
「言わなければ伝わらない」
「聞かされたフェリーチェはどうなる」
「ショックを受けている様だったな……。彼女は研究をするつもりで来ていたのだから」
「受けている様だった、だと?」

 受けていたぞ……相当にな!
 恐らくその話をされたのは、エルヴィンの部屋を訪れたあの時だ。

「……それで、“アレ”か」

 つい零してしまった。隣にいるハンジも気付いたらしい。
――エルヴィンも同じだった。
 フェリーチェが巻いていた血に染まった包帯を思い出す。手当てをしていた時の深い傷が頭に蘇る。
(八つ当たり……か……)
 フェリーチェから研究を取り上げる事がどんなものかを痛感した。しかし、痛感と言っても、実際フェリーチェが受けた痛みには到底及ばないだろう。
 リヴァイは拳を握った。

「だからフェリーチェは……」

 アイツの代わりに握った拳を目の前の男に……と思ったが、それで何が変わるかといえば、何も変わらない。
 いま大切なのは、自分がどう思うかではなく、フェリーチェがどうしたいかだ――。
 拳の中に己の感情を閉じ込めた。

「必死に『後に繋がる作業はしたい』と言ってきたんだ。研究は、フェリーチェにとって趣味であり生活の一部らしい。……落ち着かないと言っていた」
「まぁ……それは何となく分かるかな」

 エルヴィンの苦笑に、ハンジも肩を竦めていた。
 研究熱心なのはハンジもまた同じなので、彼女なりにフェリーチェと相通ずるものがあるのだろう。

「アイツの頼みを受け入れてやったんだろうな」
「プライベートな趣味まで取り上げる訳にはいかないさ。俺だってそれくらいの心はある」
「そうか……」

 ホッとし、短く息を吐いた。

「望みを叶えてやったなんて上から偉そうに言うのは、随分勝手な話だが……」
「フェリーチェはそんなコトにこだわる様な子じゃないでしょう」
「……」

 黙るエルヴィンにそう言って笑ったハンジは、「でさ」と話を戻した。

「エルヴィンはフェリーチェがどこに行ったか見当つかない?」
「……さぁ。白衣を着て本まで抱えていたからな……今言った“趣味”だろうとは思うが」

 資料室じゃないか? と言うエルヴィンに、ハンジは首を振って「いなかった」と答えた。
 しかし、少々考えた後ポンと手を打つ。

「ああ、でもこうしてる間にフェリーチェ資料室に行ってるかもね! リヴァイ、行くよ!」

 言うや否や、さっさと走り出した。

「ところで、何故フェリーチェを探しているんだ?」
「落ち着きの無いアイツが何かやらかすんじゃねぇか……と考えると、落ち着かねぇんだよ」

 背後で「そうか」と笑いを含んだ声が聞こえる。
 無性に腹が立ったので、振り向かず足早にそこを離れた。だが少し進んでから気付く。

「そういや、聞くのを忘れたな……」

(フェリーチェを止める?)
 確かにこんな事を繰り返されたら、開発部の奴等も堪ったもんじゃないだろうと思う。
 気が付けばいない。
 いくら探しても見つからない。
 どんな仕事っぷりだったかは知らないが、こういう感じで周りの人間を困らせていたのは確かだろう。
 誰にも止められない問題児。
 リヴァイならフェリーチェを止められると、何故エルヴィンは言うのか。
(まさか、それを矯正させる為だけに、アイツを俺の所に寄越したんじゃねぇだろうな)

「……矯正か」

――手法はともかく黙らせて教育するのは割と得意だが……。
 いいのだろうか? それで。
(………いや、)
 それならそうとハッキリ言えばいい。命令なら従う。
 けれど、エルヴィンはそうは言わないのだ。
(随分と深刻な物言いをするのも、よく分からねぇ……)
 腑に落ちない感じが胸の中で留まり澱んでいく――。
 結局はエルヴィンに聞かないと分からないということだ。リヴァイは立ち止まり、振り向いた。
 だが……。

「……チッ。もう居ねぇのかよ」

 エルヴィンはすでにその場から姿を消していた。書類を抱えていた位だ。休みもしないで働いているのだろう。
――仕方無い。
 事を伸ばすのは好みじゃないが、相手がいないなら話のしようもない。
 そうこうしている内に聞くのを忘れそうだ……と思いつつも、リヴァイはハンジを追い資料室へと足を向けた。
 とりあえず今は、話題の問題児であるフェリーチェを見付けなければならない――。

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