並んで、寄り添う《番外編》
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フェリーチェの誕生日が、自分の誕生日の前日であると聞いたのは、数日前の事だった。
「知らなかったの?」とハンジに言われたので、「アイツは、自分の誕生日はこの日だからよろしく…と触れ回る奴なのか?」と返してやったら、ハンジは苦笑していた。
『そういえば、私も本人から聞いたんじゃなかったっけ』
エルヴィンから聞いたそうだ。
あの男は、そういう所は抜け目のない奴だ。どうせ、フェリーチェに気の利いたプレゼントでも用意したのだろう――。
***
「この辺でいいか?」
「はい! わぁーっ、いい景色」
フェリーチェの誕生日、その午前中。
リヴァイは、フェリーチェを馬に乗せ遠出をしていた。
街以外行ったことの無いフェリーチェに、違う景色を見せてやろうと思ったのだ。
自分はエルヴィンと違い、女性への繊細な気遣いを込めた贈り物など思い浮かばない。
フェリーチェが喜びそうな事を考えても、せいぜいこの位が関の山だ……。
「ちょっと離れるだけで、こんな綺麗な所があるんですね!」
目の前に広がる草原に感激してるフェリーチェの横顔を見ながら、リヴァイは口元を緩める。
喜んでいる。良かった――。
馬から降ろしてやると、フェリーチェは早速大きな木めがけて走って行った。
「アイツは子供か」
それとも、放たれて喜ぶ犬か。
飛び跳ねる様に走る後姿に、知らず内溜息が出る。
馬を自由にさせ、リヴァイはフェリーチェの後を追った。
「リヴァイさん。この実は、見たこと無いです……。林檎じゃない事は確かですけど」
「お前の頭ん中には、赤い実と言ったら林檎しかないのか?」
「じゃあ、これ何だか知ってます?」
「………知る訳ねぇだろ」
木に実る赤い球体を見上げ、フェリーチェとリヴァイはしばらく無言になった。
ずっと首を傾げるフェリーチェの横で、リヴァイは呆れる。そうしていたって、その実が名乗ることはない……。
――静かだった場に風が通り抜けた。
さわさわ…と葉擦れが響いたところで、フェリーチェは「うん」と一人頷く。
「持って帰って調べましょう」
「は? 持って帰る?」
(取るっていうのか? アレを)
木の実は、手を伸ばしても届かない所にある。高さは微妙。自分でも届かないのだ。フェリーチェに届く訳がない。
「じゃあ、リヴァイさん。ご協力お願いします」
フェリーチェはそう言うと、木の実ではなく自分に両手を伸ばしてきた。
「なんの真似だ」
「抱っこ」
「……」
事態を把握するまで数秒かかった――。
「いやいやいや。待て。どうしてそうなる?」
「だって、そうしてもらえれば届く高さじゃないですか」
「馬鹿を言うな。なんで俺が」
「肩車でもいいです」
「そういう問題じゃない」
額に手を当て、これ以上ない溜息を吐く。
突拍子もない事を言う娘だというのは知っているが、まさかここまで酷いとは……。
「馬を使えば問題ないだろ……。今呼んでやるから少し待て」
「あ、じゃあこっち」
指笛で馬を呼ぼうとしたリヴァイより早く、フェリーチェは動いた。
木の幹に足をかけようとする姿に、リヴァイはギョッとする。「待て!」とまた同じ言葉が出た。
「登る気か!?」
「そうですけど」
「お前は……。自分が何を着て来たかも忘れるほどアホなのか? それで木登りなんて、普通の女はしねぇだろ」
「子供の時はよくしてました」
「今はいい大人だろうが」
スカートなのも気にせず木に登ろうとするなんて、とんだお転婆娘だ。
渋い顔になったリヴァイに、フェリーチェはニッコリと笑った。また両手を伸ばしてくる。
だったらお願いします、という事なのだろう。
「…………」
だから馬を呼べば……と思いつつ、リヴァイは仕方なく折れることにした。
こうなると、何を言っても無駄なのがフェリーチェという女なのだ――。
フェリーチェの膝裏に腕を引っ掛け持ち上げる。細い体は軽々浮かび、甘い香りが舞い上がった。
「新鮮! リヴァイさんをこんな位置から見下ろすなんて! ちょっと偉くなった気分です」
「……目的を忘れるな。俺は見下ろされる為にお前を持ってんじゃねぇぞ」
「落とさないでくださいね?」
リヴァイの両肩に手を置くフェリーチェが言う。
透き通る緑色の瞳が、柔らかに細んだ。
「……落とすかよ。誰に物言ってんだ」
「ですね。――よいしょっと」
手を伸ばしたフェリーチェの掌に、赤い実が乗った。
フェリーチェの手にある赤よりも、彼女の揺れるキャラメルブラウンの髪色の方が目に映る。
素直に、綺麗だと思う色――。
風になびくそれを見つめた後にフェリーチェの顔を見ると、フェリーチェは、木でも木の実でもなく、遠く先を見ていた。
「……フェリーチェ?」
景色に見とれているのか、フェリーチェは何も喋らない。こちらの声も聞こえなかった様だ。
「……」
自分に抱き上げられ高くなった視界に、一体何を映している?
ただ、自分がそこに映っていないのだけは確かだ。
そう思うと少し不満を感じて――。
リヴァイはフェリーチェに声をぶつけた。
「フェリーチェ」
「……っあ」
「もう降ろしてもいいのか」
問いかけに、フェリーチェは笑った。
「もうちょっとリヴァイさんを見下ろしててもいいかなって思ったんですけど……」
「おい」
「なんか落ち着かないからいいです」
「お前が言い出した事だろ。人の腕が心許無ぇって言うなら、こんなこと頼むんじゃねぇよ」
「違いますよ」
フェリーチェをゆっくりと降ろし、笑ってる顔に文句を言えば、否定の言葉が返ってくる。
すっかり定位置に戻ったフェリーチェはリヴァイを見上げた。
「そうそう、この感じです。この方がやっぱり落ち着くんですよねぇ」
「――あぁ」
自分も、フェリーチェを降ろした時そう思った。
見下ろされるのは別に嫌じゃなかったが、やはりいつもと違う位置関係は、確かに少し落ち着かない。
「まぁ……それもそうだな」
フェリーチェの頭を撫で、リヴァイはフッと微笑んだ。
「じゃあ、次は街に――」
「今度は何をさせるつもりだ。お前は」
「リヴァイさんのお誕生日をお祝いしようかなって思って……。前日ですけど」
「自分の誕生日に人の誕生日を祝うだと?」
「知ってたんですか? 私の誕生日」
驚いた表情を見せたフェリーチェだったが、その顔はすぐに笑顔になる。
そして、リヴァイの先を歩きだした。
「リヴァイさん、今日は私の為に時間作って、ここまで連れてきてくれたんですよね?」
「……」
「それってもしかして」
「……こんな事くらいしかしてやれないが」
「ありがとうございます! とっても嬉しい!――じゃあ今度は私から」
「は?」
「午後からリヴァイさんは誕生日休暇です! エルヴィンさんに、私とリヴァイさんのお休みを貰ったんですよ。プレゼントは何がいい? って聞かれたので、がっつりお言葉に甘えちゃいました。忙しいリヴァイさんにはお休みが一番のプレゼントですもんね」
満足げに喋るフェリーチェは振り返った。
「……そうきたか」
(エルヴィンもコイツの希望を聞いただけなのに、まさか俺の休暇までねだられるとは思わなかったろう……)
「あれ? でもこれだと私からじゃなくて、エルヴィンさんからのプレゼントになるんじゃ……」
「交渉して手に入れたのはお前だろ。俺は今お前から貰ったんだ。エルヴィンに貰ったんじゃねぇ」
「ふふっ。じゃあ、そういう事にしてくださいっ」
少々強引な理屈だが、それでもフェリーチェが考えて動いた結果だ。
まぁ、エルヴィンにも一応は感謝するが……。
(休暇か。……久しぶりだ)
「どこに寄りますか? 何します?」
「――折角貰った時間だからな。有意義に使いたい」
「あの紅茶店ですね!」
「……何故分かる」
「リヴァイさんの有意義はイコール紅茶でしょ?」
「……」
反論の余地も無い――。
リヴァイは指笛で馬を呼んだ。
「やった! また美味しい紅茶が飲めます!」
「フェリーチェ……。先に言っておくが、また店主に詰め寄って困らせんじゃねぇぞ」
「別に詰め寄ってないですよ……。色々質問してるだけです」
「お前のそれは、質問の域を超える時があるから言ってるんだ」
「えー……それを言うならリヴァイさんも同類! 無茶な注文して店長さん困らせてるじゃないですか」
「同類……。となると、俺は“面倒な客”か……」
「面倒? 店長さんは、リヴァイさんのこと“素敵なお客様”だって言ってましたよ!」
戻って来た愛馬に駆け寄っていくフェリーチェを見つめ、リヴァイは口角を僅かに上げた。
「お前のことは“可愛い客”だと言っていたぞ」
プレゼントされた午後の休暇は、行きつけの紅茶店で過ごす事になった。
あの小さな店の窓際の席で、フェリーチェと並んで座り、ゆっくりと紅茶を楽しむ。
店主には格別に美味い紅茶を淹れて貰う事にしよう。
これは、“無茶な注文”ではない筈だ――。
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